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険しい唯我独尊への道

「謀反じゃーーーーー!!」


副生徒会長藤原(ふじわら)(ゆい)は生徒会室の中心で謀反を叫んでいた。


「謀反ってあれかしら。君主や時の権力者やらに背く行為であるあの謀反のことかしら。」


「そうだよ!辞書に載っているかのような説明ありがとう。

 では解説も終わったところでこれから皆で謀反を起こしましょう。」


書記秋山(あきやま)麻里衣(まりい)の答えをそのまま言っているような質問に元気よく答え


生徒会役員に意味の分からない策を提起する。


「えっと、藤原君?よく意味が理解できないんだけど。」


「大体誰に謀反を起こすっていうんだよ。

 俺は特に誰に対してもすごい不満持ってるってわけじゃないし。」


会計井上(いのうえ)莉咲(りさ)同じく副生徒会長三浦(みうら)スバルの幼馴染コンビは


いきなりの提案に困惑しっ放しである。


「何言ってるんですか!決まってますよ、かいちょーにです!かいちょー!」


唯の謀反の相手それは生徒会長高千穂(たかちほ)結弦(ゆづる)のことであった。


唯と彼の仲の悪さは全校に広く知られておりそれはまさに天と地、


紅と白、静と動、というほどに二人は不仲なのである。


「高千穂にってそりゃあお前だけだろ。」


「別に僕は高千穂君に何の不満もないしね。」


「まっ!!」


唯は驚いて開いた口を右手であえて隠し二人の言葉に偽りの目を向けた。


「何だよその白金台の奥様がいかにも初めて知ったような驚き方は。」


「スバル、藤原君はまだ若いしここは奥様ではなくお嬢様の方がいいんじゃないか。」


「今そんなことどうでもいいだろ。ってかお前はいつも論点ズレてないか。」


「何だとっ!?」


「ちょっとお二人さん、今はケンカしている場合ではありません!」


二人の間に火花が発しバトルが勃発しかけたのを珍しく唯が止める。


「いいですか、皆さんお気づきになってないようですからお話しします。

 かいちょーは腹黒なんです冷血なんです極悪非道なんです!!

 こんな人が生徒会長やっていていいと思いますか!?

 かいちょーは巧妙に隠して他の人には見せてないから騙されているのです。

 だから今こそ立ち上がってリコールをするんです!」


「まぁ腹黒なのは認める折り紙つきの太鼓判だ。でもあいつ以上の策士なかなかいないぞ。」


「あぁそうだ、高千穂君を上回る奴見たことない。」


「それは私もそう思ってます、けれど悪事は許せません。

 どうやら先輩方お忘れになっているようですね。かいちょーの数々の悪行を。」


唯は得意そうに腕組みをして二人の間を何往復かするとスバルの前で立ち止まった。


スバルはいつにもない唯の鋭い視線に口の中に溜まった唾をゴクリと飲み干す。


「まず三浦先輩。かいちょー目当ての女子が群がってきた時に

 必ず生贄とされ犠牲者になっているのは誰ですか。」


「・・・俺だ。」


「それでいつも女の子たちにぶっ飛ばされたり散々誹謗中傷を

 言われ心に傷を負った翼の折れたエンジェルは誰ですか。」


「俺だ俺だ俺だ!!!!!」


もうスバルは涙やら鼻水を振りまきながら両手で親指を立て自分を指し


あの太ったお笑い芸人のギャグのようになっている。


「くっそぉあいつばっかりモテやがって~。

 ちょっと頭良くて顔が良くて一見人当たりが良さそうで

 生徒会長なんていう学校の頂点に立つ役職をやってるだけでーーーーー!!」


「落ち着いてください三浦先輩。先輩が会長に(いじ)られ弄ばれ

 しかもそれは藤原さんがいない時に限るからこの小説内では

 描かれず結局先輩はモテないかつつまらないツッコミという役どころに

 位置しているなんて既に周知の事実です。」


「笑顔で藤原ちゃんより酷いこと言うなーー!」


麻里衣の容赦ない毒舌にスバルの心はガラスのように砕け散ってしまいそうだった。


「ということで俺は藤原ちゃん派につく!リコールだ!!」


「単純バカというか・・。藤原君、僕はスバルみたいに

 ヒョイヒョイと君側に寝返ったりはしないよ。」


「私だって井上先輩がおヒョイさんよろしくこちら側に来るとは思っていません。」


「おいおい藤原ちゃん別におヒョイさん自体はそんな軽々しい人じゃないだから。

 むしろ凄い人だから偉い人だから。」


「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく

 我らは雛、卵は世界だ

 世界の殻を破らねば、我々は生まれずに死んでいく

 世界の殻を破壊せよ  生徒会を革命する為に!! 」


「生徒会革命ユイ!?」


「それなら僕は現生徒会存続の為に戦争を起こそうとする君を攻略しよう

 略して生存戦略~!!」


「シビレる~!!」


「なかなかやりますね、井上先輩。」


「君もな、藤原君。」


「何がだよ!?何もしてないのにどうして力の差が互角でお互いの能力を認め合っている 

 ライバルみたいな場面に持ち込んでるんだ!今のところ何も進展してないぞ!」


「つべこべ言わずにデュエルスタートまずは僕のターンだ!

 高千穂君は我が高校随一の秀才と言われ教師からも生徒からも

 さらには保護者、周辺地域住民からも評判が良い。

 その理由を問うとすれば先のスバルが悔し泣きしながら言ってた事柄もあるが

 一番の理由は何と言ってもこの街のギャングを黙らせ

 より平和な街を成り立たせることに貢献したことが大きい。

 それもこれも全部高千穂君がここら辺一帯の不良を更生させたり

 彼のリーダーシップがすこぶる優れているおかげなんだ。

 あとアメとかチョコとかよくくれるし。」


「くっくっくっ、井上先輩。井上先輩ともあろうお方が狭い視野にとらわれて

 かいちょーの裏でしでかしている悪行に気づかないなんて。

 今のお話の中にもいくつかありましたよ。」


「あっ悪行だと?一体今の話のどこにそんなものがっ・・・」


唯は莉咲に向かって不敵の笑みを浮かべた。


それはもうすでに勝ったかのような笑いであった。


「では次、私のターン!!かいちょーは井上先輩が大事にとっておいた芋羊羹を

 無断で食べてました!」


「何だと!?僕の芙那倭(ふなわ)の芋羊羹が!」


「さらにここで召喚、スバル・ミウラ!!」


「俺!?」


「さぁ洗い浚いぶちまけてください。」


「よし!この際だから言っちまうぜ、アメやらチョコやらちゃっちいもので

 誤魔化されているみたいだけど高千穂は莉咲がこっそり

 生徒会室に隠してあった煎餅やらお菓子の詰め合わせから

 お前が気づかないように少しずつ抜き取ってたり、

 さっきの話だって体術の達人であるお前の名を勝手に語って

 不良グループをまとめ上げて色々良いように利用してるんだけなんだぜ!」


「そんなことがあったのか・・・」


「どうです?これでかいちょーの不信任へ参加していただけます?」


「うぅ・・・デッキ切れだ・・・。僕の負けだ。」


遂に生徒会の無敵艦隊を沈没させることに成功させた唯は満足げな顔をした。


そして最後の敵へ牙をむけた。


「さぁこれで3対1だよ。というか秋山さんの意見全然聞いていなかったけど

 どちらにせよそんなのもう関係なくなっちゃったんだけどね。」


唯は既に勝ったかのような表情をしていたが麻里衣もまた


いつもの微笑をたたえ唯の発言にまるで動じていなかった。


「やっと私の出番なのね、待ちくたびれて浦島太郎ならぬ

 浦島花子になるところだったわ。」


「秋山さんが何を言おうとこっちのバックには日本の無敵艦隊と

 ただのツッコミがいるんだから。」


「おい俺がなんでただのツッコミなんだよ!

 それじゃあバックにいても意味ないだろ!」 


「はい、質問。」


スバルの抗議も虚しく麻里衣はスルーして表情を崩さず挙手をした。


「何、秋山さん。」


「仮にリコールを起こし会長が解任された際には

 藤原さん、あなた誰を会長職に推薦するつもりなのかしら。」


唯たちの高校では生徒会役員の誰かが辞任・不信任した場合


残りの現生徒会のメンバーで新しい役員を選び推薦する権利がある。


「それは特に考えてなかったけどここは三浦先輩か井上先輩、

 どちらかに新かいちょーとなっていただいてもらおうとかなと。」


「ちょい待ち!!」


「待った!!」


異議を唱えたのは唯の味方であるスバルと莉咲であった。


「藤原ちゃんそれは考えが薄すぎるだろう。

 俺か莉咲が会長になればいいなんてそれは―――」


「浅はかなり。」


スバルの言葉を乗っ取るようにして莉咲が後の言葉を引き継ぐ。


「えっ?えっ?じゃあ・・・あっあの風紀委員長の先輩はどうでしょうか。

 あの今どき流行りの黒縁眼鏡なのに頭はスキンヘッドっていう先輩。」


「今期に長という職に就いてもらっている人に生徒会長という大役を

 任せるのはそれは無理というものではないかしら。」


「うっ・・・」


「そこまで深く考えていなかったようね、お馬鹿さん。

 なら私に最良で最上で最高の案があるわよ。」


「そっそれって。」


「私が生徒会長兼書記をやるのよ。」


「ちょっとちょっとどうしてそういう結論になるの!!

 なんで秋山さんが生徒会長!?」


「生徒会規則では3年生でないと会長職に就けないという決まりも

 ないし、何より高校という組織一つを自由自在に操れるなんていう

 一応ドSキャラである私にとっては一度やってみたい憧れの一つだったの。」


「毒舌だけでなくドSキャラでもあるんだね!!薄々感づいてたけど!

 というかそんな願望を持つ人に生徒会を任せられないよ、

 純粋に学校の危機を憂うよ!」


「あら残念。せっかく私が生徒会長になった暁には上級生をご主人様、

 下級生を豚野郎と呼ばせる姉妹の契りみたいに主従の契り的な制度を作ろうと思ったのに。」


「どんな学校よ!!一体誰がみてるの!!」


「他にもあるわよ、全生徒は鞭・蝋燭・首輪を所持し

 何時如何なる時もドS・ドM精神を忘れないように―――」


「あぁもういいから!!これ以上話をややこしくしないで!

 とにかく秋山さんがかいちょーになるっていうのは断固拒否!!」


「なら困ったことが起こるわ。会長に適任の人物がほかにいないのよ。」


「まさか三浦先輩、井上先輩、秋山さん、風紀委員長のほかだって生徒は

 たくさんいるんだから一人くらい。」


「現生徒会長に劣らない人物って条件でね。

 あの人に肩を並べられる人物なんてそうそういない。

 私や先輩方を以ってしても難しいことよ。」


彼以上の才能を持っている人はなかなかいないということは唯も感じていた。


だが素晴らしい才覚があっても唯にとってはただの極悪人、


やはり彼をこのまま生徒会長の座につかせておくわけにはいかなかった。


「そんな、誰かいるよ。絶対かいちょーがかいちょーのままなんて嫌!

 あんな悪意の塊みたいなのを放っておけないよ!!

 だから何とかせねばならないよ!」


「誰が」


「私が!」


「誰を」


「かいちょーを!」


「何するって」


「辞めさせて私の悠々自適なスクールライフを完成させる!!」


と、そこで唯は気づいた、自分に質問する声が後ろからすること


それにその声の持ち主がスバル・莉咲・麻里衣でもないことを。


声の主の選択肢は二つ、結弦であるか結弦以外であるか。


可能性は前者が九割、後者が一割という圧倒的に前者が優勢な


状況であったが唯は残りの一割に最後の希望を賭けていた。


もし後ろの人物が九割の人物であった場合、


唯のこの後の末路は目に見えているからだ。


自信が振り返り確認するにはあまりにも恐ろしいため


周りの光景を観察し情報を収集しようとした。


麻里衣はいつも通りのにっこりとした表情で、


スバルと莉咲はというと冷や汗をかいて唯の後ろを凝視している。


その目から読み取るにこの世の終わりが来たかのような


恐怖という感情のみがただ読み取れた。


「なぁ三浦、井上。お前らは俺の不信任に賛成なのか。」


「いいえ!!」


「そのように思われるのは全く以って遺憾であります!!」


二人はその人物というかもう結弦である彼の問いに


右手を頭の横につけながら先程とは真逆のことを答えている。


その姿はまるで軍隊の隊長と部下のようだ。


「で、俺の解任を企てた首謀者は誰だ。」


結弦はもう分かりきっていることであるのに


あえて本人に自分が犯してしまった罪を自覚させるために


わざわざ聞いたのであった。


今までの唯だったら最後まで悪あがきをするのだが


この時の唯は散々結弦の悪事を暴露したこともあってか


最後くらい美しく散ろうという新境地に立っていた。


そう考えると今ついさっきまでの緊張感や緊迫感が嘘のように消えていく。


そして唯はゆっくりと振り返りゆっくりと両手の親指を立て


ゆっくりとその親指を自分の顔に向けてこう言った。


「私だ私だ私だーーーーー!!!!!」


今日唯が初めて見る高千穂結弦はさながら閻魔大王を超える


地獄の王様のような殺気とオーラを放っていた。

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