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§3、赤髪のアイツと子供同盟

[Fab-20.Mon/19:00]


遊ぶ事、二時間。そろそろ夕飯なのでという事で二人は帰宅すべく駅に向かっていたのだが、それまでの出来事を音声のみのダイジェストでお送りします。









「あ、畜生ミスった!」

「えへへ〜。250越えですぅ」

「く、くそぅ!こんな場慣れしてないゲーセン初心者に負けてたまるかゴルァ!」

「あ〜、曲が終わっちゃいましたぁ。えへへっ、ドミノの勝ちですぅ!」

「こ……ンのッ、余裕シャクシャクでガッツポーズなんてしてんじゃねェよ!」

「え〜、それじゃ〜あ〜、他のゲームをやりますかぁ?ドミノはぁ、敵地(アウェイ)でも構わないですよぉ?」

「上等だテメェ、だったらガンシューいくぞガンシュー!偽物の銃を使ったゲームで本物使ってる僕に勝てる訳がねェ!」

「本物ぉ?」

「いや、今のは言葉の綾だ、忘れろ」

「う、うきゃあああ!ななな、ゾンビが来ましたぁ!」

「ハッハァ!この僕がガンシューで負ける訳がッ――負ける訳が……ま、負ける訳がァァァああア!?な、何でこの中ボスは僕ばっかり狙って来るんだ!?しかもどこ撃っても攻撃をキャンセル出来ない!く、くそッ、僕のライフが残り僅かなのにどうしてドミノは満タンなんだよおかしいだろ何だコレ!?」

「うわっ、来ました来ました来ました来ないで下さいィィィいいイ!」

「ってェえゑエヱ!?ドミノが中ボスにトドメ刺した!クソッ、最後の一発を偶然ヒットさせやがって……ッ!って、みぎゃァァァああア!成績(スコア)が一桁単位で負けてるゥ!?」

「あぅ〜……ゲームオーバーですぅ……。あれ?点数はカナタくんに勝ってますぅ!やったやったぁ!」

「グスッ……ヒック……あ、あんなん実力なんかじゃないやいバカァ!」

「あ、あははぁ……ほ、他に行きましょうかぁ」

「くぅ、屈辱……。絶対に負かしてやる!泣いて土下座でゴメンナサイと言わせてやる!」

……(中略)。

「えへっ、全戦全勝ですぅ!……って、あれぇ?カナタくん〜、泣いてますぅ?」

「な、泣いてなんかないやい!音ゲーガンシュー格ゲーUFOキャッチャースロット麻雀落ちゲーパネルゲークイズゲーその他諸々で惨敗したからって泣いてねェよ所詮ゲームだ泣く訳ないだろ悲しくなんかないよチクショオォォォオオオ!」

「あ〜、もうこんな時間ですぅ?ドミノはぁ、そろそろお家に帰らなきゃいけませんねぇ」

「完全スルー!?……って、あぁ、そろそろ七時か。んじゃ、帰るか」

「はいぃ」

「さって。今日は晩飯、何にするかな〜っと」

「あれぇ。そう言えばぁ、カナタくんは一人暮らしでしたっけぇ?」

「ん?……あ、あぁ、うん、一人暮らしだよ。他に誰もいないよ?」

「……どうしてぇ、そんなに慌ててるんですかぁ?ま、まさかぁ、年上の女性と同棲していたりとかぁ!?」

「ブゴッ!し、してねぇよ年上の女と同棲なんて!」

「で……ではぁ、まさかぁ、男性ですかぁ!?」

「ブボハッ!だ、だからしてねぇっつってんだろうが誰もいねぇよ一人だよ一人!……やめろ貴様そんな男と同棲っつって目を輝かせんな何考えてんだ渦巻き頭!」

「う、うずまっ……!?こ、これはぁパーマをかけているだけですよぉ!ツイストですツイストぉ!知っとけこの野郎ですぅ!」

「黙れ純外国人の日本国籍!天然金髪&天然パーマな地毛してるくせに何でわざわざ染め直してパーマかけてんだよ!」

「お、お洒落ですよぉ!ファッション雑誌をぉ読んでみればぁ分かる事でしょうぅ!」

「普段から読んでりゃ天然黒髪(こんないろ)寝癖立髪(こんなかたち)してねぇよ!」

「それはぁ、きっと威張れる事ではぁないでしょう〜!」

「分かってるよ自己嫌悪してんだよ、今!っつかンな変な口調してるテメェにンな事言われる筋合いは――痛ッ!」

「ああん?テメェ、何ぶつかってきてんだよチビ(どっから見ても柄の悪い男)」

「チッ……!?(いや待て、落ち着け僕、喧嘩腰は駄目だ喧嘩腰は……。努めて冷静に大人の対応をしろ……)。あ、すいませんでした」

「ンだグラァァァオおおあン!?セイイが足ンねぇんだよセイイが!もっと腰曲げて謝らんかチビがぁ!」

「…………すいませんでした(怒)」

「土下座せんかい土下座ぁ!それともなんか?ああン?女連れがそんなに偉いんかああン!?」









音声のみのダイジェストでお送りして現在、カナタは途方に暮れていた。

目の前には、身長一八〇オーバーの男。頭はスキンヘッドで眉は完全に剃られ、顎髭がもっさりと伸ばされたイカニモな見た目の男だ。何やら凄んで怒鳴り散らしているのだが、カナタとしては身長一九〇強の友人がいる為に全く怖くない。

ぶつかった怒りはどこへいったのか、男は彼女いない歴三年、しかも金目の物を持ち逃げされたという聞きたくもないし心底どうでもいい過去(プライベート)を延々と暴露しまくっている。それを聞いているカナタは、彼女でもない女(金髪と黒髪の奴ら)に会う度奢らされたり、同居人の学費や食費や高熱費を払っていたりする。カナタとしては頑張れと言ってやりたい。

(……っつか、何で僕が怒られてんの?何か、段々とムカついてきた)

フツフツと沸き上がるこの怒りはどこに飛ばそうか折角ゲーセンで発散したのになぁクソッタレこいつで鬱憤晴らしてやろうか畜生がッ!!とカナタは心中で叫びながら、しかしひきつった笑みを浮かべたまま男の怒りというか愚痴を聞いてやっている。何だかんだ言って良い人スキルは高いのだ。

ただ、気にすべきなのは一点、ドミノだ。もしかして怯えてるんじゃなかろうかと隣を見てみると、ドミノはケータイのアプリゲームをやっていた。完全に無視(シカト)している。

「……っつぅ訳で俺は怪我してバイクは凹んでんのに車ぶつけてきた奴は謝らねぇし裁判じゃ負けるし借金は残るし会社はクビになるしストレスで円形脱毛症になったが為にこんな頭にしなきゃならねぇし、……オイこらチビ聞いてんのか!」

「あ〜……そろそろお(いとま)したいんですが……」

「待てやテメェ!俺の怒りはまだ収まっちゃいねぇんだよ!」

いや、その怒りの中に僕は含まれちゃいねぇだろ円形ハゲ、とカナタは心中で呟く。というか、そろそろ本気で頬っ面ブッ飛ばして帰りたい。

「……っつぅ訳だ、分かったかクソチビ!」

「あ、はぁ……」

「そういう理由から、テメェは俺のサンドバッグに――」

「いい加減にしとけこの円形ハゲ!」

「――グゲァ!」

拳を振り上げたスキンヘッド……もとい円形ハゲだが、カナタの拳の方が先に円形ハゲの頬を穿った。ズバキィ!ともの凄い音を放ち、吹き飛ばされる円形ハゲ。

その様子に驚いたのは周囲の人々と、何よりドミノだ。ケータイの画面から顔を上げ、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべている。普段は温厚な奴がキレると怖いものだ。

反撃を予期してなかった円形ハゲはフラついた調子で立ち上がり、カナタを睨み付ける。が、膝がガクガクと踊っている。立っているのもやっとと言ったところか。

「くっ、ヌゥ……!この、チビの分際で……!」

「……さっきからさぁ、チビチビって……そりゃ僕の事言ってんのかテメェ!?男は身長じゃねぇんだよ!そりゃ僕は一六六しかねぇよもっと伸ばしたいと思ってるよ、でも男は身長じゃねぇんだよ(二回目)!男は身長じゃねぇんだよ(三回目)!」

やたらと身長という言葉を繰り返すカナタは、ガチギチビギバギと奥歯が砕けんばかりに歯を食いしばっており、何やら劇画調の不気味な顔をしていた。円形ハゲとカナタ、二人の視線が交錯し、火花が飛び散る。

「ンな、ロォがぁ!」

根性を見せるべく、円形ハゲは再び拳を振り上げる。

「さぁさぁやって参りました!豚の大群を解き放ち豚の背に乗って少年院を脱走しようとした矢吹ジョーを止めるべく華麗なステップで距離を詰めジョーを殴り飛ばした力石徹の如き数々のカミソリアッパーが今〜(実況)!」

クロスカウンター返し返し返しという幻――いや、伝説の荒技――いやいや、既に神話の神業を実行すべくカナタも同時に拳を振り上げ、





「はいは〜い、喧嘩はよくないなぁ」





パシィン、と。二人の拳は、横合いから伸ばされた大きな手に包まれる様に止められた。

「「……は?」」

唖然とするカナタと円形ハゲ。横合いから喧嘩を軽く止めた手、そしてその声の主は一体、何者なのか。二人は同時に、ギギギギギとロボットの関節が錆びたみたいな音を立ててそちらを見てみると、

髪は真っ赤だがところどころに黒いメッシュが入っていて、前髪は右が長く左が短いアシンメトリーの男が二人の拳を止めていた。狼を彷彿とさせる様な切れ長の双眸だが、だからと言って畏怖や威圧といった感じは欠片もなく、ただ純粋な子供の様な輝きを保っている。

何より驚いたのが、一九〇弱はあろう長身にも拘わらず、その男は有名な私立中学の制服を着ていた事だった。

「喧嘩は駄目だよお二人さん。はい、握手握手」

突如現れた赤髪少年はニンマリと笑いながら、カナタと円形ハゲの右手を掴んで握手を強要した。最初は拒否していたカナタだったが、赤髪少年の握力は思ったより強く、外す事が出来ない。

「何ッ……て、メェ、放せッ!」

「赤髪長身……!?おまっ、お前まさか、『ヴォルフ』の時雨沢!?」

は?とカナタは、赤髪少年を見て怯える円形ハゲに怪訝な表情を向ける。

(『ヴォルフ』?時雨沢?何の事だ?)

カナタは意味が分からないが、唖然としているカナタを余所に赤髪少年は笑みを崩さずに語る。

「いやぁ、さっきから見てたんだけどさ。流石に拳で語る喧嘩に発展しちゃ止めないと周りに迷惑がかかるしさ。……円形ハゲ、今のは明らかにアンタが悪かった」

赤髪少年は握手で和解させる事を諦めたのか、カナタの手を放し、円形ハゲの腕を捻る。ただそれだけの軽い動作にも拘わらず、あっさりと円形ハゲはお辞儀する様に腰を下げ、腕は捻られ続けてる。

「俺ら『ヴォルフ』がこの街を仕切ってんのは知ってるだろ?対等な理由の私闘は止めやしねぇけど、今みたいにあんまり手ぇ焼かすんなら容赦してやる訳にゃいかねぇんだよ。分かったか?」

「痛でででででで!わ、分かった分かった分かりました!」

ギチギリと捻りあげられた腕から不吉な音が響く。流石にカナタはギョッと目を見開く。

「なっ、待て待てそこまでしなくても!ってかアンタ誰なんだよ!」

「あん?あぁ、俺はこの街のチーム束ねてる頭だよ。俺らは『ヴォルフ』って名乗ってる。まぁ、俗に言う子供同盟(チルドレンカウンター)の穏健派って奴だ」

赤髪少年の言葉に、カナタはギョッとした。

子供同盟(チルドレンカウンター)。それは四年前に都心部を襲った《神ノ粛正ヲ下ス使徒》と日本政府の双方に対抗する反政府主義組織の総称である。カナタは高校生として、子供同盟(チルドレンカウンター)の小さな過激派組織に属しているものの、実は潜入捜査官(アンダーカバー)としての責務を果たしている。

彼は穏健派……つまり、過激派活動家の様に武装デモやたてこもりのバリケード封鎖、行き過ぎな話としては密輸した銃火器を装備してテロルに走る事はないと言ってはいるが、それでも子供同盟(チルドレンカウンター)の人間――それもその頭と言ったらカナタの敵である。

だが、赤髪少年の着ている私立中学には、カナタの同僚である桜井(さくらい) 美里(ミサト)という潜入捜査官(アンダーカバー)も通っている。その彼女が捨て於いている、または動向を伺っているという事は、危険人物ではないのかも知れない。


「くそっ、放せ!」

カナタと会話をしていた一瞬の隙を突いて、円形ハゲは赤髪少年の手を振り解いて距離を取った。あまりの早業に、キョトンと目を丸くしたままの赤髪少年。

瞬間、





スパァン!と。円形ハゲはまるで足払いされた様にその場に尻餅をついた。





赤髪少年はやんわりと笑ったまま動いていない。カナタは身構えたまま動けていない。ドミノはやや険しそうな表情で赤髪少年を見つめていた。円形ハゲは目を見開いたままガクガクと震えだした。

「……どうか、したのか?」

ただ。

ただ淡々と、赤髪少年はそう語っただけだった。

正直な話、カナタには何も分からなかった。どうして円形ハゲが尻餅をついたのか、今し方発した凄まじい打撃音は何なのか。が、不意に気付く。

赤髪少年の両足が、引きずった様な跡を地面に作っていた。

もしかして、とカナタはとある仮説を立ててみる。

(もしかして……トンデモない超高速で動いて、足払いをした……?)

通常ではどう考えてもあり得ない……のだが、カナタはこの感覚を知っている。先述したが、カナタは陸上自衛隊の対テロ特殊部隊員であると同時に魔術師なんて言う世界とも繋がりがある。非科学的という現象に慣れているからこそ、考える。

(まさかコイツ……魔術師?)

魔術師。カナタの知りうる限りでは、陰陽道により翼の生えたホワイトタイガーや空飛ぶ追跡型の魔剣、死霊を操る呪文など、そういった記憶が脳裏をよぎるが、彼の知り合いには魔術を使わない魔術師なんて人物もいるので、格闘技などの物理攻撃に特化していてもおかしくはない。

目の前の赤髪少年は、後者なのだろうか?

「おい、お前ら。この円形ハゲに、ちょっと人生について説いてやれ」

ウスッ、という野太い声がそこら中から聞こえ、カナタは視線を周囲に傾けて驚愕した。

赤髪少年に気を取られていて気付かなかったが、カナタの周囲にはいつの間にやら、三〇人近い柄の悪い男達が取り囲んでいた。否、訂正する。男達が取り囲んでいるのは、この赤髪少年だ。

男達に連行される様に引きずられていく円形ハゲを呆然と見送りながら、カナタは赤髪少年に向き直る。視線に気が付いたのか、赤髪少年もカナタに視線をやる。赤髪少年の身長が高すぎるあまり、自然と見上げる形となる。

「……お前、何者だよ」

「うん?別に、しがない中学生だよ。名前は匠、時雨沢(しぐれざわ) (タクミ)だ」

子供同盟(チルドレンカウンター)穏健派活動家と名乗る少年は、相も変わらず人懐っこい笑みを浮かべていた。

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