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エピローグ

[Fab-21.Tue/08:15]


普段よりやや遅いが、それでも遅刻ギリギリ間に合っている時刻。カナタは駅のプラットホームに佇み、眠たげに欠伸をした。

頭には包帯、更に見えない服の下には大量の湿布や包帯が巻いてあって、とにかく薬臭い。辺りにいた人々は顔をしかめて少年から離れていくが、デモ行進や喧嘩による負傷自体は慣れたもので、特に気にした様子はない。

昨夜の戦いの後、隷従法師(パペットプログラマー)標的撃破(コールフォワード)は姿を見せていない。どうなったのか気になる点は幾つかあるのだが、組織絡みなのは間違いないだろうから、何らかの処罰が下されているかも知れない。少なくとも近日中に復讐(リターンマッチ)に来る事はないだろう。

「あ……カナタくん〜!」

聞き慣れた間延びした声が背後から聞こえた。カナタは振り返り、そこにいる金髪の少女に向かって右手を挙げた。

「おはよう、ドミノ」

「おはようぅ。怪我はぁ、大丈夫ですかぁ?」

「平気平気。このぐらいならニチジョウチャメシゴトの事よ」

「そうなんですかぁ……無事そうでぇ良かったですぅ」

ニッコリとドミノは満面の笑みを浮かべる。カナタとしてもその方がありがたい。申し訳なさそうに何度も頭を下げられない方が、カナタとしても気兼ねしなくて済む。

ドミノもその事を知っているからだろうか、「昨日は本当に助かりましたぁ」と笑顔で言っただけで終えてくれた。こういう時も、『ごめんなさい』より『ありがとう』の方が、嬉しい。

「しっかし……お互い、ボロボロだな」

「あははぁ、そうですねぇ。痕とか残らないとぉいいんですがぁ」

どこか恥ずかしげに苦笑し、ドミノは手鏡を取り出して顔の痣を髪で隠し始めた。こういう事を気にする辺り、女の子だなぁと、さりげなく多大に失礼な感想を心中で呟く。

「カナタくんもぉ、少しはぁ痣を隠してみては如何ですかぁ?女生徒達(クラスメイト)が心配しちゃいますよぉ」

「いやぁ、いいよ面倒だし。第一、僕は鏡持ち歩いてないし」

クラスメイトと言う言葉を着せた真の意図を理解した風もなく、カナタはケラケラ笑いながら肩に掛けた鞄を担ぎ直した。ドミノは若干ひきつった笑みを浮かべて『ほ、本当に気付いてないんですねぇ』とか何とかボソボソ呟いたが、それさえも意味が分からなかったカナタは無難にスルーした。

やがて電車が到着し、二人は仲睦まじげに乗り込む。折り返しの電車なので、ガランと空いている。カナタとドミノ、他に数名しかいない車両で、二人は隣り合わせて座る。

「ぬォォォおおオ!その電車、ちょっと待ったァァァああア!」

ピンポーンとドアが閉まる音と同時に、どっかで聞いた様な叫び声が聞こえた。滑らかにスライドするドアに、寸前で真っ赤な髪をした大男が滑り込んで来た。乗客らは迷惑そうな表情で大男を流し見て、ギョッと肩を震わせて視線を逸らした。身長一九〇センチ弱の不良然とした大男と視線を合わせたいと思う輩はまずいないだろう。

駆け込み乗車禁止の旨のアナウンスが流れるが、大男は気にした様子なく額の汗を袖で拭った。

「いやぁ危ねぇ危ねぇ、ギリギリセーフだな」

「今のは確実にアウトだボケ!」

ばこーん、とやたらコミカルな音を放ち、カナタは手にした鞄で大男――タクミの頭を叩いた。ごぶぁ!と香港アクション映画のヤラレ役の様に派手な吹き飛び方をするタクミ。

「ちくしょ、どこのどいつだ――ってお前かよ黒髪野郎(カナタ)!何の恨みがあって俺に攻撃したんだよ今!」

「やかましい!駆け込み乗車は大変危険だから次の電車をお待ち下さい指導キィック!」

「何の!俺的無敵鉄壁バリアー!」

「小学生かよお前は!」

辺りを気にした様子もなく、ギャアギャアとノリだけで喚く二人。ドミノはやや頬を赤くし、スススと電車マットの上を移動して他人の振りを始めた。何というか、平和だった。

「忍者の格闘技術は世界一ィぃい!」

「忍者なんてこの国にしかいねぇじゃねぇかと叫びつつタクミの攻撃→カナタにミス!」

「オノレ猪口才な!すべてを、とwかwちwつwくwしwて!」

「ちょっ、もっと分かりやすいネタにしろ!というかファンの人に謝れこの電波!あぁもうッ、ネタが分からない人に申し訳ない!」

「ウハハ聞こえないなぁ俺この娘好きなんだぁ――ちょいタンマ」

その場のノリだけで騒いでいた二人だが、何かに気付いたのか、タクミは人差し指をカナタに向けたまま動きを止めた。そうは言われてもそう簡単に繰り出した拳は止まらねぇ!と心中で叫ぶカナタだが、タクミはあっさりと拳を手で包み込んで止めた。タクミとの戦力差は分かってはいたがちょっとショック。


「お前……とそっちの嬢ちゃん、……高校の制服だよな?」

「……そうだけど、何か?」

ピクッ、とカナタのみならずドミノも同時に反応し、タクミを見据える。今まで年下だとばかり思っていたタクミは人差し指を空中でクルクル回し、どういう事かを再考し、彼なりに結論を出してみた。

「……、コスプレ?」

パグゥ!×2

結論を出してみた瞬間、二つの拳が光の速さで空間を裂き、タクミの鼻面をブン殴った。これまた香港アクション映画(ただし、今回は割とマジ)の如く吹き飛ばされたタクミは、壁に後頭部を打ちつけて昏倒した。

ご愁傷様♪









[Fab-21.Tue/08:20]


ようやく電車が目的地に到着し、目覚めたタクミを含む三人で通学路を歩く。どうもタクミはこの界隈では有名人らしく、先程から注目を集めていた。例え知らない人がいたとしても、中学校の制服を着ている一九〇オーバーな赤髪というだけで、一度は注視する程だ。カナタはそういう視線は特に気にならない様だが、ドミノからしてみれば大変いい迷惑である。

「昨日仕掛けてきた奴らはローマ十字教に、中国の秘密結社……んで、そっちの嬢――もとい姉ちゃんはユダヤ教徒、と。何つぅか何でもアリだな」

「僕もそう思う」

「あのぅ。そこはかとなくぅ馬鹿にされてる気がするんですがぁ、一度ゴーレムのぉ肉体の一部になってみますぅ?」

三人は歩きながら、常人には分からない不思議世界(オカルトワールド)な会話を繰り広げていた。滅相もない謹んで御遠慮させて頂きます!と二人は同時に叫びつつ、会話を続ける。

「それはそうと、あの……ナタク?って残骸はどうしたんだ?あの後、結局お前に帰されちまったから説明が欲しいんだよ」

「アレね。俺の知り合いに召喚師がいてさ、そいつに片付けてもらった。あの団子頭が異界に収容してたナタクを取り出したって手順を逆にしただけだからな。……それにしても、あのアマ、『余を何と心得る』とか言いながら思っきし頬骨殴りやがって。いや、大人の女性の慎ましやかな行動として軍隊仕込みッポイ本気拳ってどう思うよ?」

「どうって言われてもな……」

そんな反応に困る振り方をされてもこっちが迷惑だ、とカナタは心の中だけで呟く。敢えて口に出して話の腰を折る必要もない。

「ま、今回は比較的穏健な事件でよかったよ。悪竜とか飛び出した訳じゃねぇしな」

「竜……なんてぇ、神話じゃあるまいしぃ現代じゃぁ見る事もないですよぉ……」

私も見た事はありません〜、と語るドミノに対し、いやいやそれが割と近くにいるモンだって、と答えるタクミ。どっちにしろ意味が分からないカナタとしては、完全に蚊帳の外だった。竜なんてRPGに出てくるモンスターぐらいしか知らない。

「あ、そんじゃ俺、こっちだから。今度暇だったら遊ぼうぜお二人さん」

やがてカナタとドミノが通う高校が見えてきて、タクミは手を振りながらさっさと離れて行った。商店街の人混みに消えていきそうなタクミの後ろ姿を見て、

「待て、タクミ!」

カナタはその後ろ姿を引き留めた。振り返らず、タクミは足を止める。

「結局、お前はどうしてドミノの為に戦ったんだ?僕みたく接点がある訳でもない、ただの他人だろ?」

「理由は明瞭簡潔にして単純明解。誰かが不幸になるのが嫌だったからさ」

アデュー、とキザったらしく手を振るタクミは、今度こそ商店街の人混みに消えていった。ドミノは目を伏せてお辞儀をし、カナタはため息混じりに腰に手を置いた。

「……滅茶苦茶いい奴だったな」

「……そうですねぇ、優しい方でしたねぇ」

二人は感慨深げに、何だか特攻(バンザイアタック)で散っていった仲間を悼む様な表情で人混みを見つめ、校門を潜っていった。








[Fab-21.Tue/09:40]


一限目は、あろう事か体育で、しかもマラソンだった。一般的に見れば大怪我に値するだろう包帯まみれのカナタとしては、ずっと走り続ける事程苦痛はない。更に納得がいかないのは、女子にマラソンが課せられていない事である。トラックの端にあるテニスコートで優雅にテニスに興じていた。

「し、死ぬ……これはヤバいマジ死ぬいや本当ゴメンナサイ……」

「お〜い、カナタ〜。いいからとっとと戻って来〜い」

「ダッハッハ!死にかけカナタの馬鹿面激写〜!よっし今度はこれを女の子に一斉メール送信して俺様ハッピーになってやんぜぃダッハー!」

カナタは両サイドから友人に肩を回して担がれたまま、ズルズルと引きずられていた。右を支えているのが真北コータで、左を支えているのは香田(こうだ) 京一(ケーイチ)だ。どちらもカナタの親友である。

「おい、ケーイチ。お前ケータイ取り出してないでもうちょっと力入れろよ。さっきからこっちにばっか体重かかってんだよ」

「あぁん?オイオイ俺だって重いっつーの。っつかもういっそコイツ捨てて行こうぜ、面倒だし」

「いい案だ」

「よし捨てよう」

コータとケーイチは考えが一致したらしく、動けないカナタをその辺の渡り廊下に寝かせたまま、知らぬ存ぜぬといった表情で歩きだした。クラスの三馬鹿共(デルタフォース)と呼ばれる程の親友である筈なのに、この仕打ち。

「く、クソ……あの野郎共、殺すぅ!絶、対に、殺すぅ!」

二人が角を曲がって見えなくなった瞬間、『ん?おやおやこれは女子の皆様方、勢揃いでどうかしたの?そっちも授業終わったんなら今からジュースでも飲もゴバァ!な、何でいきなり殴るん……え?カナタを置き去りに?ハッ、まさかその制裁が今ギャハー!』と言うケーイチと『うおっ!?ちょっ、俺様撤退!人柱になれケーイチ……いや、クソッタレ何て機動力だ逃げ切れなァァァああア!』というコータの悲鳴が聞こえてきたが、カナタが伏せている場所からは何が起きているのか分からない。

カナタはズルズルと這い蹲ったまま移動し、近くに設置してあったベンチによじ登り、座る。早く着替えて教室に戻らなくてはいけないのだが、少なくとも五分は休憩したい心境だった。それ程、カナタは疲労困憊だった。

「あ、時津さん。どうかしたんですか?」

そんなカナタの前を通りかかったのは、クラスメイトの癸チドリ。右サイドで束ねたサイドテールと左目につけた眼帯が特徴的な、下手すれば小中学生に間違われそうな背の低い少女である。その手には体育倉庫の鍵を持っている。どうやら後片付けに駆り出されていたらしい。

「チドリさんはぁ、テニス強すぎですよぉ。全部ラブゲームだったじゃないですかぁ……」

その後ろからは、肩を落として顎を突き出した姿のドミノが歩いてきた。体育のテニスではチドリに完全にボロ負けしたらしく、不貞腐れていた。恐らく彼女も後片付けだったのだろう。

体育が終わったばかりで、当然ながらチドリとドミノは体操服姿だ。シャツの襟や袖、深い青基調の短パンの両サイドに縦に赤いラインが引いてあるデザインが特徴的だが、もう一つ上げるとするなら上に着ているシャツは完全な白ではなく、少し灰色味を帯びている事だ。白だと汗を吸った際に下着のラインが透ける為に、その予防策として採用されている。

二人はボロボロでぐったりしたカナタに近寄る。比喩表現ではなく実際にボロボロなカナタだが、その理由を知っているのはドミノだけだ。他のクラスメイトにはただの喧嘩と言っている。

「しんどそうですが、大丈夫ですか?」

「あ〜……平気平気。ちょっと休んだら動けると思うから、心配しなくていいぞ。着替えだってベストタイム三七秒だ」

「……凄まじい記録ですね」

二人は苦笑を浮かべる。カナタはベンチの背もたれに体重を預けたままぐったりと空を仰いだまま動かなくなった。本人が心配するなと言っているのだから恐らく大丈夫なのだろうし、何より一介の女子高生である二人としては汗を吸った体操服から着替えたいところである。

怪我人を一人残して退散するというのは多少心残りがあるのだが、とりあえずチドリとドミノは着替えを優先する事にした。後で見に来て、それでも動けない様なら保健室、と言うのが妥当だろう。

二人は女子更衣室という健全なる男子ならば一度は憧れ、あれがこれこれそうなって色々様々なそれがどうなって大変な事になる男子禁制の花園に到着し、大方の女子は着替え終わったのか決して広くはない更衣室だが、広々と使える様になっていた。仲が悪い訳ではないのだが、普段から話す機会の少ないチドリとドミノは、やや離れた場所で着替えを始めた。

「……少しぃいいでしょうかぁチドリさん〜?」

シャツを脱いで、健康そうな肌色の上半身と淡いピンクの簡素だが可愛らしい下着を晒したチドリは、不意にドミノから声をかけられて振り返った。ドミノも同じ様な状態で、欧州特有(と言えば語弊があるが)の真っ白な上半身に凄まじい程のレースがついた赤い下着をつけた姿をチドリを見つめていた。腰回りは細いのに出るとこ出てるというちょっぴり卑怯なスタイルを見て、チドリは脱いだシャツで腰回りを隠す。

「……、何ですか?」

「チドリさんはぁカナタくんと仲が良いみたいですがぁ、もしかして付き合ってるんですかぁ?」

ズゴン!と、凄まじい音が更衣室に轟いた。チドリの頭がロッカーをブチ抜かんばかりに打ちつけた音だ。更衣室に残っていた他の女生徒らがギョッと振り返る。

「あ〜……やっぱりぃ違うみたいですねぇ」

「なっ、あ、はィイ!?」

困惑するチドリを余所に、ドミノはファンシーな天使の絵柄(プリント)が入った赤いTシャツとブラウスを着て、短めに仕立て直されたスカートを穿く。その下から短パンを下ろす姿は何やら艶めかしくと言うか生々しくてエロいのだが、その場にいるのは残念ながら同性だけである。

「昨日ぅ、助けてもらったからぁ、気になっているだけだとぉ言われるとぉ否定はしませんがぁ……」

ドミノは体操服を丁寧に折り畳み、体操服の収容に『のみ』使っているブランド品のバッグを肩にかけ、ブラウスのボタンに手をかける。

チドリは上半身ブラジャーのまま固まっていて、ピクリとも動かない。ブラウスの第二ボタンまで開いたままリボンを垂らす様に留め、その上からボレロを羽織っただけのドミノはにっこりと微笑み、固まるチドリとすれ違う。

「少なくともぉ負ける気はぁ、ありませんよぉ。……誰にも、ね」

ドミノの言葉の最後の方は、いつもの間延びした口調ではなかった。まるで真剣の鋭さを持った、聞くだけで身を斬りかねない類の声。

女優の様に迫力のある声にゾッと背筋を震わせつつ、チドリは更衣室を去っていくドミノの背中を眺める。

(……『昨日、助けてもらった』?……ははぁつまり何ですかアレですか眞鍋さんに半ば強制的にカラオケに拉致られて喉が涸れる限界ギリギリまで歌わされていた陰であの人はまた女性の方と関与していたといや私に言う権利はありませんがンな事は分かってますが何と言いますかツヅミさんの言っていた『時津カナタのフラグ発生率は異常』の意味が何となく分かりましたしコラボは私の出番ないみたいですし他の女陰陽師キャラ出るみたいだしいいじゃん私でキャラ足りてるじゃんまぁ陰陽師にも色々いますがその辺もこじつけするみたいですがそれは私の役目だろ!)

ズゴン!と今度は自分の意志で額をロッカーに叩きつける。ビクッと更衣室中の視線が集まる。

何というか、理不尽は重々承知で、とある少年を全力で殴りたかった。

ちなみにどうでもいい話だが、ツヅミは『最近カナタは壊れ気味』とも言っていた訳だが、壊れるという点だけを考えればチドリも負けていないのではなかろうかと言う意見が出そうなものだが、幸か不幸か彼女はその事に最後まで気付かなかった。









尚、現在W3665A世木維生さん合同の元、『滝口譚+狭間』コラボ小説を執筆中!Hope That Coming Soon!(早めに来る事希望!)

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