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§11、終わりと始まり

[Fab-20.Mon/21:10]


「……カナタくん〜……それはぁ?」

ドミノや標的撃破(コールフォワード)の視線は、カナタの左手に握られた自動拳銃に注がれている。複雑過ぎて面倒くさい安全装置(セーフティ)は外されていて、薬室には弾薬が装填済みで、引き金を引けば弾が出る。

「あ〜、いや、あっちのデカブツ相手に素手は不味いかなと思ってさ。ちなみに偽物(ガスガン)じゃないぞ、本物だ」

カナタの視線の先には、一進一退を繰り返す巨大な人形が戦っていた。ナタクの剣が土塊の人形を斬り刻み、斬った傍から辺りの土やら何やらを吸収して修復している。反撃と言わんばかりに繰り出した土の拳がナタクを殴打し、弾き飛ばす。

「うぅむ……文字通り現実的(リアル)ロボット大戦って感じだな……」

機械仕掛けのナタクとやらが、隷従法師(パペットプログラマー)の人形だった筈だ。だとすると、もう片方の土の人形はドミノが生み出した物だろうか?

「カナタ……くん……?」

「あぁ、悪いドミノ。まずはあっちの機械ブッ壊すから待っててくれ。色々言いたい事はあるだろうけどさ」

カナタは拳銃を弄ぶ様に左手から右手に投げ渡し、ロクに照準をつけずにナタクめがけて三発連続で発砲した。轟く爆音にドミノと隷従法師(パペットプログラマー)が肩をビクッと震わせる。

ガガゴギン、とカナタの放ったゴムスタン弾が三発とも的確にナタクの関節部分を穿ち、ナタクが体勢を崩した瞬間にカナタはもう一度だけ発砲し、ナタクの膝裏に命中した。とたんに乳白色の粘着した液体が飛び散り、辺りにへばりついた瞬間にジュワと奇妙な音を立てて気化した。

水冷機能の為の冷却水だった。

まるで腰が抜けた様な動きでナタクが膝を突き、土人形の一撃を受けて大きく弾き飛ばされた。信じられない光景に、唖然とする二人。それとは真逆に、涼しい顔のカナタ。

が、

「……変な体勢で撃ったから、肩が痛ェ」

次の瞬間には苦悶の表情を浮かべながら、左手で右肩を掴んでいた。どこまでも締まらない男である。

「なん……おま、えは……一体、何なんデスかぁ!?」

「通りすがりの特殊部隊だ」

今度は銃を両手で構え、狙い澄まして連発する。ガゥン、ガゥンと大口径の爆音が轟くと共にナタクの身体が大きく後ろに揺らぎ、尻餅をつく。その間隙を突く様に更に撃つ、撃つ、撃つ。

ゴムスタン弾とは言え、少なくとも改造ガスガンより圧倒的な破壊力を持つものだ。そんな物で機械の脆い部分を撃たれれば、いくらナタクと言えども無事では済まない。

一二連弾倉を全て撃ち終えたオートマティック拳銃のスライドがオープンしたまま、銃口や排莢口から硝煙が立ち上る。同時に、ナタクの全機能が停止した。カナタは銃身が灼けた拳銃をその場に捨て、隷従法師(パペットプログラマー)に向く。

最強の守護者であるゴーレムの猛攻を受けて尚、対等に渡り合った英雄の最後は、呆気なかった。強さの次元……と言うよりは強さの質が違うナタクとカナタには、決して埋めようのない差があり過ぎたのだ。

とは言え、カナタ自身も標的撃破(コールフォワード)との戦いで疲弊しているのも事実。幾分かは痛みが引いたとは言ってもキツいものはキツい。

ドミノは既に動く事もままならないのに対し、隷従法師(パペットプログラマー)はたった一撃、カナタの拳を受けただけだ。炎の術式も温存されている。

「……うく、」

微かに、空気を揺さぶる乾いた音がカナタの耳に届く。フラフラと安定しない身体を落として身構え、カナタは隷従法師(パペットプログラマー)を見据える。

彼女は、嗤っていた。

「うく、く、……うくくきかくけけくこかかかかかかかかかか!あァん、ちょっと切り札ブッ潰したぐらいで勝者気取りデスかぁ?あはっ、メデタイったらねぇデスねぇオイ。それともアレか、僕ちゃんには石像使いの頼もちぃ味方がいるから安心でちゅうってかぁ?ウくク、アリエネェ!」

「あ?」

「あ〜ッたく、畜生ぉ!アンタのせいで計画がパーだ!ちったぁ鬱憤晴らさせてくれんデシょうねぇコラ!よっくもまぁ、人の人形(ナタク)ぶっ潰してくれやがったなぁ。アレにどんだけ莫大な費用と時間つぎ込んだと思ってんデスかぁ!?自分がされて嫌な事は他人にしちゃイケマセンって教わってねぇのかよ!」

嗤いながら小瓶を取り出し、大きく振りかぶって凄まじいオーバースロウで放つ。魔術云々よりも、ガラスの塊が勢いよく飛んでくれば誰だって痛い。カナタは軌道を見て右にステップを踏み、

カナタの横を通り過ぎようとしていた小瓶が、突如爆発した。細かいガラス片が四方八方に弾丸の様な速度で飛び散り、カナタはギョッと驚きながら顔の前で手をクロスさせた。

ズパ、シュパッとカナタの服が切り裂かれ、垣間見える肌からは血が滲んで見えた。次に爆炎と爆風がカナタを覆い尽くし、見えない手に突き飛ばされた様に後ろに倒れた。全体的に、軽度の火傷が見て取れる。

「立ァち止まってんじゃアないデスよ三下ァ!ミンチにされてぇのかよアンタはウクカキカカカカ!」

ギョバッと擦過音が聞こえたと思ったら、やたらゴツいパールがカナタの側頭部を殴り付けた。短い嗚咽を吐くカナタに更に、反対側からハンマーが頬を穿った。ゴキュン、と不気味な『骨』の音が聞こえる。

ほぼ同時に、ブチッ、という音が聞こえた気がした。

「ゴーレム=ドミノぉ!あのクソ野郎をブチ殺して下さいぃ!」

友人のピンチに我を忘れたのか、這い蹲ったまま、ドミノはチョークを一閃する。ずっと待機していたゴーレムが主の命を受け、巨大な拳を振り上げながら隷従法師(パペットプログラマー)に接近する。

だが、しかし。

「うく?……ハァ、雑魚は引っ込んでろ、雑魚は。こっちの人形が壊されたんだ、もう用はない」

隷従法師(パペットプログラマー)はため息混じりに小瓶をゴーレムに投げつける。コツン、とゴーレムの胸にぶつかった小瓶が、宙を舞う。

「自元修復……そのゴーレムのアルゴリズムは解析済みなんデスよ。三秒に一度、自動的に破壊された箇所を修復している事は。つまり……」

ゴン!と小瓶が爆発。ただし、カナタやドミノに使っていた爆発と違い、凝縮された爆発だった。攻撃力を圧縮した一撃であってもゴーレムの中心部を少し抉っただけだが、隷従法師(パペットプログラマー)は更に五つぐらい、小瓶を同じ箇所に投げた。

すると、奇妙な事が起きた。周囲の地面が隆起し、土砂崩れの逆回しの様な勢いでゴーレムの身体を昇り始めたのだ。抉れた胸を覆う様に集まった土が固着し、傷が完全に癒えて仕舞った。

「ゴーレムの特徴は、その耐久性能と自元修復デスよねぇ。故に『最強の魔術』ではなく『最強の守護者』と言われてるみたいデスが……『修復の為に辺りの物を例外なく吸収する』のであれば、そこに付け込んだ罠を仕掛ければいいってだけの話じゃないデスか」

街灯の光が、ゴーレムの胸元を幾つか光らせる。その正体は小瓶だ。先程の修復時に一緒に吸収したのだろう、それに気付いたドミノは愕然とし、カナタは怪訝な表情を浮かべ、隷従法師(パペットプログラマー)はニタァリと嗤う。

「演出ゴクロー様デシた。華々しく散りやがれ」

ボバン!と派手に火柱が舞い上がり、中心から全包囲に吹き飛ばされた土塊が地面に落ちる。ドミノの術式(ゴーレム)は、完全に沈黙した瞬間だった。

「聞け、三下。私は別に、アンタに恨みがある訳じゃないんデスよ。ただ私が人形使い最強を証明するだけの踏み台でしかない。……むしろ怒ってんのは、あっちのクソガキに対してだ!分かってんのかテメェ、寝ぼけてんじゃねぇよ殺すぞキサマっつーかブチッ殺す!」

うずくまるカナタの腹を、蹴り飛ばす。更に追い打ちをかける様に凄まじい猛攻を繰り広げる。愉悦と憤怒が入り交じった表情を浮かべたまま、蹴り踏み捻り殴り、あらゆる攻撃を喰らわせている。

「かっ……ゼェ、ゼェ……飽きた。そろそろ息の根止めてやっから好きな死に方を希望(リクエスト)しろ」

「……テメェが、死ね」

カナタは動かない身体を懸命に奮い、左手の中指を立てた。ヒクッ、と隷従法師(パペットプログラマー)の口端が歪む。

「……気が変わった。お前の死に様は爆死だ」

隷従法師(パペットプログラマー)はジャケットを広げ、小瓶を幾つも取り出す。それぞれの指の間に挟まれた小瓶は計八本。使い方次第ではカナタやドミノ相手にやっていた『手加減』や、ゴーレムを吹き飛ばした『本気』なんかも出来るのだ。それが八本……即ちそれは死を意味する。

だが、それを機能させる為には、致命的な前提条件が生じる。

「……くはっ、その攻撃を、」

まずは爆破させられる環境を作らなくては、お話にもならない。

「待ってたんだよ!」

青痣だらけでドス黒く染まった両手を地面に叩きつけ、力を振り絞ってカナタは勢いよく立ち上がる。チッ、と面倒臭そうに顔面を歪める隷従法師(パペットプログラマー)だが、前傾姿勢のままカナタはラグビーのタックルの如く、両の太股に腕を巻き付ける様に飛びかかった。

「なガっ……!?」

離そうと隷従法師(パペットプログラマー)は拳を握り締めようとしたが、指の間に挟んだ小瓶が邪魔で、思うようにいかない。もう一つの理由として、太股を両サイドから掴まれている為に膝が内側を向いていて、重心が定まらないので反撃しにくい。

肉を斬らせて骨を断つ、という言葉はよく聞くが、実際に実行する奴も珍しい。

(……何か僕、今日はこればっかだな)

そんな嘆きは、心の中だけに留めておくちょっぴり大人なカナタだった。悔しいが実際に有効な手段なのだから致し方ない。

「爆破してぇならやってみろ。死体が二人出るだけだ」

「ぐっ……」

思いとどまった瞬間、隷従法師(パペットプログラマー)の身体が浮遊感を覚えた。両足を持ったまま、カナタが勢いよく肩に乗せたからだ。

「なっ、ちょっ、ハァ!?」

「くたばれ団子頭!これでも僕は柔道黒帯だッ!」

そう叫びながら、刹那。

肩車された隷従法師(パペットプログラマー)は、重力に引かれる様に存分に勢いをつけて、固い地面に延髄から叩きつけられた。普通なら死にかねない激しい衝撃ではあるものの、魔術か運か知らないが、隷従法師(パペットプログラマー)はピクピクと全身を震わせたまま、やがて意識を失った。

案外忘れがちなのだが、カナタは特殊部隊所属で、一通りの格闘訓練は修練しているのだ。警戒を休めない弱者より完全に油断した強者の方が時に潰しやすいものだ。格闘技の世界では、それは如実に現れる。

完全無欠に、カナタの勝ちだった。









[Fab-20.Mon/21:20]


「いよう、お疲れさん」

ニヤッと笑顔を浮かべたタクミが、荷物を肩に担ぐ様にアーダを持ってきた。どことなく足取りが重く感じられるが、少なくともカナタやドミノよりはマシだろう。

「しっかし、派手にやっちまったなぁ。こりゃ後始末が大変だぞ?」

「……うん、まぁ、そうだよな……どうしよう」

抉れた地面や逆に隆起した土なんかは、まぁ、今更と言う気がするのでこの際捨て置く。問題は、ナタク――だった、六メートル強はある機械の残骸だ。人々が憩う公園の小意気なオブジェとして飾っておくには、多少物騒すぎる気がする。

「……そもそも、この女は軽く建築機材(ユンボ)並の巨大な機械を、どうやって持ってきたんだろうな」

眉根を寄せて腕を組むカナタの呟きに答えたのは、ドミノだった。

「はぁ……これは私の予測なんですがぁ、ひょっとするとぉ、別位相に於けるぅ概念個体の具現干渉化ぁ……要するにぃ、召喚術を応用したぁ魔術なのかも知れませんねぇ」

「……時雨沢サン、コノ子何イッテンデスカ?」

「〇点のテスト用紙を四次元なポケットに隠して、必要に応じて取り出すメガネ君を思い浮かべれば分かりやすいだろ」

「大陸の術式に詳しい訳ではぁないのですがぁ、まずぅ間違いはないとぉ思いますよぉ」

困惑するカナタを余所に、二人の間だけで会話が成立しているのか、タクミはうんうんと言った具合に頷いていた。

「って召喚術か……ふむ、そんなら、アイツに頼めば何とかなるかもな」

「アイツ?」

「世界十指に選ばれた最強の召喚術師サマと知り合いなんだよ、俺」

「……、何そのトンデモない無茶設定?どこのゴツいオサーンだよ」

「いやいや二十歳の女なんだけどな、予想を裏切ってメチャ美人だぞ〜。大人の女って感じだ。喋りはちょっとアレだけど」

「よし、今すぐ連れてこい。是非拝見したい」

「……、」

本人が聞いたら杖を片手に鬼の形相で三日三晩追いかけられそうな会話が繰り広げられる。(バカ)同士で話が合ったのか、カナタとタクミは顔を見合わせ、ニヤッと笑いながら親指を立てていた。遠巻きに二人を見るドミノの冷たい視線に気付いた様子は欠片もない。

と、不意に視界の端で何かが動いた。とっさに三人が身構えながら振り返ってみると、そこには起き上がろうとしているアーダの姿があった。全身に力が入らないのか、這い蹲ったまま一向に立ち上がる事が出来ない様だ。

だが、伏せても尚衰えない鋭い眼光が、見開かれている。その双眸はカナタを映し、奥歯が砕けんばかりに噛み締める。

「……、時津、カナタ」

「……、何だ?」

「あたいは、ローマ十字教第十三枢機課、《イスカリオテ》の、一人、アーダ=オルトラベッラ、じゃん。この名前を、覚えとくじゃんか」

ローマ十字教、という言葉にタクミがビクッと肩を震わせる。もしかしてアイツの事とは関係ないよな、とか何とかゴニョゴニョ口の中で語っていた。

「……あはは。あたいは、確かにアンタに、負けたじゃん。次は絶対に、殺すつもりだ。……ははぁはっ、これだけは約束すんじゃん、時津カナタ。あたいがアンタを殺すまで、絶対に誰にも殺されるなよ」

渾身の力を振り絞って立ち上がったアーダは、倒れたまま痙攣している隷従法師(パペットプログラマー)のつなぎの襟首を掴み、引きずる様に歩き始めた。

「僕はやらなくちゃならない事がある。それが終わったら好きに殺してくれて構わないが……それまでは、何があっても絶対に死なない」

「その言葉、忘れんじゃねぇじゃんよ。アンタを殺していいのは、このアーダ=オルトラベッラじゃん」

隷従法師(パペットプログラマー)を引きずったまま、アーダは公園の出口に差し掛かり、手を翳す。パキンとガラスを踏み砕いた様な小さな音が辺りから一斉に空間を介してステレオの様に聞こえてきた。空間切断(カットアート)とやらを解除した音だろうか。

去り行くアーダの背中は、殺すべき敵に出会えた愉悦に、震えている様に見えた。

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