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タイムトLOVEル

作者: No_318


あのときの気持ちを

あのときに伝えられなかった

あのときの私に

どうしても伝えたかった。





「俺と別れてくれないか」

「え・・・?」

何気ないいつもの電話のはずだった。

彼が声のトーンをさげ、ゆっくりと言った。

「他に好きな子できたんだ・・・ごめん」

まただ・・・。

「そ・・っか、分かった」

またやっちゃってたのか。

「ごめんな」

彼が申し訳無さそうに言う。

「ううん、ぢゃ、バイ・・」

バイバイを言い切らないうちに彼からの電話は切れてしまった。

また、彼氏に振られた。

告白されて付き合った。

束縛も嫉妬もしなかった。

だから私はいつも振られる。

本気になれなかった。

私には・・・

ずっと忘れられない人がいるから。

その人を心に置いたまま付き合ってきた。

だからどうしても彼氏は二番目の存在。

もちろんそんな気持ちは自分の中に仕舞い込んで封印する。

いつももう忘れなきゃって思うんだけど、結局駄目になる。

遠いその人を見てて、近くの彼氏を見ていない事に何となく気付かれて、最後は皆離れていく。

そんな繰り返しばかりだった。

彼氏とのつながりが切れた瞬間、急に体が軽くなった気がした。

自分の気持ちに嘘をついていた事実から開放されたからだろうか。

ベッドの上に携帯電話を放り投げ、机の引き出しの奥に仕舞い込んであった一冊のアルバムを取り出した。

そこには、大切に封印していた一枚の写真がある。

その人と一緒に写った唯一の写真。

「やっぱり忘れられない・・・」

でももう遅いんだ。



私の名前は成田聡美(なりたさとみ)

略して通称「ナミ」。

19歳で、県内の芸大に通う一年生。

ご承知の通り、先日彼氏に振られた。

「ナミ!こっち!」

今日は学校帰りに中学の同級生のヤイコ、ノゾミ、チヤコと地元のファミレスで再会する日。

三人とは中学卒業後別々の高校に進学し、大学生になった今もたまに集まっては近況報告などをしている。

「ごめん!遅くなっちゃって…」

この日は前に会ってから4か月振りの再会だ。

一番最後に着いたのは私だった。

挨拶も早々に皆でフリードリンクを注文し、早速お互いの近況質問が始まった。

「最近ど〜なの?あの彼とは〜」

チヤコがノゾミに聞く。

「あ〜別れたよ。今は年上なんだぁ〜」

ノゾミは頬杖を付きながら答えた。

「え〜!いつの間にぃ!?ノゾミはいつも早いよね〜別れるのも付き合うのも〜」

少し呆れ混じりにヤイコが言う。

「私なんて一年もフリーなのに〜!!一体どこでそんなに出会いがあるのよ〜一人くらい紹介してよ〜!」

悔しそうなのはチヤコだ。

「ま〜いろいろね〜☆」

さすが、すっかりオネー系のノゾミ。

聞くところによるとノゾミはフリーの時がないらしい。

「ねーナミは?」

「えっ!?」

ヤイコからの質問に私は思わず飲み物から口を離した。

「彼氏〜〜〜」

「あー・・・振られちゃった」

彼とは1年ちょっと付き合いが続いていたので、まさかの展開に三人ともビックリした。

「えー!!何で!?結構続いてたのに!!」

一番ビックリしたのはチヤコだった。

「うーん・・・他に好きな子出来たんだって」

苦笑しながら答えた。

「うっそ!!最悪そいつーー!!」

今度は怒り出すチヤコ。

「そんな奴さっさと忘れちゃえ!!!」

ノゾミが言った。

その後も三人は彼の悪口を言っていたが、私は何も感じていなかった。

ホントは傷ついてもなんとも思ってもいない私のほうが最悪なのかも・・・。

「元気だしなよ〜ナミ!!」

ヤイコが励ましてくれた。

「うん、ありがとう。でもホント平気なんだ・・・」

むしろ開放感に安心しているくらいだ。

そして私には、今想う人がいる・・・。

私は思い切って三人に今の気持ちを打ち明けることにした。

でも打ち明ける事には少し勇気がいった。

みんなの顔色を伺うように切り出した。

「あのさ、変なこと聞いてもいいかな?」

三人が私のほうを見る。

「どうしたの??」

ノゾミが興味を示してくれた。

「うん・・・昔好きだった人とかって、時々気になったりしない??」

何となく皆の顔を見れず視線を目の前のグラスに向けながら聞いた。

「え?昔って・・・中学とか??」

チヤコが答えると、すかさずノゾミが答えた。

「ないない〜!!元彼ならともかく、中学って言ったら片思いで終わっちゃってる奴らでしょ〜??」

はっきりと否定されてしまった。

「そっかぁ・・・」

やっぱり付き合った人がいる場合、片思いで終わった相手の事なんて記憶の片隅にも残らなくなるものなのかな。

ヤイコが少し考え、思いついたように発言した。

「ナミ・・・もしかして堀内のこと・・・?」

ズバリ名前を出されるとドキッとする。

私が今想う相手の名前は堀内優(ほりうちすぐる)

「うん・・・実はさ、どうしても忘れられない気持ちがあってさ、それに気づいちゃったんだ」

私が中学1年の時から堀内の事が好きだった当時の事は3人も良く知っている。

「え、それってあの頃からずっと??」

ノゾミが指を一本一本折って年数を数えだした。

「でも結局片思いのままで告白もしずに終わっちゃったよね?その後何人かと付き合ってきてるじゃん??その時も忘れてなかったって事???」

ヤイコが鋭い質問をしてきた。

「その時は確かに、堀内への恋は終わったと思ってたよ。付き合った人のこと好きになったし。でも正直別れる度ホッとしてたんだ。そりゃ、浮気された時は腹も立ったけど、私、浮気されちゃうくらい「つまんない彼女」にしかなれなかったんだよね・・・。どんなに好かれても私は応えられなかったんだ。終わったと思ってた気持ちは封印しただけだった。今回それに気がついちゃったの。」

話を聞いていたヤイコはまたも鋭い質問を投げかけてきた。

「ちょっと待って、ナミのその気持ちって、いつのものなの??それって結局あの頃の気持ちが残ってるだけであって、今の気持ちではないんじゃないのかな??」

それを聞いていたチヤコも質問をしてきた。

「あ〜そうだよねぇ。再会をきっかけに〜とかなら分るけど・・・会ったりしたの??」

会ってはいない。

中学3年間ずっと片思いをしてきた堀内。

伝えたい気持ちを胸に毎日を過ごした。

告白するチャンスが一度だけあったけど、逃してしまった。

恥ずかしさのあまり、違うどうでもいい事を言ってしまった。

結局、気持ちを伝えることのないまま卒業し4年。

一度も会ってはいない。

少し目が覚めた。

「ううん、会ってないな・・・そっか、そうだよね。これって告白しなかった事をいつまでも悔やんでるって、ただそれだけなのかも・・・」

相手の気持ちを知る事のないままになってしまった恋だから、自分の中でも終わることが出来ずにいただけ。

パソコンの電源がエラーを起こして切れず、強制終了を待っている状態・・・と言うのだろうか。

「そうかもしれないよ。それに片思いって幸せしかないじゃん??きっと思い出が美化されて心の中にずっと残ってるんだよ。」

ヤイコが言った。

「そうだね、それはいい事だと思うよ。堀内のことはいい思い出として大事に残せばいいし、今は寂しいからそうやって思えちゃうだけなんじゃないかな。本命だってまだこれから現れるんだよきっと!!」

ノゾミも言った。

「ナミ!一緒に良い男探そうぜぇ〜〜!」

チヤコが私の肩を叩きながら言った。

「皆・・・ありがとう」

私は寂しいのか・・・だから楽しかったあの頃の気持ちで自分を慰めてるだけなんだ。

終わりがなかった恋だから良い思い出しかない。

その相手が堀内だったから、そう思うだけ。

でも・・・

そう思ったときにヤイコが言った。

「だけど、こんなにナミの心の中にいるんだったら、あの頃伝えておけば良かったかもね・・・ちょっと勿体無い気もしたよ」

同じ事を私も思っていた。

いくら自分の中に堀内が存在してても、その気持ちは堀内には伝わってはいない。

別に振られてたって良かったんだ。

あの時に好きだった事をちゃんとあの時に伝えておけば良かった。

その後も数時間色々語り合い、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。



「そんじゃ〜また集まろうね〜〜!!」

日も暮れたので四人は解散し、私は家に向かって歩き出した。

私は歩きながら過去を振り返ってみた。

今思えば、あの頃は毎日がチャンスだった訳だ。

学校に行けば堀内に会えてたのに…。

なんでその間に伝えておかなかったのだろう。

今になって後悔してるなんて、遅過ぎるよね…。

今もしここにタイムマシーンがあったら、迷わずあの頃に戻るだろうな…。

そんな都合の良い事ある訳ないか。

そんな事を考えていて、気がつくと道を一本間違えていた。

「あれっ、行き過ぎちゃった。戻るのめんどくさいなぁ…」

仕方なくいつもの道に戻ろうかと思ったが、少し行けば遠回りにはなるけどもう一本家に繋がる道がある事を思い出した。

「最近全然通ってないし、たまには少し遠回りも良いか〜!」

気分を変えて私はそっちの道で帰ることにした。

しばらく歩いて行くと、そこには見慣れない店がいつの間にか出来ていた。

見たところ雑貨屋のようだ。

「へ〜〜!こんな店いつの間に出来たんだろ〜!ちょっと寄ってみよ」

私は中に入った。

戸を開けるとカラカラとベルが鳴った。

少し照明が弱く落ち着いた雰囲気の中、静かにクラシックが流れている。

そのお店は色々な国のアンティークなものを扱っているようだ。

雑貨は好きなのでついつい見て回った。

その時、私の目に一つの雑貨が飛び込んで来た。

「あー!これ可愛い〜!!」

それはアクセサリーが収納出来る小箱で、私の好きな太陽と月の絵柄の入ったおしゃれな物だった。

値札を見ると¥1500とある。

「いーなー。高くないし買っちゃおうかなぁ〜」

一人ではしゃいでいると後ろから声がした。

「おや、その小箱がお気に召しましたかな」

そう言って現れたのは店主だろうか…。

丸いレンズの眼鏡をかけ、鼻の下に髭をはやした60代くらいのおじさん…。

うおっ!!

骨董屋にいそうないかにもな雰囲気で、そのキャラに思わず反応してしまう。

「あ、はい、コレ下さい」

私はそのおじさんに手に取った小箱を差し出した。

おじさんは小箱を受け取ると語りだした。

「貴女はラッキーな人だ。これはただの小箱ではありません。昔からこの小箱には精がおるという言い伝えがありましてな。きっと貴女のお役に立つでしょう」

「は…はぁ」

ブーーー!!!

おっさん!!面白いよ!!!

私は吹き出しそうになるのを必死で押さえた。

会計を済まし、丁寧に梱包されたそれを手にした。

「まいどあり」

私は店を出ると、再び家に向かい歩き出した。

「商売上手いなぁ〜〜!!変わった物が多かったし、おっさん雰囲気あり過ぎ!!あんな風に言われたらホントに何かありそう〜!ランプの精とかツボとか…??」

私はとても楽しくなった。

「でも、1500円の普通の小箱だし〜。まぁ、気に入ったから良いけどね!」



無事に家に着き、風呂を済ませ部屋に戻った。

「早速入れよ〜〜」

小箱の蓋を開け、仕切られたマスの中にネックレスやピアスをしまいながら、やっぱり堀内のことを考えていた。

はー・・・

やっぱりもう、今更だよねぇ・・・

今どうしてるのかもしらないし、このまま良き思い出として諦めるべきなのかなぁ・・・

でも、

この気持ち、

このままなかったことにするってのも、ちょっとスッキリしないなぁ・・・

小箱の蓋を閉め、ベッドに横になった。

こんなに好きだったのに、何で伝えなかったんだろう・・・

今になって後悔するなんて、私馬鹿だよ。

自己嫌悪に陥っていると、そんな想いとは裏腹に生理現象が起りそうだった。

私は構わず起こした。


ぷぷ〜ぅ。


なんとも気の抜ける音が部屋に響いた。

こんな時に・・・。

一瞬笑いがこみ上げたが、気持ちはまた下がっていった。

どうしようもない事にだんだん腹が立ってくる。

あの頃の私には勇気がなかったんだろうか。

きっと振られることが怖くて逃げ出したんだ。

片思いでいる事が幸せだと思ってたに違いない。

でも結局終わるんならちゃんと振られていたほうが良い。

気持ちの切り替えが出来ないままではどうにも気分が悪い。

寝返りを打って、思わず声に発した。

「はー・・・戻れたらな〜〜〜〜」

ため息と一緒に思わずそんなことを言葉にしていた。

その時。

「もしもし、それは願い事かね?」

突然部屋に聞きなれない声がした。

私は飛び起きた。

部屋を見渡すとそこにいたのは・・・

「ハロー!ワシは小箱の精。主人の願い、どんな願いでも一つだけ叶えよう」

だそうだ。

状況が読み込めず思考が停止した。

つかの間の沈黙の後、多分異常事態なのだと理解し、危機感を覚えたと同時にそれを表現していた。

「ぎぃいいぃいいやぁああぁあああぁあぁあぁ!!!!!」

そこには知らないジジィが長く伸びた白い髭を触りながら立っていた。

自分のテリトリーに進入を許さぬものが勝手にいたら、危険を察して防衛体制になるものだ。

「だっ!!誰だぁあぁ!!!!どっから沸いたぁああぁ!!!!」

私はビックリして片っ端から手元にあったものを投げつけていた。

「こ・・これ!!やめんか!!!痛いっ!!」

投げるものがなくなり、息せき切らして叫んだ。

「な!!何なのよアンタ!!!!人の部屋にどーやって・・・不法侵入で訴えるよ!!!!」

「自分で呼んどいてそりゃなかろーに。」

何言ってるんだこのジジィは。

人の部屋に勝手に入っておいて私が呼んだと言う。

「呼んでないーーーー!!!!!!!」

こんなジジィ呼ぶわけがない。

全身全霊を込めて否定した。

「なんじゃとぉ!!お前さん「ぷぷーぅ」と言ったじゃろ!それがワシを呼ぶための呪文なんじゃ!発音もバッチリじゃったおかげでスッと出てこれたわい!」

呪文???

そんなこといった覚えがない。

『ぷぷ〜ぅ』

その時聞き覚えのある音が頭の中に蘇る。

まさか・・・あの音・・・??

「ちょっと!!人のおなら聞かないでよ!!恥ずかしいっ!!!」

つまりは、このジジィは小箱の精で、私のしたおならの音がはっきりと呪文として聞こえた為に、召還された・・・という事らしい。

って!!!!

はぁあぁ!!?

まっぢっでっ!!!?

これってこれって、まさかあの店のおじさんの言ってた・・・

『昔からこの小箱には精がおるという言い伝えがありましてな。きっと貴女のお役に立つでしょう』

あの話はホントだったのーーーー!!!!!???

「うっそー!!!ただの1500円の小箱ぢゃなかった訳ーー!!!!」

「しぇ・・・1500円!!!?」

ジジィは自分が売られた価格にショックだったようだ。

「ワシも安ぅなったもんじゃ・・・。久々の仕事なのに主人は犯罪者扱い・・・。帰ろうかの・・・」

ジジィは落ち込んだ様子で小箱に戻ろうとしていた。

私は慌てて止めた。

「ちょ、ちょっと待ったーーーー!!!!」

ジジィの目の色が変わった。

私は唾を飲み込んでジジィに問いかけた。

「一つだけ・・・願いを叶えると言ったわね。どんな願いでも・・・??」

まさか、ほんとにそんなこと・・・

でも・・・

「ワシに叶えられん願いなどないっ!!」

ジジィは腰に手を当て、エッヘン!とばかりに言った。

「ただし、悪意のある願いは除いてじゃ。フォッフォッフォ!」

私は身を乗り出してジジィに要求した。

「だったらお願い!!私を4年前に戻して!!!」

私の願いは一つ。

あの頃に戻って、気持ちを伝えるだけ。

それさえ出来れば・・・。

そんな願いを、本気で頼んでいた。

が、

「ばっかもーーん!!!」

いきなり怒られた。

「言ったじゃろ!!悪意ある願いは除いてと!お主・・・その頃に戻って宝くじ当てまくってボロ儲けしようなんぞ企んではおらぬのか!!?」

なんで!!!?

「そんな事しないわよっ!!!!」

「ぬぬっ・・・あやしーな・・・」

「アンタの方がよっぽど怪しいぢゃんか!!!!!」

なんなんだこのジジィ・・・。

ジジィはジロ〜〜〜っとしばらく私を見た後、フォッフォとまた笑い出した。

「冗談じゃ冗談!」

またジジィは白い髭を触っている。

どうやらちょっと気に入っているらしい。

「・・・。」

「久々の外界での。ちょっと遊んでみただけじゃ」

私は深いため息をついた。

やっぱりこんなの相手にした私が馬鹿?

そう思っているとジジィは改めて私に言った。

「それで、その理由を聞いてもええかの?」

「あ、うん・・・」

とりあえず言うだけ言ってみるか。

「私、過去に気持ちを伝えなかったことに今凄く後悔してるのよ。だからあの頃に戻って気持ちを伝えたい人がいるの」

ジジィは自分の髭を触りながら判断を下した。

「う〜〜〜〜ん・・・なるほど。よし、そう言うことならその願い叶えよう!」

「ほ・・・ほんとに??」

「ただしいくつかの条件がある。戻れるのは48時間。それと、同じ時に同じ人物がいることはありえん。お前さんには何か別の動物になってもらう。あと、伝えたからと言ってその後の未来は何にも変えられん。それでも良いか?」

「いいわ!!気持ちが伝えられるなら」

どうせ振られるのは分かってる。

私はただ、それをちゃんと受け止めて終わりにしたいの。

「フォッフォ!決まりじゃな!」

ジジィは杖で魔法陣のようなものを描き、早速呪文を唱えだした。

「ではっ!『ぷっぷくぷ〜のぷ〜〜ぅ』!!」

その時、ボゥ!!っと爆風が起こり、私はあっと言う間に異空間のようなところへ飛ばされた。



「うぎゃぁああああぁあぁ!!!!」

「うるさい娘じゃのう」

異空間のようなところが見えていたかと思うと、凄い速さで場所を移動しているようだった。

そして、あっと言う間にある場所へ抜けたようだ。

が、しかし・・・

「え・・・」

そこは遥か空の上のようで・・・

「うぎゃぁあぁ!!!!落ちるーーーーー!!!!!!」

物凄い速さで落下しているようだ。

私は落下しながらある動物へと姿を変えていった。

バタつかせる手は白い羽に変わり、

足は黄色くひらぺったくなった。

バサバサと音を立てながら私はついに地面に着地した。

ペタッ!!

ゆっくり目を開けた。

目の前にあった水溜りに顔を覗かせた。

そこに映った姿は・・・。

「グワ・・・グワワーーーーー!!!!!!??」

アヒルかよーーーー!!!!!!!

猫か犬だと思ってたのによりによってアヒルだなんて・・・

大丈夫なのか・・・???

辺りを見回すと、場所は分るのだが明らかに少し風景が違っていた。

どうやら4年前に来れてしまったようだ。

たった数年でもだいぶ風景が変わっていたことを実感した。

2年前に取り壊された時計柱もある。

ほ・・・ほんとに来たんだ!!

時間を見ると朝の7時30分を指していた。

あれ?もう朝なの??

確か飛んだのは夜だったはず・・・

そう疑問に思っているとジジィは頭をかきながら言った。

「フォッフォ、スマンスマン。久々に使ったんでの、手元がくるってほんの10時間ほど削ってしまったわい」

なにぃいぃいいぃ!!!!!

ちょっとジジィ!!!!!何してくれるんだ!!!!!!

という事は・・・あと38時間しかないって事!??

わーー!!!モタモタしてたらあっと言う間に過ぎちゃうよ!!!

とりあえずこの時間帯は・・・生徒たちが登校している時間だ!!

「フォッフォッフォ、では時間になったら迎えに来るでの」

そう言ってジジィは消えてしまった。

くっそぅ・・・

私はとりあえず当時通っていた中学校へと走った。

とにかく確かめなきゃ!!

ペタペタペタペタ・・・・

「グワァワァアアァ!!!!」

走りにくっ!!!!!!!

その場所から15分くらいのところに学校はある。

無我夢中で慣れないその足で走るが、明らかに不自然だった。

登校する生徒たちの注目を浴びている。

「ちょ、アヒルがいる!!」

「マジウケるし!!」

「お〜いどこ行くのぉ???」

ちょっと、私目立ちまくりぢゃんかっ!!!!!

そんな生徒たちの視線を感じながら中学の門へとたどり着いた。

ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

私は門をくぐり見上げた。

そこにはとても懐かしい光景が広がっていた。

生徒たちが登校する中、その奥の運動場では朝練に励む運動部の生徒たちがいる。

その中のサッカー部員に堀内がいた。

あぁああぁ・・・・懐かしいこの感じ。

堀内だぁ・・・。

私は毎日ここで、あの堀内の姿を見ていたんだ。

それが今、また見れるなんて・・・。

私は当時の再現映像を見ているかのようで、物凄く胸が高ぶった。

いつしか自分が本当に15歳に戻ったかのように思い感動に浸っていたが、我に返ってみると生徒たちが皆私を見ている・・・。

しまった!!今の私はアヒルなんだ!!!

「わーー!門の前にアヒルちゃ〜〜ん!!!」

そう言って元気良く私の視界に現れたのは・・・

ヤイコーーーーーーーー!!!!!????

後ろには、ノゾミにチヤコもっ!!!!!!

さすが中学3年生・・・子供だ。

化粧っ気も全くない頃。

眉毛も皆太い・・・。

思わず吹き出してしまいそうなのを堪えた。

「ナミおはよ〜〜!何?このアヒル〜〜」

ヤイコが私に話しかけた・・・??

「おはよ、私もビックリしたよ・・・突然真横に現れたんだもん」

そういえばさっきから私の横には一人の生徒が立っていた。

つい、懐かしい光景に見とれて気がつかなかったんだけど・・・。

4年前の私!!!?

そう思って私はその少女を見上げた。

目が合った瞬間、心臓がドクン!と鼓動した。




わ・・・・

私・・・・・

地味すぎだろーーーー!!!!!!アリエネーー!!

スカート長すぎっ!!!

おまけにカッペの象徴ツインテール!!!

靴下3つ折りかよっ!!!!!!

あまりの地味さに突っ込みどころ満載・・・。

それが4年前の私の姿だった。

「ねー、このアヒル、ナミに似てない??」

チヤコが、ぷっ!と吹いて言った。

「ホントだー!二人で堀内のこと見てたし〜、ライバル出現!!?」

ノゾミがからかった。

「やめてよ〜〜〜!!」

照れくさそうな私。

4人はキャイキャイ楽しそうだった。

その時、騒ぎを聞きつけた一人の教師がやってきた。

「おぅ〜い!何かあったか〜〜??」

「あ、先生〜!アヒルが迷い込んでます!」

「あれ。ホントだな〜。」

そう言って現れたのは、3年時の担任の松崎先生だった。

わぁああぁ!!!せんせ〜〜!!!!お久しぶりですぅう〜〜〜!!!!!!

私は感動で一杯になったが、伝わるはずもなく・・・。

「よーし、お前らは教室入れ〜〜!コイツは先生が川に連れてっとくからな〜〜」

そう言うと、私は先生にひょいっと抱き上げられた。

ん??

「お、大人しいなぁ。どっかで飼われてるペットか〜?」

私は、はっ!とし暴れた。

「グワッワ〜〜〜!!!!!!」

ちょ、降ろしてよ〜〜〜!!!!

「大丈夫大丈夫〜、今川に連れてってやるからな〜〜」

い〜〜〜や〜〜〜〜!!!!!!!

私がそう叫んでるとも知らないで、中学3年生の私とアヒルの私は無残にも引き離されてしまった。

バッチャーーーーン!!!

「ほ〜〜ら、ココならお前の仲間もいて寂しくないぞ〜〜〜。じゃぁな〜〜」

ちょっとーーー!!!先生酷いよーーーー!!!!!

私は学校近くの川へと連れられてしまった。

橋の上から投げ落とされて体は跳ね返り水でびったんこ。

体を振るって水を払った。

どうしよう・・・このままぢゃ目的果たせないぢゃない!!!

あのジジィ〜!何が「ワシに叶えられん願いなどない」よ!!

こんな姿なんかでどうしろって言うのよ〜〜!!!

その時悩み抱える私に、声をかけてきた人がいた。

「やぁ、彼女可愛いね〜名前なんて〜の??」

ぎゃああぁああぁ!!!!

雄のアヒルに話かけられたーーー!!!!人ぢゃねぇ!!

ってか、アヒル語が分っちゃうよ〜〜〜〜!!!!!

ってか、アヒルがナンパァ!!!?

ビックリしてその場からダッシュで逃げた。

おかげでさっきよりも体はびったんこ・・・。

こんなことしてる暇はないんだ!!!!

チャンスは今しかないんだ!!!!

そう思い、私はもう一度学校に向かう決心をした。

川を上がろうとするが、急斜面の草むらは足がすべりなかなか登れない・・・。

「グワアアアァアアァ!!!」

ひいいぃいいぃ!!!なんでこんな目にぃ!!!!

半ベソかきながら必死で駆け上がった。

何度か転げ落ち、一休憩してまた駆け上がる。

ゼーハーゼーハー・・・・

やっとのことで上がれたのは軽く数時間後の事だった。

あああああああ、無駄な時間をぉおぉお!!!!!!

でも、今度こそ!!!

私は再び学校へと走った。



「・・・・・。」

見上げた先に思わず白目を向いた。

完全に門は閉ざされていたのだ。

冷たい風が吹いた気がした・・・。

しかし、今の私はアヒル!!!!

そうだ!!この体なら、この門の隙間から・・・・

あっさり入れた。

さーーーて!!!今度こそ見つからないように・・・と、静かに潜入した。

ナミ、そして堀内を探さなくては。

その時なにやら良い匂いが漂ってきた。

その匂いにつられて一歩一歩足を進めた。

そしてたどり着いたのは給食室だった。

外の換気口から給食のいい匂いがする。

ぎゅるるるるるる・・・・

はぁお腹空いたぁ〜〜〜。

ヨダレを垂らしながらしばし匂いに浸っていると人の声が近づいてきた。

私はハッとし、隠れた。

現れたのは白衣を着た生徒たち。

どうやらもう給食の時間のようだ。

今日の給食はなんだろう。

ココの給食は凄く美味しく、卒業後はしばし給食が恋しくなったもんだ。

あぁぁああぁ、いいなぁ〜〜〜もう一回食べたいいぃ・・・・

生徒たちが運び終わり誰もいなくなったのを見計らって、私は三年生の教室へ向かった。

階段を駆け上がり、ナミそして堀内がいる3年5組へ・・・。

戸の隙間からこっそり中を覗くと・・・・

「あーーー!またアヒルだ〜〜!!!」

速攻で見つかった・・・。

「グゥワァ!!!!」

だぁあぁもう!!いちいち騒ぐなよっ!!!

って言うか私が目立つんかいっ!!!!

「おっ、なんだ〜戻ってきちゃったのか〜」

松崎先生にも見つかった。

さすがに教室の前にアヒルがいるのはマズイ・・・。

これが人間だったら不法侵入で捕まってる・・・。

ちくしょ〜〜う!!また戻されるのか・・・・!!

その時・・・

「先生〜〜〜コイツ腹減ってんだよ」

そう言ったのはなんとあの堀内だった。

そしてその一言が事態を大きく変えるのだった。

「そっかぁ〜〜お前食いもん求めてきたんかぁ〜〜!!ほれ食え〜〜」

私の一番近くにいた男子生徒がパンを一口サイズにちぎって掌に乗せ、口元へと持ってきた。

ノリでパクッと食べた。

美味い!!!!!

パンなのに!!??

普通にパンなのにぃ!!!!

パンだけでこんなに美味い!!!!!!

懐かしいあの頃の味が蘇った。

中学の給食は物凄くおいしかった。

やきそば・・・

揚げパン・・・

カレー・・・

五目御飯・・・

あの頃はなんて贅沢なお昼を食べていたんだろうか・・・

今になって蘇る感動だった。

生徒たちにしてみれば、迷い込んだアヒルが差し出したパンを食べたことはより興味を誘ったようで。

あっちからもこっちからも生徒たちが集まり、余っている食器によそってまでよこしてきた。

ひゃっほ〜〜〜い!!

今日はカレーぢゃん!!!!

ああああ、またこんな美味しいものが食べられるなんてぇええぇぇぇ・・・・・感動!!!

いっただっきま〜〜〜〜す!!!!!

私は勢いよく給食にガッつい・・・

「こらこら!こんなものやっちゃ〜駄目だ!」

そう言って食器ごと取り上げたのは、松崎先生・・・

食器の中のカレー目掛けて勢いよく降り立った私の口ばしは、目的のものがなくなっても止まる事はなく、そのまま床に激突した。

ガン!!!!!!

痛っ!!!!!!!

そして、酷っ!!!!!!

「先生〜〜!!ひどーーい!!!」

そう言ったのは集まって来てた中のノゾミだった。

他の生徒からもブーイングが起こった。

「うかつに動物に食べ物を与えたら駄目なんだぞ。学校に居座っちゃたらどうするんだ?それに人を前にしても動じない。どこかで飼われてるペットかもしれないだろ?」

生徒たちは冷静になった。

「そっかー・・・そうだよねぇ・・・ちゃんと飼い主さんのとこ帰らないと駄目だね」

「でも、ペットのタグみたいなのとか付いてないし、手がかりとかわかんないよね?」

「何でココに来たんだろう・・・迷子??」

生徒たちは何やら心配そうに相談し始めた。

なんだか良く分かんないんだけど・・・

なんか、皆困ってる??よね???

まさか私が、あんな理由でココにいるなんて・・・

でも、そうしないと、私は・・・

私は、ナミを見た。

ナミも私を見ていた。

目が合う。

その時・・・

「そうだ!!」

目が合っていたナミが突然発言した。

生徒たちは注目している。

「あのさ、飼い主見つかるまで学校で預かるってのはどうかな??」

ちょっとーー!!!

何言ってくれちゃってんの〜〜♪

飼い主なんていないしぃ〜〜!!!

上手く行けば居座れるんぢゃん!!!!

他の生徒たちもなるほどという表情で発言し出した。

「そっか〜!!預かってますって張り紙とかして〜〜!」

「うんうん、給食だって余るんだし、それもらってこの子のゴハンにしたら良いしね!!」

生徒たちは賛成〜〜!とばかりに騒ぎ出した。

「お〜〜い、コラコラ勝手に決めるな〜!!」

松崎先生はどうやら反対のようだ。

ですよね・・・。

そんな世の中甘くないですよ・・・。

しかし生徒たちも引かなかった。

「えーー!!先生冷たい!!!!」

「この子が可愛そう!!!!」

松崎先生は可愛い生徒たちに言われ、参ったなとばかりに頭をかいた。

「いや〜な!!お前たちがちゃんと責任もってやれるなら、先生は文句はないが・・・学校の許可がいるだろう?」

「じゃぁ、俺たち校長先生にお願いしに行くぜ!!」

生徒たちは自分も!私も!と次々に手を上げた。

子供の純粋な想いほどステキなものはない。

たった4年前の自分たちなのに、こういう想いはいつの間にか忘れてしまうものだ。

「でもなぁ・・・そんなすぐには勝手な事出来ないだろう。今こうしてる間にも飼い主さんは探してるかもしれないしな。一度外に放してみたほうが良いんじゃないか?」

先生っ!!!折れろ!!!!!

「え〜〜、でも、またこの子戻ってきそうな気がする・・・」

生徒たちっ!!!頑張れ!!!!!

「もしここで、外に放して事故にでも逢ったら心配だよ・・・」

心配まで・・・・(泣)

「お前たち、本当に世話できるのか??突発的に決めて3日坊主・・・なんていい加減な事では駄目なんだぞ?」

先生!!!大丈夫だよ!!私明日の夜にはかえるから!!

「世話はちゃんと当番決めて、毎日皆でやります!!!」

先生は腕を組んで生徒たちの目をじっと見つめた。

全員の目を見た後、強く首を縦に振った。

「よし!分った!!先生が校長先生に話してみる!!お前たちには負けたよ」

生徒たちは飛び跳ねて喜んだ。

皆、たかが私の一個のワガママの為に・・・

いや違う、「私」のためなんぢゃなくって、この子達は、迷い込んだ動物をも温かく迎えてくれて、その出会いを大事にしようとしてるんだ。

この頃って、そう言う純粋さを一杯持ってたんだなぁ・・・。

大人になるにつれて忘れちゃう気持ち・・・。

私自身さえも、あんな発言をしたナミにちょっとビックリさせられた・・・。

今の私には、あんな事言えないと思う。

教えられたな・・・。

でも、この時に出来なかった事があるんだ。

今度はそれを、私が教える番だ!!!

覚悟しろや〜〜〜!!!!

ナミィ!!!!!

目から炎を吹き出す勢いで私はナミを見た。

「ちょ、なんかすっごい私睨まれてない・・・??」

「え〜、ナミの提案がこの子を救ったんだもん!感謝の眼差しでしょ!」

「そ・・・そうかなぁ・・・あは」



昼放課。

松崎先生は校長室で校長先生に事のいきさつを説明していた。

生徒たちは静かに校長室の戸に耳を貼り付けて盗み聞きをしていた。

「と、言うわけなんですが・・・」

松崎先生もさすがに校長の前では不安そうだ。

見た目は強面な校長。

話を聞いてる最中も表情一つ変えないで眉間にシワを寄せている。

やっぱり、生徒たちの期待には応えられないのか・・・

そう思ったとき校長が口を開いた。

「あなたはとても良い生徒を持ちましたね」

「はい・・・?」

見ると校長は笑顔になっていた。

「良いでしょう。生徒たちにはしっかり頼みます」

「いやった〜〜〜!!!!」

その言葉を聴いた瞬間、生徒たちは戸の前で声を上げてしまった。

「あ、やっべ!!シーーーシィーーーーー!!!」

「おや、生徒たちも心配だったようですね」

「す、すいません・・・」

「君たち!!入ってきなさい!」

校長は戸の向こう側にいた生徒たちを招きいれた。

「し・・・しつれいしまーーす」

生徒たちは緊張した様子で次々と校長室に入った。

校長の前に整列して並ぶと、キグシャクしながら一礼をした。

「君たちの熱意はとても伝わってきましたよ。とても素晴らしい事ですね。飼い主の方が見つかるまで、ほんのわずかかも知れない。とても長くなるかもしれない。でも責任を持ってしっかりと世話してあげてください。」

「はい!!!」

一同は揃って返事をした。

「実はね、本校でも昔、動物の飼育をしていた事があるんですよ。でも、動物たちの寿命が尽きてしまい、それを機に飼育を取りやめていました。その小屋がまだ残っているので、そこを使うと良いでしょう。」

「ありがとうございます!!!」

「ちなみに、この提案をしたのはどの生徒かな」

生徒たちを見渡しながら校長が言った。

「ほら、ナミ!!」

ヤイコがコソコソとナミに手を上げろと言わんばかりに言う。

「え・・・」

ナミは一気に緊張した。

「はいはい!この子です!!!」

ノゾミがナミの背中を押した。

ナミは顔を真っ赤にして一歩前に出た。

「は・・・はい・・・」

校長がナミを見た。

「そうですか、君はとても優しい目をしているね。君の提案でクラスが一つにもなった。君はこのクラスでの思い出を一つ増やす事が出来た。素晴らしい意見だったと思うよ」

ナミは照れくさそうにうつむいた。

「はい・・・ありがとうございます」

他の生徒たちもうんうんとうなずいていた。

校長は小屋の場所を生徒たちに教えた。

「小屋の場所は、第一グランドの奥にあります」

それを聞いた時、ナミは何かを思った。

そこは・・・

私は貰った給食で腹を満たし、教室で大人しく待っていた。

生徒たちが戻ってきたのに気がつき、立ち上がった。

「グワッワワ〜!!」

みんな〜〜〜!!!どぉ〜〜だったぁ?????

「おーーい!アヒル〜〜!!お前ここにいられるぞ〜〜!!!」

やったぁ〜〜〜〜!!!!!

チャンス到来!!!!!!

やっと、やっと落ち着けるわ・・・・。

これでここにいられる!!!

そうと決まればこっちのもんよぉ!!!!!!

私はまたもナミに熱い眼差しを送った。

「ひぃっ!!!ね。ねぇ、やっぱりあのコ私の事睨んでない・・・???」



昼放課も終わり、5時間目は松崎先生の授業だったため、授業を変更して小屋の掃除をクラス皆で行う事になった。

さすがに何年も使われていないため、汚かった。

「あ、やっぱりココだ・・・」

ナミが呟いた時、私も思った。

あれ?この場所・・・何か懐かしい気がする。

「おっしゃーーー!!!やるぞーーーー!!!」

男子たちは張り切って掃除を始めた。

小屋の中を掃除する者、材料を調達に行く者、餌になる給食の余りを貰いにいく者、張り紙を作る者で、クラスは分担された。

ナミと堀内は材料を調達に行く班になった。

同じ班になれた嬉しさと、近づけない恥ずかしさで一杯な様子。

他の子と一緒に話しながら向かうが、実は話なんか上の空でナミはしっかり堀内の後姿を見ていた。

アヒルの寝床になりそうな藁がある場所に着き、皆で集め始めた。

その時ふと堀内が、一緒にいた男子生徒に語りかけた。

「今日の日の事ってさ、将来同窓会とかで話すんだろうな〜」

男子生徒と笑いながら楽しそうに話している。

その時、丁度近くにいたナミにも声がかかった。

「な!」

「え!?う、うん。そうだね!」

突然の事でビックリした。

堀内がナミにも、同意を求めてきたのだ。

「俺こういうのすっげ楽しい」

堀内がホントに楽しそうに言った。

何気ない堀内の独り言かもしれないけど、ナミの一言から始まったことだったので、堀内にそうやって思ってもらえた事が物凄く幸せにまで思えた。

もしかしたら、

何でこんなことになってんだよ、たりぃ・・・

とか言われてた可能性だってあったわけだし、自分のした事で好きな人が楽しんでくれた、ただ素直にそれが嬉しくて。

ナミの中にも、堀内との小さな思い出がまた一つ増えた瞬間だった。

私は大人しくしながら、堀内とナミとのチャンスを作る機会を探し始めていた。

とにかく、二人になれる時間が必要だ。

何とか良いタイミングはないもんだろうか・・・。

その時、材料を抱えて戻ってきた堀内とナミ。

ちょっと!!!

いきなりチャンスっぽい!!!!

戻ってきたのはその二人だけで、何気に2ショットになっちゃってるぢゃんか!!!!!!

ちょっとちょっと!!!!!

二人で戻ってきたって事は、ちょっとの距離でも二人だったんでしょ!!!!???

言えたぢゃん!!!言えるぢゃん!!!!

あぁ〜〜!!もうヘタレっ!!!!!

その時ひらめいた。

あの二人の間を通るようにして逃げれば、当然捕まえに来るよね。

まんまと二人になるまでおびき寄せて、その後大人しく捕まれば・・・うっひっひ。

私はにや〜〜りと笑みを浮かべた。

そうと決まれば決行あるのみっ!!!!

私は勢いつけに足を地面に2、3回擦り、ダッシュの体制に入った。

いざっ!!出陣!!!!!!!

その時。

「掃除完〜〜〜了〜〜〜〜!!!!!!」

「おーーい、あひるちゃ〜〜〜ん!!!」

スタートを切る間もなく、生徒に抱えられ、小屋の中へと移動させられてしまった。

あああああああああん!!!!!!!!!

そうこうしてるうちに、堀内とナミも戻ってきてしまい、つかの間の二人きりの時間も終わってしまっていた。

く・・・・くそう・・・・。

でもまだ時間はある!!!!

焦りは禁物だ!!!!!

本人たちの目の前にいるんだ!!!!

チャンスは幾らでもある!!!!!

「いい寝床あった〜〜?」

小屋を掃除していた男子生徒が堀内に言った。

「ふっかふかの最高級持って来たぜ〜〜」

堀内が抱えてきたものを小屋の中に置いた。

材料班のメンバーも皆戻り、寝床が完成した。

「おっしゃ、完成〜〜〜!!」

男子生徒が号令のように叫び皆から拍手が沸きあがった。

「さぁ、アヒルちゃん!居心地を確かめたまえ!」

抱えられた私は小屋の中で放された。

皆が一生懸命作ってくれた私の居場所だ。

いくら私でも空気は読めるさ!

とりあえず今は乗っておくとこだね。

私は中を見渡し、出来立ての寝床に座ってみた。

おお!!

意外といいんでない!!!??

早速堪能している様子に皆からも歓声が沸き起こった。

皆、可愛いなぁ・・・

私は皆の純粋な心を改めて実感した。

「よぉ〜〜し!じゃぁあとは後片付けして教室で今後の当番を決めるぞ〜〜!」

「はぁ〜〜い!」

松崎先生の号令に一同が返事をした。

はぁ〜〜い!!

ぢゃぁ〜私も教室いこ〜〜〜。

私は入り口の戸の方へと向かった。



ガチャン!!

・・・・ガチャン?

松崎先生が小屋の戸を閉め、鍵をかけた。

ちょ、ま!!

先生私まだ中にいるんですけど!!!!

「おーし帰るぞ〜!」

松崎先生が皆に言うとゾロゾロと小屋を後にして行ってしまった。

私はアヒルで、

アヒルが迷い込んだ学校で預かってもらえる事になって、

飼い主見つかるまで皆で世話してくれて、

そのための小屋があって、

鍵も閉められて、

えーーーーと、

駄目ぢゃーーーーーーーーん!!!!!!!

駄目だって!!!

ちょっと行っちゃ駄目!!!

鍵は開けといてよ!!!

ちょっとーーー!!!

私の声は無残にも、ただのアヒルの声にしかならなかった・・・

不覚だった・・・

これぢゃチャンスどころぢゃないよ・・・

あーーもう!!なんでアヒルなのよ!!!!

とりあえず言葉が通じないのは痛すぎる!!!

事態は振り出し以下になってしまった。

とにかく考えなきゃ!!!

アヒルの私は寝床に座り込み、作戦を考え始め・・・



zzz


zzz



いつの間にか夢の世界に。

転寝から意識が戻ってくると、なにやら騒がしいのに気がつき目を覚ました。

だぁ!!!寝てたし!!!!

ハッと我に返ると、少し離れた場所で声がするのに気がつきその方向を見た。

小屋は丁度、サッカー部のグランドが見渡せる位置にあった。

そこではいつの間にか、部活が始まっており、その中に堀内がいた。

あ・・・なんだろ、あの堀内知ってる。

私の中の記憶で一番強い堀内の姿だ。

丁度こんな風景で・・・

でもなんでだろう・・・。

そんなことを思いながら見ていると、後方から物音がした。

振り返るとそこには、ナミがいた。

「やっほ、アヒルちゃん!」

・・・どうして?

もしかして!!気がついた!!???

私が私だって事に気がついた!!!???

私が期待の眼差しを送ると、ナミはニコッと微笑んだ。

そして、

「私ね、美術部なんだ〜。今のテーマは『写生』でね、好きな所を描いてるんだけど、私はここで今絵を描いてるの」

全く気づいてなかった・・・。

ですよね・・・。

でもそれを聞いたとき、記憶が鮮明に蘇った。

そうだ。

私、ここで『好きな人』を描いたんだ。

写生は景色や事物のありさまを見たままに写し取ること。

この場所で、この風景の中にいる、あの人の一番輝いてる姿を見たままに感じたままに描いたんだ。

ナミは小屋の真横で絵を描く準備をしていた。

その時、一枚の画用紙に描きかけの絵が見えた。

場所というより、明らかに一人の人物がメインの絵だった。

おい、それ露骨過ぎだろ・・・

ちょっと照れくさくなってしまった。

その絵をじっと見る私に気がつき、ナミは恥ずかしそうに言った。

「エヘヘ、バレた?私この人が好きなんだ。1年生の時からずっと好きなの。サッカーしてるときがすっごいカッコいいんだよ!」

そこには一人の恋する少女がいた。

自分のこういう顔見るのって、何か変な感じだけど・・・

いい顔してんぢゃん。

片思いなのにすっごい幸せそう。

こんな感情も忘れちゃってたなー

でもね、

19歳になったときにそれもすっごーーーく後悔すんのよ。

だからね、

何が何でもね、

絶対今!!

アンタが告白しなきゃ駄目なんだからね!!!!!

いつしか険しい目つきでナミを見ていた。

それに気づいたナミはまたもぎょっとした。

「また見られてる・・・アヒルちゃん私の事嫌い・・・???」

ナミは筆を取りながらアヒルの私に語りかけてきた。

「もうすぐ堀内、中学最後の試合があるんだ。それまでに伝えたい事があるんだけどね・・・

あはは、でも無理かなぁ。話しかけるきっかけなんか全然ないし、いつもこうやって遠くから見てることしか出来ないんだ」

そうだった。

私はとにかくネガティブで、

勇気もなくて、

こんな風に伝わりもしない想いばっかで胸の中膨らませて、

一言!

たった一言ぢゃん!!

この時だって、好きって既に言いたかったんだ!!

それが、自分に勇気がないばかりに言えずに終わるんだ。

でも私の中では終わってなくて・・・

今の私を苦しめてるのはアンタなんだ!

だから、言いなよ!!

言ってくれなきゃ困るのよ!!!

大迷惑なんだよ!!!!

いつしか私はヒートアップして、声に出して訴えていた。

もちろん、人間の言葉ではなく、アヒルの鳴き声として・・・

「やだ・・・アヒルちゃんにまで怒られてるのかな・・・。」

ナミは苦笑を浮かべた。

「駄目だよね・・・そんなことも言えないなんて。でも私みたいな地味で暗い子に言われて、迷惑なんぢゃないかって思うと、怖くて」

だーーかーーらーーー!!!

その小心が後に私をものすっっっごく苦しめんのよ!!

あのね!!

あんたこのままぢゃ負け犬よ!!

告白ってのはね!

振られるのが負けなんぢゃないの!!

それを恐れて逃げるのが負けなの!!!

だからそれを伝えるために来たのに・・・

言葉が通じなきゃ意味ないよ〜〜〜。

ギャーギャー喚くアヒルに、何かを感じ取ったかのようにナミは筆を置きハッとした。

そして私と目を合わせた。

「アヒルちゃん・・・」

え!?

分った!?

まさか通じた!!!??

「もしかして、ご飯足りなかった?パンでも貰ってきてあげようか・・・」

ドーーーーーーーン!!!!

今私の後方で何かが爆発した光景が見えた。

伝わらなかった・・・。

私は真っ白になってしまった。

石化してしばらく固まった。

ホントにこんなので、伝わるんだろうか・・・。

あのジジィ・・・

本気で願いなんか叶えてくれたんだろうか・・・

一体私は、

こんな姿にまでなって、

小屋に監禁までされて、

ココに何をしに来たんだろうか・・・

そうこうしているうちに日は暮れ、文芸部は終わりの時間になった。

「さてっと、今日は終わりだから、私行くね」

その一言で私の石化がとけた。

ちょっとまって!!!

あんたに帰られたら目的果たせないぢゃん!!!!

せめて連れて帰れ!!!

おい!!

こら!!!

そんな私をよそに、後片付けをしているナミ。

「明日私当番だから部活の前に来るね。私の事あんまり嫌わないでね。ぢゃぁまたね!」

いーーーーーーーー

くーーーーーーーー

なーーーーーーーー

あああああああああああ!!!!

しかしその声は最後まで、

ただのアヒルの声にしかならなかった。

「やっぱ私、嫌われてるのかなぁ・・・」



ナミは行ってしまった。

一体これから私はどうすればいいの?

アホーーーアホーーー。

沈みかけの夕空に、カラスが間の悪い鳴き方をしながら飛んでいる。

差し込むオレンジ色の光がなんだか寂しさを誘っていた。

もうやだぁ・・・グスグス。

泣きたくなってきたその時、

「いくぞーー!!!」

という威勢の良い掛け声がし、その方を見た。

さっきまでナミが見ていた光景だ。

運動部は文芸部と違い遅くまで練習をしている。

どうやら部員同士で練習試合をしているようだ。

寂しさを誘っていたオレンジ色の光は、そこでは赤く燃えている。

その下で汗を流す堀内の姿が目に止まった。

とても真剣で、一生懸命に取り組んでいる。

その姿を見ていると、忘れていた気持ちを思い出す。

ワクワクするような、ドキドキするような、

胸にキュンとくる、夢中になる、

見ているだけで幸せになってしまうような、そんな気持ち。

高く蹴り上がったボールに向かって堀内がジャンプしヘディングしようとした時、

相手チームの部員と競り合いになりそのまま二人は転倒してしまった。

「グワッ!」

あ!!

思わず声が出る。

大丈夫かなぁ・・・

胸がギュッと苦しくなり、心配で目が放せなかった。

でも堀内はすぐに立ち上がり、一緒に転倒した部員を気遣っていた。

「大丈夫か?わりぃ!」

そう言った様な感じで相手を心配し、相手もゴメンといった素振りを見せている。

それを見た堀内は笑顔で相手の肩をポンポンと叩きまた走り出した。

その姿にホッとした。

改めて気がついたことだけど、堀内の表情には一つ一つに魅力がありとても惹かれる。

そんな堀内を見ていて、私は最初の出会いを思い出した。



まだ入学したばかりで校舎にも慣れない頃。

私は移動教室先を探しながら廊下を歩いていた。

「あれ・・・どこだろう。どうしよう、放課終わっちゃう・・・」

校内で迷って、焦りから段々小走りになっていた。

角に差し掛かったとき

ドン!!

「きゃ!!」

「ぅっ!」

私の不注意で男子生徒とぶつかってしまった。

反動で尻もちをつき、持っていた教科書と筆箱を落としてしまった。

「いったーーーい」

ふと目を開けると、目の前にはぶつかった相手の男子生徒の足元が見えた。

私は慌てて立ち上がると怖くて何度も謝った。

「ごめんなさい!ごめんなさい!!」

相手の顔が見れなくて何度も頭を下げている私に彼は優しい声で

「大丈夫?」

と言ってくれた。

そして私が落とした教科書と筆箱を拾い渡してくれた。

「はい!」

「あ、ありが・・・と・・う」

その時初めて彼の顔を見た。

体に稲妻が突き抜けるような、そんな感覚に襲われた。

瞳が凄く綺麗だったのだ。

そんな風に感じたのは初めての事だった。

彼が去った後も私はしばらくその場に立ち尽くしてしまい、結局授業に遅れてしまった。

この時はまだクラスも名前も知らなくて、でも彼の事はとても印象に残った。

それが堀内に出会った最初だった。

それから間もなく部活動に入部することになり、私は絵を描く事が好きだった為美術部に入った。

部室はグランドに面した校舎の3階一番奥の美術室。

数日後部活動の時間にポスターカラーを使って絵を描く為、

窓際の水道へ水をくみに行った時ふと窓の外を見た。

広いグランドでは3つの部が活動をしている。

一番手前では野球部、その右手にソフト部、そして野球部の奥にはサッカー部。

何気なく眺めていると、見覚えのある姿をその中に見つけた。

「あの人だ・・・」

私はサッカー部の中にあの瞳が印象的な彼の姿を見つけたのだった。

入部したてで基礎練習をしているようだけど、一生懸命に取り組む姿にもまた心奪われた。

その日から私は部活の時間は窓際の席に座り、彼の姿を眺めるようになった。

遠目ではあるけど、しっかりとその姿を見つけることが出来る。

眺めすぎて顧問の先生に時々注意される事もあった。

運動部は朝練もあるため、私は登校したら必ず堀内の姿を眺めてから教室に向かっていた。

そんな風に見ている日が1ヶ月くらい続いた。

学校生活にも慣れたころ、同じクラスのヤイコ、ノゾミ、チヤコとも仲良くなり放課は一緒に過ごすようになった。

皆部活はバラバラだったけど、今も時々ご飯を食べる程この時からとても仲が良かった。

ある日音楽の授業の為、ヤイコたちと音楽室に移動する廊下の途中で私はふと窓の外に男子生徒が数名集まっているのに気がついた。

気になって見ているとその中に堀内がいた。

心臓がドキン!と大きく鳴った。

何があるのかと思って窓に近づいて見ると、そこには迷い込んだであろう子猫が一匹いた。

男子生徒らは草でじゃらしたり、撫でたりして子猫と遊んでいる。

堀内も楽しそうに笑いながら子猫を愛しそうに撫でていた。

手に擦り寄る子猫に嬉しそうな笑みを浮かべた時、私は胸に違和感を覚えた。

窓の外を見て立ち止まる私に気がついた3人に呼ばれ、私はその場を去った。

トキメキを初めて感じ、恋の始まった瞬間だった。

その後2年間は違うクラスだったけど、「堀内優」と言う名前だという事、誕生日、血液型、5歳の時からサッカーをやっているという事などを知った。

そして部活の時間毎日見ていたため、いつしかサッカーをしている姿を一番好きになり、そんな彼の姿を描いてみたいと思っていた。

3年生になり運命の瞬間がやってきた。

クラス割が貼り出され見ると、同じクラス内に私と堀内の名前を見つけた。

この一年間は毎日教室でもあの堀内と会える事になってとても嬉しかった。

朝練を終えて教室に来た時は、偶然を装ってすれ違ったりして「おはよう」と声をかけたりした。

堀内は笑顔で「おはよ!」と返してくれた。

時々何気ない一言二言を交わす程度だったけど、毎日が楽しかった。

一度だけ、席が隣にもなった。

授業中うっかり私がシャーペンを落としたときは拾ってくれて、堀内は小声で「はい」と言いながらあの時と同じ瞳をして渡してくれた。

受取る時に一瞬手が触れてしまって、「はうぁ!!」と変な大声を出して結局また落としてしまって、皆にも注目されてしまった事があった。

逆に堀内がある日、消しゴムを忘れて筆箱の中を一生懸命に探してる事に気が付いて、私は自分の消しゴムをカッターナイフで半分にして堀内にあげたりもした。

堀内は「サンキュ!」と言って受取ってくれた。

その消しゴムは世界にたった一個の、堀内と私の二つで一つになる消しゴムになった。

そんな風に過ぎる毎日の中、部活では写生をすることになった。

3年生は学校生活の思い出の風景をテーマに写生の課題が出たのだった。

私はもう描くものは決まっていた。

場所を探していると、グランドの奥に古く使われていない小屋を見つけた。

そこからはサッカー部のグランドが良く見え、堀内を描くには最高の場所だった。

そして私はこの場所で堀内を描いた。

それが丁度今である。

写生は本来風景が目的であるけど、その中に人物がいることは特に問題ではない。

だけど私は明らかに被写体は堀内がメインの絵を描いた。

その後の記憶も思い返ってみた。

特に進展もなく、行動もなく、いつも通りの時間を過ごしていた。

確か、一度だけ二人きりになるチャンスがあって、私はその時気持ちを打ち明けようとしたんだ。

だけど、緊張しすぎて、どーでも良いような違う事を言ってしまって・・・

結局気持ちが伝えられないまま卒業を迎えてしまったんだ。

私が大事にしまっていたあの写真は、卒業式のときにクラスメイト数人で撮った集合写真で、唯一堀内と私が一緒に写るプライベート写真だ。

そうして別々の高校に進学し、終わりのない恋は強制終了をするしかなくなり、堀内への想いも胸の奥底に仕舞い込んで新しい恋をするも、私の恋愛遍歴は最悪な結果を迎えるばかり。

はっきり終わりを告げた恋は綺麗サッパリ吹っ切れている。

ハッキリしない事は嫌い。

どうして、堀内にはちゃんと気持ちを伝えなかったんだろう。

好きな気持ちだけで十分な、子供だったからだろうか。

後悔する事になるなんて思いもしなかったんだろう。

でもこのままだと私自身の為にならないんだ。

何としても明日中に終わらせなきゃ!

ジジィはその後の未来は変えられないと言っていた。

それは私が堀内と付き合えるようになるわけではないという事。

振られることに間違いはない。

でもそれでいいんだ。

それさえ出来れば、私はやっと思い残す事はなく前に進めるんだから。

何としてでも気持ちを伝えさせてやる!

私は過去の記憶を振り返り、改めて目的を思い出した。

明日、すべてを変えてみせる。

よし!!作戦会議だ!!!!

私は明日いかにチャンスを作り出すか、作戦を考え始めた。



二日目朝。

よ・・・よし、作戦出来たぞ・・・

私は夜も寝ないでひたすら作戦を考えていた。

アヒルになったからだろうか、

思考がいつもより足りないようで、随分と物事を考えるのに時間がかかってしまった。

とにかく行き当たりばったりでは駄目なんだ。

気がつけばもう夜は明け、朝日が昇っていた。

今日の当番はナミだ。

これはさすがにジジィが願いを叶えてくれるまさにその瞬間に違いない。

この時を逃す事もない。

もうすぐ、私の願いは叶う。

長かった・・・

この4年間ずっと、この胸の中に押し込んできた気持ち。

今日、やっと開放できるんだ。

結果なんかどうでもいい。

ただ、もう閉まっておけないこの気持ちを、この気持ちが一番最高にあったこの時に、伝えてしまうだけ。

そしたら明日から、私はスッキリした気持ちで新しい毎日が送れる。

これから現れるであろう新しい彼氏と今度こそ上手くやるんだ!!

私は早々と嬉しさで一杯になった。

よし!失敗は許されない!!

ここにいられるのもあと半日だ!

チャンスは一回だけ!

まさかアヒルが仕組んでるなんて思わないでしょ・・・

あっはははははははは!!!

作戦を思い返してると、急に睡魔が襲ってきた。



トロン・・・


コクリ・・・



はっ!!

いけない!!!!

ちゃんとやり遂げるまでは!!!

あとちょっと・・・

もうちょっとで・・・・

終わ・・る・・・



ガサ・・・ガサガサ・・・

物音に気がつき目を覚ました。

視界にはぼんやりと一人の少女が写った。

ん・・・?

あれ??

その少女にはっきりと気がついたとき叫んだ。

「グワアアアアアアアアアアア!!!!!」

「ひぃっ!!!ご、ごめん!!起こしちゃったかな・・・あんまり気持ち良さそうに寝てたから静かにしてたつもりなんだけど・・・」

だあああああああああああ!!!

しししししししししまったああああああああ!!

今何時!?

今いつ!?

ここどこ!!!?

あ、ここは小屋の中。

ってちょーーーー!!!

やばいよやばい!!!!!

しくじった!!?

私はもはやパニック状態。

もう正しい判断も作戦どころでもない。

この願いが台無しで終わる・・・。

私はここまできて何も出来ないのか。

「ゴメンね、もう終わったから、ゆっくり寝てね!!」

そそくさと後片付けをして小屋を出ようとしたナミに気がつきハッと我に返った。

小屋の扉が閉められる瞬間・・・ヤバイ!!!

「グワアアアアアアア!!!」

待てーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

私は叫んで扉の方へ走った。

物凄い剣幕だったんだろう。

ナミは恐怖で顔を歪ませた。

「ひぃ!!!」

ナミが扉から手を離した。

今だ!!!!

私は思いっきり扉に体当たりした。

ガシャーーーーーン!!!!!

流石に衝撃が凄く、頭の上でひよこがピヨピヨと飛んでいた。

いけない!!走らなきゃ!!!!!

私はとにかく逃げ出した。

「やだ、待ってよ!!!アヒルちゃん!!!」

ナミが必死で追いかけてきた。

しかし、ナミは運動音痴で足が遅く追いつけない。

作戦通りにはいかなかったけど、結局行き当たりばったりだけど、とりあえず堀内を探そう!!!

どこ!?

どこにいる!??

グランドを掛けながら探すも堀内の姿はない。

グランドを抜け部室を覗く。

「あ、え、アヒル・・・?」

そこにも堀内の姿はない。

すぐに部室も後にする。

その奥に進むと倉庫があり、そこに堀内がいた。

堀内は一人だった。

よっしゃーーー!!

めっけ!!!!!

ここなら誰もいないし!!!

あとはナミをおびき寄せて・・・

そう思って振り返ると、ナミはまだグランドの向こうを必死で走っていた。

私は一度グランドに戻り、ココだ!とばかりに叫び再び倉庫の方へ走った。

ナミはそれに気がつくとまた必死で後を追って走ってきた。

私は堀内の元へ行く。

「グワッワ!」

やっほ!!

「え!お前なんで!??」

いいから何も言わずにちょっと捕まえててよ!!

私は堀内の周りを低速度でウロチョロした。

堀内は私を慌てて捕まえた。

「お前もしかして逃げてきたん!?」

堀内に大人しく抱えられた。

丁度そこへナミが息せき切らして現れた。

「も・・・アヒルちゃん・・・はぁはぁ・・・」

ナミが息を整えて顔を上げた先には、大人しく捕まったアヒルを抱える堀内がいた。

「あ、堀・・う・・ち君・・・」

ナミの顔が一気に真っ赤になる。

「何か、気がついたらコイツココにいて・・・逃げられたん?」

笑いながら堀内が言った。

「う・・うん・・・寝てたとこ掃除してたらビックリさせちゃったみたいで・・・その・・・ありがとう!!捕まえてくれて!!!私足遅いしどんくさいから全然追いつかなくて・・・」

顔を真っ赤にしながらあたふたしているナミ。

それを見た堀内は更に笑った。

「あはは!俺のとこに来た時は全然コイツ逃げなかったぜ」

「わ・・・私嫌われてるのかも・・・」

恥ずかしさで泣きそうにうつむく。

「今度は逃がすなよ!」

そういって堀内はナミに近づき、アヒルを渡そうとした。

緊張が高まる。

その時堀内が言った。

「あ、俺このまま連れてこうか?」

「ううん!そんな!私が悪いんだから!!捕まえてくれただけでも感謝だし大丈夫!!ありがとう!!!」

ナミはこれ以上迷惑掛けまいと必死で断った。

その時の様子を見ていた私は堀内のちょっとした表情を見逃さなかった。

え・・・?

今・・・

一瞬だったから、見間違いかもしれないけど、

ちょっと残念そうな顔をしたように見えた。

まさかね・・・。

堀内は改めてナミにアヒルを手渡した。

震える手で受け取るナミ。

その時、ナミの手を掘内が一瞬握った。

「しっかり捕まえとけよ!!」

その言葉と一緒に。

恥ずかしさで顔が上げられなくなったナミは、コクッと力強くうなずくので精一杯だった。

「じゃぁ俺部活行くな!」

そう言って掘内が去っていく。

ちょ、

こら!!!

チャンスだよ!!!

今だよ!!!

そう今。

今こそが、やっと私が与えられたチャンスなんだ。

私は不安な眼差しでナミと堀内を交互に何度も見た。

ねぇ!!

ちょっと!!!

早く呼び止めなよ!!!!

行っちゃうよ!!!??

ねぇ!!!

グワグワと声に発する私をただ抱きしめて立ってるだけのナミ。

手が触れた嬉しさをまた小さな思い出にして自分の中に大事にしまおうとしているのだろうか。

でももう、それは意味のないことなんだ。

私がナミを見上げると・・・

ナミは笑ってはいなかった。

真剣な目をしている。

それまでに伝えたい事があるんだけどね・・・

あの時私に言った台詞が蘇る。

ナミもきっとそれが今だと分っているんだ。

だけど、どうしても声に発して言えない様子。

私を抱きしめる腕がぎゅっと強くなる。

あーーーーもう!!!!

まって!!

堀内待ってよ!!!!

待ってってば!!!



そのとき。

「待って!!」

声が出た!

堀内が振り返る。

私を見る。

私はビックリした。

私が声を掛けれた?

違う。

声を掛けたのは、

私を抱きしめるナミだ。

堀内は足を止め正面を向いた。

「ん?」

堀内が笑顔で答える。

二人と一匹の間に沈黙が走った。

「あの・・・」

また自信無さそうにうつむく。

大丈夫!!!

振られたってアンタは大丈夫!!!

逃げちゃ駄目!!!!

そう思ったとき、ナミは大きく息を吸って口を開いた。

「し、試合・・・頑張ってね!!」

私は・・・

固まった。

堀内は笑顔を見せ、「おう!サンキュ!」と言い去っていった。

ちょ・・・

ちょっと!!!!

違うぢゃない!!!!!

何やってんのよ!!!!

早く言いなおしなさいよ!!!!

「好き」だって言いたかったんでしょ!!!???

アンタどこまでヘタレなのよ!!!!

いい加減にしてよ!!!!

怒りとショックで一杯の私。

ナミはへたり込んだ。

私をぎゅっと抱きしめる。

後悔してるの?

当然だよね。

アンタホントに馬鹿だよ。



ガッカリする私とは裏腹に、ナミからは思ってもいない言葉を聞いた。

「言えた・・・」

え・・・?

「言えたの!!アヒルちゃん!!!私言えたよ!!!!」

嬉し涙を流しながら私を抱きしめるナミ。

何言ってんの?

アンタ、何言ってんの・・・??

私とナミは小屋に戻った。

ナミは小屋の横に用意しておいた画材を手に取り昨日の続きで写生を始めた。

私はナミのしたことの意味がまだ分らなかった。

でもそこには達成感に満ちあふれたナミがいる。

ナミは語りだした。

「ずっと見てたんだ。堀内君がサッカーしてる姿。

 一番彼が輝いてる時で大好きなの。だから頑張って欲しくて、ずっとこんな風に影から応援してたんだ。

 でも、どうしても一言ちゃんと言いたくて・・・

 アヒルちゃんのおかげだね!ホントありがとう!!」

そこにいるナミはとっても幸せそうに笑っている。

でも私は後悔してるんだよ??

違うよ。

アンタがホントに言いたかったのはそんな一言ぢゃないよ。

今好きだって、

この気持ちだよ??

その時私は違和感を覚えた。

あれ?

「この」気持ち?

「今」好き?

「今」ってどの「今」??

この頃の「今」??

それとも・・・・

あぁ・・・

そうか・・・・

この「今」は、私の「今」なんだ。

この子の「今」とは違うんだ。

この気持ちは、

後悔するためにあるんぢゃなくって、

「今の気持ち」だったんだ・・・・。

そっか・・・。

15歳の私は、その時にちゃんと、

伝えたかった事、

伝えてたんだ。

私は今、とっても大事な事にようやく気がついた。

あの気持ちはこの時の後悔からあったんではなくて、この時の一歩からゆっくりゆっくり自分の中で温めて来た今の気持ちなんだ。

私はずっとこの時から堀内に恋してたんだ。

自分がこんなにも一途だった事にも改めて気がついた。

でも、このままで元の世界に戻ってもどうしたらいいんだろう。

私は余計に悩む事になってしまった。

結局私の願いは叶わない。

もしこの子が告白して振られていたとしても、私の気持ちがスッキリする事もなかったんだ。

むしろ今はそんな事ではなくて、これは全然話が別になる。

今の私から伝えないと意味がないことなんだ。

だけど、でも、それぢゃ、もうどうしようもない。

会ってもいない相手をどうしてこんなにも今想うのだろう。

しばらく考え込んでいると、ナミが私を呼んだ。

「アヒルちゃん!今日も終わりの時間だから行くね!また明日ね!」

私は少し寂しくなった。

今日はもう2日目。

夜には私はここからいなくなるだろう。

ナミ・・・。

ずっとアンタのせいにしてごめんね。

アンタはよく頑張ったよ。

アンタは全然ヘタレなんかぢゃなかった。

ありがとう。

私は去っていくナミの背中を見えなくなるまで見ていた。



日もすっかり暮れ、私はその時を待った。

もうここで何もできることはないんだ。

あとは時間になるまで待つだけ。

その頃、校内に一つの人影が現れた。

その人影はゆっくりと小屋に近づいてくる。

ザリ・・・ザリ・・・

砂利の広場を進む足音が不気味に響く。

小屋の近くに来た時。

パキッ!!

人影は枝を踏んだ。

私もその音に気がつく。

今の音・・・何?

再び足音が近づいてくる。

誰か来る・・・???

誰??誰??ジジィ??

ザリ・・ザリ・・ザリ・・

何か怖いんですけど!!!!!

ザリ・・ザリ・・ザリ・・ザリ!!

小屋の前に人影が現れた。

こっちを見ているのが分かりなんとも恐怖感を誘う。

ひぃいいぃぃぃ!!!!怖いよぅ!!!!こんな迎えの仕方しないでよ!!!

パチ!!

その時まぶしい光に晒された。

「グワアアァアアァ!!!」

「あ、ワリィ!!ビックリしたか??」

人影がしゃべった。

あれ?この声は・・・。

人影が私を照らしたライトを自分に向けた。

「よ!俺だよ」

そこにいたのは堀内だった。

「ワワッ!!」

え?なんで??もうビックリしたぢゃん!!!!!

「俺今自主トレで走ってたんだ。近くまで来たからさ、ちょっと様子見に来てやったぜ」

堀内が優しく微笑みながら言った。

ドキン・・・。

堀内の事が好きな気持ちを確信し、目の前にはその堀内がいる。

今まで異性を前にこんなにもドキドキした事があっただろうか。

ずっと忘れていた感情だった。

「へーー、ここってグランドが丸見えなんだな」

堀内がグランドの方を見て言った。

「この位置だと俺らのサッカー部だな。はは。お前特等席じゃん!」

そう言って堀内は満面の笑みを見せた。

こんな風にも笑うんだ、堀内って。

私が知ってる堀内は、背が高くて、瞳が凄く綺麗で、落ち着いてて、でも得意なサッカーの時は物凄く情熱的で熱い。

そのギャップに凄く魅力を感じて、気がついたら惹かれてた。

でも今また新たに知った。

こんなにステキな笑顔も持ってる人だってことを。

19歳になった今見ても、15歳のままの堀内には惚れ惚れとしてしまう。

そんな時、堀内は不意に位置を確かめて小屋の横に座った。

「この辺かな」

そこは、いつもナミが座ってる場所・・・。

「いつもここで絵描いてる子がいるじゃん、ほら今日お前の事必死に追いかけたあいつな」

堀内が思い出し笑いをしながら言った。

ナミ・・・つまり私の事・・・だよね?

「あいつ、何でこんなとこで描いてるんだろうな〜って気になっててさ。」

え??堀内が私の事意識してたの???

「丁度さグランドからも見えるんだよこの位置、こっから見るとこんな景色なんだな〜」

あ、そっか。

丸見えなら視界に入るし、毎日いたらそりゃ気になるよね・・・

別に特別な意味はないか。

思わず意味深に捕らえてしまった。

そんなことあるわけないのにさ。

私何勝手に期待しちゃってんだろ。

その時堀内が呟いた。

「・・・てるんだろう」

え?今・・・何か言った?よく聞こえなかったんだけど!!!!

堀内が何を呟いたのか良く聞き取れなかったけど、その時の表情はどこか不安げに見えた。

「って!アヒル相手に何話してんだろな俺!」

堀内は一気に立ち上がった。

「じゃぁ俺そろそろ帰るな!また明日なアヒル!」

堀内は最後にまた笑顔を見せ、走り去った。

堀内ともっと沢山話がしたかった。

もっと沢山堀内の事が知りたくなった。

でももう夢のようなこの時間は終わる。

時間が続いたとしても私はアヒル。

そして、その私は19歳で、ここにいた堀内は15歳。

私が今想う相手は15歳のままの堀内なんだ。

こんなおかしいことってあるの?



その時、

「フォッフォッフォ・・・時間じゃ」

どこからともなく声がした。

小箱のジジィが私を呼びに来た。

上を見上げると私はまた見知らぬ異空間のようなところに移動していた。

姿は元に戻り、私の前にはジジィが立っていた。

「目的、果たせなかった・・・果たすどころか間違いに気がつくし、15歳相手に惚れ直すしもう散々」

苦笑するしかなかった。

私は別の悔しさを覚えていた。

今の気持ちに気がついた。

そう確信できたところで、私にはもうどうすることも出来ない。

ましてやヤイコたちに言われたようにホント「今更」だ・・・。

苦しいのはこれからかもしれない。

そんな私を見ていたジジィは優しく微笑んでいた。

「フォッフォ、まだ終わりではないぞえ。目的を果たすのはこれからじゃ」

「え?」

私は良く分らなかった。

私の目的はこれからなの??

今までのことは前兆に過ぎないの??

「まだ続きがあるって言うの?」

疑問の眼差しを送るとジジィは何も答えずに髭を触っている。

「ねぇ!どういうことなの??」

「その後の未来、とはつまりお主が戻ったこの過去から元の現在までの間の歴史を変えることは出来んという事じゃ。しかしこれからの未来を作り出すことは出来るのじゃ」

これからの未来・・・?

「お主は過去に来て忘れていた沢山の事を思い出した。その事をこれからの未来にどう活かせるか。それがお主の目的となるのじゃ」

「どう活かせるか・・・」

堀内への気持ちを呼び覚ました事が、これから活かせられるの?

でも会えるきっかけなんてないし、会えたとしてもそんな事言えない。

15歳の堀内に対しての想いでしかないこの気持ちをそのまま今の堀内に向けていいのだろうか。

それともただいつまでも過去に縛られているだけなのだろうか。

色々な気持ちがめぐり複雑になってきた。

「思い出したその気持ちが、お主のこれからの未来を作るのじゃよ」

私の気持ちが解決しないままタイムアップを迎えた。

「フォッフォ、さぁ、起きなさい」

ジジィがそう言うと周りが真っ白な強い光につつまれた。

ん・・・眩しい!!



「起きなさい!!」

私は目を覚ました。

「ふぇ・・・?」

そこは自分の部屋のベッドの上だった。

お母さんがカーテンを一気に開け強い日差しが差し込んでいた。

「まったく!休みだからっていつまで寝てるの!?もうお昼よ?」

「あへぇ・・・ジジィは??」

「何寝ぼけてんの!!」

あれ・・・夢だったのか。

頭をボリボリとかき、大きくあくびをした。

どこからが夢だったんだろう。

きっとジジィが出てくる前、ベッドに横になったときからだろう。

実際に考えて小箱から精が出てくるなんてありえないし、願いを叶えてくれることもない。

昨日堀内のことを話して、頭の中が一杯になって眠りについたからあんな夢を見たのかなぁ。

それにしても凄くリアルな夢だったなぁ・・・。

そんなことを思っていると、お母さんが思い出したように言った。

「あ、そうそう、アンタにこんなハガキが届いてたわよ!」

そういってエプロンのポケットから一通のハガキを手渡された。

寝ぼけてて字がかすんでいる。

しばらく見ているとようやく頭が理解した。

それは、中学3年生の時のクラス会のお知らせだった。

私はハッとし、机の上に置いたあるものを確認した。

そこにはちゃんと、あの小箱があった。

そして夢から覚める直前のジジィの言葉を思い出した。

『思い出したその気持ちが、お主のこれからの未来を作るのじゃよ』

あれは予知夢だったのだろうか。

あの夢を見ていなかったら、私はこの自分の気持ちにも気がつけなかったし、

このタイミングで見たことはただの偶然とは思えない。

気持ちは複雑ではあるけれど、胸の奥に封印してきた気持ちは今最前線にある。

このクラス会で私は自分を変えることが出来るのだろうか。

少なくとも何かきっかけがあるのかもしれない。

直感し私はクラス会に参加を決めた。

堀内が来る保証はないけど、きっとこれは私の未来への一歩に繋がるんだと思えたから。



クラス会当日。

私はヤイコたちと会場となる地元のお好み焼き屋に向かった。

「楽しみだねぇ〜」

「皆来るかなぁ」

チヤコとノゾミが楽しそうに話しながら前を歩いている。

私はというと、複雑な気持ちを抱えたままだった。

今日、もし堀内が来たとしても何も出来ないと思うし、どうしたらいいのかも分からない。

好きな気持ちはあるけれど、19歳になった堀内を見ていたわけではない。

こんな気持ちのままで好きだとか思っていいんだろうか。

なんだか足取りが重くなってきてしまった。

「ナーミ!」

そんな私の様子に気が付いたヤイコがそっと声をかけてきた。

「堀内の事でしょ?今日会えるかもしれないから緊張してる?」

ヤイコがニコニコしながら私に言った。

「やっぱさ、変だよね。会ってない間に好きになったとかさ」

苦笑を浮かべる私の頭をヤイコがゲンコツでコツンと叩いた。

「ナミ!何会う前から悩んでるのさ!会うのはこれからでしょ!!」

「でも・・・」

だって、今更ぢゃん・・・??

「ナミ勘違いしてない?」

え?

口にへの字を作っている私にヤイコは言った。

「別に堀内の事意識するのはおかしいことでも何でもないんだよ?今は状況違うんだよ?会えるんだよ?気になるなら話しかけて今の堀内の事知ればいいんじゃん!」

は、話しかける!!?

私が堀内に!!!!?

そんなこと考えてもいなかった・・・。

で、でもそんなこと・・・

「む、無理だよぅ!!!」

一気に心臓がバクバクと暴れだした。

「何弱気になってるんだよ!!それくらいもう出来るでしょ!!」

ヤイコが今度は私の背中をパンと叩いた。

「今日のノルマね!堀内に話しかける!連絡先聞く!この二つ!!」

ヤイコがピースサインをしながら私に課題を出した。

「う・・」

会えるだけでも良いと思ってた。

今の堀内を見て気持ちの確認して・・・

でも確認したとしても、その先は考えてなかった。

もうあの頃とは違うんだ。

毎日教室で会える訳でもないし、見ているだけでは駄目なんだよね。

前に進まなきゃ!

「頑張る・・・」

お店に着くと既に数人同級生が集まっていた。

久しぶりー!元気してたー?などと声を掛け合い、再会を喜んだ。

堀内の姿はまだない。

15分くらい皆と話しているとヤイコが突然私の腕をバンバン叩いてきた。

「ナミ!来たよ!!」

「え?」

ヤイコが指差す方を見ると

ドキン・・・

そこには堀内がいた。

4年ぶりに見る堀内は、ずっと男らしくなっていた。

私が知っている15歳の堀内とは当然髪型も服装も違うから、今の堀内がどうなっているのか不安な気持ちも出てきた。

「ほら頑張って!!!」

ヤイコに押され私は席を立った。

「う・・うん」

私は決意し、一歩一歩堀内に足を向けた。

「え?何々??ナミ堀内に告るの???」

ノゾミとチヤコがヤイコに詰め寄る。

「まぁまぁ、見守ろうよ」

ヤイコがにっと笑いながら言った。



堀内の後ろに立ち、勇気を出して声をかけた。

「ひ・・・久しぶり!私の事覚えてるかな・・・」

私が声を掛けると彼は振り向いた。

私の顔を見ると堀内は考えているようだった。

私の事なんか覚えてないかなやっぱ・・・

誰だっけ?とか言われちゃうのかな。

そう思ったとき、彼は微笑み口を開いた。

「あ!もちろん!久しぶり!!」

その時の笑顔を見たら私の中にあった複雑な気持ちは全部吹き飛んでしまった。

何を悩んでいたんだろう。

15歳の彼に対して思った気持ちが今の彼に対してではないなんてそんな矛盾あるわけがない。

15歳の堀内も19歳になった堀内も同じ人間である事には変わりない。

今目の前にはあのステキな笑顔が変わらずにある。

私の気持ちははっきりと今、この目の前の堀内に向いているものだと実感した。

そして変わらないその笑顔と瞳にとても安心した。

しかし、思い切って声をかけては見たものの、何を話したらいいのか。

「あ・・・と、えと、」

もたつく私に堀内はくすっと笑った。

「そう言うとこやっぱ変わってないよな」

「え・・・?」

そんな風に思ってくれるなんて、私の事本当に覚えててくれてたんだ。

堀内と目が合うと笑い合った。

凄く嬉しい!!

その時堀内が思い出したかのように言った。

「あ!そういえばさ!脱走アヒルの事覚えてる?」

「え?」

それって、この前の夢の私・・・?なんで堀内が?

あれは私の夢の出来事だったはず。

その時、記憶を辿るとうっすらと思い出した。

あ、そうか。

そうだ。

4年前のある日、アヒルが迷い込んできて、いつもの日課の堀内の朝連姿を一緒に見てたのが始まりで、

私の一言で学校で飼うことになって、私の当番の日に爆睡してるの起こしちゃって、脱走したアヒルを堀内が捕まえてくれて、

そのアヒルのおかげで私は・・・。

そっか、そうだったんだ。

私はおかしくなって笑いが止まらなくなった。

「あはははははは、あはは、おっかし!覚えてるよ〜〜!!!」

あの時のあのアヒルは未来から来た私だった。

あの出来事は確かに4年前に実際にあったんだ。

私たちはそれからその話題で火がつき、場所を移動して話すことになった。

「アイツさ〜、結局次の日いなくなっちゃったんだよな〜〜。俺あれからずっと気になってたんだよ」

堀内があの夜様子を見に来て帰った後に私は元の世界に戻った。

当時は急に姿を消したアヒルにクラス中が騒然としたけど、先生が飼い主の元にちゃんと帰ったんだと説明して皆もそう信じてわずか二日で終わってしまった出来事だった。

だんだんクラスでも話題に出なくなって、いつの間にか忘れ去られてしまったけど私は時々気にしていた。

でも私も結局忘れていたけど、想わぬ形で再び体験する事になったんだ。

「あの子ちゃんと帰ったよ」

「ん?」

「大丈夫!」

私は確信を持ってに堀内に言った。

私の顔を見た堀内は安堵の表情を浮かべた。

「そっか!何かそんな気がしてきた。それなら良かった!」

堀内はずっとあの時の事覚えていたんだ。

そう言えば、『今日の日の事ってさ、将来同窓会とかで話すんだろうな〜』ってあの時言ってたっけ。

ほんとに良い思い出として堀内の中にずっとあったんだ。

あの出来事は私の一言から始まって、堀内がとても楽しそうで、あの時の思い出を共有出来るなんて夢にも思っていなかった。

「成田が覚えててくれてよかったよ。他の奴に話しても全然覚えてなくってさ〜〜ひっでーよな〜〜」

私も堀内に言われるまでは忘れてたけど、私は私で違う視点から見てきたから特別な出来事になったんだ。

「堀内はどうしてそんなに覚えてるの?」

堀内はグラスを持つ片手をくねくねと回しながら当時の事を語り始めた。

「ん?あいつだけがさ、知ってんだ。俺が知りたかった事」

堀内が知りたかった事を、あのアヒルが知ってる?

つまり私が?

一体何をなんだろう。

物凄く気になる。

「え?何々?」

「あはは〜〜恥ずかしいから内緒〜〜!」

照れくさそうに堀内がはぐらかした。

「ちょ、気になるぢゃん!!!」

「あはは!」

私が知ってる事で堀内が知りたかった事って、一体なんなんだろう。

結局この時はそれを教えてくれなかった。



途中で堀内は他の同級生に声をかけられ、「話せてよかったよ、サンキュな!」と言い去ってしまった。

私もヤイコたちのいる席に戻った。

「ちょっとナミ!結構楽しそうに話してたじゃん!!!」

「何話したの??」

三人が興味津々な顔で詰め寄ってきた。

「あはは、アヒルちゃんの話してた」

「アヒルぅ??」

三人はなにそれ?という顔で少し考えていたが、やっぱり記憶にはないようだった。

でも堀内と思い出を共有できた事はほんとに嬉しいと思う。

あんな風に話せるなんて思ってもいなかったし、勇気を出して声をかけて良かった。

だけど、やっぱり気になる。

堀内が知りたかった事がなんなのか・・・。

楽しい同窓会の時間はあっと言う間に過ぎていった。

その後は堀内とも話すことがなく、特に進展もなかった。

堀内の事が好き。

でも、そう思うほどに苦しくなってくる。

6年前からずっと好きだったなんて、突然言われたらどう思われるだろう。

伝えたところで私はどうしたいんだろう。

その場で振られて、これで終わってしまうのだろうか。

なんだかそれも寂しい気がした。

そんなことを考えてモタモタしてるうちに解散となってしまった。

名残惜しい気持ちを胸に皆が会場を後にしていく。

堀内の姿ももうなかった。

最初の勢いはどこに行ってしまったんだろう。

15歳の私はあんなに頑張れたのに、私は目的を目の前に退いてしまった。

ヘタレなのは今の私のほうだ。

煮え切らない気持ちのままヤイコたちと帰ることにした。

「ナミ、堀内に連絡先聞けた?」

ヤイコがそっと私に聞いてきた。

「あ、聞けなかった・・・」

話しかけるだけで精一杯でそんな余裕はなかった。

結局繋がりは持てず、私はここで足を止める事になったんだ。

ため息をついて落ち込む私の背中をヤイコが優しく撫でた。

「でも頑張ったねナミ!偉かったよ」

ちょっとだけ泣きそうになった。



私だけは方角が違うので途中で解散となった。

本当の後悔はこれからかもしれない。

連絡先、聞けばよかった・・・。

堀内と話した内容を振り返った。

堀内の笑顔ばかりが頭を過ぎる。

私は思い立って家に帰るのをやめた。

そしてある場所へと足を向かわせていた。

中学校のあの小屋へと。

20分くらい歩くと中学校についた。

すっかり夜になり誰もいなくなった校内に入った。

懐かしい風景を眺めながら歩いていると目的の小屋が見えてきた。

「あ、まだ残ってる!」

ちょっと嬉しくなった。

私は小屋に近づく速度を速めた。

小屋の数メートル前まで来た時、そこに一人の人影が見えた。

え・・・誰か、いる。

私は立ち止まった。

どうしよう・・・。

人がいるなんて思わなかったので近づきにくくなった気持ちと、自分が行こうと思った場所に一体誰がいるんだろうと気になる気持ちが葛藤した。

立ち止まっていると人影が私に気がついた。

やっば!!

もしかしたら学校関係者かもしれない。

勝手に部外者が入るのはまずいよな・・・。

慌てて帰ろうかと思った時、そこにいたのは・・・。

「あれ?成田じゃん!」

嘘!!!

「堀内・・・どうして?」

そこにいたのは堀内だった。

「いやなんかさ、久々にアヒルの話したらここに来たくなってさ」

「あ、私も・・・」

まさかこんなとこでまた会えるなんて。

思い返して来て良かった。

私も小屋の方へ行き、堀内と並んだ。

「わー懐かしい」

あれ以来使われていないようで、中はまた散らかっていたけどまだ取り壊されずに残っていて嬉しかった。

「皆で掃除とかしてさ、すっげ楽しかったな〜」

「あー堀内ほんと楽しそうだったよね」

一緒に材料集めに行った時、不意に堀内が私に声をかけ楽しそうにしていた。

こうしてここにいると本当にあのときの事を鮮明に思い出す。

15歳の私から見た光景とアヒルの私から見た光景。

15歳の私の想いと、それを必死に出そうとしたアヒルの私の想い。

本当に不思議な出来事だったけど、私にとっては凄く大切な出来事だった。

しばらく思い出に浸っていると堀内が口を開いた。

「さっき言ったじゃん?」

小屋を覗き込んでいた堀内が逆を向いてフェンスにもたれた。

「え?」

「俺が知りたかった事をあのアヒルが知ってたって」

あ、私もその続き凄く気になってた。

さっきは恥ずかしいって教えてくれなかったのに何で話してくれる気になったんだろう・・・。

「うん・・・」

なんだか緊張感が走った。

「昔さ、部活の時間になるとここでいつも絵描いてた子がいてさ。その子が何を描いてるのかずっと気になってたんだ」

あれ・・・?それって・・・

「その子って・・・」

私の事?だよね?



「俺、ずっと好きだったんだ。その子が」



え?嘘・・・!?何?

で・・・でも私だって事一言も言ってないし・・・

もしかして私だって気がついてない???

え?

でも好きだったって事は知ってるよね・・・?

嘘嘘!!!

や、でもここで絵描いてたの私以外にもいたかもしれないし、

あれ?

でも写生って3年生の時にしかやってないし。

えっとえっと・・・えぇ!!?

「アヒルが逃げた日にさ、必死で追っかけてきたその子に応援されて、すっげ嬉しくってさ。大会で優勝したら告白しようと思ってたんだ。でも決勝で負けてさ。ガキって馬鹿だよな〜!そんなことにこだわって結局言えずじまい。そのまま卒業しちゃって」

今物凄く大パニックです。

唖然としてると堀内が照れながら笑い出した。

「ここまで言って気がつかない?俺ショックだな〜〜」

堀内が私の事・・・。

うそぉ!!!!

ほんとに!!!??

「でさ、あれってやっぱ誰かを描いてたの?」

「そ・・・それは!」

堀内の事描いてたなんて、恥ずかしくて言えないよ!!!!!

「なんだよ!隠すなよな!!俺だってぶっちゃけたんだからさ!」

いきなりの告白で心臓が爆発しそうなのと、恥ずかしいのとでもう死んでしまいそうだ。

でも、今なら私も言えるかも・・・。

と言うか、今がそのときだ!!

「私・・・」

「ん?」

私はもう思い切って全部をぶつけた。

「私堀内の事が好き!」



「え・・・」

堀内が驚いた。

目を丸くして固まっている。

少しして堀内は顔を斜め下に反らした。

あ、良く考えたら、堀内は過去の事を言っただけで今の事ではなかったんぢゃ・・・

なのに私は今好きって・・・言っちゃっ・・・た。

ど、どど・・どうしよう!!!!

恐る恐る堀内の顔を見上げた。

困ってる・・・!!!

あ〜〜〜早とちりしたぁああ!!!!!!!

そう思っていると堀内が沈黙を破った。

「マジ・・で・・・」

うわーーーー!!!

やっぱり流石に卒業してからも好きだったとか引く??引くよね!!???

俺そんなつもりじゃ・・・

とか言われるのかな・・・???

ひえぇええぇぇん!!!!

ほんとにこれで終わっちゃうよぉ!!!!!

うわぁあぁん!!!!!!

そんなことを考えていると、堀内は震える声で言った。

「ヤベぇ・・・超嬉しい・・・」

見ると手の甲で口を塞いでいる堀内の顔は月明かりだけでも真っ赤になっているのが分かった。

嬉しい?

堀内が喜んでいるの?

「ほ・・ほんと?」

私ももう泣きそうだ。

堀内が急にはしゃぎ出して、私をギュッと抱きしめた。

「きゃ!!堀っ!!!!」

「信じらんねー!ほんとに!!?」

急なことでビックリして受け入れるのに少し時間がかかった。

つまりは私たちって・・・。

嘘!!

嘘!!!

これ、夢ぢゃないよね?

「俺も好きだ!」

堀内が私の目をまっすぐに見て言った。



しばらく二人で興奮していたけど、落ち着きを取り戻し座った。

「一年の時からずっと好きで・・・あの時ここで描いてたのは堀内だよ。サッカーしてるときの姿が凄く輝いててかっこよくて、どうしても描きたかったの」

私は堀内に話した。

「そっか〜!そうだったんだ!!よかったぁ!」

堀内は安心したと言わんばかりの表情で嬉しそうに言った。

「俺さ、アヒルがいなくなる前に一度だけあの場所に座ったんだ。成田が見てるのはどんな風景なのか気になってさ。あそこから見えるのってサッカー部のグランドじゃん?もしかしたら誰かの事描いてるのかなと思ったら、気になって仕方なかった。」

その時の事を思い出して話す堀内の表情が不安そうになった。

あ・・・あの時と同じ顔。

聞き取れなかったあの一言を言った時と同じ顔だ。

『あいつ、誰の事見てるんだろう』

あの時堀内が呟いたのはそんな一言だった。

「アヒル捕まえた時も、一緒に連れて行くのを口実に絵見れないかって思ったんだけど、成田が必死で断ってきたからさ、残念だったぜ」

あの時のあの表情はそう言うことだったんだ。

部活で描いた作品の提出は任意の為、特に発表することもなかった。

だから堀内がその答えを確かめる事は出来なかった。

唯一その内容を知るのは、隣で見ていたあのアヒルだけなのだ。

「あ、ねぇ!その絵ってもうないの???」

「え???多分押し入れにあると・・・」

「よっしゃ!今度見せてよ!」

「えええええ!!!!だ!駄目ッ!!!!すっごい下手だし!!!!」

「いいじゃん!!!!成田に俺がどう映ってたのか知りたい!!」

「えーー!恥ずかしいよ〜!」

堀内が私の頭をグシャグシャっと撫でた。

二人で笑った。

今夜は空気が澄んでて街灯もないため星がとても綺麗に見えた。

「じゃぁさ、俺らあの時から両思いだったんだな」

堀内が星空を見上げながら言った。

「もっと早く気持ち伝えてたら良かったのかな?」

私も同じ星空を見上げて言った。

「いや、でも俺は今でよかったと思うよ」

「どうして?」

堀内の方を見て尋ねた。

「だって、4年会ってない間もずっとお互いにどこかで想ってて実ったんだぜ。運命の相手って感じで大事に思えるじゃん!」

「そっか、そうだよね」

ホントに、運命の出会いってやつなのかもしれない。

「ここに来て良かった」

堀内が今日の事を語り始めた。

「最初に成田に話しかけられたときすっげ嬉しくってさ。でもやっぱ綺麗になっちゃってるし、男いんだろなーとか色々思ってたら俺いつまでも昔の事根に持って未練がましいな〜〜とか情けなくなって。でも連絡先くらい聞いとくんだったーとか後で後悔してさ。何かここに来ればまた会える様な気がしたんだ。ホントに来たからビックリだけどな!」

「私もまさか堀内がいるなんて思わなかったよ。私も連絡先くらい聞いとけば良かったって後悔してたし・・・」

「あ!!」

堀内が思い出したように言い、ポケットをまさぐり始めた。

「今度こそ後悔しないように、連絡先交換しようぜ!」

取り出した携帯電話を私に見せながら言った。

「もちろんだよ!!!」

そして私と堀内の携帯にはそれぞれの番号が登録された。

お互いにちゃんと登録されたか確かめ合った。

すると急に堀内がその場から走り去り、少し離れた。

その行動に疑問を抱いて見ていると私の携帯電話が鳴った。

着信相手はさっき登録したばかりの堀内だった。

私は着信をとった。

「どうしたの?」

「俺ら繋がったんだな」

「あは。うん!」

「これからヨロシクな!」

「こちらこそ。よろしく!」




あの小箱のジジイはやっぱり本物だったのかもしれないと思えた。

もしこうして再確認していないまま会っていたら、昔の私よりも何も出来ないまま本当に後悔していたかもしれない。

私はようやく自分の本当の気持ちで一歩を踏み出すことが出来た。

堀内と私はギュッと手を握り締め合いながら小屋を後にした。




フォッフォッフォ・・・

願いは叶えたぞえ。

次に出会うご主人はあなたかも知れぬな。

フォッフォッフォ・・・


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