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盗人除けのまじない

掲載日:2026/04/25

 その村の隅の寂れた場所にある一軒家には、とある老婆が住んでいた。亡くなった旦那の遺産と内職で暮らしていて、一見はただの人の良さそうな老婆に思えるが、彼女にはちょっと変わったところがあった。

 実は彼女は魔法使いで、まじないの類が使えると言うのだ。

 実際に、こんな話があった。

 彼女はたった一人で暮らしているのに、一度も盗人に入られた事がないのだが、それは彼女が毎日、盗人除けのまじないで家に結界を張って、盗人から身を護っているからだというのである。

 

 ……なに?

 信じられない?

 オーケー。

 君の疑問はもっともだ。そういう人間もいるだろう。実際、この村にもそんな噂を信じないある男がいた……

 

 「盗人除けのまじないだぁ?

 何言ってやがる。そんな馬鹿な話があって堪るかってんだ!」

 

 村の酒場では、男達が気炎を上げている。議題は魔法の実在について。そこで村に住んでいる魔法使いの老婆の話になって、件の“盗人除けのまじない”についても取り上げられていた。

 「だってよ。あの婆さん、旦那の残した金も持っているんだぜ? なのに、一度も盗みに入られていない。か弱い婆さんだけの一人暮らしだってのに……

 まじないのお陰だとしか思えないじゃないか」

 四角い顔の男がそう訴えるのを、たくさんの髭を蓄えた男が否定する。

 「そんなの、お前みたいな馬鹿な臆病者ばかりだからだよ。嘘を信じて誰も盗みに入らないんだ」

 「なにを? じゃ、お前なら、盗みに入れるってのか?」

 「ああ、入れるさ。見てろよ!」

 とんでもない事を言っているが、酔っ払い同士の会話である。しかも、売り言葉に買い言葉。それを聞いている者達は、誰もそれを本気になんかしていなかった。

 ところが……

 

 老婆は買い物に出かけていた。

 髯男は誰もいない彼女の家の前にいて、中の様子をうかがっている。この家が盗人に一度も入られられた事がないのは、犬でも飼っているからではないか?と思っているようだった。だが、犬の姿はどこにもない。

 “こりゃ、本当に楽勝なんじゃないか?”

 本当は盗みに入る気など彼にはなかった。噂の真相を確かめようと、やって来ただけだったのだ。

 が、そのあまりに無防備そうな家に少しばかり魔が差した。老婆である。ちょっとくらいなら、盗まれた事にすら気付かないのではないだろうか?

 庭に入って家をぐるりと回ると、鍵のかかっていない窓を見つけた。歳の所為で、注意力がなくなっているのかもしれない。彼はそこから忍び込むと家探しをして、金をいくらか見つけた。ちょっとした小遣い程度だが、臨時収入としては充分である。彼は部屋を元通りに片付けるとそのまま老婆の家を出た。

 

 しばらく経ったが、老婆が盗みに入られた事に気が付く様子はなかった。すっかり安心した髯男は、盗んだ金で酒を飲もうと酒場を訪れた。以前議論をした四角い顔の男がその晩も来ていて、やはり魔法使いの話をしている。

 気分良く酒を飲んでいると、こんな声が耳に入った。

 「まじないは本当に効くんだって。盗人除けのまじないのお陰で、盗みに入られていない魔法使いの家だってあるんだぞ?」

 彼はそれを聞いて思わず笑ってしまった。

 “盗人除けのまじないなんて、まったく効かないぞ。馬鹿が”

 それで思わずこう言ってしまう。

 「そんなまじない効かないぞ! 現に俺はその魔法使いの老婆の家から盗んだ金で、今日、酒を飲んでいるんだからな!」

 それを聞いて、皆が彼を見る。

 “しまった”

 と、そう思った時には既に遅かった。誰かが警察に連絡をしていたのだ…… 警察に連れて行かれる彼を見ながら、四角い顔の男が言った。

 

 「――ほら、見ろ。やっぱり、まじないは効くんだよ」

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