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RE:TRY  作者: 海狼ゆうき


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2/2

共通点

 ログを公開してから、三時間後。

 反応は、想像以上に早かった。

 通知が止まらない。

 いいね、リポスト、コメント。

 普段の数倍。

 いや、十倍近い。

「……なんだこれ」

 画面を見ながら、思わず呟く。

 ここまで伸びる内容じゃない。

 ただの体験談。

 しかも、証拠もない。

 それなのに——

「……異常だな」

 スクロールする。

 コメント欄。

 最初は、軽い反応だった。

『作り話っぽいけど面白い』

『続き気になる』

『ホラー系?』

 いつものやつ。

 だが、途中から。

 空気が変わる。

『それ、マジである』

『俺も似たことあった』

『ログ消えたことある』

「……」

 指が止まる。

 増えている。

 “同じ現象を経験した”という書き込みが。

 しかも——

 どれも具体的だ。

『通話履歴が一部だけ消えた』

『会ってたはずの人の記録がない』

『でも自分は覚えてる』

 昨日と同じだ。

 いや、もっと数が多い。

「……なんで今なんだ」

 呟く。

 今まで見たことがない。

 こんなに“揃った”証言は。

 偶然?

 違う。

 これは——

「……出てきてる」

 表に。

 隠れていたものが。

 何かをきっかけに。

「……俺のログか?」

 考える。

 タイミングが合いすぎている。

 ログを公開した直後に、同じ現象の報告が増えた。

 まるで——

 “引き寄せた”みたいに。

「……」

 嫌な予感がする。

 だが、止めない。

 むしろ、ここからだ。

 情報が集まり始めている。

 この波を逃すわけにはいかない。

「……整理するか」

 新しいメモを開く。

 タイトル。

《共通点》

 キーボードを叩く。

 集まった証言を、ひとつずつ並べる。

 ・時間が飛ぶ

 ・記録が消える

 ・記憶が曖昧になる

 ・特定の人物に関する情報が消える

「……」

 ここまでは、いい。

 だが問題は、その先。

「……原因だ」

 何がきっかけで、これが起きるのか。

 そこがわからない限り、対処できない。

 ログを見返す。

 コメントを遡る。

 その中で——

 ひとつ、気になる書き込みを見つけた。

『深夜に通知が来なかった?』

「……通知?」

 目を細める。

 その一文。

 どこかで見た気がする。

 いや、見た。

 確か——

「……昨日のスレ」

 時間が消えた、あのスレ。

 その中にも。

 似たような書き込みがあった。

『変な通知が来た』

「……」

 心臓が、少しだけ速くなる。

 偶然じゃない。

 繋がっている。

「……集めるか」

 決める。

 その方向で。

 通知。

 深夜。

 アプリ。

 そのあたりに、何かがある。

「……」

 コメント欄に戻る。

 同じような証言を探す。

 そして——

 見つける。

『知らないアプリが入ってた』

 指が止まる。

 呼吸が、わずかに乱れる。

「……来たな」

 小さく呟く。

 これだ。

 これが——

 原因に一番近い。

「……知らないアプリ」

 その一文を、もう一度読む。

 短い。

 だが、重い。

 スクロールして、元の投稿を開く。

 ユーザー名は、普通。

 特に怪しい点はない。

 フォロワーもいる。

 いわゆる“実在しているアカウント”。

 内容はシンプルだった。

『朝起きたら知らないアプリ入ってたんだけど』

『削除しようとしたらできない』

『なんか怖い』

「……」

 ありきたりだ。

 よくある話。

 不審なアプリ、謎のインストール。

 普通なら、そこで終わる。

 でも——

「……タイミングが違う」

 今回は違う。

 “削除現象”と同時に出てきている。

 偶然とは思えない。

 返信欄を開く。

 その中に、さらに気になるやり取りがあった。

『名前なんてアプリ?』

『RE:TRY』

 その瞬間。

 思考が止まる。

「……は?」

 声が漏れる。

 無意識だった。

 画面を見つめる。

 心臓の音が、やけに大きい。

「……RE:TRY?」

 口に出す。

 ゆっくりと。

 確かめるように。

 その名前。

 どこかで——

「……」

 頭の奥が、ざらつく。

 引っかかる。

 知っている気がする。

 でも、思い出せない。

 記憶の“手前”で止まっている。

「……なんだよ、それ」

 苛立ちが滲む。

 気持ち悪い。

 この感覚。

 知っているのに、辿り着けない。

 まるで——

 “削られている”みたいに。

「……」

 深く息を吐く。

 冷静になれ。

 感覚じゃなく、事実を見る。

 画面に視線を戻す。

 その投稿の続きを読む。

『起動した?』

『した』

『どうなった?』

『よくわからん、変な画面出た』

『どんな?』

『一回だけやり直せるって』

「……」

 無言になる。

 空気が、変わる。

 確信に近い何かが、胸の奥に沈む。

「……やり直し」

 その単語。

 強く、響く。

 削除現象。

 時間の欠損。

 記録の消失。

 そして——

 “やり直し”。

「……繋がってるな」

 ほぼ、確定だった。

 これが原因だ。

 少なくとも、無関係ではない。

「……」

 指が、わずかに震える。

 恐怖じゃない。

 興奮に近い。

 輪郭が見えてきた。

 見えなかったものが、形になり始めている。

「……もっと探す」

 さらに深く潜る。

 検索欄に入力する。

《RE:TRY》

 検索。

 結果が表示される。

 だが——

「……少なすぎる」

 ヒット数が、異常に少ない。

 この規模の現象にしては、明らかに。

「……消されてるな」

 直感する。

 これは“残っている分”だけだ。

 本当は、もっとある。

 でも——

 削られている。

 ログと同じように。

「……」

 さらに遡る。

 古い投稿。

 断片的な記録。

 そして、ようやく見つける。

 数ヶ月前の書き込み。

『RE:TRYってアプリ知ってるやついる?』

 開く。

 中身は、ほとんど残っていない。

 レスは数件だけ。

『知らん』

『怪しくね?』

『消しとけ』

 それだけ。

 情報にならない。

 だが——

「……これも削られてる」

 確信する。

 スレ自体が、歪んでいる。

 本来あったはずのやり取りが、抜け落ちている。

 文脈が繋がっていない。

「……」

 スマホを握る手に、力が入る。

 ここまで一致するなら、もう偶然じゃない。

 このアプリ。

 RE:TRY。

 これが——

「……“削除”の起点か」

 呟く。

 その瞬間。

 スマホが、震えた。

 ブブッ、と短く。

「……」

 視線を落とす。

 通知。

 新着メッセージ。

 また、あの“空白のアカウント”。

 ゆっくりと開く。

 そこにあったのは——

《そこまで来たんだ》

「……」

 息が止まる。

 指が、固まる。

 見られている。

 確実に。

 このやり取り。

 この思考。

 全部。

「……誰だよ」

 低く呟く。

 返事は、すぐに来た。

《気づいた人》

「……は?」

 意味がわからない。

 だが、次のメッセージで。

 さらに理解が遠ざかる。

《君も、その一人になる》

 背筋が、冷える。

「……何の話だよ」

 打ち込む。

 送信。

 数秒。

 既読はつかない。

 だが——

 返信は来る。

《もう通知、来てるでしょ》

 その瞬間。

 世界が、止まった。

《もう通知、来てるでしょ》

「……は?」

 画面を見たまま、固まる。

 意味がわからない。

 通知?

 来ていない。

 少なくとも——

「……いや」

 思考が止まる。

 ほんの一瞬だけ。

 そして、ゆっくりと。

 首を動かす。

 視線を、スマホの上部へ。

 通知バー。

 そこに——

 “何か”があった。

「……」

 見えている。

 確かに。

 表示されている。

 でも——

 認識が、遅れる。

 脳が、理解を拒んでいる。

「……なんだよ、それ」

 指が、震える。

 ゆっくりと、通知を引き下ろす。

 一覧が開く。

 並んでいる通知の中に、

 ひとつだけ。

 見覚えのないもの。

《不明なアプリがインストールされました》

「……」

 呼吸が止まる。

 音が消える。

 周囲の空気が、遠のく。

「……嘘だろ」

 掠れた声。

 そんなはずがない。

 さっきまで、なかった。

 絶対に。

 確認している。

 何度も。

「……」

 震える指で、通知をタップする。

 画面が切り替わる。

 ホーム画面。

 アイコンが並ぶ。

 その中に——

「……」

 増えている。

 ひとつだけ。

 黒いアイコン。

 白い矢印。

 円を描くように戻るマーク。

 そして、その下に。

RE:TRY

「……来たな」

 無意識に、呟いていた。

 怖さはあった。

 だが、それ以上に。

 納得していた。

 ここまでの流れが、

 すべて繋がる。

「……これか」

 画面を見つめる。

 ただのアイコン。

 ただのアプリ。

 なのに——

 異様な存在感。

 視線を逸らせない。

 触れた瞬間、何かが変わる。

 そんな確信がある。

「……」

 ポケットの中のスマホ。

 いや、これはもう。

 “ただのスマホ”じゃない。

 介入されている。

 完全に。

「……やるしかないか」

 小さく呟く。

 ここまで来て、引く理由はない。

 むしろ——

 ここからが本番だ。

 指を伸ばす。

 アイコンに触れる。

 一瞬、ためらう。

 だが——

 止まらない。

 タップする。

 画面が暗転する。

 数秒。

 何も起きない。

「……」

 静寂。

 呼吸音だけが、やけに大きい。

 そして——

 文字が浮かび上がる。

《人生を一度だけ巻き戻せます》

 見覚えがある。

 いや、“知っている”。

 初めて見たはずなのに。

 違和感が、確信に変わる。

「……」

 その下。

 小さく表示された文字。

《使用回数:1》

「……」

 喉が鳴る。

 乾いている。

 わかっている。

 これが何か。

 何をするものか。

 そして——

 何が起きるか。

「……」

 画面の下に、ボタンがある。

 ひとつだけ。

《開始する》

 シンプルすぎる。

 選択肢はない。

 押すか、押さないか。

 それだけ。

「……」

 指が、止まる。

 考える。

 ここで押せば——

 “あちら側”に入る。

 戻れないかもしれない。

 いや。

 戻れる。

 一度だけ。

 だが——

「……」

 その“一度”が、

 どうなるのかは、わからない。

 ログを思い出す。

 削除。

 欠損。

 消失。

 そして——

 “帳尻合わせ”。

「……代償がある」

 ほぼ確定だ。

 何かを得る代わりに、

 何かが消える。

 しかもそれは、

 ランダムじゃない。

 近いところから削られる。

「……」

 思考が、止まる。

 ひとつの疑問が浮かぶ。

「……俺は」

 呟く。

「何を戻す?」

 自然と、考えてしまう。

 まだ押していないのに。

 もう——

 選ぼうとしている。

「……」

 頭の中に、いくつかの場面が浮かぶ。

 後悔。

 やり直したい瞬間。

 誰にでもある、ありきたりなもの。

 だが——

「……いや」

 首を振る。

 違う。

 今は、それじゃない。

 目的がある。

「……調べる」

 この現象を。

 このアプリを。

 そして——

 “削除”の正体を。

「……そのために使う」

 決める。

 これは、願望のためじゃない。

 検証のためだ。

「……」

 指が、動く。

 ゆっくりと。

 ボタンの上へ。

 そして——

 その瞬間。

 スマホが、強く震えた。

 ブブッ、と連続で。

「……!」

 反射的に手を引く。

 画面が切り替わる。

 メッセージ。

 あの“空白のアカウント”。

 新しい一文。

《やめといた方がいいよ》

「……は?」

 目を見開く。

 数秒遅れて、次のメッセージ。

《最初はみんな、そう言う》

 そして——

《“調べるために使う”って》

 心臓が、跳ねる。

「……なんで」

 呟く。

 その思考は、

 今、初めて出たはずだ。

 誰にも言っていない。

 記録もしていない。

 なのに——

「……なんで知ってる」

 画面の向こう。

 見えない相手。

 その返答は、即座だった。

《だって、それも“ログ”だから》

「……ログ?」

 聞き返す。

 意味がわからない。

 だが——

 次の一文で、

 すべてが反転する。

《君の前の人の》

 呼吸が止まる。

 思考が、凍る。

「……前の?」

 その言葉の意味を、

 理解するのに時間がかかる。

 だが——

 理解した瞬間。

 背筋が、完全に冷えた。

《同じこと、してたよ》

「……」

 言葉が出ない。

 つまり。

 これは——

 “初めてじゃない”。

 この状況。

 この流れ。

 この選択。

 すべて——

 繰り返されている。

「……ふざけんな」

 小さく、呟く。

 だが、声に力はない。

 理解してしまったからだ。

 このアプリ。

 RE:TRY。

 これは——

「……選ばせるためのものじゃない」

 違う。

 これは。

「……繰り返させるためのものだ」

 画面を見つめる。

 《開始する》

 そのボタンが、

 やけに重く見える。

 押せば、始まる。

 同じことが。

 同じ失敗が。

 同じ“ログ”が。

「……」

 指が、震える。

 選べる。

 まだ。

 ここで、止まるか。

 それとも——

「……」

 ゆっくりと、息を吸う。

 そして。

 決める。


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