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地下暮らしの最強魔導姫、無詠唱魔術で護衛を任されました  作者: おもち
第一章

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第3話 王命と感謝



『王立魔術学院 《ルミナリア》に入学し、王子殿下らを護衛していただきたい』


その言葉を聞いて、私は一度目を閉じた。そして再びゆっくりと目を開けて、フラムを見た。きっと気のせいだ。気のせいに違いないと思い込み、首を傾げた。


「…………ん? なにか、信じられない言葉を聞いた気がするんですが?」

「あなたに護衛依頼があるのですよ、《七星の塔》のひとり、第0の星《静寂》の名を冠する《静寂の魔導姫》殿」


やはり聞き間違いではなかったようだ。何がどうしてそうなったのか、私は頭を抱えたくなった。


「あの、なぜ私が王子さまたちの護衛をすることに? しかも、王立魔術学院 《ルミナリア》に入学って……」

「確かリーゼリアの年齢は15歳で、今年16歳になると記憶しているが、合っているかな?」

「え、えと、はい」

「魔術学院に入学できる年だね。しかも、運がいいことに殿下たちとは同い年だ! 護衛するにはこれほどいいものはないね」


清々しい顔で言われて、私は気が遠くなりそうになった。いや、実際に半分くらい意識が飛んでいたかもしれない。それほどまでに、フラムの発言は私の頭を混乱させた。


王立魔術学院 《ルミナリア》はその名の通り、魔術師を養成する学院だ。王侯貴族のほとんどがここに入学し、魔術を学ぶ。そして卒業後は一流の魔術師となり、王侯貴族のひとりとして、国を支えていく。


魔術学院に入学する年齢は16歳の誕生日を迎える年から。なんと運の悪いことか、私の年齢と護衛予定の王子たちとは同い年らしい。


護衛なんて私じゃなくてもできるでしょ。なのにわざわざ地下にまで赴いて私に依頼することなのか?


私としてはこのままここで暮らしたい。それにわざわざ学院に言って学ぶことなど、私にはないのだ。


「わざわざ、私が護衛をする必要がありますか? 王子さまたちはすでに魔術を習われているかと思います。高位貴族ほど魔力量が多く、才あるものも多い。それに王子さまたちが入学するのなら、必然的に護衛もいるはずですよね?」

「3年もここにいたとは思えないほどの理解力だね。君の才能は魔術だけではないのはよく理解できるよ」

「私が護衛しなくとも、王子さまたちは自力でどうにかできるのでは?」


最もらしい言葉を並べてみたが、ただただ面倒くさいだけである。それに私はここ3年、誰かと会話したことなど数回程度しかない。


しかも、護衛などしたこともない。礼儀作法や振る舞い方などは本で読んだから分かるが、流行りのことなど知るわけもない。話のネタになりそうなことも知らないのに会話なんて進むわけもないのだ。


そんな状態で護衛だなんて無理がある。


しかし悲しいことに、そんな私の心はフラムには届かない。


「いやぁ、それがね。確かに、自力でどうにかできるほどの力をお持ちではあるけれど、それでも護衛なしと言うのは些か心許なくてね。かと言って、それを正直に話すのは殿下たちの心を抉るようなものだし」

「だとしても、目に見える護衛は必要だと思います。護衛がいる、と分かるだけで王子さまたちを狙う相手の数は大きく減ります」

「それはそうなんだ。まあ、王族を狙うなんて、そんな馬鹿な連中はそうそういないと思うけどね。で、殿下たちはそのことを理解しておられる。だから、遠くからなら、護衛してもいいと仰った」


遠くから、という言い方に首を傾げる。その遠くが、一体どれ程の距離のことを言っているのか。


「……どの程度なら許されると?」

「殿下たちの視界に入らない距離だそうだよ。まあ簡単に言うと、学院の外側からならOKということだね」

「…………それ、護衛の意味ありますか? 魔術学院ルミナリアは全寮制のはずですよね。それで学院の外側からなんて、護衛も何もあったものじゃないですよ」


紅茶を飲まながら、私はそう言葉をこぼす。近くで護衛できないのならば、それは護衛とは言えない。王子たちに危険が迫ったとき、すぐに対処もできない。意味のない名ばかりの護衛だ。


「そうなんだよね。外側からじゃ、とてもじゃないけど無理がある」

「気配を消して、こっそりと護衛するのは?」

「完全に気配を消せるのなんて、世界中探しても君くらいじゃないかな? あとは殿下たちの目を誤魔化せるくらいなら私たちでもいいけど、生憎と《七星の塔》はそこまで暇じゃなくてね」


肩を竦めながら、フラムは言う。なんだか初めの話に戻ってきそうな予感がすると、私は思った。


「だけど、私たちは君を思い出したんだよ。《七星の塔》でありながら、秘匿されているリーゼリアならば、この問題を解決できるとね」

「…………いやですよ」

「殿下たちを護衛するとなると、余程の腕前が必要だ。その辺の魔術師じゃ、話にならない。けれど、そんな魔術師がいたとしても外側からしか護衛できないのならば、それも話にならない。そこでだ」


パチンと、わざとらしく指を鳴らしたフラムは私に満面の笑みを向けた。その笑みに、私は苦虫を噛み潰したような顔をする。こういう笑みを浮かべるときは相手に面倒ごとを押し付けようとする笑みだ。


「私たち《七星の塔》すらも軽々と上回る力を持ち、尚且つ、秘匿されていたとしても《七星の塔》のひとり。そして殿下たちと同じ年齢で、一人の入学者としてならば怪しまれずに護衛できると」

「…………いやです」

「これを思い出して、私たちは満場一致で決めたよ。リーゼリア・エーデルシュタインの封印を解き、王子殿下らを護衛するために王立魔術学院 《ルミナリア》に入学してもらおうと」


やはり、そういう結論に至ったかと私は頭を抱えそうになった。いや、思わず額に手を置いてはしまった。


「護衛なんてしたことないです。無理です。いやです」

「大丈夫。護衛なんて言ってるけど、ただ殿下たちと仲良くなり、友人のひとりとしてそばに居て、見守る程度でいいんだ」

「そもそも入学するには試験を受けないとダメなはずです。今からだと、間に合わないかと」


どうにかしてその依頼を受けないようにできないかと、必死に考える。けれど、そんな私の抵抗など無意味なようにフラムは告げた。


「それは大丈夫さ。このことを国王陛下に進言したら、すぐに君の入学許可証を作ってくれてね。しかも君の偽りの身分すらも作ってくれた。言わばこれは……」

「…………」


すごく、すごく嫌な予感がする。耳を塞ぎたい。いや、フラムの口を塞いでしまいたいくらいだ。


「―――王命なんだよ」


しかし、残念ながら、フラムの口から放たれた言葉を聞き、気が遠くなった。


「つまり、初めから拒否権なんてないってことさ。大丈夫、君なら上手くやれるよ」

「…………」


なんの励ましにもならない言葉を私にかけ、フラムは微笑んだ。しかし今の私からすると、その笑みはとても邪悪で、悪魔のように思えてしまう。


「入学まで時間がないから、さっそく場所を移動しようか。護衛にあたっての注意事項や、主に誰を護衛するか、リーゼリアの身分や学院について。話すことはたくさんあるからね」


ここで待っているから、荷物をまとめておいで。そう言い、私をソファーから立たせて、荷物を準備させるために隣の部屋に移動させた。


呆然としている私はされるがままに、隣に移動した。そして数秒後、はっと我に返り、どうしてこうなったのかと、心底頭を悩ませた。


(今すぐここから離れる? ううん、だめだ。そんなことをしたら絶対に追いかけられる。でも、私の悠々自適な生活が……っ)


学ぶこともなければ、護衛もしたことない。それなのにわざわざ学院に入学し、王子たちの護衛だなんて、世も末だと嘆きたくなる。


しかし、王命だと言われてしまえば下手に逆らうことは良くないと私も思っている。なにせ、3年前のスタンピードも王命により、私は前線に赴き、対処したのだから。


それに、と私は思う。私自身、別に《七星の塔》の一人という自覚はあまりない。だって、渇望するほど手に入れた地位ではないから。けれど、国王陛下には助けてもらった過去がある。


だから私は王命と言われてしまえば、それを引き受ける選択しかないのだ。


そう思いながら、私は過去を思い出す。


あれは私が秘匿された《七星の塔》になったばかりのことだったはずだ。


魔術の天才でもあり、学問の天才でもあると言われた私は一度聞いたもの、見たものなど、すぐに全てを理解し、全てを記憶することができた。自分で言うのもあれだが、まさに天才とは、私のために作られたようなものだと思うほどに、それを実感していた。


そんな私だが、かつては人とのコミュニケーションが苦手だった。今は改善され、普通に人と話すことができるが、当時は一言二言発するだけで十分に話していると思うほど、話すことが苦手だった。


別に話さなくとも、魔術で空に文字を書けばそれで会話ができると本気で思っていたし、それをできてしまえるほどの才能が私にはあった。ただでさえ孤児として生まれ、人との会話が苦手だった私はそれが余計に私のコミュニケーション力を低下させていた。


そんなとき、《七星の塔》のひとりとして王宮を訪れたことがあった。予め王宮の見取り図は手に入れていたため、迷うことなく目的の場所に着くことができた。


けれど予想外なことに、人と出くわしてしまったのだ。魔術師だけが被ることの許されるローブを被り、顔を隠している私は魔術師だとしても明らかに怪しかった。しかも、相手からすると私はまだ幼い子どもで、一部の人間しか私のことを知らない。


傍から見れば、私は明らかに怪しい子供であった。


私はすぐさま面倒な気配を感じ、ぺこりと頭を下げてその場を離れようとした。けれど、それに待ったをかけ、どこから来たのか相手は私に尋ねてきたのだ。


けれど、一向に口を開こうとしない私。別に目の前の相手と話したくないわけではなかった。実際、フードの下で口を開けたり閉じたりと、話そうとはしていた。


しかしそれはフードの下で行われていたこと。しかも結局は何も話していない。極力魔術で空に文字を書くなと言われていた私は相手に何かを伝える手段は話すこと以外ないと分かってはいた。


だから話そうと口を開けたり閉じたりしたが、コミュニケーション力がほぼないと言っても過言ではなかった当時の私には難しいことであった。そしてとうとう我慢の限界が来たのか、相手は私の手を掴み、どこかに連れていこうとした。


突然のことで驚いた私だったが、魔術で抵抗しようとしたとき、視察のために王宮内を移動していた国王陛下が待ったをかけた。


国王陛下は私の存在を知っている。だから、私を助けたのだ。


当時の私のコミュニケーション力を知っている国王陛下は私の手を掴んでいた相手を下がらせ、私を解放させた。そして時間が少ないにも関わらず、わざわざ私に話しかけた。それも、わざわざ膝をつき、私の視線に合うようにして。


そのことに私は驚いて、上手く言葉を紡げなかった。ただでさえ国王陛下の登場に驚いていたのに、一国の王が私に膝をついて話してかけてきたのだから。けれど、そのことに対して国王陛下は怒ることはせず、ただ優しく笑みを浮かべていた。


「無理に話そうとしなくていい。誰かと関わっていけば、自然と話せるようになるから」

「…………っ、でも」

「リーゼリアの言いたいこともわかるよ。話さないといけない時というのはあるからね。さっきみたいなこともあるし。けれど、今はまだ、無理して話すことはしなくてもいい」


とても、とても優しい手と瞳だった。それを感じ取り、私は自然と話そうとしていた。


「…………っ、あの」


けれど依然として、上手く言葉は発せられなかった。そのとき私は歯がゆいと感じた。それでも、国王陛下は急かすことなくその言葉を待ってくれていた。だから私はゆっくりとでも、話すことができた。


「……あ、ありがとう、ございます」

「いいんだ。もし、リーゼリアが誰かと話したくなったら、私のところに来るといい。練習相手として、楽しくお菓子でも食べながらお喋りしよう」


本来ならば一国の王に対して許されることではない。けれど、国王陛下は私の手を優しく握り、そう告げた。


その後、時間となった国王陛下と別れ、私は王宮を出たが、王宮で用がある度に国王陛下の執務室に出向いた。そして何度も国王陛下と会話を重ねた。突然来た私を笑顔で受けいれ、私のたどたどしい言葉もしっかりと拾い上げる。


何度も何度も会話を重ね、おかげで私は普通に会話ができるまでに成長した。間違いなく、あの時間が私を救ったのだ。


だから私は国王陛下からの命とあれば、《七星の塔》としてスタンピードを対処した。


そして今回も、王命というのであれば、私はなんだかんだ不満を抱きつつも、救ってもらった国王陛下のために荷造りを進めるのであった。



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