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地下暮らしの最強魔導姫、無詠唱魔術で護衛を任されました  作者: おもち
第一章

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第2話 悠々自適な生活と嫌な予感



王都郊外のとある地下。


3年前、王国を襲ったスタンピードをたった一人で鎮めた英雄と呼ばれる私は光の入らない薄暗い場所で悠々自適に暮らしていた。


名前はリーゼリア・エーデルシュタイン。《静寂の魔導姫》と呼ばれ、《七星の塔》をも超える国を救った英雄とされている。正直、《静寂の魔導姫》なんて柄じゃないんだけどね。


「ふわ……ねむ…………」


なぜ英雄と呼ばれている私が王都郊外の地下にいるのか。それは私は今現在、封印されている最中だからである。


私は齢12にして、ルシエル王国の魔術師最高峰である《七星の塔》を超える力を見せた。しかも、その魔術は誰も目にしたことがない凄まじいものであった。私個人としてはそんな気は一切なかったけれど。


炎や氷、風などを生み出すわけでもないのに、魔物は灰のように消えていく。他の魔術師からすれば私の使った魔術陣すらも初めて見るもので、魔術師であればその異常性はすぐに分かるほどであった。


そんな私が使った魔術は無効化の魔術。あらゆる魔術、精霊術のみならず、物理攻撃すらも無効化し、世界でたった一人、私だけが扱える魔術だ。


「いま何時だろ。というか、今日何日……?」


地下ではあるが普通の可愛らしい部屋とは何ら変わらないそこには陽の光が入らない。よって時計でしか、時間を確認することができないのだ。だから私はいつも曜日感覚が分からない。


「……あ、ゴミ出したままだった」


ふと目に入ったゴミの袋。誰かが回収してくれる訳でもないそれは私がパチンと指を鳴らしただけでその場から消えた。


これもまた、無効化の魔術の力である。


「またこんなことに使ったって知ったら、エリュシオン怒るかな……」


私が地下に封印されたことになった経緯のひとつとして、《精霊エリュシオン》が関係している。


《大精霊エリュシオン》またの名を《聖霊王エリュシオン》。全ての精霊の王であり、私に無効化の魔術を授けた精霊である。


本来、大精霊クラスの精霊は《七星の塔》レベルの魔術師であっても契約することはできない。人間が契約できる精霊は人間の持つ魂の強さゆえに高位精霊までが限度なのだ。


けれど、それを覆したのが私という存在だった。私は自分の自我が芽生えた時から《大精霊エリュシオン》とともにあった。波長があったのか、それとも私の魂の格が他の人間と一線を期していたのか、私は人間は契約できないのされている大精霊クラスと契約できてしまったのだ。


しかもその相手が全ての精霊を従える《聖霊王エリュシオン》ともなると私の規格外さが明らかに分かると思う。全ての精霊を従えるということは全ての精霊を抑える力があるということ。


《大精霊エリュシオン》は無効化の力を持つ精霊で、その力を唯一の契約者である私に授けたのだ。生まれ持った魔力の量はただでさえ膨大な量であったのに、《大精霊エリュシオン》と契約したことにより、その魔力量は他の大精霊すらも圧倒するほどとなった。


人間には決してできないとされる大精霊との契約。それを可能にしてしまった、たった12歳の少女の底が見えず、《七星の塔》や一部の王侯貴族は私を危険視した。まあ、無理もないと思うけどね。


そして、《静寂の魔導姫》と呼ばれるほどの圧倒的な力やスタンピードをひとりで対処する技量すらも彼らにとっては危険なものと見えたらしい。


人間は誰しも理解のできない、己を超えた存在に対して恐怖し、危険視する。彼らにとって私の存在は英雄でもあるが、危険な存在でもあった。


けれど私はそのことを自分がいちばん分かっていた。だからこそ、私は地下にて封印されるように言われた時、大人しく封印されたのだ。むしろ自ら進んで封印されたと言ってもいいくらいだ。


《七星の塔》や一部の王侯貴族はたった12歳の少女を自分たちの都合で地下へと追いやることに罪悪感を感じていたようだが、私にとってはまさにご褒美のようなものだった。なぜなら私は孤児育ちで、毎日を生きるのに必死だったからだ。


けれど今はどうだろう。ご飯は自分で作らないといけないが、食材は週に二度ほど多くのものが送られるし、綺麗な部屋があり、寝心地のいいベッドもある。服だって汚れたら無効化の魔術を使えばいいが、いつも食材とともに可愛らしく綺麗な服が届く。


そして自分以外、誰もいないため、とても静かだ。


まさに、私にとって至福の時間であった。このままずっと、ずっと封印されていたいと思うほどだ。本当にサイコーの日々である。


けれど、そういう願いほど呆気なく崩れていくのがお約束というものだ。


私は朝ごはんとも昼ごはんとも言えない時間でご飯を食べた。今日はなんだかベッドからなかなか起きられなかったのだ。もちろん抗う気など初めからなかったため、私はベッドに横になり、見事に二度寝をかましたのだ。


そのせいでご飯を食べる時間は遅れてしまったのである。


ご飯を食べると、私は白のワンピースに着替える。クローゼットには大量の服があるが、脱ぎ着しやすいワンピースばかり着ている。今日も特に何もすることなく、不造作にソファーにゴロンと寝転がる。その視線の先には積み重なった本があった。


この部屋には膨大な量の本がある。魔術に関すること、精霊について、一般教養や貴族社会、ルシエル王国の歴史書など数多く存在している。


けれど、そのどれもを私は僅か1年半という期間で読み切ってしまった。そしてその全ては今は私の頭の中にある。私の頭の中はミニ図書館のようなものだ。


本来、無効化の魔術など、《大精霊エリュシオン》と契約したからと言って誰もが扱えるわけではない。魔術を扱うには十分な魔力量とセンスが必要だ。


そしてそれは無効化の魔術も同じこと。膨大な量の本を記憶し、それを自分のものにできる圧倒的な天才。それゆえに私は授けられた無効化の魔術を我がもののように扱うことができるのだ。


今日も一日、ソファーで寝て、お腹が空いたらご飯を食べて、また寝る。そんなことを繰り返そうと思っていると、私は不意に見知った魔力を近くで感じた。


この場所は《七星の塔》とごく一部の王侯貴族しか知らない。そもそもこんな所に来るのは《七星の塔》の誰かだけだ。誰もこんなところに進んでくるわけがない。


「この魔力……フラムさんの?」


ソファーに横になったまま、私は小さく欠伸をする。よほどの事がない限り《七星の塔》は地下に来ることはない。そのため、わざわざこんな所にまで来る《七星の塔》の1人に対して面倒な気配を感じてしまう。


私はパチンと指を鳴らすと、ソファーの横にあるテーブルに二つの茶器とポットが現れた。


何かをつくり出す魔術は高等技術だ。それを無詠唱で行えてしまうことは《七星の塔》曰く、凄いことなのだとか。私には息をするようにできてしまうため、凄いことをしている実感は特にないのだが、褒められることは普通に嬉しい。


私は目を瞑ったまま、ほんの片手間のようにしてポットからカップに紅茶を注ぐ。やり方はこの部屋にあった本の中に書いてあった。


まるで見えない透明の人間が紅茶をいれているように見える。そもそも私は飲み物なんて水で十分だと思っている。自分一人のためにわざわざこんなことをするのは面倒極まりない。だから自分の記憶通りにできるかどうか少しワクワクする。


―――ソファーに横になりながら目を瞑っている状態でワクワクも何もない気もするが。


そしてしばらく、と言ってもほんの数分。封印されている地下へと続く扉が解除された。それに気づき、私は閉じていた目を開けた。


「―――お久しぶりです、フラムさん」


扉が開いた音はしなかった。しかも目を瞑りながらソファーに横になっている私はソファーの背により扉すら見えない。誰かが入ってきたことなど、普通なら気づくはずがない。


けれど、私は確かに《七星の塔》の一人、フラムの魔力を感じて、そう告げた。


「お茶の用意はできています。わざわざこんな所まで来るなんて、よほど長い話があると考えますが」

「いやはや流石の一言に限るね。私は確かに魔力の気配を消していたはずなんだが」

「ほんの僅かな、魔力の揺れを感じたんです。そういうのに気づくの、得意なの知っているでしょうに」


私はとりあえず空いているソファーに座るように勧める。流石に私も客人の前で寝たままではいられない。起き上がり、ソファーに座り直す。


程よく冷めた紅茶は今がちょうどいいタイミングだ。王侯貴族の真似事のようにカップを持ちあげ、音を立てることなく紅茶を飲む。初めてやってみるが、本に書いてあったよりも簡単だと思う。


そのままカップを戻し、私は精霊すらも魅了する、その恐ろしいまでに整った顔に笑みを浮かべながら、コテンと首を傾げた。


「それで、ご用はなんですか? 《七星の塔》はわざわざ世間話をしにここに来るほど、暇ではないでしょう」


同じく紅茶を飲んでいたフラムにそう尋ねた。


フラム・ヴァレンティーナ───彼女は《七星の塔》であり、第一の星《灼陽》の名を冠するルシエル王国が誇る最高峰魔術師のひとりだ。


《灼陽》と言っても、別に得意な魔術が炎関係という訳ではない。それはただの呼び名でしかない。


《七星の塔》は基本的に前の《七星の塔》が辞めない限り、空席となることはない。例外として、現在の《七星の塔》に決闘を挑み、勝利すればその限りではないが、《七星の塔》は国の最高峰の魔術師。そう簡単に決闘を挑めるほど、安い存在ではない。


《七星の塔》になるには実力も必要だが、その時の運も重要である。そしてフラムが《七星の塔》になるときに空いていた席が第一の星《灼陽》だったというわけだ。


「まあ、リーゼリアの言う通り、暇ではないね。魔物討伐に加えて、魔術師の訓練や書類仕事。王族の護衛をする時もある」

「それは、とても大変ですね」


他人事のように言う私だが、実際に他人事のため、興味はない。こんな地下で何ができるというのだ。しかし、現在封印されている私だが、実のところ、私も《七星の塔》の一人である。


「魔物討伐だけなら良かったんだけどねぇ。まあ、いいや。私がここに来た理由なんだけどね、今日付けでリーゼリアの封印は解除されるってことを教えに来たんだよ」

「………………ん?」

「だから自由に外出できるよ」


私はたった今、不穏な言葉が聞こえてきた気がした。気のせいだと思いたいくらいだ。


(封印が解除される……??)


そんなもの、私の悠々自適な生活に終止符を打つようなものだ。動揺を悟られないようにしながら、私はフラムに疑問を口にした。


「……なぜ、急にそんなことに? まだ3年しか、経っていませんが?」

「3年しか、ね。リーゼリア、もう3年も経ってしまったんだよ。私たちが君の力を恐れて、ここに封印してから」


深刻そうに言うフラムだったが、それがどうしたのだろうと首を傾げる。本当に封印されたくなければ、私は全力で拒否していた。


それができる力を持っているし、そもそも封印されていたとしても、私の持つ無効化の魔術を使ってしまえば、いつでもここから出られた。


それをしなかったのは、私がここでの生活を気に入っていたからだ。でなければ、私は今、ここにいない。気に入らなければとっくの昔にこんな地下、出て行っている。


「3年という月日はリーゼリアが思っているよりも大きいものだよ。しかも、当時12歳の少女にすることじゃない」

「……でも、私の力を皆さんが恐れるのは仕方がないことだと思いますよ。そして、封印されることも」

「仕方がないことではないよ。あのとき、《七星の塔》全員が初めて君の力をはっきりと見た。そしてその力の強さに恐怖を抱いた。だから、君を封印した」


私は《七星の塔》の一人だ。けれど、公式的に《七星の塔》を名乗っているわけではない。


私が《七星の塔》となったのは、当時10歳のときだ。孤児育ちの私は魔術を使い、なんとか日々を生きのびていた。今の暮らしを経験してしまっているから、絶対に戻りたくはないと思うほど、あれは大変だった。


それを目撃したフラムが私の魔術の才に目をつけ、魔術師として育てるべく、私を拾った。けれど、育てる間もなく、私は魔術師としての才能を披露して見せた。披露といっても私が当たり前にできることを見せてあげただけではあるが。


そのことに《七星の塔》の誰もが驚いたが、何よりも驚愕したのが私が大精霊クラスの精霊と契約していることを知ったときだった。


どんな大精霊と契約したのかまでは教えていないため精霊については分からないが、大精霊と契約したという事実は魔術師にとって信じられない出来事だった。まさに規格外と呼ぶに相応しい話だったようだ。


彼らは私の才能を野放しにしておくには勿体ないと考えた。けれど、《七星の塔》には空きがない。ただの魔術師では権限もないし、私を抑えれる肩書きではなかった。


だからこそ、彼らは《七星の塔》に隠されたもうひとつの席を与えることにした。


第0の星《静寂》────《七星の塔》と一部の王侯貴族のみが存在を知る、秘匿された8人目の《七星の塔》。


秘匿されているとしても私が《七星の塔》の一人であることには変わりない。だから、あのスタンピードのときも私は《七星の塔》の1人として、前線に出たのだ。


そして見事に、たった一人でスタンピードを壊滅させた。まあ、無効化の魔術を使ったため、簡単な話ではあった。


「リーゼリアの力は知っているつもりだった。けれど、結局はつもりでしかなかったと、私たちは痛感したよ」

「スタンピードの件がなければ、私もあの魔術をわざわざ使うことはなかったかもしれませんね」

「あの魔術は見たこともない魔術陣で構成されていた。あれを読み解ける魔術師はこの国にはいないだろうね」


その言葉に私は当然だと、心の中で頷いた。


あれは《大精霊エリュシオン》の精霊術だ。契約者である人間以外が理解できるはずもないもので、その権利を持っているのは私だけだ。他の魔術師に読み解けるはずがない。


しかしそのことは口にせず、曖昧に微笑むだけにした。不思議と私は微笑んでいるだけで相手が勝手に解釈してくれる時がある。おかげで今回もフラムはひとりでに解釈してくれたようだ。


「その顔、やはり君にしか扱えない魔術というわけだ。魔術の腕前も私たち《七星の塔》を超えるもので、どこまでなのかは知らないが、君は多くの魔術を無詠唱で扱える」

「そうですね。無詠唱で扱える魔術は、確かに多くありますよ」

「そんな君に、私たち《七星の塔》から、ひとつの依頼がある」


フラムは姿勢を正し、私に向き直った。なんだか嫌な予感がすると、私は心の底から思った。できれば耳を塞いでしまいたいくらいには、これからフラムから発せられる言葉は良くない気がする。


そんな私の心境を知ってから知らずか、フラムははっきりと口にした。


「王立魔術学院 《ルミナリア》に入学し、王子殿下らを護衛していただきたい」


ほら、やっぱり良くないことだった。



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