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地下暮らしの最強魔導姫、無詠唱魔術で護衛を任されました  作者: おもち
第一章

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第15話 眠気覚ましの本と先輩たち



授業が本格的に始まり、今日もペンを忙しなく動かしている。一年生は魔術の基礎を学ぶことが多く、座学が大半を占めているため、眠気に抗いながら授業を受けている生徒がちらほらいる。


かく言う私も教師の話が眠り歌にならないように手を動かすことでそれを防いでいた。けれど、1番後ろの窓側の席ということもあり、陽の光がほどよく当たり、とても眠気に襲われている。


やばい、どうしよう。これは寝ちゃう。いやもう半分くらい意識ないかも。


今の授業内容ならば寝てしまっても試験で問題なく対応できるが、授業態度としては良くないことはわかっている。なんとか寝ないようにしようと、とりあえずクラスメイトの様子を観察してみる。


けれど既に何人かは夢の中へ飛び立っており、それを見てしまうと私も同じくして眠気が強くなる。これは良くないと思い、隣から聞こえてくるペン音に意識を向け、ノアをちらりと盗み見た。


ノアは真面目なことに教師の話をしっかりと聞いているようで、ノアと仲の良いユリウスとアリシアも同じく真面目に授業を受けている。三人のレベルならこの程度の話など既に理解しているはずだろうに、優等生のように授業を聞いている姿勢に頭が下がる。半分寝ている私とは大違いだ。


すると、隣を見すぎていたのだろう。ノアがこちらに視線を向けた。そして口パクで『暇?』と聞いてくる。


それに私は逡巡しながらも頷くと、ノアはすくりと笑い、徐に自分のカバンに手を入れた。そしてそこから一冊の本を取り出した。


それを私に手渡すと、『読んでみて』とまたしても口パクで言う。私としては寝ているより本を読んでいた方がまだマシかと勝手に思い、受け取った本を読んでみることにした。


授業の残りは30分弱。それなりの厚さがあるこの本を残り時間で読み切ることは不可能だが、私なら読み切ることは可能だった。


初めの1ページを読んでみると、どうやら魔術書のようで、確かにこれなら授業中に読んでいても違和感はない。まあ、授業範囲とは大幅に違うのだが。


過去に読んだことはないため、私は夢中になって読み進める。


これは魔術書だけど、精霊についても書かれているみたいだ。精霊の話す言語は私たち人間が口にするものとは違うから、確かにこの本に書かれてある通り、人間が精霊の言葉を理解することは通常できない。精霊は人間の言葉を理解することができるみたいだけどね。


だから精霊と契約した魔術師は精霊の表情や雰囲気で精霊の気持ちを読み取り、意思疎通を図る。けれどこの本には書かれていないが、一部例外があるのだ。


それは大精霊クラスの精霊となると、直接相手の脳に話しかけるように言葉を送ってくるということだ。


テレパシーのようなものだ。魔力と魔力を繋ぎ合わせ、脳に直接語りかけるため、精霊の言葉を理解することができる。


けれど、これができるのは大精霊のみだ。膨大な魔力を持つが故に、相手の脳に直接話しかけるなどという芸当ができる。


通常の魔術師では高位精霊までしか契約することができないため、私のように脳に直接話しかけられるという出来事がないのだ。


まあ、そんなことしなくてもエリュシオンに精霊言語を教えてもらったから、精霊の言葉を私は理解できるんだけどね。


頬杖をつきながらページをめくる。紙どうしが擦れる音と周りから聞こえてくるペン音が集中力を高め、文字をどんどん追いかけていく。


すっかりと授業のことなど意識の端に追いやった私は授業終了の鐘の音とともにノアから借りた本を読み終えた。教師が教室から出ていくのを見送り、黒板を眺めるが、やはり今回の授業で困るようなことなどないと分かり、本を閉じた。


息をつき、満足気に本の表紙を眺める。あのときは表紙など見る間もなく読み始めてしまったが、改めて表紙を見てみると普通の本よりも高価なものだと分かる。


重厚感のある表紙は手触りからしてみてもおいそれと手を出せる価格帯ではなく、これを簡単に貸してしまえるノアの懐の広さを感じた。


「もう読み終えたの?」


黒板をノートに写し終えたノアは私の方を見て、目を丸くした。


「ありがとうございました。とても興味深くて、面白かったです」

「それは良かったけど、30分程度で読み終えるなんてすごいね」


ノアの方を向き、本を返した私はノアの言葉に首を振る。


「興味をそそられる内容だったから、読むのが速くなっただけです。それにノアさまも本を読むの速そうですよ」

「さすがにリーゼリア嬢ほどの速読技術はないけどね。それより、この本を読んだ感想を教えてほしいな。同年代でこういう本を読む相手ってなかなかいないから」


それはそうだろうと思う。借りた本はついさっきまで授業をしていたはるか先の内容だ。魔術の基礎をきちんと理解し、なおかつある程度の魔術応用力があって、初めてあの本の内容を理解することができる。


その上で、精霊に関しての知識も必要となってくるため、ノアと言う通り、同年代であの本を読んでいるクラスメイトはなかなかいないだろう。ユリウスとアリシアくらいのはずだ。


まあ、金の卵というのならこれくらいできて当然なのかな。


私はノアの前に置いてある本に視線を向けながら、口を開いた。


「本に書かれていた魔術構成は個人的にはあまり現実的じゃないと思いました。無詠唱にしようとするが故に、魔術陣に無駄がありすぎる。消費魔力は増えるし、それなのに出力は弱い。これだったら無詠唱じゃなくて詠唱を省略するだけに抑えた方が良かったと思います。詠唱省略でも十分に攻撃に使えるし、魔力も練りやすいと思います。つまり感想としては考え方はいいけど、現実問題に目を向けられていないので実用化するのは難しいと思ったということですかね」


ふう、と話し終えると、ノアは驚いたようにこちらを見ていた。その様子に私は首を傾げる。


「……リーゼリア嬢って、魔術のことになるとこんなにも長く話せるんだね。ちょっとびっくりしたよ。普段から無口な訳じゃないけど、ここまで話したことってあまりないと思ったから」


そこまで言われて私は確かにと思った。


「全然意識してなかったです」

「いいんじゃないかな。楽しそうに話せることがあるのはいいことだと思うよ。それに話を聞いて、俺も新しい見解を得ることができたよ。この本を読んで、俺は理論上は可能だということで思考を止めてしまった。けれど、リーゼリア嬢は魔術構成の穴を見抜き、それの改善点まで思考した。君は優秀な魔術師だ」


どこまでも真っ直ぐなノアの紫眼と目が合う。本心で告げていることが分かる誠実な態度に私は僅かに頬を弛めた。


「ありがとうございます」

「うん。また良ければ、魔術書の感想を教えてほしいな」

「はい。今度私もおすすめの本を紹介しますね」


友人とのお喋りは楽しいと《大精霊エリュシオン》に話すことが増えたことに、またしても私は頬を緩めて嬉しそうに笑った。



* * *



お昼になり、いつものように4人で食堂へと向かうと、偶然にも食堂の入口で兄であるアシェルとその友人らしき先輩たちと会った。たまに部屋の通信機で話をするが、学院内で会うのは入学式以来初めてだった。


「こんにちは、先輩方。普段は生徒会室で会うので珍しいですね」


突然のことに僅かに固まる私だったが、ノアは気軽にアシェルたちに声をかけていた。そしてそれを聞いて、ここにいる自分以外が生徒会役員であることがわかった。


「学院は広いことですし、学年も違うとそう簡単には会わないのは仕方がないですわ」


緩く巻かれた金髪赤眼の先輩が答える。なんだか雰囲気で女傑だと分かる。こう、カリスマというか、そういうのがある気がする。


「でも先輩たちとノア君たちとここであったのは完全に偶然だよね。僕たち二年で、先輩たちは三年、ノア君たちは一年だから」

「そうですね。生徒会役員が生徒会室以外で全員が集まることなんて滅多にないですからね」


少しくせっ毛のある茶髪に茶色の瞳の先輩と癖のない茶髪で茶色の瞳の先輩はほぼ見た目が同じだ。双子であることが分かる。小動物っぽい。


「偶然だとしても生徒会役員全員が食堂に入ったら他の生徒を萎縮させてしまうかもしれないね。食堂の2階にある生徒会役員用の部屋でも使うかい?」

「いいかもしれないが、それだと俺の妹が入れない。今回だけ全員が目を瞑ってくれるのならありがたいが」


金眼に長い水色の髪を後ろでひとつに結んだ先輩は食堂での混乱を予想してひとつの提案を出すが、それを兄のアシェルが首を横に振る。


総勢8名。王立魔術学院 《ルミナリア》の生徒会役員をほぼ壁になりながら眺めていた私はアシェルの発言のせいで、その8人全員に視線を向けられることになった。


表情こそ変わらないものの、私は内心悲鳴をあげていた。あんまりこっちを見ないで欲しい。


「ああ、君がアシェルの妹かい? 確かにアシェルの言う通り、とても可愛い子だね」

「先輩方がいいのなら、俺たちはリーゼリア嬢と一緒に食事がしたい。彼女は生徒会役員ではないが、二階の部屋を使いたいが、どうだろうか?」


生徒会長であるユリウスが問いかけると、案外あっさりと生徒会役員は頷いた。


「わたくしは構いませんわ」

「僕も気にしないよ」

「同じく気にしません」

「私はアシェルの妹と話をしてみたかったから全然いいよ」

「俺も妹と久しぶりに食事がしたいからな。二階の部屋なんてどうせ広いんだし」


先輩たちの言葉にユリウスたちは安堵したように息をした。しかし私はこれを喜んでいいのか、悲しむべきなのか分からなかった。


一応、学院には生徒会役員を中心として生徒を守るために護衛として入学している。そのため、生徒会役員と顔見知りなることは大事だし、ノアたちを通して知り合いになっていけばいいと思っていた。


そのため、こうして生徒会役員と無事に顔見知りになれたことは喜ぶべきだが、まさか生徒会役員全員と一気に知り合いになるとは予想していなかった。二階の部屋というものがどういうものだか分からないが、確実に密室で、絶対に話さないといけないタイミングがやってくるということだ。


ノアさまたちや兄さまは置いておいて、残りの人たちとは無事に話せるのか。できればあのまま壁と化していたかった。


顔に微笑みを貼り付けながら、内心バクバクとしていた私は入学式の日を思い出すように、今度は生徒会役員全員に囲まれながら食堂の二階の部屋に向かった。



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