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地下暮らしの最強魔導姫、無詠唱魔術で護衛を任されました  作者: おもち
第一章

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第14話 お友達



3人に囲まれるように食堂へと移動した私はまだお昼少し前ということで空いている席に腰を下ろした。そしてその隣にアリシア、目の前にノア、斜め前にユリウスという濃すぎるメンバーに囲まれていた。


「まだお昼前だけど、混む前に頼んだほうがいいかな」

「そうだな。アリシアとフェイン侯爵令嬢はこのメニュー表を見るといい」


ユリウスからメニュー表を受け取り、私はメニューを眺める。ただ、私は普段から少食で、ここに記載されている量を一人で食べきることはできないと思っていた。


フェイン侯爵家にいたときもアシェルたちよりも少なめに料理を作ってもらっていた。


メニューには美味しそうな料理が多くあるが、これといって食べたいというものもない。どうしようかと悩んでいると、隣から声をかけられた。


「フェイン侯爵令嬢は何にするか決められましたか?」

「まだ、悩んでいて。私、あまり多くのものは食べられないので、食べ切れるものを探していて」


正直に口にすると、アリシアは私が持つメニュー表を覗き込んできた。突然のことに私はびくりと肩をふるわせる。


「でしたら、こちらのパンケーキはいかがですか? 小さいサイズもあるようですよ」

「……あ、ほんとうだ」


実物がないから分からないが、メニューを見る限りだとこの小さいパンケーキなら食べきれそうだ。なにより、私が好んで食べる果物が多く使われていて、美味しそうだ。


私は苺が大好きなので、この苺とチョコのパンケーキが食べたいと思う。でも、バナナとチョコの方も捨てがたい。ううーん。


私はどちらにしようか迷っていると、そんな私の様子が伝わったのか、アリシアが頬を緩ませながら口を開いた。


「迷っているのですか?」

「……はい。苺とチョコのパンケーキと、バナナとチョコのパンケーキで」


そう伝えると、アリシアは私のメニュー表を再び覗き込み、頷いた。


「フェイン侯爵令嬢、ふたつ頼んで私が注文するパンケーキも含めて分け合いっ子しませんか?」

「え、でも私、そんなに食べられません」

「大丈夫です。こう見えて私、結構食べるので、普通サイズふたつ頼んでも食べきれますよ」


まじか。その量が一体どこに入るというのか、私は思わずアリシアをまじまじと見つめてしまう。細身なのに普通サイズふたつを食べ切れるとは凄い。


「でも、迷惑じゃ……」

「フェイン侯爵令嬢と仲良くなりたいんです。それに少しお節介かもしれませんが、フェイン侯爵令嬢は少し痩せ気味だと思います。食べられる量で構いませんので、一緒に食べませんか?」


確かに、私は地下での暮らしのせいで周りと比べると色白で、線が全体的に細い。アシェルが言うには不健康というほどではないが、目を離した隙に倒れてしまいそうなほど不安になるくらい、儚い雰囲気を纏っているそうだ。


「それと、宜しければ私のことはアリシアと呼んでください。私もリーゼリアと呼んでも構いませんか?」


なんだか温かい太陽のような人だと思う。私は自然と、それに頷いていた。


「ありがとうございます、リーゼリア。パンケーキはこの2つとこちらのナッツクリームのパンケーキで注文しますね。ユリウスさまたちはお決めになりましたか?」

「お前たちの仲のいい会話が始まったあたりからな」

「俺とユリウス、アリシア嬢たちのパンケーキはいま注文したよ。まだ人も少ないし、すぐ来るんじゃないかな」


いつの間にか注文を済ませてくれたらしいノアは時計を見ながら呟く。あと数分で午前の授業が終わる鐘が鳴るが、人が押し寄せてくる前には注文した品は届きそうだ。


給仕の人が注文を取る際に一緒に運んできてくれた水を飲み、話すことが無くなった私は内心気まずい気持ちを隠す。


「そういえば、アリシア嬢はフェイン侯爵令嬢のことを名前で呼ぶことになったんだっけ。なら、俺のことも名前で呼んでよ」

「……っえ、でも……」

「君と仲良くなりたくてここに呼んだんだしさ」

「こ、公爵家の方を名前で呼ぶのは……」


なんだか一気に複数の生徒を敵に回しそうな予感がする。私はバクバクと心臓を激しくさせていると、アリシアが声をかけてきた。


「ノアさまはリーゼリアと友人になりたいんですよ。それにリーゼリアも侯爵令嬢なのですから、私たちを名前で呼んでも誰も文句なんて言えませんよ」

「いや、でも……」

「私たちとお友達になってください。それに、先程のユリウスさまの魔術を止めるほどの魔術の腕前。どれほどのものかとても興味があります」


アリシアに手を握られ、私は狼狽える。けれど、アリシアの手もノアと同じく、温かいものだった。


柔らかくて、優しい。そんなアリシアは本心で言っていることが分かり、なんだかぽかぽかする。しかも美人にお願いされては断りづらい。


それに、私は自分の中の変化する感情に追いついていなかった。


だから戸惑いながらも握られた手を握り返し、私はアリシアたちに告げた。


「……私は、友達がいたことがありません。だから友達って何をすればいいのか分からないんです。ずっと魔術のことばかり研究していたから……」


あの地下で、私は来る日も来る日も魔術について研究していた。一般教養についても勉強はしていたが、一度理解してしまえば二度も同じことをする必要がなかった。


だから、私は地下に送られてくる本を読んだら魔術の研究をしながら日々を過ごしていた。別に悲しくなんてなかったし、むしろ誰にも邪魔されずに引きこもって魔術の研究ができることを嬉しいと感じていた。


「友達なんて、いてもいなくてもどうでも良かった。でも……ア、アリシアさまや公子さまたちと出会って、今日話をしてみて、なんだか心が温かくなる気がしたんです」


私はアリシアと手を繋いでいない左手で心臓の辺りに触れる。とくん、とくん、と静かに脈打っているが、どこかじんわりと温かいものが広がっていく気がした。


「私は、この温かさをもっと知りたい。そしてアリシアさまたちにも、これを知ってほしいと思ったんです。だから……」


私は顔を合わせて数時間しか経っていないのにも関わらず、当初ノアたちに感じていた面倒だという気持ちがなくなっていることに気づいた。代わりに、彼らともっと話してみたい、彼らを知りたいと、思うようになっていた。


それほどまでに、彼らは優しい人柄を持つのだろう。


「わ、私と、お友達になってくれませんか?」


意を決して、私は三人に向けて言葉を発する。その途端、アリシアと繋がれていた手はギュッと強く握られ、アリシアは笑みを浮かべた。


「もちろんです、リーゼリア! 今から私たちはお友達ですね!」

「友人なら俺のことはノアと呼んでよ、リーゼリア嬢。公子さま、なんて堅苦しいし」

「俺もユリウスでいい。リーゼリア嬢、これからよろしく頼む」


はじめての友達に私は心が温かくなり、それが伝播したようにほんのりと頬が熱くなった。嬉しさを示すかのように私は目を細め、口元に笑みを浮かべる。


「あ、ありがとうございます。私、アリシアさまやノアさま、ユリウスさまとお友達になれて、嬉しいです」


私の様子にアリシアたちも嬉しそうに笑う。


「実は私、少し人見知りで。それに自分の感情もあまり上手く理解してなくて。だから、こうしてアリシアさまたちに話しかけてもらえて、多分内心どこかで嬉しかったんだと思います」


だから、私はこの短時間の間でも彼らと友達になりたいと思えたのだろう。面倒だと思いつつ、新しい出会いに喜びを感じていたのだ。


それはきっと、アシェルたちと最初に会った時と同じように。


「これからも、アリシアさまたちとお話したいです」


本心で私ははそう伝えると、誰よりも先にノアが口を開いた。


「そんなの、友達なんだから話すのは当たり前だよ。俺もリーゼリア嬢とたくさん話してみたいし」

「本当ですか?」

「むしろダメって言うと思った? 俺らの方がリーゼリア嬢ともっと話がしたくて友達になったんだ。あんなに凄い魔術が使えて、どこか浮世離れしてる君が良いんだ。アリシア嬢もユリウスも他の誰でもない、君に興味を引かれて友達になったんだよ」


ノアはテーブルに肘をつきながら、どこか迷子のような私に優しく話す。それに続くように、アリシアやユリウスも言葉を向ける。


「ノアさまの言う通りです。私はリーゼリアとお友達になりたい。初めてなんです。こんなにも誰かとお友達になりたいと思ったのは」

「俺もそうだ。初めは俺の魔術を受け止めて無傷だったことに興味を持っていたが、こうして話してみて、リーゼリア嬢の優しく、けれど気高い雰囲気に惹かれたんだ」


思い思いの言葉は間違いなく私の心に響いた。頬が熱を持っていくことがわかる。けれどそれ以上に私は嬉しかった。


「ありがとう、ございます。私も皆と友達になれて、良かったです」


ふわりと微笑んだ私は地下にいたときでは決して感じられない、得られないものを三人から得たと思った。そして同時に、護衛対象抜きにしても、この三人は絶対に守ると誓った。



* * *



あのあと運ばれてきたパンケーキをアリシアと分け合いながら食べ終わると、ノアからこの後どうするのかと問われた。


ちなみに結局、頼んだパンケーキの三分の二はアリシアに食べてもらうことになった。美味しかったが、もう少し食べれるようになろうと思った。でも隣で見ていて、あの量を一体どこにしまっているのか、私はアリシアを不思議に思った。


「そうですね、このあとは寮に戻ろうかと思っていました。することも特にないですし」


食後の紅茶をひとくち飲み、そう答える。甘いパンケーキのあとの紅茶はとても美味しく、ミルクも砂糖もいらないくらいだ。


紅茶の香りを楽しんでいると、ノアはこちらに顔を向け、ひとつの提案をした。


「ならさ、一緒に生徒会室に行かない? 俺たちこの後、生徒会の仕事で行くつもりなんだよね」

「……ん? 私、別に行かなくてもいいです」

「そんなこと言わずにさ。せっかくだし」

「せっかくも何も、私は生徒会役員じゃありませんよ。アリシアさまたちと一緒にいられるのは嬉しいですけど、生徒会に興味はないですし」


友達といられるのは良いが、私は生徒会に関わる気はない。生徒会に関われば護衛もしやすくなることは分かってはいるが、生徒会は学院の顔だ。


いくら侯爵家の令嬢として今は存在しているとしても、私は本当の侯爵令嬢ではないし、そもそも学院の顔として他の生徒の前に立つ気もさらさらない。


生徒会に所属していない人間が生徒会に出入りしていることを快く思わない人間も数多くいるだろう。厳しい視線を受けてまで生徒会に出入りする必要はないと私は考えている。


もう既にアリシアさまたちと友達になったんだから、そこから友達の知り合い的な立ち位置で他の生徒会の人と顔見知りになれれば問題ないし。兄さまも生徒会所属のようだから、何かあれば教えてもらえばいいし。


そう考え、私は再度ノアの提案に首を振った。


「やはり今回は遠慮させていただきます。することがないと言いましたが、読みかけの本があるのを思い出したので」


そう告げると、ノアはとても残念そうにしながら了承した。


「そっか、なら仕方がないね。また今度誘うことにするよ」

「私は生徒会役員ではないので次もお断りするかと思いますよ」


苦笑しながら紅茶を飲み、ノアに視線を向ける。彼は肩を竦めていながらも、私と視線が合うと嬉しそうに笑みを浮かべる。


お互いにじーっと見つめ合っていると、突然ノアは名案とばかりに閃いたような表情をした。


「生徒会役員でないことが問題なら、生徒会に入る? 庶務とかまだ一人空いてたはずだから」


その言葉に私はカチンと固まったあと、意味がわかるとブンブンと首を横に振った。


「……え、遠慮します……!」


その勢いにノアだけでなく、周りで見ていたアリシアやユリウスも声を出して笑った。


「はははっ、そんなに、拒否しなくてもっ!」


ノアに至ってはなにかツボに入ったのか、お腹を押えて蹲るように笑っている。私はその様子に頬を膨らませていじけた。


そんなに笑わなくてもいいじゃん!


そして紅茶を飲み終えると、私はそのまま席を立ち、ノアたちに一言告げた。


「もういいです! 私は部屋に戻ります!」


若干不貞腐れたようないじけたような声色の私は足早に食堂から出ていった。



部屋に戻った私は《大精霊エリュシオン》に食堂での出来事を話し、少し気分が落ち着いた。ノアに言った通り、読みかけの本を読み出し、日が沈むまで読み耽る。


明日に備えて早めにベッドに横になり、部屋の明かりを消した。ちなみに、私は大抵のことは寝ると忘れるため、今日あったいじけて部屋に戻ってきたことなど、すっかり忘れているのであった。




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