第13話 少しだけの実力発揮
それぞれ話し合いが終わり、役割が決まったようだ。ヴァイオレットは早速、結界を張るように告げる。
「ちなみに全員が結界を張り終わるまでは待つけど、終わった瞬間にゲームはスタートするからそのつもりでいてね。さて、みんな結界を張って」
その言葉を合図に結界を張る役割を担った生徒は詠唱を行う。この詠唱の精度により、張られる結界の強度が変わってくる。
無詠唱で結界を張ることができる私もアシェルたちとの約束があるため、面倒ながらも詠唱を行い結界を張る。しかし、単に詠唱をして結界を張るのもつまらない。
周りに合わせての詠唱だと、魔術攻撃を防げるのはせいぜい2、3回程度。エストレイン侯爵令嬢の結界は込められている魔力が多いから結界の強度は十分にあるけど、結局はそれだけだ。
そこで私は学院を破壊するつもりで攻撃しないと破壊できないほどの強度の結界を張った上で、その結界に魔力を吸収する作用を施した。
これにより、結界を破壊するために魔術を放った攻撃をただの魔力として変換し、その魔力を結界のさらなる補強へと繋げたのだ。つまり、攻撃されればされるほど半永久的な強化結界が誕生するということだ。
しかし、この結界にも欠点が存在する。それは長時間の使用には向いていないということだ。
魔術陣への負荷が大きすぎで、もって10分ってところかな。
周りと同じような結界だと見せるために、魔術陣を表面上は似たものにし、内部をいじくった。そのため、魔術陣の劣化が激しいのだ。
まあ、このゲームでは十分でしょ。実際の魔術戦なら本気で魔術陣をいじくるから問題ないし。
私は周りを見ると、ちょうど全員が結界を張り終わったところだった。つまり、ゲーム開始ということだ。
その証拠に一斉に攻撃魔術がそれぞれの結界に放たれる。私のところにも攻撃が来たが、組み込まれた魔力を吸収する魔術陣のおかげで傷は付いていない。
早速ノアは近くにいたクラスメイトの結界を破壊したようだ。簡略詠唱であの威力とは素質がある。
ユリウスたちのほうを見ると、こちらと同じ状況下のようで、アリシアは焦ることなく結界を強化するために魔力を込め、その間にユリウスはクラスメイトの結界を破壊している。
随分と手馴れているみたいりやっぱり王族やその婚約者ともなると、求められるレベルが高いからこれくらいできるようになるのかな?
大変だなと、他人事のような感想を抱きつつ、自身の張った結界に吸い込まれていく攻撃魔術を眺める。これを放っているクラスメイトは自分たちが結界補強に一役買っていることなど知りもしないのだろう。
頑張れ〜と内心煽りながら、周りを見ている。
「フェイン侯爵令嬢、結界のほうは大丈夫?」
「とくに問題はないです。公子さまの方は?」
「こっちも順調かな。別に話し合った訳では無いけど、ユリウスも最後にこっちとやり合う気でいるから攻撃も飛んでこないし」
会話の合間にもノアは魔術を放ち、結界を破壊していく。その流れるような作業には思わず感心してしまう。
そしてついに、私たちとユリウスたちのペア以外の結界が破壊された。すると当然のように、ユリウスたちからは視線が向けられる。
脱落したクラスメイトはこちらに注意を向けている。
「やはりこうなったか」
「俺は予想していたよ。そっちとやり合うことになるって」
ユリウスの言葉にノアは軽く返す。
アリシアの張った結界には小さな傷があるものの、かすり傷程度でしかなく、私の結界は当然の如く、傷一つない。つまり、これからが本番だということだ。
「恨みっこなしだよ」
「当たり前だ。ノア、お前も本気で来いよ」
その言葉を合図に、2人は簡略詠唱で魔術を放った。結界を狙ったものだが、お互いの魔術がぶつかり合い、教室内は爆風に襲われる。
周りは爆風により軽く目を瞑るが、私は自分の周囲に張った結界により何事も無かったかのように平然としている。そして、ノアとユリウスは簡略詠唱でお互いの結界を破壊しようと次々と魔術を放つ。
魔術を相殺しあっているようだが、それでも溢れはあり、アリシアの結界にはだんだんと亀裂が入り始めている。しかし、私の結界には未だ傷はない。それを確認したユリウスは思わずと言って呟いた。
「これだけの攻撃で無傷……? どんな強度をしてるんだ?」
「うわ、ほんとだ。少しくらい傷が入っていてもおかしくないのに無傷なんてね」
ノアは可笑しそうに笑い、風の刃をアリシアの結界へと放つ。しかし、それを黙って見ているユリウス・アリシアペアではない。
突如として、私の結界を破壊するべく、強力な魔術が現れ放たれた。ユリウスが魔術詠唱をしていた様子は見られず、教室内にはどよめきが走る。
これは―――。
その魔術により、私の結界を含む周囲は煙に覆われる。
以前、アシェルの話によるとユリウスやノアたちは魔術の一部を無詠唱で扱うことができるという噂があると聞いた。そして、それが今のこれなのだろう。
火の魔術の中で中位にあたる『黒炎』。無詠唱でこの威力を扱えるなんて、王子さまはすごいね。
本来であれば、これで勝負がついただろう。
「……っ、やば。フェイン侯爵令嬢、大丈夫!?」
ノアも油断して攻撃を見過ごしてしまった。直当たりは免れないため、私の結界は破壊されたと思っているだろう。
―――そう、本来であれば。
私たちを覆っていた煙が晴れ、視界が明るくなる。教室内の誰もが、このゲームの勝敗はついたと考えただろう。
けれど、目にしたものが全てを覆していた。
「―――え?」
それは誰の声だったか。思わずこぼれてしまった声は教室内でよく響いた。
「公子さま」
誰もが呆然としている中、私だけが冷静にノアを呼ぶ。その声にノアは察し、ユリウスにやられたことをやり返すように無詠唱でアリシアの結界目掛けて魔術を放った。
それにより、アリシアの結界は完全に破壊され、今度こそこのゲームの勝敗はついた。
「お疲れさまでした」
ノアにそう声をかけ、私は張られていた結界を解く。未だに状況を把握できていないのか、誰も声を発さない。私だけがマイペースに席に着いた。
それを隣で見ていたノアは呆然としながらも口を開いた。
「フェイン、侯爵令嬢」
「何ですか?」
「君の結界は、ユリウスのあの魔術を受けたのにも関わらず、無傷だった。あの威力の魔術なら、容易に結界くらい破壊できる。なのに、なんで……」
言葉が上手く出てこないのだろう。ノアはなんとか私に尋ねると、私は首を傾げて答えた。
「結界を張るのが得意? だからです」
「え、君、最初に別に得意じゃないって」
「いま、得意になったんです。それに、王子殿下の攻撃を受け止めきれたのは咄嗟に魔力を結界に流したからです。なんとなく、嫌な予感がしたので」
言い訳がましいというのは自覚しているが、この場にいる誰もが私の言葉の真偽を確認する手立てはない。私としても、この程度のことは騒ぎ立てるほどのことでは無いと考えているため、当たり障りのない返事をしたつもりだ。
そもそも、『黒炎』だから結界を破壊することができるという考えが間違っている。あれは確かに強力な魔術ではあるが、王宮魔術師や《七星の塔》ならば片手間に防げる代物だ。
それに結界強化は一時的にではあるが、強力な魔術が放たれ、結界とぶつかり合う丁度のタイミングに合わせて魔力を流し、強化すると、一回きりだが格上の魔術も防ぐことができる。
ただ、流す魔力量とタイミングを測ることは容易ではなく、それを分かっているノアたちは私を信じられない目で見つめる。
その場に微妙な空気が流れ、私はあちこちから視線が送られるのを感じる。しかし、それが途切れたのはヴァイオレットが声を発したからだ。
「んんっ、みんなお疲れ様。最後の方は白熱した戦いだったわね。私もちょっと驚いたことがあったけど」
ヴァイオレットは私に一瞬視線を向けるが、すぐに視線を外す。
「お互いの実力が分かるいい機会だったでしょう。隣の子とも話せたし、今の自分の実力も知れた。卒業までこのクラスのみんなで勉強していく大切な仲間よ。それを忘れずに、日々を楽しく過ごしてね。それじゃあ、今日はおしまい。まだ他の学年は授業をしているから学院内を探索するのは自由だけど、周りの迷惑にならないように気をつけてね」
パチンと手を合わせて話を終わらせる。にこりと笑ったヴァイオレットはみんなに手を振り、教室内を出ていった。
そしてヴァイオレットがいなくなると、教室内が騒がしくなった。皆それぞれクラスメイトに話しかけている。
それを横目に私は一人学院寮に戻ろうかと席を立とうとしていると、隣から声をかけられた。
「フェイン侯爵令嬢、このあと暇?」
「……?」
「俺、フェイン侯爵令嬢と仲良くなりたいと思って。お昼ご飯、一緒に食べようよっていうお誘いをしたいんだけど」
ダメかな、と首を傾げながら問いかけるノアに私は面倒くさと内心思っていた。首を傾げたことでさらりと揺れる髪に僅かに細められた瞳。彫刻品のような美しさで告げる彼は自分の魅力をわかって言っているのだろう。
恐らく、相手が私でなければ声をかけられた相手は喜んでついて行っただろう。けれど、私はいくら美しい笑みで誘われたからと言って、そんなものには興味がない。
護衛として学院にいるため、護衛はするが、わざわざ一緒に食事をする必要はないはずだ。
早く引きこもりたい。学院寮に戻ってゴロゴロしたい。
私は自分を見つめるノアを見つめ返し、言葉を返そうとした。そのとき、別方向から声がかかった。
「フェイン侯爵令嬢、良ければ俺たちと一緒に昼食を取らないか?」
その声の主はこの国の第一王子ユリウス・シェラ・ルシエルだった。
「それを今、俺が言っていたんだよ。フェイン侯爵令嬢が返事をしようとするタイミングでユリウスが声をかけてきたから口を閉ざしてしまったじゃないか」
「そうだったのか、すまない」
ノアとユリウスは軽口を言い合い、最終的には私へと視線を戻した。そして今、私はノア、ユリウス、アリシアの3人から見つめられている。
「それで、どうかな? 俺たちとお昼でも」
こんなもの、断れるという人がいるのなら見てみたい。 断れる相手じゃないじゃないか。
私はため息を飲み込み、軽く頭を下げた。
「……ぜひとも、ご一緒させて下さい」
「うん」
ノアの返事とともに、私の学院寮に今すぐ帰るという予定はなくなった。
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