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地下暮らしの最強魔導姫、無詠唱魔術で護衛を任されました  作者: おもち
第一章

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第10話 《大精霊エリュシオン》と恋の話



魔術陣に魔力を流し、僅かな浮遊感を感じて目を開けると、先程までとは違う階層にいた。魔力を登録したことで、私の部屋がある階まで魔術陣が飛ばしてくれたのだろう。


「確かに、ここまで階段で来るのは大変だ」


窓の外を見ると、どうやら寮の最上階のようだ。窓の先には同じ建物で男子寮が目に入る。


そして、男子寮のとある一角。それは、私だけが感じ取れるほどに小さく、けれども寮に張られている結界よりも頑丈な結界が張られた部屋があった。


多分あそこが王子さまの部屋なのだろう。でも、もうひとつある?


その一部屋だけではなく、同じくらいの強度の結界が張られた部屋がまだ1つあった。


ダミー? それとも、王子さまと同じくらい重要な公爵子息の部屋? だとしたら、なんで女子寮にはその結界がないの?


王子さまがこの学院で重要な人物なのは間違いない。そして公爵子息もまた、大切な人物ではある。けれど、それを言うのならば女子寮のどこかに部屋があるであろう王子さまの婚約者である侯爵令嬢もそれに該当するはずだ。


それなのに、女子寮には部屋別に張られた結界がない。もしかしたら、私が知らない何かがあるのかもしれない。


けれど、無闇に藪をつついて蛇が出てくるのも面倒だ。


とりあえず私は男子寮から視線を外し、部屋に向かうことにした。最上階エリアの一番端にある部屋。日当たりがよく、角部屋であるため、両隣ではなく、隣にだけ気を使うだけで済むため気が楽だ。


扉にS105と書かれた部屋の前に行き、私はドアノブに手をかけた。


「……!」


その途端、微弱な魔力を吸い取られた気がする。恐らくそれが、部屋の鍵なのだろう。


中に入ると、一人部屋にしては広い部屋が広がっていた。入ってすぐに私が持ってきていた荷物が置かれており、それを持ってリビングへと向かう。


簡易的なキッチンもあり、寝室も覗いてみると大きなベッドが置かれていた。比較的華奢な私では余る大きなベッドで、大人二人は横になれるかもしれない。


私はリビングで荷物の整理をする。といっても、持ってきたものは服と筆記用具、あとは侯爵家でもらった美容品くらいだ。


服はクローゼットにしまい、リビングに置かれている勉強机に持ってきた文房具を並べる。そして洗面所に持ってきた美容品を置いて終わりだ。


「あんまり、部屋変わらなかったかも」


元々持ってきていた荷物が少ないため、部屋に変化がほぼないのは仕方がないだろう。それよりも、と私はリビングの壁側にある魔石に触れた。


この魔石がアシェルの言っていた通信機なのだろう。


「これにも、魔術陣がある。でもこれはそこまで複雑なものでも無いみたい」


恐らく繋げたい相手を想像しながら魔力を魔石に流すことで、魔石に刻まれた魔術陣が反応し、女子寮あるいは男子寮の部屋のどこかに繋がるのだろう。


「思念伝達やテレパシーに近いものかな。でも、テレパシーとかは相手と魔力を繋げることで成立するもの。両者に魔術師としての素質が問われる。でもこれはそれが必要ない」


素直に面白いと思った。学院寮に魔力を登録しているからこそ、可能にしているものだが、これが学院寮外、つまり普通に外で使えるようになれば一気に問われる魔術のレベルは上がるだろう。


「時間はあるし、魔術陣の構成を考えてみるのはアリかも」


私はそんなことを考えつつ、魔石に触れ、アシェルを想像しながら魔力を流した。するとすぐに、魔石からアシェルの魔力を感じ取った。


『……あ、あ。どう? リーゼリア、聞こえてる?』

「はい。聞こえています、兄さま」

『良かった。それに流石だね、無事に魔力登録もできたみたいし、通信機も使えたわけだ』


触れている魔石から声が聞こえてくるが、脳に直接話しかけれている気もする。テレパシーに近いが、やはりどこか違う。


テレパシーは間違いなく、脳に直接魔力を繋いで意志を伝えるもの。触れている魔石から声がするわけではないのだ。


研究のしがいがあると思っていると、アシェルは魔石を通して話しかけてくる。


『荷物の整理は無事に終わった?』

「はい。元々の荷物が少なかったので」

『そっか。俺の方も問題なく終わったよ。そういえば、寮と学院にはそれぞれ食堂があるんだけど、女子寮で食べたほうが近いと思うからそっちで食べるといいよ』

「それって、部屋で食べることはできませんか?」

『? 一応できるよ。この通信機で食堂に連絡すれば、部屋にある魔術陣を通して部屋に送ってくれる』


それを聞いて、私は安堵した。入学式まであと3日。入学すれば人と話す機会は必然的に多くなるが、食堂に行けばその機会は早まる。


先輩や同じ入学生と顔見知りになれる機会だけど、私はそこまでそれを重要視していない。


それにこの通信機といい、気になることもあるし、私はなるべく入学式まで部屋から出ず、静かに過ごしたいと思っている。


「そうなんですね。ありがとうございます」

『もしかして、部屋で食べるの?』

「はい。少し気になることがあるので。入学式までは部屋から出ずに過ごすつもりです」


そう言うと、アシェルは私の目的を知っているため、護衛関係で必要なことだと勝手に誤解し、深く尋ねてくることはなかった。


『そうなんだね、分かった。何かあったら、また連絡して』

「はい、ありがとうございます」

『気づいていると思うけど、制服はクローゼットに入ってるから。3日後の入学式に会うことを楽しみにしてる』

「はい、3日後に会いましょう、兄さま」


通信機への魔力供給を断ち、手を離す。そして、すぐに女子寮にある食堂へと通信を繋いだ。



* * *



日が落ち、部屋が暗くなり始めた頃、私は部屋の明かりをつけてカーテンを閉めた。


「……ふう」


魔術で淹れた紅茶を飲み、読んでいた本を閉じる。この本は異空間に入れていたものだ。


「恋って、どんなものなのかな」


今読んでいた本は恋物語だ。王国内でも人気が高いらしく、地下にも魔術書とともに送られてきていた。わざわざ読む程のものなのかと思って読んでいなかったが、話のネタにはなると思い、思い切って読んでみることにしたのだ。


「この、『恋は落ちるもの』ってどういうことだろう。相手を見て、胸がドキドキするの? 心臓に欠陥があるんじゃなくて?」


恋というものを知らない私は恋物語を読んでも、何一つ共感できるものがない。ただ物語を読んで、そういうものなのか、と思うだけだ。


恋は人を変えるというが、それはどれほどのものなのか。私は興味があったが、自分が誰かを好きになることはないだろうと、どこか冷めてもいた。


「……学院にいれば多くの男女がいる。もしかしたら、他人の恋愛を見ていれば恋が分かるかもしれない」


どこか期待をしながら紅茶を飲んでいると、部屋には私一人しかいないのに、すぐ近くから自身を呼ぶ声が聞こえてきた。その声を私は知っている。


「……エリュシオン」

『面白いことを話していたね、リーゼリア。恋がしたいの?』

「……どうなんだろう。でも、興味はあるよ。恋って、人を変えるみたいだから」


右斜め後ろを振り返ると、そこには宙に浮いた《大精霊エリュシオン》がいた。


「精霊は、恋とかするの? エリュシオンは美人だし、聖霊王だからモテそう」

『精霊が恋をするのかは個体によると思うな。それに精霊には性別は存在しない』

「そうなんだ。でも、人間としてならエリュシオンはモテると思うよ。女性にも男性にも。とても綺麗だから」

『それは嬉しいことを言ってくれるね。でも、私はリーゼリアにだけ特別に思ってくれていたらいい』


そう言って、《大精霊エリュシオン》は私の長い白銀の髪を掬いとった。


『この白銀の髪も、宝石のように煌めく青い瞳も、私のお気に入りの証なのだから』

「知ってるよ。これはエリュシオンとお揃いだからね」


私は《大精霊エリュシオン》と同じ色彩を持つ。それは私が《大精霊エリュシオン》の寵愛を受けているという証明だ。


「それよりも出てくるなんて珍しいね。いつもは私が呼んだときにしか出てこないのに」

『恐らく、地下では見られなかったリーゼリアの成長というものをここでは見られる気がしたからね。可愛いリーゼリアの成長はなるべく近くで見ていたいのだよ』

「そういうものなの?」


首を傾げた私だったが、《大精霊エリュシオン》が出てくるのならば、それはそれで嬉しいと思っている。


自我が芽生えたときから共にいた存在。《大精霊エリュシオン》は私に多くの感情を教えてくれた。


『私ではリーゼリアに全てを教えることはできないからね』

「そんなことない。エリュシオンがいてくれたから、私は生きてこられた」

『けれど、やはり人間同士でしか得られないこともあるんだよ。リーゼリアが私以外と話せるようになったのもこの国の王のおかげさ』


私の頭を撫でながら、《大精霊エリュシオン》は言う。確かに、私が人と話せるようになったのは国王陛下が私と根気強く話を続けてくれたからにほかならない。


それでも私に『嬉しい』『悲しい』『楽しい』、多くの気持ちを教えてくれたのはエリュシオンなのだ。大事なエリュシオンが悲観するようなことを言うのはなんだか嫌だ。


どこか不貞腐れたようにむくれる私だったが、それを愛おしそうに《大精霊エリュシオン》は見ていた。


『精霊の私では人間であるリーゼリアにある程度のことを教えることはできるが、全てのピースを当てはめて完成させることはできない。精霊と違い、人は誰かと関わることで成長していく存在だから』

「……なら、エリュシオンは私が地下から出ていくことをどこかで願っていたの?」

『リーゼリアがあそこにずっといたいと考えているのならば、無理に何かをさせることはないよ。けれど、あそこは学び成長するには少し不適切だ』


そう言われてしまえば、私は何も言えなくなる。


『恋をしてみたいというのならば、私はそれを応援するよ。私はリーゼリアに愛情を教えた。けれどそれは、家族愛のようなもの』

「……間違ってないでしょ。エリュシオンは私にとって、家族のような大切な存在なんだから」

『嬉しいねぇ。けれど、それは恋じゃない。愛情には多くの種類があるんだよ』


私はそれが分からず、眉を寄せて首を傾げる。恋とはなんなのか。《大精霊エリュシオン》を思う愛とは違うのか。


『今は分からなくとも、いずれ分かるようになるはずさ』

「……恋は、エリュシオンを思う気持ちとは違うの?」

『少なくとも、私はそう思うよ。相手の笑顔を見ていたい、その声をずっと聞いていたい。私自身も恋をしたことはないけど、恋をした人間は見たことがある』


私は《大精霊エリュシオン》の言葉が分からなかった。恋とは、そこまで人を変えるほどの力を持つのか。


この恋物語には恋をすると世界が煌めいて見えると書かれていた。


いつか、私はエリュシオンに対して思う愛ではない、他の愛も知ることができるのかな。


本の表紙を優しく撫でながら、私は目を閉じだ。



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