となりの席の高瀬さん
恋愛ものにしたのでお楽しみください
高校生活は、もっと賑やかなものだと思っていた。
少なくとも、毎日が同じ音で流れていくようなものじゃないはずだと。
窓から入る春の光が、机の角を白く照らしている。
水野陽太は頬杖をつきながら、黒板を見ていた。先生の話は右から左へ抜けていく。
「席替えするぞー」
教室がざわつく。
陽太はくじを引き、紙を開いた。
「……窓側か」
特別うれしいわけでも、残念なわけでもない。
ただ、隣の席が誰になるのか、それだけが少し気になった。
数分後。
その席に来たのは、髙瀬葵だった。
短く切りそろえられた髪。
無駄な動きのない所作。
感情が表に出ない、静かな人。
葵は何も言わず、椅子を引き、カバンを置いた。
陽太が軽く会釈すると、彼女も小さく頷いただけだった。
(……静かな人だな)
それが最初の印象だった。
それ以上でも、それ以下でもない。
放課後。
陽太は美術室のドアを開けた。
油絵の匂い。
静かな空間。
窓際に、先客がいた。
キャンバスに向かっていたのは、髙瀬葵だった。
「……高瀬さん?」
名前を呼ぶと、彼女は一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を戻した。
「水野くんも、美術部?」
「あ、うん。今日、初日」
「……そっか」
それだけの会話。
けれど、不思議と気まずさはなかった。
しばらく無言で、それぞれ絵に向かう。
陽太は色を混ぜすぎて、濁った絵の具を見つめた。
(やっちゃったな……)
その時、視界の端に、別の色が差し出される。
葵だった。
何も言わず、自分のパレットを少しだけこちらに寄せている。
「……いいの?」
「……それ、使って」
短い言葉。
目は合わない。
「ありがとう」
そう言うと、彼女は小さく頷いた。
それだけなのに、胸の奥に、わずかな引っかかりが残った。
無愛想なのに、冷たくはない。
帰りの廊下。
偶然、隣を歩くことになった。
「……また、明日」
葵がそう言った。
「あ、うん。また」
別れてから、陽太は一度だけ振り返った。
理由は、よく分からない。
ただ――
隣の席になっただけのはずなのに。
今日は、少しだけ印象に残る一日だった。
この流れは????




