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3 探索-4-

 カイロウの的確な指示とそれに従う隊員たちの動きもあり、彼らは無事に目的地に到着した。


 ゲートを出て一時間ほどかけて歩いたことになる。


 目の前には大樹があった。


 まるで空を支える柱のように見えるそれははるか上にまで伸び、天を覆う屋根のように青葉を茂らせている。


 あまりの幹の太さに、アナグマたちは壁に阻まれたような錯覚に陥った。


「これより目標物を回収する。成果をあせるな」


 カイロウは小さな声で叫んだ。


 成果をあせるな、とはつまり欲張るなという意味だ。


 大樹の根で盛り上がった土が丘のようになって周囲に広がっている。


 ごつごつとした岩も多く、死角となるポイントがそこかしこにある。


 敵はどこに隠れ潜んでいるか分からない。


 アナグマたちは数名ずつのチームに別れ、大樹の周りを巡った。


 今回の任務は、この大樹の枝から落ちた果実の回収だ。


 瑞々しく、赤く輝くこの果実は、地下世界で生きるアナグマたちにとって貴重な栄養源となる。


 そのまま食すことはほとんどなく、可食部の大半は加熱処理を施して貯蔵に回す。


 また、厚い皮は食用には適さないが、抽出した成分は染料や塗装に用いられる。


 両手で持てるほどの大きさのそれは、彼らの生活に大いなる恵みをもたらしてくださるのだ。


「目利きはほどほどにしろヨ? どうせオレたちに良し悪しなんて分かりゃしネエ」


 かなりの高所から落ちるため、転がっている果実には傷みのひどいものもある。


 それらは当然価値が低いので、できれば品質の良いものを持ち帰りたいところだ。


 どうせなら――とアナグマは傷の少ない果実を選ろうとした。


 が、先ほどのカイロウの言葉を思い出す。




”成果をあせるな。”




 調査団にとってのステータスは成果物のポイントだ。


 自分が入ったからにはどの調査団にも負けないくらいのポイントを、という想いはある。


 だが地上は戦場であり、敵地のど真ん中も同然だ。


 そのことをいま一度かみしめると、彼は仲間から離れないようにして果実を拾い集める。


 そこそこの重量があるため、四つも持てればいいほうだ。


 腰に提げた袋に果実を押し込むと、動きを制限されてしまう。


 やはり成果をあせらないほうがいいか、とアナグマが思った頃に、数人の仲間が集まって何かをしていた。


 彼らは手際よく何かを組み立てていく。


(なるほど……)


 一分もしないうちに完成したのは移動式コンテナだった。


 幅や深さから見て、果実が二百個は入りそうだ。


 あれだけの物を持ってきたとなれば相当に目立つハズだが、隊員に大荷物を持っていた者はいなかった。


 どういう仕組みかは彼には分からなかったが、極限まで薄く折りたたまれたものを展開したらしい。


(ああいうのがあれば、オレももっとポイントを稼げただろうな)


 隊員たちは回収した果実を次々に放り込んでいく。


 コンテナはたちまち果実でいっぱいになった。


「よし、そこまでだ」


 カイロウは周囲を見渡してから言った。


「全員いるな? これより帰還する。来た道だからといって気を抜くな。家に帰るまでが任務だ」


 何人かの忍び笑いが漏れ聞こえる。


「隊長はいつもあれなんだよ」


 ソブレロが苦笑しつつ言った。


「気を抜くなって言いながら遠足みたいなこと言うんだから」


「でも緊張がほぐれていいんじゃないですか?」


 無骨で粗野なカイロウにしては珍しいな、とアナグマは思った。


 思ったことをそのまま言っているのか、それとも部下の気を鎮めようとしているのか、彼には分からなかった。


「それはそうなんだけどね。いつも緊張感を持てって言ってる隊長だからなおさらおかしくて」


 彼はずっと笑っていた。




 カイロウの真意がどうであれ、家に帰るまでが任務というのは経験豊富な隊員ほどおろそかになりがちだ。


 特に往路が順調であればあるほど、復路には慢心が大きくなる。


 そのためか帰還に際して彼はこう下知した。




”もし身に危険が迫ったら果実を捨てて逃げろ。生きていればいつでも回収できる。”




 何よりも命を大切にせよ、とカイロウは言う。


 彼は慎重すぎた。


 しかしそれでも足りなかった。


 彼らがそのことに気付いたのは、川を背にゲートの方向へと向きなおったときだった。


 突然、空から巨大な影が降ってきた。


「タングエケベルだ!」


 両翼を開いた怪鳥は彼らの頭上をすっかり覆ってしまうほどの大きさだった。


 はばたくたび、風を斬る音が不気味なうなりとなって地上を震撼させる。


「クソ! このタイミングかよ!」


「ゲートへ向かえ!」


 先頭を歩いていたカイロウは引き返し、コンテナを運んでいる隊員たちに言った。


「ゲートだ! 列を乱すな! ゲートに向かって走れ!!」


 コンテナを運んでいるために無防備となっている隊員を先に逃がすつもりだ。


 ソブレロとギトーはコンテナを背後に守るように陣取った。


「新入り、オメーも早く逃げな! 前の奴についていけ! はぐれるなよ!」


 それまでの飄逸ひょういつとした雰囲気から一転、ギトーは腰から短剣を引き抜きながら言った。


 その横ではソブレロが伸縮式のほこを構えている。


「いや、オレは――」


 彼は動けずにいた。


 腰には支給された護身用の短剣がある。


 もしかしたら一撃を与えるくらいはできるかもしれない。


 だが誰もが”逃げろ”と言う、


 そうするべきだった。


 それが隊長の命令だったから。


 ブオン! と不吉な音を響かせながら怪鳥が滑空した。


 鋭い爪が襲う!


 隊員のひとりが肩を切り裂かれた。


 ソブレロが戟を突き出す。


 だがわずかに遅く、飛び上がった怪鳥には届かない。


(オレは――)


 どうすればいい?


 どうするのが正しい?


 アナグマは惑った。


 逃げるということは……仲間を見捨てるということか?


 自分だけが助かるということか?


 ギトーもソブレロも、他の隊員も必死にあの怪鳥と戦っている。


 仲間を守るために、あの果実を守るために戦っている。


「………………」


 命令に従うべきなのか、それとも背いてでも一矢報いるべきか。


 迷いながらアナグマが腰の短剣に手をかけたときだった――。


「離れてな!」


 いつの間にか彼の目の前に大男がいた。


 エレベータ内で声をかけてきた男だ。


 彼は自分の背丈ほどもある砲を仰角にかまえ――。


「伏せろっ!」


 それを撃った。


 轟音と地響きに一瞬だけ遅れて放たれた赤い閃光が、タングエケベルの腹を深くえぐった。


 怪鳥は奇声をあげながら中空でもがくと、不格好な姿勢で地面に落ちた。


「今のうちに……早く!」


 彼らは恨むような怪鳥の声を後ろに、先に逃げた隊員を追った。

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