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2 調査団-3-

 カイロウは聞こえよがしにため息をついた。


「昨日、在庫係のヤツを連れて地上に出たな?」


 アナグマは素直に認めた。


 隠してもしかたがないことだ。


「ヤツは俺たちとはちがう。隊には所属していない。なにかあったら誰が責任をとる?」


 ネロはカイロウの部下というワケではない。


 在庫係のような間接部門は隊員として隊や団の設備・消耗品等を管理する者と、調査団には所属せず、基地全体の資材を管理する者とに分かれる。


 ネロは後者だった。


 だから地上に出ることはないし、特定の調査団や隊員と親密になることもない。


 アナグマと出会わなければ、彼は基地の奥にある倉庫にこもりっぱなしの日々を送っていたハズだ。


「お前はそんなに成果が欲しいか?」


「それはもちろん……それが調査団の役目ですから……!」


 彼は身を乗り出して答えた。


「ちがう」


 カイロウは即座に否定した。


「俺たち調査団の役目は生きて帰ることだ。で、お前の役目は俺の命令に従うことだ」


「生きて――?」


 その言葉に彼は父を思い浮かべた。


「聞くか?」


 何を、と訊き返すつもりが、アナグマは小さくうなずいていた。


「お前の親父さん――ラメーゴ隊長は立派な人だった。誰に訊いてもそう言うハズだ」


 なぜそんな話を、という疑問を飲み込む。


 ”生きて帰る”と”父”を強く結びつけたアナグマに、彼の言葉をさえぎることなどできはしない。


「あらくれぞろいの隊員が五体満足で帰還できたのも、あの人がいたからだ。親父さんはな、引き際を誤ったことがねえんだ」


「でも父さ――父は……」


「ああ、亡くなった。分かるな?」


「…………?」


「誰よりも慎重だった親父さんでさえ、外に出りゃ命を落とすんだ。入隊したばかりのお前ならどうなる?」


 カイロウにしては明瞭な表現で彼の軽率さを戒めた。


 自分は生きて帰ってきた――は反論にはならない。


 たった数回、調査団の真似事をして戻ってきたくらいでは、父に近づいた証明にはならないからだ。


「お前は親父さんのようにはなれん」


 カイロウはそう言い、そして力なく、


「――俺もな」


 ささやくように続けた。


「今にして思えばもっと教えを乞うておくべきだった……」


 深くため息をついた彼は、自分の足跡を確かめるように過去を語り始めた。


「ラメーゴ隊長は成果よりも俺たちの無事を一番に考える人だった。査定は低かったが、そのおかげで俺たちは事故やケガともほとんど無縁だったんだ」


 調査団の存在意義は地上に出て成果を持ち帰ることにある。


 よって隊員の生還率は査定にはさほど影響しない。


 大量の犠牲者を出しても、収獲物が多ければ賞賛されるといういびつな構造は当時からあった。


「隊長が亡くなる直前、そばにいたのが俺だった。あの人は言った。”あとを頼む”。それだけだ」


 周囲の勧めもあり、カイロウはラメーゴの後を継いで隊長に任命された。


 これは遺言に従った結果だが、彼はそれだけでは足りないと思っていた。




”あとを頼む”




 このたった一言は、さまざまに解釈できる。


 彼はラメーゴを敬愛していたから、もうひとつ別の解釈をして、”頼まれごと”を”自発的に”引き受けた。


 つまりアナグマの父親代わりだ。


 といって法律上の父親になったワケではない。


 あくまで”カイロウ”として、日ごろから彼を教え導いた。


 しかしそれが間違いの元だったのでは……とカイロウは思い始めている。


 ときに隊長としての顔を見せたばかりに、アナグマは調査団に強い興味を持つようになってしまった。


 そしていつしか入団を希望するようになり、それが叶わないとなると認めてもらいたいという想いから危険な行動にも出る。


「俺は隊長のやり方を受け継いだ――つもりだ。全員が無事に帰還すること。それを一番に考えた」


「…………」


「だが俺には隊長の代わりは務まらなかった」


 アナグマは察した。


 このいかにも粗暴そうな男が見せた、叱られた子どものような苦悶に満ちた表情。


 沈みきった声。


「だからお前の入隊を断り続けた。誰も入れるつもりはなかった」


 ああ、なるほど……。


 アナグマは理解した。


 どれだけ熱望しようとも入隊を拒まれていたのは、適性がないか実力がないと判断されたからだと思っていた。


 だから自分も隊員として働けることをアピールするために、危険を承知で地上に出た。


 それでも認めてもらえないから、彼はさらに危険を冒した。


「俺はな、もうこれ以上の犠牲者を出したくねえんだ。誰ひとり死なせたくねえ。ケガ人もだ」


 カイロウは言う。


 ラメーゴが隊長だった頃には見ることがなかった死没者を、もう3人も見た、と。


 運良く生き延びたものの、外に出られる体ではなくなった者もいる。


「なのにお前は無茶をする。聞き分けのねえガキみたいにな。腕前は評価してる。だがお前を入れたのは勝手をさせねえためだ」


 彼はすごみを利かせて続けた。


「フリーの時は何をしてもよかったが、今は俺の部下だ。いいか? 俺の命令に従え。勝手な行動をするな」


「――はい」


「地上に出るときは俺が指示する。同行するメンバーも俺が決める。探索範囲も、帰還のタイミングも」


「はい」


「成果が欲しけりゃ、しばらくおとなしくしてろ。頭が冷えたと判断したら連れて行ってやる」


「心得ます――」


 うなだれたアナグマは、カイロウの腰袋に目をやった。


 隊員は非常時に備えて格納式の武器や医療品、食料などを携行する。


 カイロウももちろんそうしているが、彼の場合は大半が医療品だ。


 これは負傷者が出やすいからではない。


 小さなケガでもすぐに処置できるように、という備えだ。


 成果よりも生還を――。


 ラメーゴのやり方を受け継いでいる証だった。




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