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5 救出作戦-2-

 ゴンドラは地底の闇から地上の闇へと向かっていた。


「ゴモジュ隊の探索計画によると、ゲートから真北に進み、湖を迂回するコースだった」


 捜索計画はすでに周知しているが、カイロウは改めてそれをなぞるように話し始めた。


「先に出発した隊はコースに沿って捜索している。俺たちはコースをはずし、右側の丘陵を中心に探す」


 覚悟を促すように彼はメンバーひとりひとりの顔を見た。


 今回もまた、兵団が援護についている。


 今度はふたりだ。


「私はズィロだ。こっちはユーリ。よろしく」


 筋骨隆々な女たちは短く自己紹介した。


 兵団は寡黙な者が多い。


 彼女たちはあくまで任務で同行するだけであり、必要以上に馴れ合う気はなかった。


「よろしく頼む」


 それは調査団も承知の上だ。


 両者は協力関係にあるが、どこかでは対立する関係でもあった。


 内心の根底にあるのはプライドだ。


 兵団は貧弱な調査団を守ってやっているという想いがどこかにあり、調査団は自分たちの収獲が兵団を生かしてやっているという想いがある。


 どちらが欠けても地底の生活は成り立たないため、この静かな対立が表に出ることはない。


 ほどなくしてゴンドラが短い旅の終わりを告げる。


「到着だ」


 ゲートを出た一行は天上の闇を見上げた。


 空には雲ひとつない。


 ひとまず天候は味方をしてくれたようで、カイロウは安堵した。


 雨天や風が強い日の捜索は難航するからだ。


 カイロウを先頭に予定の針路をとる。


 その途中、ギトーは何度か彼に耳打ちした。


「なんかヤな予感がするんだよナ……今からでも予定を変更したほうがいいと思うんダ」


「いや、このまま進む」


「しかしナァ……」


「予感だけで計画は変えられん。だがお前の具申は受け取っておく」


 カイロウにぴしゃりと言われ、ギトーはしぶしぶ引き下がった。


「…………」


 アナグマは四方に注意を巡らせた。


 外の様子に、ではない。


 カイロウ率いるこの隊の中での話だ。


 メンバーの中には新参を快く思わない者もいる。


 和を乱さず、能力を発揮して認めてもらうしかないと考えた彼は、これまであまり見てこなかったこの隊について観察することにした。


 すると見えてきたことがある。


 それは信頼感だ。


 誰もがカイロウへ期待と信任を寄せている。


 だらかといって妄信はしない。


 もし彼が誤った方向に舵を取ろうとすれば、それに気づいた誰かが必ず諫言する。


 上下の区別なく互いに信頼しあっている。


 その絆がこの隊を今日まで生かしてきたのだ。


 そしてそれは間違いなく父ラメーゴの遺芳であった。


「この風……イヤな感じね」


 いつの間にかアナグマの横にはズィロがいた。


 兵団にのみ携行が許されている大型の銃は、彼女の背丈ほどもある。


 それを軽々と持ち歩いているのだから、相当な鍛錬を積んでいるのだろうと彼は思った。


「分かるんですか?」


「踏んできた場数はあんたらより多いよ? 巨獣の相手もね」


 つまり彼女は巨獣の気配を感じ取ったのだ、と彼は理解した。


 実際のところ、巨獣を察知するのはきわめて難しい。


 長年の経験とデータから、その種類ごとに出現の傾向を探ることくらいは可能だ。


 たとえばタングエケベルなどの怪鳥は、湿度の高い日には現れにくい、ということが分かっている。


 しかしあくまで傾向であって絶対ではない。


 知識、経験、勘……調査団にしろ兵団にしろ、地上での行動ではあらゆるデータを総動員しなければならないのだ。


「隊長、これを!」


 しばらく歩くと、隊員のひとりが何かを見つけた。


 バックパックだった。


「……ゴモジュ隊のものだ。識別番号もリストと一致する……これはラッカー隊員の装備だ」


「ではやはり彼らは――」


「ここは探索計画から大きくはずれている。算を乱すような何事かが起こったのか……?」


 カイロウはバックパックを注意深く観察した。


 砂土で汚れてはいるがこれといって目立つ傷はない。


「逃げる途中で落としたような感じですね」


「そのようだ。抵抗するより身を軽くして避難することを優先したか――」


 数名の隊員がカイロウと状況を分析する。


 このあたりの推理はアナグマの出る幕ではない。


 彼はこうした経験が圧倒的に不足していた。


「よし、この辺りを中心に捜索しよう。他に何か見つかるかもしれん」


 歩みを止め、アナグマたちは付近を捜索した。


 少なくともゴモジュ隊がここを通ったのは間違いない。


「なんでもいい。発見したらすぐに報告しろ。触るな。動かすな」


 他に何かが見つかれば、それらの落ちていた場所をつないだ延長線上が彼らが進んだ先――あるいは逃げた先――ということになる。


「よく探せよ。案外、こういう木の根元に落ちてたりするんだ」


 熟練の隊員がアナグマに言った。


 先輩風を吹かせたかった彼だが、実際に覗き込んだ根元に何もないと分かると妙な作り笑いを浮かべた。


「ま、こういうこともあるがな」


 アナグマもつられて微苦笑する。


 その後、これ以上の収獲は見込めないと判断したカイロウは、当初の予定だった丘陵を目指すことにした。


 ただしゴモジュ隊の荷物が見つかったことから、進路上を徹底的に捜索するために歩みは遅々としたものだった。

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