4 地下鳴動-3-
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「皆、ご苦労だった」
カイロウのねぎらいはいつも簡潔だ。
しかも決まってこの一言である。
言葉を知らず、また飾らない彼らしい締め方なのである。
「ロワンの容態は安定している。傷も浅い。数日もすれば復帰できるとの見立てだ」
安堵の息が漏れる。
負傷するのは日常茶飯事とはいえ、仲間が無事だという報せを聞くまでは、やはり彼らも落ち着かないようである。
「各々、よくがんばってくれた。今回は新入隊員のアナグマを加えての初めての任務だったが、特に大きな問題はなかったと思う。お前たちはどうだ?」
調査団や兵団は、任務を終えるとこのように反省会を開くのが通例だ。
反省会では上も下もない。
上長からの一方的な振り返りではなく、階級の上下関係なしに意見を出し合う。
こうすることで次の任務に向けて改善すべき点を洗い出すことができるのだ。
全員が対等の立場となるため、上長の驕りを抑制し、誤った考えかたをしている場合にはそれを正す効果もある。
「武装を強化するか、兵団をもっと随行させるべきと考えます」
隊員のひとりが言った。
「今回はあの怪鳥が一体だけだったのでどうにかなりましたが……群れで行動するトゥンアーヴァロだったら深刻な事態となっていたハズです」
何人かが賛同する。
「俺の判断だ。あの辺りはトゥンアーヴァロの生息地ではないからな。収支を考えれば妥当だと考えた」
カイロウは同行させた兵団がひとりだけだった理由を述べた。
国からの正式な命令を除き、調査団や兵団は自由競争が認められている。
つまり調査にあたって兵団を同行させるか否かや、その人数も隊長の裁量に依っている。
そして自由であるからには当然、協力の見返りとして兵団には報酬を支払わなければならない。
安全最優先で兵団を多く抱えれば、その分だけ実入りが減る。
実入りが減れば隊員たちの生活にも影響する。
それを考え、カイロウは安全面と経済面のちょうど妥協する点を選択したのだった。
「しかし実際に負傷者が出た。俺の判断ミスだ」
平然と振る舞っているが、これは失敗だった。
ラメーゴの遺志を継ぎ、死者はもちろん負傷者も出したくない彼にとって、この結果は理念に反するものである。
たとえ収支に響こうとも、安全のためにもっと兵団を囲っておくべきだった、と彼は思った。
「あの、じゃあ僕からも」
別の隊員が手を挙げた。
「新しく入ったアナグマさんのことですけど……正直、まだ早いんじゃないですか?」
「なぜそう思うか?」
「もっと訓練を積ませるべきだと思うんです。今回の任務でもあまり役に立ってなかったじゃないですか」
この隊員はアナグマをメンバーからはずすべきだと主張した。
経験が皆無でチームで動くには足かせになる、とかなり強い論調である。
「む、それはそうだが」
カイロウはうなった。
彼自身、アナグマのことは評価している。
経験がないという隊員の指摘はチームで動くことに対してであって、個人としての能力は申し分ない。
隊長たるもの、部下をひいき目で見てはならない。
個人的に目をかけているからといって、ここでそれを出せば示しがつかなくなる。
「素人を現場に出すなんてどうかしてます。チームを危険に晒すんですか?」
アナグマは動じなかった。
入隊したとはいえ全員から歓待されるとは微塵も思っていない。
こういう声が出ることも覚悟の上である。
「それについては――」
カイロウが言葉をひねりだそうとした時だった。
「分かってねえなァ」
ギトーがあきれたようなため息をついた。
挑発的な物言いに隊員はまたか、といった様子で不愉快そうな顔をした。
「その経験を積ませるために現場に出してンじゃねェか。ジャロワ、オメーだってそうだったろ」
「僕は……! 僕のときはちゃんと訓練を積んでたから――」
「だから”ラメーゴ隊長”の判断でオメーは実戦に出たワケだ。だったらこの新入りも同じじゃねェかよ」
「…………」
「オレたちゃ新入りのことは知らねェ。だがカイロウ隊長はよく知ってルらしい。だから出してもいいって判断したんだろうサ」
カイロウはちらりとギトーを見た。
彼はその視線に気づかないふりをして、
「オメーは真っ先に逃げたから知らないだろうが、新入りはあの怪鳥に挑もうとしてたんだゼ? オレらは逃げろと言ったンだけどな」
吐き捨てるような口調は、わずかにアナグマを責めているような響きがある。
新入りは先輩の言うことを聞け、と言外に教えているようだった。
「あれを見て逃げ出さネェってのはヨ、新入りなりに地上を見てきたンだろうさ。勘違いすんなヨ? 逃げたオメーが悪いってワケじゃねえ」
ここで彼は初めてカイロウに目を向けた。
「なァ、隊長。隊長のことだ。新入りを連れて行ったのも根拠があってのコトなんだろ?」
豪胆だが浅慮ではないカイロウは、すぐにその意図を悟った。
「――そうだ。アナグマはフリーでの活動期間が長い。チームでの行動に関しちゃ素人だが、素質は充分にあると判断した」
ここまで言われればジャロワも引き下がらざるを得ない。
「………………」
だが顔つきを見れば納得していないことは明らかだった。
「そういうことだ。これからもアナグマを任務に参加させる。だが適性は常に見るつもりだ。不適格だと判断したらその時は前線から退かせる」
それでいいな?
カイロウの視線はギトーとアナグマ、二人にそう問うていた。
アナグマは深く頷いた。
そして自分の置かれている立場を理解した。
彼は調査団に入ることを望んでいたが、それは目標でもゴールでもない。
いま、ようやくスタート地点に立ったのだ。
だがその立ち位置は危ういものだった。
後ろには何もなく、前には細く険しい道がただ続いているようだった。
足を踏み外したら最後、二度と這い上がってはこられない底に落ちてしまいそうなほどの――。




