4 地下鳴動-1-
「大丈夫だ! 傷は浅いぞ! 手をしっかり握ってろ!」
カイロウが叫ぶ。
その横では衛生兵が肩の裂傷の手当てをしていた。
「隊長、静かにしてください。それは重傷を負って意識障害を起こしている人に対してすることです」
眼鏡の奥の冷たい瞳がぎらりと光る。
この衛生兵は負傷者を前にしても、仕事の一環としか見ていないらしかった。
「む、すまんな」
隊を預かる者として、彼は負傷者を出してしまったことにいささか冷静さを欠いていた。
「傷が浅いのは確かですが」
裂傷部の消毒をおこない、薄緑色の液体をかける。
バイオニドと呼ばれるこれは細胞を活発化し、治癒能力を加速させる働きがある。
軽い傷なら二日もあれば痕すら残らないほどに回復する。
「タングエケベルでよかったゼ。中には毒を持ってるヤツもいるからナ」
ギトーは体を揺すって笑った。
仲間が負傷しているというのに何がおかしいのか、とアナグマは思ったが、周囲を見ると誰も心配しているふうには見えない。
「…………」
これが彼らの日常であり、衛生兵が言ったように大したケガではないのだと彼が気付いたのはずいぶん経ってからだった。
ここが隔壁を閉じたゲートの内側だから、というのもあるだろう。
死者を出さず、収獲も守りきった――これはミッションの成功なのだ。
ゴンドラはゆっくりと地下へと潜っていく。
「初仕事、どうだった?」
ソブレロが気遣うように問うた。
「なかなか……スリルのある任務だったと思います」
どうにか余裕を見せるアナグマだったが、声はうわずり、表情は引きつっている。
怪鳥に対する恐怖心からではない。
フリーで活動していた頃から巨獣には何度か遭遇している。
多分に運に恵まれていたこともあっただろう。
彼はうまくあしらってきた。
だがそれは彼ひとりだったからだ。
巨獣に襲われたとき、仲間がいたらどうすればいいか――。
その経験値は圧倒的に足りない。
「まあ、滅多にないことだよ。今回は災難だと思って」
ソブレロは笑い飛ばした。
「そうですね……」
アナグマはチームで動くことの難しさを痛感した。
カイロウを見やる。
応急処置が功を奏したか、彼はすでに隊長として厳然と振る舞っていた。
(…………)
一隊員である自分でさえ難しさを感じているというのに、彼はその隊をまとめあげている。
アナグマには彼が、とてつもなく偉大に見えた。
(それにしても――)
視界の隅には壁にもたれ、腕を組んで目を閉じている大男がいる。
(……彼が兵団だったとは思わなかった。どおりであんな武器を持ってたワケだ)
任務によっては兵団が随行することになっている。
調査団でも武具は取り揃えているが、その種類、威力とも兵団の比ではない。
彼が同行するにあたって隊員にもその旨が伝えられていたハズだが、何らかの手違いでアナグマには届いていなかったようである。
「お、そろそろだな」
壁面のパネルはまもなく最下層に到着することを知らせていた。




