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1 序章-1-

 耳をつんざく獣の叫び!


 輪唱するようにあちこちから聞こえる不気味な声に、アナグマは舌打ちした。


「聞いてない……聞いてない……!」


 道具袋を抱えたネロは小さな体をさらに小さくしてうずくまる。


「現実から逃げるな。よく聞け、これがブルーバの声だ。ああやって仲間と連携をとっているんだ」


「……ちがう」


 ネロは不愉快そうに返した。


「話がちがう。こんなことになるなんて聞いてない。荷物を運ぶだけのカンタンな仕事だって言われたんだ!」


「大きな声を出すな。奴らに気付かれる」


「おかしいと思ったんだ。二万コームもくれるなんて! こんなことなら安月給でも在庫係のほうがマシだよ」


 抱えていた道具袋に顔をうずめ、ネロは頭を抱えた。


「ああ、ああ、分かった。あとで一杯おごってやる。だからその荷物をしっかり持ってろ」


 アナグマは自分の何倍も丈のある草木をかき分け、泣き言をやめない彼のために先導して道を作ってやった。


「出てきた道とちがう……」


「ここからなら十七番ゲートのほうが近い。あの坂を下りたところだ」


 その後も”ちがう、ちがう”とうわ言のように繰り返すネロを引っ張り、ゲートを目指す。


 獣の咆哮が遠くに聞こえた。


 どうやら脅威は去ったらしい、とアナグマは一息つく。


「こんなの、十万でも割りに合わない……」


 ネロは何度もため息をついた。


「そうボヤくな。ほら、見えたぞ」


 アナグマが指さした先にはトンネルがあった。


 入り口は石やゴミで塞いであるので、一見しただけではそれとは分からない。


「ああ、やっと帰れる!」


 ネロはようやく笑顔になった。


 トンネルはゆるやかな下り坂となって、ずっと奥へと続いている。


 入り口付近で大きく湾曲しているため、外の光はほとんど差し込まない。


 これは外敵の侵入を防ぐのに適した構造だからだ。


 かつては技術的な問題もあり、入り口から出口まで一直線のトンネルが多く造られたが、今ではほとんど見られない。


 周囲に誰もいないのを確認すると、二人は暗闇の中を進んでいった。


 しばらく歩くと頭上にほのかな明かりが灯った。


 等間隔に光る橙褐色のそれは弱々しく、足元まで届かない。


 だがアナグマたちはまるですべてが鮮明に見えているように、悠然と歩いている。


 踏み固められた地面はやがて無機質な金属へと変わった。


 ネロがいそいそと壁面に隠されているボタンを押した。


 壁の一部がスライドする。


 現れたのはところどころが錆びついたエレベータだ。


 無駄な意匠のない、無骨な見た目のゴンドラだが、それだけに実に堅牢に造られている。


 ドアを閉じると、ネロはすっかり脱力した様子で壁にもたれた。


「よくがんばったな」


 ねぎらっているようでアナグマはにこりともしない。


 この男はいつもこの調子だ。


 任務に笑顔は不要、と言わんばかりにまるで表情を変えない。


 クールでニヒルだと本人は思っているのだ。


 だがネロは知っている。


 彼が本当は冷静沈着であろうとしているだけで、その実はアツイ男だと。


「ん? なんだ?」


 視線に気づいたアナグマが訝しげに訊く。


「いや、別に……」


 ネロがふいっとよそを向いたとき、耳障りな電子音が最下層に到着したことを告げた。

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