律儀な小心者
小山 輝の小学校からの評価は、やればできる子だった。勉強でもスポーツでも、やらなくて平均、やればトップにはならなくても10位以内に入るくらいのスペックはあった。が、生まれた時にやる気と言うものを母のお腹に置いてきたのか、物事に対する熱量がなかった。鉄は熱いうちに打てと言うが、打たれると冷める性質の持ち主だった。
それを確定付けたのは、中学の部活動。無難に友人たちの希望が多かった部活に入部し、なぁなぁで楽しんでいたある日、ちょっとしたやる気を出して真面目にレギュラーメンバーを決める試合に挑み、枠を取ってしまった。いつもは80%を出すところ、100%を出したら自分はどんなもんなのかと試してしまい、同年代で数少ない枠を一枠取った結果、友人やいつもレギュラー入りしていた奴とその周囲から距離を置かれ、コーチから期待のプレッシャーが増した。
そして悟った。人間、100%なんて出すもんじゃないと。上の人間には120%を求められ、周囲の人間との関係はギクシャクするだけなんだと。
こうして、駄人間への道を踏み出した輝は、怒られない程度に怠け、しないでいいことはせず、暇があればスマホでソシャゲを楽しみ、気付けば22歳。トレーダーをしつつ小金を稼いで引き篭もる、立派なニートになっていた。
可もなく不可もなく、苦もなく楽もない人生。良いものではないかもしれないが、別に悪いとも感じない輝に、何の悪戯かラノベ的転機が訪れた。
--夢?
『小山 輝さん。すみません、すみません。誤って貴方を巻き込んでしまいました』
思い出すのは、半年位ぶりに日光浴をしようかと思い立って散歩に出て歩いていた時、前を行く色々な意味で眩しい高校生と謎の眩しい光。
目覚めて一番のお決まりのセリフに、秒で考えて出した答えは--。
「だが、断る!」
『ええええ!?まだ何も言ってないんですが』
「死んだら死んだまでで。スマホと通販ないと俺生きてけない自信がある!!黄泉路に旅立ちますんで、お構いなく」
『そんなぁ。困ります。そしたら、私の神格が下がっちゃうんですぅ』
「それ、俺に関係なくね?」
『私には関係ありまくりですぅ』
「あんたの過失に俺が配慮する意味とは?」
『私は神です。神の言うことは絶対なんですよ』
「神なら、自然の摂理に手を加えてはいけません。人間死んだら死んだまで!」
『もっともなこと言ってるぅ。でも諦め良過ぎですぅ。もっと長生きしたいって思うのが人間ってもんじゃないんですかぁ!!』
「俺、細く短く生きたい派なんで。異世界トリップとか、トラ転とか、逆行とかはフィクションでしか許せないタイプなんで。リアルはちょっときつい」
『ちょードライな子がいるぅ。別に自殺願望がある訳じゃないっぽいのに、生存願望もないタイプだぁ。困りますぅ。あ!私の世界は、魔物もいるし、魔法も使えますよぉ?お望みなら、剣の腕も強くしちゃいます!』
「あ、そう言うの間に合ってるんで。俺、スマホで完結する日本的ニート生活で満足してたんで。スマホ使えないんすよね?ネット通販ないんすよね?部屋から出て、筋力と労力と時間使って生活してくくらいなら、人生終了で全然構わないんで」
『そ、そんな・・・な、なら・・・なら、通販、使えるようにします!スマホも!!』
苦渋の決断と言うような神の申し出にも、輝は冷静に突っ込み訊ねる。
「電波ないと意味ないんじゃ。オフラインでもできるパズルゲームより、オンラインのRPG派なんすよね、俺。そも、現代文明と同程度の文明なんすか、そっち?」
『ぅぅう。いいえ。まだそこまではぁ。でも、似せた機能なら・・・アーティファクトって事で、輝さん個人使用なら世界の均衡が崩れるほども無いですし・・・やりますぅ!私の神格のために!!』
そんな破格の設定にも、輝は揺るがぬ精神で簡潔に答えた。
「だが、俺はそこまでして生きたくない!!」
『ええええ!ここまで言ってるのにぃ!?何でですかぁ!?良いじゃないですか、生きてくださいよぉ。アプリケーション機能も、全部は無理ですけど何とかしますからぁ』
「住むとこないし、他人と関わりたくない」
『そんなこと言わずにぃ!あ、こっちの世界はレベルがあるんでぇ、リアルでレベル上げのゲームっぽいことできますよ?』
「自分が動かずにアバター成長させるから楽しいんであって、俺が動いてエネルギー消費するとか、ないわぁ。飛んだら跳ねたり怪我したりしてレベル上げるってことっしょ?ないわぁ。マジないわぁ」
『そんなドン引きしないでくださぃ!ドン引きしたいのはこっちですよぉ!!何でそんなに動きたがらないんですか』
「レベル上げもアプリでできるとかなら考える。あと、写真で撮ったら写った対象の情報検索してくれたりとか、翳したらゲームのインベントリみたく亜空間に仕舞えたり、価値ある物は換金かチャージできて、通販で買い物〜とか。・・・所詮夢物語だな」
駄人間の理想論を言葉にしながら、フッと現実に還りスンッとテンションを下げた。
『・・・・・・や、やれま、す』
そのテンションのギャップに、転生への意思が完全消滅させられかねないと感じた神が、500年程度の神力を消費することになってもやむなしと、自腹をきる覚悟で肯定を返した。
『住む所も用意しますからぁ。お願いします、転生してくださいよぉ』
「どうせなら住むとこもスマホで管理できる設定にしてくれたらなぁ。アイコン1つで掃除できたり、インテリア変えたり、リアル成長型ゲームみたく管理できると暇つぶしになんだよなぁ。何より掃除したくないし。あと、人が来ない田舎希望で。見晴らしがいい長閑な丘の上とかがいいなぁ。魔物いるなら、結界付きで。物理魔法防御できればポツンと一軒家やってても問題ないだろ?スローライフ万歳。あ、結界は個人のスキルにも欲しい。絶対防御的な、魔王に攻撃されても大丈夫なの」
『はいはい、分かりました。人が来ない土地に管理機能付きの住居に絶対防御結界でますね!や、り、ま、す、よ』
「でも、転生って赤ん坊からな感じ?」
『いえ。寿命が既に始まっているので、今のご希望を叶えるのにいくらか貴方自身の命数を削りますが、成人男性のまま転生いただきます』
「削るとどうなんの?寿命縮むとか?」
『いえ、5年分くらい若返ります』
「なぁ、もういっそ木とかじゃダメなわけ?」
『え?』
「俺、働きたくないんだよね。木だったら動かなくていいし。衣食住の心配いらないじゃん」
『何で、人間になんて生まれちゃったんですかぁ』
「それは俺が一番聞きたい」
そんなすったもんだの末、輝は身の安全を考慮したスキル絶対防御結界と、色々な壊れ機能を搭載した輝専用アーティファクト スマホ。そしてそのアプリの一つ、住まいとして活用できる箱庭系ゲームの付属品宿屋を貰い受け、人の来ない僻地へと転生することとなった。
「ったく。何が、ここなら人が来ないだよ。あのダ女神。たった5年で人と遭遇とか」
ぐちぐち文句を言いつつ、スマホの通販アプリを開き、屋外設置型薪風呂を検索する。
因みにこの宿屋は、シミュレーションゲーム仕様となっていて、初めに宿屋と武器屋と飲食店のいずれかを選びクエストポイントでアップデートしていくのだが、客が来ない以上初期レベルのまま。
店舗施設を増設するポイントが無い輝では、宿屋のアプデではなく通販での現物購入によるDIYをする他なかった。
「これでいっかな。あと簀子と棚と、パーテーション的な?お、これ使えそう。ポータブルシャワーも買うか。・・・これ、冷静に考えると掃除も俺か。めんどくせぇ」
宿屋増設ならアプリで掃除含む管理可能でも、通販購入品はアプリ管理外になることに気付いたキングオブものぐさが重い溜息を吐きながら会計を済ませれば、チャージ金額からいくらか消えるが、10桁ある残高の7桁代が減った位だった。
そして何もない空間から淡い光を放ち現物が現れると、早速設置に取り掛かる。
一旦物にスマホを翳すと、光を放ち再び消える。写真のライブラリー的なアプリに収納されたのを確認し、設置場所を決め、表示されているバスタブの写真をタップすれば、情報、換金、取出し、消去のアイコンが出てくる。その内の取出しをタップすれば、三度バスタブが現れた。次に簀子とパーテーションで洗い場を組み立て、シャワーも取り付ける。壁の一部をカーテンで仕切り、そこに簀子とパーテーション、そしてラックを使い脱衣所を完成させれば、簡易ながらきっちりした風呂場が完成した。
「ここは雨降らないしな。ヤローなら、開けてても露天風呂的で気にしないだろうし、充分充分」
満足のいく出来に時間を見れば、既に5時間が経過していた。
「まぁじ、めんどくせぇ〜。晩飯何にすっかなぁ」
取り敢えず、と水の魔石で水を入れ、薪の代わりに火の魔石を入れお湯を沸かす。
キッチンに向かいながら献立を考えつつ思うのは、やっぱり働きたくないなと言う改めての自覚だった。




