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次元の違い

「なぁ、ホントに泊まんの?やめとかない?高いよ?」


 諦め悪く引き留めるのは、誰あろうこの宿屋のオーナーその人のみ。客側は既に宿泊一択だった。


「グダグダ言うのは、およし!こちとら、もう決めてんだよ。金貨5枚払うのはアタイらなんだから、これ以上駄々捏ねんじゃないよ。漢だろ?」

「男女差別はよくねぇよ。働きたくないのに、男も女もない!そして俺は怠惰にいきたい!!」


 堂々とダメ人間発言をかます男に、ナディアの拳骨が炸裂する。


「アンタに拒否権はない!!宿屋やるって決めたのは、アンタなんだろ?グダってんじゃないよ」

「だって、人が来るとか聞いてなかったんだって。ダンジョン高層階なら、宿屋なんてギャグじゃん」

「それでも宿屋を名乗ってるのなら、()()()商人だ。早く受付を済ませろ」

「そうだよ。君は、()()()宿のオーナーだよ」


 ルークの催促に、嫌味を感じさせないのに嫌味に聞こえるウィリアムの同意が、男の心を抉る。味方は誰もいないと悟り、心のうちで血の涙を流しながら創業以来初めて触れる画面に手を伸ばした。


「それは何?」

「受付端末っすけど」


 ローズたちが初めて目にする平たい光る板に、文字らしき何かが記されていた。


「・・・・・・1泊しちゃうんですか?」

「あぁ。取り敢えず1泊で」

「“取り敢えず”って何?その不吉な前置詞いらなくね?」

「気にしない気にしない。ほら、受付続けて」


 一々止まる作業に、ウィリアムは先を促す。


「・・・部屋は、男女で?」

「そうだなぁ。1人一室空いてるかい?」

「まぁ、あるっちゃありますね。ギリ」

「じゃ、それで」

「1人はツインルームになりますけど」

「構わない」


 その答えに、少しの違和感を感じながらも、受付を済ませる為に口を噤んで、頷きだけで続けた。


「んじゃ、名前端からどうぞ」

「俺は、ウィリアム」

「ガイン」

「ルークだ」

「アタイは、ナディア」

「私はローズよ」

「ツインルームのお客さんは?」

「俺だ」


 パーティーの中で一番図体のでかいガインが手を挙げる。


「ウィーッス。なら、1人ずつここに親指当ててください。ツインの人からね」


 薄い板を差し出され、少し躊躇しつつ目線で会話すると、ガインが意を決して勢い良くそれに親指を押し付けた。


「ちょ、壊れるから。親の仇みたく叩きつけんのやめて?!そっと、ソフトに、優しくやって?別に取って食われるようなもんじゃないから」

「そもそも、これは何なの?」

「魔力認証。鍵の代わりに、お客さん達の魔力登録してんの」

「魔力認証?それ、アーティファクトなのか?」


 ダンジョンの宝箱から出現するアーティファクトは、様々な用途の魔道具であり、高値で取引される高級品だ。しょうもない様な用途の低級品でも、大金貨はくだらない代物だ。


「んー、これがってか。この建物自体がそうなんかな。あ、でも一応忠告しときますけど、俺専用のなんで、下手なことしないでくださいね。窃盗犯は、出禁にしますんで」


 事もなげにとんでもない事を言っている男に、冗談の色は伺えない。


「これを売ったら、一生遊んで暮らせるぞ?」

「そも、移築できんのかが謎。それに、建物は所詮付属品なんで。メインは別にある。ま、これ以上は企業秘密で」

「そうか。で、食事はできるのかな?」

「あぁ、忘れてた。昼はやってねんで。飯は夜と朝だけ」

「ダンジョン内で朝も昼もわかんねぇだろ」

「あんたら、時計読める?うちの中は各部屋に着けてんで、あれで確認お願いしやす。食事の時間は・・・んー、夜が6時から9時。朝が8時から10時にしよう。なるべく寝てたい」

「どこまでも、自己中心的理由だな」


 昼夜のないダンジョンで、時間感覚は体感時計しかない。が、地上では街に一つ大きな時計台があり、庶民でも時間は馴染みのあるものではあった。

 ただ、時計は大型で高価でもあるため、皆が持っているような代物でもない。それが、示された壁に見たこともない小さなサイズのものが掛けてあった。

 長針と短針の時計の文字盤に、窓穴から太陽のマークが覗いている時計。今が昼の12時過ぎだとわかる。


「・・・あのサイズの時計は初めて見た。あれもアーティファクトかい?」

「あれはただの魔道具」


 正確に言えば、アーティファクトを含め魔石で動く道具を魔道具と総称するが、一般的に魔道具と言えば、魔石を利用した人工の道具を指す。そして、時計は量産品ではあるが、仕組みが複雑で小型化は難しいとされているものだ。


「どこで買ったんだ?」

「ネット」

「それは何処だ?」

「知らん」


 ルークの問いに、相変わらず謎の答えを返した男に、答える気がないと取って追求を諦める。


「今が昼過ぎだから、夕食は早くて6時間先で。部屋に案内・・・そういや、あんたら男女か。客の風呂が1つしかねぇや。どうしよ」

「1つあれば十分さね。順番に入れば済むんだから」

「そんなけしからん話があるか!女子が入った風呂に男どもが入るのも、ヤローの入った汚水に女子が入るのも、どっちも無し!!お父さんは、そんなこと、断じて認めません!!」


 突然の憤りを示す宿主の宿主的主張に、困惑する客。


「汚水って、そこまで言うか」

「意外に紳士的なのね、オーナーさん」

「なら如何しろと?」

「うーん。仕方ないから、風呂作るか」


 そして着地する宿主的謎解答に、理解が及ぶ者は一人もいない。


「どうやって?」

「ネットで屋外風呂買って設置する。まぁ、出来たら説明する。んじゃま、お部屋ご案内しまぁす」


 話をはぐらかすように始まる客室案内に、だいぶ不安は残るものの、大人しく着いて行くウィリアムたちは、未知のダンジョン以上に未知の宿屋へと歩を進めた。

 2階へ上がると、左右にルームナンバーが彫られたプレートの付いているドアが並んでいた。


「右手奥から、201号室がガインさん、202号室がルークさん、203号室がウィリアムさん。左手手前204号室がナディアさん、205号室がローズさんね。鍵は個人の魔力に反応するようになってるから、登録者しか開かない仕組みになってる。部屋主が中にいる時は許可があればドアが開くけど、許可ないと開かないから注意しといて」

「許可はどうやって出すんだ?」

「『どーぞ』って言えばいんじゃね?俺もその辺の仕組みよく分かってねぇ」

「そんなんでホントに大丈夫なのかよ?」

「俺客じゃねぇし、1人だったからその辺の実証できないまま今ここだし。説明文にそう書いてあんだから、いけるだろ」

「全てにおいて、いいかげんだな」

「大体、使用者の意思を認識して動作するなんて、超高度アーティファクト、伝説にしか聞いたことがないのだけど」

「細かいことは、気にしたら終わりだ。俺はそう思ってやってきた」

「気にしろよ」

「便利ならそれでいいじゃん」

「君は、豪胆だね」

「考えなしなだけな気がするけどねぇ」

「ナディアに一票」

「同じく」

「私も」


 そうして危機感のない男の、何処か気の抜けた設備説明は続いたが、初めて見聞きする高度な道具や設備を見せられ、ウィリアムたちは改めて思う。ここは、宿主込みで、次元のズレた宿屋なのだと。

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