62 闇夜にまぎれて動く。そんな私達は勇者パーティー
私とアリアはセンダイの街を出て1週間後、ミヤギ、ヤマガタの境目、ギリでミヤギ側にあるオオサキの街に着いた。
センダイの街から見て北西の方だよ。
『勇者5』の勇者候補ナンバー6、レオンに会いに行く。
場合によっては息の根を止める。
マサムネ公にだけ、レオール以上の魔族を見つけたから追うって話をした。
そしたら、本来なら機密情報になるミヤギエリアと、隣のヤマガタエリアの詳細地図を見せてくれた。
神器スマホに記録させてもらった。
地図をドロンで映してアストリア視聴者に聞いたら、RPG『勇者5』のレオンの拠点が分かった。
ヤマト世界のレオンがいるとは限らんけど、とりあえず行ってみる。
北の方に走っている。真夜中だ。
レオンがツルオカ侯爵軍を抜けるとき、これ見よがしに西に向かった。
けれど私はドロンの高度を高く上げていた。500メートル上空から、私とダテ伯爵軍で協力して戦うところもはっきり映した。
そしてレオンが少し西に走ったあと、北の方に進路を変えたところも画面にとらえていた。
あとはアストリア視聴者に聞くだけだろ。
リアルレオン立ち位置が分からない。そしてハンサムだった。だからリアルタイムの視聴者が41万人もいる。
「アストリアのみんな、ヤマガタエリアの北の方ってレオン絡みで何かあるか」
『あるぞ聖女。作中のレオンの隠れ家は、ミヤギとヤマガタの境目にあるオオサキの街の西だ。厳密にはミヤギエリアだ』
『ゲーム中では街外れに家を借りて、保護してる子供なんかを住まわせてたな』
『けど、リアルヤマト世界のジペングでは魔族に家を貸す人なんていないんじゃない?』
『あ、そうだ』
『他の「勇者5」の勇者候補と違って、ジペング国内を自由に動けないよな』
『慈愛に満ちた義賊レオンとして存在するのが難しいか』
『リアルレオンは金で何でも引き受けるやつみたいだったな』
確かに、アストリア世界に義賊レオンが実在したなら、魔族だけじゃなくてヒト族もエルフも獣人もレオンを支持する。
けれど、ここは魔族が他種族と争う以前に、自分との同種以外を差別するやつばかりのハードモード世界。
マサムネ公に聞いても、少しだけジペングに住んでいた魔族も、ここ数年でゼロになっているはずだそうだ。
「・・やっぱ、何かの役割があって戦争に駆り出された危ないやつとみた方がいいかな」
真っ暗なオオサキの街に入った。
◆◆
簡単すぎるくらいあっさりと、レオンはみつかった。
私の能力じゃない。神器ドロンのお陰だ。
上空500メートルを飛ばした。1度は撮影した奴だし「レオン」って神器スマホに言ったら、真夜中なのに神器ドロンがくっきり映してくれた。
昔は鉱山があって栄えてたらしい街。その田舎のメインストリートから外れた、一見すると廃墟街。
両側をレンガ作りの古い家に挟まれた20メートルの石畳の道。
そこを一人で歩いていた。
私はMPを2221残している。これなら結界魔装が3回で3時間使える。
アリアはMP満タンで572。神衣、オユキサンを十分に使える。
レオンの魔装は動きにキレがあった。それでも私の方が性能は破格。
だから、戦いになるのならステータス差を生かしてごり押しする。
ダテ家の人達に聞いたら、私が使うような魔装使いは稀にいるらしい。けれどパワーが一気に上がるからMPの燃費も悪い。
レオンのパワー5倍だと、1回の魔装時間は普通で2分、長くて5分程度とか。
私のパワー10倍で1時間の魔装、アリアの低コスト神衣がどれだけ規格外なのか、改めて知った。
◇
レオンの前に出た。相変わらず私は小細工しない。
アリアはとりあえずオユキサンをスタンバイ。
私達は勇者と聖女なのに、隠密行動に磨きがかかっている。
気付かれる前に100メートルくらい近づけた。レンガ作りの古家にはさまれた石畳の道。
月明かりで周りもよく見える。
「よう、レオンだったよな」
「ダテ伯爵軍にいた女か。・・追跡されたか」
「あんときは戦えなかったから、ここで続きやろうぜ」
レオンが逃げたら捕まえようと思ったが逃げない。なぜだろうか。
「まあいいや。魔装同士でぶつかり合ったら古い家がやばそうだけど、廃墟街ならいいよな」
その時、アストリア視聴者から待ったがかかった。
『聖女、アリアちゃん、そっちから見て右側の建物、誰かいるぞ』
『無人じゃないぞ』
『建物の中の影が小さい』
私はドロンの高度を下げて、建物の中を映した。
「最悪だ・・」
「まさか、誘拐されたの?」
子供ばかり5人くらいいる。
そういえば魔族は他の種族を奴隷にしようと目論んでる。
レオンは金で雇われ、ツルオカ侯爵軍の露払いをしてた。
今度は奴隷にするための子供集めをしてやがるのかよ・・
ここで、私、アリア、レオンの3人が魔装、神衣の変身してぶつかり合うと、間違いなく衝撃で石畳は割れる。
建物も壊れる可能性が高い。
種族は分からねえが、子供の命が危険にさらされる。
「サラ、私が子供を守りに行く。だからサラは、あの魔族と戦って」
そうだ今回はアリアがいてくれる。
アリアの神衣とオユキサンの障壁があれば、子供を保護できる。
「結界魔装」
「神衣」
「鬼神魔装」
私達の変身を見て、レオンの身体中から赤いオーラが吹き出し、すごい圧がかかってきた。
アストリアの視聴者に散々聞かされてたのに油断してた。『勇者5』の勇者候補だからって、リアルが善人とは限らないと。
私は腹をくくって、レオンの牽制に入った。その隙にアリアも子供がいる建物に飛び込んだ。
けど、その直後、レオンが予想外の行動に出た。




