54 ストーリーにないはずの戦乱予想
私とシロウはもちろん、アリアも圧勝でベスト16に勝ち残った。
アリアの勝ち方に私も鼻高々だぜ。
そんで日が暮れて激励パーティーが開かれた。
残ったのはエルフが2人、ヒト族8人、獣人族5人、ハーフエルフはアリアのみ。
女子はエルフ、獣人が1人ずつ。ヒト族が3人だ。
伯爵家で用意してくれた衣装を着て参加。
「今日はマジな無礼講だ。楽しんでくれ」
「皆様、しっかり英気を養って下さい」
主催のマサムネ公とイロハ姫が挨拶したな。
このパーティー、ダテ家の家臣で戦闘系の家の人間が、ダテ伯爵家側から参加してる。
ぶっちゃけスカウトだ。
すでに敗退した中にも強いやつはいた。私と戦った鳥獣人もケセンヌマ防衛隊に誘われてる。
ヒールかけた礼を言いに来て、教えてくれた。確かに強かったもんな。
シロウはイロハ姫と談笑してた。
アストリアコメント欄
『アリアちゃんも、獣人女子も可愛い』
『ダテ家の家臣も素敵な人ばっかり』
『聖女、私をそっちに連れて行ってえ!』
パーティー配信は、かなりの破壊力。視聴者からしたら黒髪でタイプが違う美男美女の正装シーンだもんな。
私もにやけそうだもん。
私とアリアにスカウトは来ないのかって?
うん。来ないのは予想してた。だって、あの人が来るから。
「よっ、おふたりさん、楽しんでくれてるかな」
「はい、お招きありがとうございます」
「うん。飯がうめえ」
マサムネ公がやって来た。そして私とアリアを促して、会場隅にあるテーブルに着いた。
ドロン撮影はアリア用でやってる。私用は念のため、200メートル上空から警戒用のレーダー代わりに使ってる。
「単刀直入にいいか?」
「ああ、構わねえ。けど口が悪いからって不敬とか言うなよ」
伯爵は笑った。
「あんたら勇者と使徒だよな。それも女神が選んだ本物だろ」
アリアは予測してても、やっぱり驚いて私の方を見てる。けど私の答えは決まってる。
「ああ。バレてるだろ」
「やっぱそうか。今まで何かしら見えた心眼なのに、緑のオーブ、アリアさん、サラさんだけ、判別不能だからな」
「ああ・・私が使徒、アリアが勇者って見えた訳じゃないのな」
アストリア視聴者のアドバイスにも意識を向けてる。
『なるほど。マサムネ公のキャラとかRPG内では解説のみだけど、リアルならこうなるのか』
『心眼で見えないから、女神絡みと判断したか』
『ストレートだし、読みも鋭いな』
『顔が日本人が言うところの「欧米系」でなければ!』
最後の女子よ、だから伯爵はヤマトではハンサムなんだって。
「サラさん、アリアさん、あんたら優勝しなきゃいけねえ理由はあるのかい?」
「一応は優勝賞品のオーブが目的ですから」
「私は優勝賞金かな」
「じゃあ、明日の試合の結果に関係なくオーブと金を渡すって言ったら、俺に協力してくれるか?」
「え?」「え?」
「いやあ、ぶっちゃけ、この大会ってシロウの試金石に使おうと思ったんだよ」
父親としてのマサムネ公は、イロハ姫をシロウと結婚させていいと思ってた。
イロハは末っ子。上には11人も兄姉がいるし、政略結婚枠も今は必要ない。
けれど、イロハが心眼スキルを目覚めさせてしまった。ホントは、1年くらい前に発現してたけど隠してきた。
これがスパイから他領に漏れ、他の大貴族からイロハへの婚姻申し込みが増えてきた。
だからシロウに託した。イロハを守るため、武闘会で優勝できる力を手に入れろと言った。
それくらいに心眼スキルは価値があるんだって。
「このスキル、トラブルに巻き込まれやすいんだ。俺が12歳で心眼を発現させたとき、混乱が起こったからな」
マサムネ公は先代の次男で第四婦人の子。
第一婦人の子が長子で、頭のデキも良かった。マサムネも、兄が家を継ぐものと思っていた。
しかし兄が成人する寸前、マサムネに心眼が芽生えた。物の真贋を見抜ける眼で、スパイなどを見つけ目立つ存在になっちまった。
マサムネにその気がなくても、長男の家督相続に邪魔になるとみた第一婦人に命を狙われた。
マサムネは死にたくない一心で味方を増やし、最後は第一婦人をハメて長男もろとも処刑台に追いやった。
「ハメたんですか?」
「ああ、心眼で千の真実を言い当て、1個だけ嘘をついたさ」
「どんな・・」
「第一婦人と長男が他国と通じてるって断言した」
寂しそうに笑う伯爵。
今もマサムネ公は、先代の第一婦人の生家から恨まれている。
第一夫人の生家は魔物だらけの山脈で隔てられているけど、西隣に領地を接するヤマガタエリアのツルオカ侯爵家。
マサムネの代になって何度も揉めていて、この武闘会めがけて攻めて来るという情報がある。
コメント欄
『リアルマサムネは背景が少し重いぞ・・』
『「勇者7」もマサムネ公がシロウに優勝しろって言うシーンはあるな』
『ストーリーに沿ってるか・・』
『けど、ストーリーでは武闘会の開催中に西の海からレオールと手下の魔王軍が来るよな』
『げ、下手したら東西から一挙に攻められるのかよ』
「こんな力を発現させちまったイロハをダテ家と友好的な貴族に嫁入りさせようかと思った。けど、幸せになれると思えねえ」
イロハが他領に嫁いでも、物の真偽だけを判別させられるならいい。
しかし心眼は、間違いなく人間の間のトラブル判定にも使われる。善悪抜きにして負けた方から恨まれる。
「誘拐の危険もある。だから3ヶ月前のシロウじゃイロハを守りきれねえと思って、発破をかけたんだ」
「で、武者修行をしてきたシロウは合格か?」
「合格どころか、期待値の上限を上回ってるよ。斬鉄の進化スキルなんて手に入れやがってる」
私達への頼みごととは、西のツルオカ侯爵軍が攻めてきたときの加勢。
けど、『勇者5』のストーリー強制力が働いてるなら東の海から魔王軍も来る。
明日は大忙しになりそうだ。




