50 ようやくミヤギエリアへ
オイワキダンジョンをクリアして3日後、すでに私達はフクシマエリアを出た。
逃げるように出てきた。
ノムコはさすが『勇者5』の勇者候補。レベルを上げたら、2日でミスリルのジペング刀を作り上げた。
持ち手と鞘、アリア用防具も頼んだ。
そっちはノムコの仲間が作ってくれた。ミスリル鉱石、ブルーアリゲータ、ファイアミノタウロス、オーシャンタートルの素材をあげたら、喜んで作業してくれた。
シロウの鞘はトレント素材。アリアの全身防具は耐電性が高い、レベル68のグリーンリザードで作った。
耐電性にしたのは、アリアが盗賊に1メートルの至近距離でビリバリをかけたとき、自分も痺れたから。
それよか、アリアの美しさがヤバい。
今までみたく市販でないオーダーメイド防具。ボディーラインが浮き出てて、アストリア視聴者の反応ありすぎ。
豊かな胸の谷間が青く輝き、ヒップが強調されてる。逆に前はベルトから前垂れみたいのが出てて、股間の形が見えにくい。ドワーフに頼んで、立派なアレが浮き出ない仕様にしてもらった。
前垂れをめくってみたらよ・・うん。隠して正解だな・・
アリア、顔が赤いぞ。
両性なの隠して、女の子のアリアで配信してっからな。
新装備アリアが一回転してみせたらスパチャが計30万ゴールドも投げ込まれた。
ドワーフ全員が2日徹夜してくれて装備が完成。
ところが、予想通りに邪魔が入った。
工房のドアが乱暴に開かれた。
「ノムコ殿、総ミスリルの刀を作ったのは本当か」
港で魔王軍と戦ってた、ご当地勇者が来た。ニセ使徒と兵士10人を引き連れてる。
ヒト族至上主義者だ。
「作ったけど、それがどうした。ノルマ果たせば別の仕事もしていいって契約だろ」
「ノムコ殿、こちらにもミスリル製品を回せ」
「今回のミスリルは100パーセント持ち込みの品さ。鉱石を持ってきた、そこの3人に回してもらえば?」
ニセ勇者はシロウを見た。睨まれて目をそらした。
ニセ勇者は私を見た。睨み返した。顔を赤らめた。・・ん?
ニセ勇者は、真の勇者アリアを見た。
・・出来上がったばかりの高級装備を身に付けたアリアを、嫌な目をして見た。
はっきり言いやがった。「劣等種に、もったいない」
アリアの表情が曇った。
コメント欄
『聖女!』
『聖女!』
『聖女、出番だ』
『お仕置きタイム!』
分かってる。「ご当地勇者さんよ、盾貸りるぜ」
『結界魔装』
全身黒のラバースーツになった私。シロウに隠してた意味はなくなっても、こっちが優先事項だ。
私は、右手に手のひら大のミスリル鉱石を出した。
そんで素早く移動して、ニセ勇者の背中に装着された金属製の丸盾を取り上げた。
この間0・2秒。
私の早業に、警備隊のやつらだけじゃない。シロウ、ノムコも驚いてる。
左手に魔鉄製の丸盾、右手にミスリル鉱石。私が何をする気か、アリアだけ薄々分かってる感じ。
「おめえの盾にミスリルパワーを付与してやらあ」
盾と鉱石を強めに打ち付けた。
バギイイィィン!、と音が響いた。そしたら金属製盾の真ん中にミスリル鉱石がめり込んだ。
盾自体はボコボコに歪んでる。
みんな、呆気に取られている。私は歪んだ盾をニセ勇者の足元に投げた。
「ほら、勇者の盾が出来上がったぞ。受け取れ」
投げながら、フクシマご当地勇者に殺気を飛ばした。
「今回は使徒コスプレでヒーラーの私が穏便に済ませてやる」
魔装を解いて、アリアの肩を抱いた。
尻餅をついて、股間に何かが染み出した当地勇者に言った。
「私の勇者を舐めやがったら殺すぞ・・」
すでにノムコの取り分の素材は渡している。アリアの手を取って、私は走り出した。
「アリア行くぜ。シロウも来いや。ノムコ、またなー!」
挨拶もそこそこに、ノムコ編終了。
コメント欄の反応も悪くない。
何よりアリアが笑ってる。
◇聖女サラチャンネル◇
登録者数812万人
スパチャ累計6620万ゴールド
◆◆
再び私、アリア、シロウの3人になって13日後、ミヤギエリアに入った。
途中で中級ダンジョンを1個クリアした。
ダンジョンで寄り道した理由は、そこがエビ、カニがいたダンジョンだから。アリアが好きなんだって。
ミヤギエリアに入ると、私達の注目度が一気に上がった。
領主マサムネ・ダテ伯爵が信頼する重臣ジュウロウ・カタクラ。シロウはその息子だ。
センダイの南、シロウの父が代官を努めるナトリの街に入った。
居城が見えて来ると、騎馬が10騎走ってきた。
みんなシロウや私達の同世代だ。
「シロウ様、お帰りなさいませ」
「して、成果の方は」
「目的の武器は手に入りましたか」
シロウはトレントの鞘から刀を抜いた。
「サラ殿、アリア殿、このお二人の力添えがあったお陰で、刃どころか総ミスリルの刀が手に入ったぞ」
おおお~と、称賛の声が上がった。
フクシマエリアと一転して、ミヤギエリアでは歓迎ムード。
隣にあるセンダイの街で武闘会が開かれるのが半月後。
・・だったはずだけど、予定が変わってた。
伯爵が優勝賞品が勇者のオーブ、副賞にイロハ姫と言ったから、応募が殺到してる。
特にイロハ姫が付くということは、普通に考えて大貴族・ダテ家の重要ポストも付いてくる。
二千人もの腕自慢な応募者が来て、街の治安もヤバいことになってるそうだ。
だから、明日は早朝から予選会、その後の2日に渡って決勝トーナメントで大会をやることになった。
「受け付けはあと4時間で終了?」
シロウは旅立つ前にエントリーしてる。
「アリア、行くぜ」
アリアをチェキボーから降ろして、私が抱えた。
海岸線を50キロでセンダイ。普通はタイムリミット4時間は厳しい。
「結界魔装」
人がいなくなったとこで変身した私はピッチを早めた。
余裕で受け付けに間に合った。この1ヶ月くらい、何度も魔装を使ってるのに一度しか戦闘に使ってないな・・




