45 人気キャラのバッドエンド回避を頼まれた
サラだぞ。夕べはアリアの食欲がなくなって心配してたけど、一晩寝たら元気になってた。
今朝も頬にちゅってして起こされた。
「おはようサラ」
「おう、おはよアリア」
いつもの笑顔だ。ハルナみたく可愛いぞ。
『勇者5』の人気キャラ、剣士シロウが臨時メンバーに入った。
アストリアファンの間の通り名があり「殉愛剣士シロウ」
私の「守銭奴聖女サラ」と響きは似てるけど中身が大違いだな。
RPG『勇者5』の勇者候補10人の中で、最初から相思相愛の相手がいるキャラ。
勇者に選ぶと、ミヤギの武闘会で優勝して第3のオーブの力を手にする。そしてマサムネ・ダテ伯爵に認められてイロハ姫との仲も許される。
だけどな、苦悩しながら世界平和のために旅立つことを選ぶんだ。
去り際に『私は生きて帰れる保証もありません。例え命が尽きようと、イロハ姫、あなたの幸せのために厄災を討ってみせます』と言って、イロハに涙をこぼさせる。
ゲストキャラのときは、もっと悲しい結末が待ってんだよ。
武闘会で優勝すればイロハ姫をやるとマサムネに言われる。そして決勝進出。
勇者と対戦して傷だらけになりながらも、勝利が見えてくる。
だけど第3のオーブを奪いに来た魔王軍が乱入して、そいつらにイロハ姫がさらわれる。
シロウは勇者と戦ったあとで満身創痍。それでも海岸まで敵を追って切り込む。
魔族のレオールって奴を倒してイロハ姫を救うけど、自身は力尽きてしまう。
シロウはイロハ姫に頭を抱かれながらつぶやく。
『来世では名もなき男女として・・なんの足かせもなく、あなたと出会いたい・・』
うなずきながら涙を流すイロハ姫の腕の中で、シロウは息を引き取る。
どっちのケースでも、結ばれねえんだ。
けどよ、ここはリアルで、女神が仕込んだと思われる『勇者5』のシナリオも中途半端にしか働かないヤマト世界。私は没される予定のキャラを救った実績がある。
第1章で孤児院のシスターとリンカイ男爵、第2章では片方しか生き残らないはずのミリーとマリーを両方助けた。
アストリアの女性ファンのリクエストがすげえ。
『聖女、必ずシロウ様を生かしてあげてよ』
『もちろんイロハ姫と結ばれるところまでがセットよ』
『聖女、成功したらスパチャだすわ』
シロウを死なさないのはできそう。
問題はシロウとイロハ姫のこと。
シロウを優勝させても、実際に使徒ではないイロハにオーブは割れない。
方法は視聴者に考えてもらってるけど、恋愛経験ゼロの私だぞ。他人の恋の橋渡しなんてできるのかよ・・
◆◆
武闘会まで2ヶ月。まずは霊峰タカサキダンジョンにやってきた。
ダンジョンは道幅広めの回廊型。全50階。魔物はミノタウロスとオーガでレベル帯は35~70。40階から属性付きの魔物が出る。
ダンジョンボスはファイアオーガとアイスミノタウロスのセット。
アリアと私は、ナイフ使いとヒーラーだと言ってある。勇者と聖女とは明かせない。
シロウは剣士。レベル44、HP616。攻撃力と敏捷が748もある。身体強化レベル4にプラスして、珍しい「斬鉄」スキル持ち。
アリアへの偏見が心配だったけど、イロハ姫、父であるダテ伯爵にエルフの血が少し混じっている。
破天荒キャラだけあって、それを隠していない。だから家臣も気にしていない。
これを確認するのを忘れてシロウに声かけちまった。差別主義者だったらアリアに嫌な思いさせるとこだった。
よかった、よかった。
◆
もう6階だ。これが合計15回目の戦闘。
ミノタウロスとオーガが1体ずつ現れた。
ドロンが飛ぶ。『アクション』
シロウは居合という技が得意。1対1の戦いに向いている。
「サラ殿、下がっていて下され。きえええ!」
オーガとすれ違いざまに首を斬った。私がみずからをヒーラーと紹介したから、戦わせてくれない。
そしてアリアも負けじと、ビリビリで動きを止めたミノタウロスを魔鉄のナイフ2本で仕留めた。
「すごいですなアリア殿。実戦のレベルが高い」
「シロウさんの技のキレには、かないませんよ」
ハイタッチする黒髪の美男美女をドロンが映すと、アリアファン、シロウファンの両方から、すごい量の書き込みがある。
『シロウ様とくっつくの、アリアちゃんでもいい』
『聖女、頼んだわよ』
なにをだ?
さっき、5階のセーフティーゾーンで休んでから、アリアの機嫌がいい。
ええっと、会話の内容は何だったっけ・・
そうだ、シロウが旅の目的を明かしたんだ。
アリアが聞いたんだった。
『シロウさんは、なぜ武闘会に参加するんですか。勇者になりたいの?』
『勇者には、こだわりはありませぬ。守りたい人がおります』
そこで、私がうっかり言ってしまった。
『シロウは、愛するイロハ姫を守りたいんだよな』
あ・・。アストリア視聴者から教えてもらっていたけど、これってシロウの口から聞いてなかった。
しゃーないから、昨日の夜に酒飲んで漏らしてたって言い訳したよ。
けど、シロウは照れながらも真っ直ぐな目をして言った。
『主君のマサムネ様に認められるほど強くなり、姫を一生守りたいのです』
すると、なんかアリアの顔がぱあっと明るくなった。
『シロウさんは好きな人のために戦うんですね。サラ、2人に協力しようよ!』
シロウがサラ狙いじゃなくて良かったとか、なんか小声で言ってたけど、なんだろな?
まあとにかく、私の勇者が『勇者5・第3章』のルートに乗ってくれることになった。




