42 今度は第3のオーブに向かって
アリアと旅する私は、北に向かう。
『勇者5』なら、チバ編、サイタマ編をクリアして第3章に入る。
イベントがあるポイントは、ミヤギエリアのセンダイ。そこを治めるダテ伯爵が第3のオーブを賞品に武闘会を開く。
コメント欄
『破天荒な伯爵だけど特殊能力を持ってるんだ』
『普段は眼帯で隠してる左目が、物の真偽を見抜くんだ』
『心眼だな』
ダテ家当主のマサムネの元に、女神の神託後に次から次にオーブと思われる物が持ち込まれた。ガラス玉や宝石などがほとんだった。
が、その中に本物があって、それを伯爵が高く買い取った。
面白いことが好きな伯爵は、武闘会を企画して優勝した者にオーブを渡すという。
ここまでは『勇者5』のシナリオと一緒。
ここからは、女神が混乱させたヤマト世界だから起こっていること。
優勝者には副賞が付いてくる。伯爵の娘で、名前はイロハ17歳。
勇者5にも登場するけど、そういう役割じゃないそうだ。
リアルイロハ姫は女神の神託の日、絶妙のタイミングで心眼に目覚めた。
父親と同じ能力者。伯爵だけでなく領内の人々も、イロハ姫が女神に選ばれた使徒だと言い出した。
ダテ伯爵は、ヤマトの有力領主で数少ない別種属受け入れ派。
同じ理念を持つチバのラッカセイ伯爵と繋がりを持っている。
だから武闘会の参加資格に種属制限はない。
使徒イロハから優勝者にオーブを渡させれば、ミヤギの勇者誕生と公言している。
私達も流れに乗る。
RPGの軌跡を辿るから、当然のように寄り道が必要だ。
グンマエリアの霊峰タカサキにあるダンジョン内でミスリル鉱石を採取して、フクシマエリアのイワキに住む特定の人物に会う。
その人はジペングの国には数人しか住んでいないドワーフ族で、鍛冶の達人。
勇者はレベルを上げながらミスリル加工の武器を作ってもらい、武闘会専用の準備を整えるというのがストーリーだ。
『勇者5』はRPGゲーム。だから強い武器はストーリーが進まないと手に入らない。
最初、始まりの街・チバに現れた使徒は「樫の木の棒」しか持っていない。
そこから石のトンファー、鉛のナイフ、銅の剣、鉄シリーズ、鋼鉄シリーズ、魔鉄シリーズと格を上げる。
今回の流れで刃だけミスリルで作った武器を手に入れるけど、あくまでも刃の部分だけ。
総ミスリルの武器が手に入るのは、ゲーム中では第5章からだって。
作品中では、サイタマ編クリア時点で勇者の装備は、銅シリーズ。
だけど、ここは現実世界で私は女神印の能力保持者。すでにアリアにはミスリルナイフ2本、ミスリルインナーを持たせている。
私がヤマト世界に送られた直後、コカトリスを倒してミスリルナイフ2本、ミスリルインナーをゲット。
ミリーと一緒に飛ばされたトコロザワダンジョン最下層でも、ダンジョンボスを倒してミスリル製品を2つ手にした。
ミスリルソードはミリーに渡し、ミスリルナックルガードを私が持っている。
魔鉄の武器も高くて少数ないけど、各地に出回っている。
アストリア視聴者も武器をストーリーに合わせることを要望しない。武器の良し悪しはアリアの命に関わるもんな。
『勇者5』のルート自体は、アリアと配信の旅をする上でも適している。
まず霊峰タカサキには、オーガとミノタウロスだらけのタカサキ上級ダンジョンがある。
フクシマエリアも、ちょうどいいルートに上級ダンジョンがある。
ふたつのダンジョンはストーリーにも絡んでいる。
アリア×勇者5ファンの希望を満たし、私の金稼ぎにも最適ルートになっている。
何よりも、自分が虐げられようと、人々を救いたいアリアを強い勇者にするために私は全力でサポートする。
◆◆
次の日からチェキボーに乗って、北に800キロ。ようやく5日後にグンマエリアの南端にさしかかった。
ここまでは例によって盗賊と2度出会ったが、アリアが軽く倒した。
私はもう2週間くらい戦っていない。
盗賊の持ち物も剥ぎ取ったから、金は増えてる。
アストリア視聴者
『聖女、アリアちゃんにだけ戦わせて戦利品はゲットしてるよな』
『寄生っぽい』
『www』
サイタマエリアでは英雄となった私に、アストリア視聴者は容赦ない。
もうすぐグンマエリアだ。
◆◆
イセザキの街道をアリアとふたり、チェキボーに乗って移動して市街地に入った。
そんで冒険者ギルドに入った。
一応は霊峰タカサキまでの地図と、ダンジョン情報を仕入れるためだ。
そして金を手に入れねば。持ち金が心もとない。
配信収益のスパチャ分だけ、半分をアリアに払った。今の累計が5443万ゴールド。
マクハリ孤児院に寄付の名目で、アリアと連名で置いてきた分を差し引く約束してた。
そんでも、アリアに2281万ゴールドを渡した。
まだ、視聴回数に応じた収益金は計算されてない。予測では半分で1000万ゴールドくらいか。
残金はあっても、2ヶ月で金銭が尽きそうだ。
「いえいえ、ホントにいらないよサラ」
「ダメだ、受け取ってくれ」
「獲物の売却金、サイタマでカスカベ家にもらったお金だけでも多すぎだって」
それじゃ、アストリアの視聴者が納得しねえからと、無理に押し付けた。
アストリアの私の弟妹に金が渡るのもアリアのお陰。意地でも渡すさ。
で、イセザキ冒険者ギルドで、サイタマのトコロザワダンジョンで捕まえた27~28階の獲物を出して換金した。
アリアはマクハリ孤児院に3000万ゴールド送金した。
すると絡まれたんだな。
ヒト族の冒険者で、レベルが35~38の8人。
男がアリアにぶつかってきて、肩が外れたと言いがかりをつけられた。
「どうしてくれる。このハーフエルフが!」
「ホントか、触診してやるよ」。私が間に入った。
回復職の頂点である聖女の私が男の肩をつかんだ。
けど、アリアを馬鹿にされ、ほんのちょっとイラっとしてた。
ゴキッ、バキバキ。「ぎゃあああ」
男は防御力425、私は攻撃力1500越え。触診に力を込めすぎた。
鎖骨を握り潰されのたうち回る男と、剣を抜いた仲間達。
「やりやがったな!」
「ハーフ野郎もまとめてやっちまえ!」
「そういえば、アストリアと違ってヤマト世界の冒険者ギルドってルールはなかったっけ・・」
アリアをディスる冒険者を倒せと、コメント欄が埋め尽くされた。
こういうときだけアストリアの視聴者は、私のことを応援してくれる。




