4 ぶっつけ本番の生配信
間違いばかりの女神が、日本人ではない私を召喚した。その上に戻す場所まで間違えやがった。
「すごいもんくれたから、親切なのは分かるんだけど…」
戻してもらう予定だったレトロの街にこんな場所はない。
ダンジョンだ。それもボス部屋。50メートルの丸い部屋を見渡しても、出口がない。
レベル10、聖女になりたてほやほや。
どうやったら能力を発揮できるのか把握してねえ私。
なのに、目の前に3・5メートルの鳥魔獣コカトリスがいるんだよ。
「コケー」
罰ゲームかよ!
ぴかっ。腕輪が光ってコウモリの羽が生え、カメラ搭載「ドロン」が飛び立った。
『アクション』
「嘘だろ。私、先週はコボルド1匹相手に逃げたぞ」
ダンジョンは、全階層数で区分けしてある。初級、中級、上級、特級、超級と5段階。その中で難易度でランクも細かく分かれてる。
コカトリス。上級ダンジョンの最難関ランク3のダンジョンボスか、特級ダンジョンランク1の上層にしかいない。
ここは入り口が消えた部屋。上級ダンジョンのダンジョンボス部屋かよ。
「ん?カメラが作動して、目の前に神器スマホと連動したデータが…」
コカトリス。レベル80、HP1368。
これが「配信データ」か。
対する私のステータスも表示されている。スリーサイズは出てない。よかった。胸はCカップだけど、ケツがでかい。
私のステータス。召喚前はレベル10でHP80だったかな。
女神の話通り元の10倍。レベル10、HP、MPは各800ある。
HP800。
顔見知りのCランク冒険者がレベル51、HP763。
やつより上なのはすげえ。けど、敵がそれ以上って罰ゲームだろ。
そもそも聖女の力って、どうやって引き出すんだよ。
生活魔法を応用して攻撃するのか?
「初配信だろ。なんでいきなり、勝たなきゃ逃げらんねえ場所に送られるかな」
召喚時、荷物も足元に置いてた。今はワンピースとサンダルの超軽装。
死にたくねえ。ハルナに金も残してねえ。レトロの街の人にも恩返しできてねえよ。
「ゴブリン2匹から逃げてきた私のまんまじゃねえよな」
「能力」を強く意識した。
◇サラ◇
EX 「結界魔装」
AAA「聖女」
AA「無限収納」
A「鑑定」
A「言語ラーニング」
D「生活魔法」
F「身体強化レベル1」
「うっしゃ、トリプルAランク聖女は私のもんだ!」
追加されたのはEXランク。
元はFランクのスキル1個だけだった。「聖女」とセットでもらえたスキル。
Eランクスキルのエックス評価か?
「結界魔装」だから装備か?今は考えてる場合じゃねえな。
とりあえず、使ってみるしかねえ。そしてステータス上昇率10パーセントの身体強化レベル1も併用だ。
コカトリスが走ってきた。
私は叫んだ。
「結界魔装!」『エクストラスキル発動』
EXとはエクストラ、なんかすげえ響きだ。期待大!
叫ぶと同時に、胸の真ん中が青く光った気がした。
そして胸のあたりから、一気に魔力が吸われる感覚。身体強化Fのときも吸われる感覚はある。
けど、今のはその比じゃねえ。
体の中から力が沸いた。そして黒いゴムみたいなオーラが身体を包んだ。
「うおおおお?!」
一瞬で私は全身を黒いラバースーツで包まれた。目は見える。首から上は透明なフィルターで覆われてる。
顔部分だけは透明か黒で変更可能。とりあえず黒にした。
「何だこれ? いや!」
「コケー!」
考えてる暇はない。コカトリスが迫っている。
コカトリスが嘴でつつきにきた。
ギルドで聞いたことがある。コカトリスにつつかれると、低確率だけど石化する。
「ひええええ!」
ビビって足が止まってる。回避できない。私は左手で受けた。魔物との戦闘なんて、めったにしたことがない。まして、拳の肉弾戦なんて皆無。
ガツン!と鳴った。衝撃もない。ダメージもない。
すごい装備だ。
2度、3度とコカトリスの嘴攻撃を食らったけど、大丈夫。
「武器はねえけど戦える!」
MPを確認した。800から100に減っている。
魔装は使用MP700とコストがでかいけど、無敵タイム到来だ。
「こうなりゃ、やることはひとつだ」
しつこく攻撃してくるコカトリス。だから装備を信じて、思い切り右手を振った。
「コケー」「うりゃあ!」
ばっち~ん。カウンターのビンタが入った。
「ゴゲー!」
2回転して倒れたコカトリス。嘴も折れてるし、私のビンタすげえ。
「今だ!」
私はコカトリスに飛び付いた。そして首に腕を巻き付けた。
仕方ないだろ。無限収納をもらっても、まだ中身は空っぽ。
女神の間に召喚されるときに手荷物も足元に置いてたから、ワンピースとサンダルしか装備してなかったんだぞ。
コカトリスも鳥。ニワトリ絞める時は首が相場だ。
「ゴゲー、ゴゲー!」
「離さねえ!」
「ゴゴリュゴゲ…」
パワー漲る! ゴキッと首が折れる音。
勝ちは拾えた感じ。コカトリスの身体から力が抜けてきた。
視界の隅にドロンが飛んでいる。
「あ…あちゃあ」
せっかく初の戦闘配信なのに、パワーアップしたのだから殴るか蹴るかで派手に決めるべきだった。
私とコカトリスの戦いは、地味なグラウンド勝負で決着が付いた。
絶対に映えない。
横たわるコカトリス。以前の私なら、秒で殺されてる相手だ。
「いきなり、死ぬかと思ったよ…」