32 そうだ、サイタマに行こう
私とアリアは、女神が中途半端にヤマト世界に組み込んだRPG『勇者と5つのオーブ』のストーリーに沿って動いている。
アストリアのアリア、『勇者5』両方ファンが、勇者アリアの活躍を期待しているから。
アリアは勇者の枠外にいたはず。けれど使徒である私の一存で勇者にした。
本来は、目の前にいるミリーとマリーの双子を含む10人の中から、普通のRPGのプレイヤーは勇者を選ぶ。
さて、ミリーかマリーを選んだ場合だ。
アストリア視聴者によると、片方が戦死するそうだ。
ミリーかマリーを勇者に選ぶと、最初のマクハリの戦いが少し変わるんだ。
ほら、私達ってマクハリでは孤児院前と街中の2か所で戦っただろ。
あの局面で、何故か双子はマクハリを訪れている。ミリーが街、マリーが孤児院に分かれて街の人と孤児を守るために戦うそうだ。
アストリア視聴者
『ミリーを勇者に選んでおくと、使徒は街に行ってミリーと合流する。だけどその後、教会に行くとマリーが孤児院の子供を守って凶刃に倒れてるんだ』
『逆にマリーを選ぶと、使徒は孤児院でマリーと合流するけど、ミリーが街で敵に囲まれて斬られるシーンに直面する』
そして残った方が、悲しみを乗り越えて勇者になる。
両方選ばなかった時も、やはり片方が亡くなっている。
サイタマ領に南東の谷から入るとミリーと合流。北東から入るとマリーと合流する。そして、その時点ですでに一方が独裁者クマガイの私兵と戦い、人を守って力尽きている。
そして勇者、使徒の力を借りて人民の解放とともに仇打ちを果たすという設定だ。
ひとつだけ言えるのは、勇者、使徒、双子の4人パーティーは話の中では出てこない。
『そうそう。だから、双子がそろうってのはストーリーと少し違う』
『ゲーム上だと「実は彼女には双子の姉妹がいた」のテロップで終わるけど、聖女が行ってるヤマトはリアルな世界だからな』
『ここが時間軸的に、サイタマ編の前だから成り立つのかな?』
色々と臆測が飛び交っている。
とりあえず、双子はリアルな世界の人間だ。女神もストーリー遂行のために、無理に命は奪わんだろ。…と思う。
横では、アリアと私のチェキボーに『従魔の首輪』が着いていないことにミリーとマリーが気付いて驚いている。
「それじゃあ、アリアさんはホントに、チェキボーと友達になったんだ」
「従魔の首輪も着けてないもんね」
「それより……」
アリアが2人に聞きたいことがある。多分、私と同じことだ。
「なぜミリーさんとマリーさんのお二人はハーフエルフの私と、普通に話せるのですか?」
「それはですね」
いい淀んだマリーに代わり、ミリーが言葉を繋いだ。
「他種族への偏見だろ。それは私にもあった。むしろ、マリーに比べても、ひどかった」
2人は領主の娘であり、ヒト族がもっとも優れていると信じていた。
しかし元々は父親侯爵の腹心であったクマガイが、魔族と結託してクーデターを起こした。
侯爵は幽閉され、双子もクマガイの手の者に捕縛された。同じヒト族はクマガイに付いて、敵となった。
政治的に、そんな簡単なものかと思うだろ?
けど今のヤマト世界には、女神ステアが『勇者5』のストーリーを中途半端に組み込んでる。
『勇者5』自体が子供もやれるRPGゲーム。アストリア視聴者の予想だと、ストーリーに沿って動けば難しい政治的要素は避けられるのではないかと。
とにかく、窮地に陥ったミリーとマリーを助けてくれたのが、エルフ族の男女。
奴隷として魔族領に送られようとしているエルフ、獣人の子供を助けるついでだろうが、追手と戦いながら安全圏まで連れていってくれた。
成り行きとはいえ、それまで侮蔑していた種族に助けられた。
それで、トチギの山にある父親の隠し拠点で、逃げ延びた親族達と反撃の機会を伺っていた。
「けど、まだ反抗勢力も整ってないのに、なんでサイタマに戻ろうとしたんだ?」
ミリーは剣を持って戦う才能があり、マリーは火魔法を得意とする。
ただし双方レベル33。2人で軍勢と戦える強さはない。
「助けてくれたエルフの人がクマガイに捕まって、オオミヤコロシアムでサラマンダーと戦わされるって情報が入ったんです」
「それが、あと4日後。クマガイの誕生パーティーのメインイベントって話なんだよ」
それを聞いた勇者アリアは、ためらわない。
「サイタマに行きましょう、サラ」
「分かった」
双子が両方は生き残れない『勇者5』の強制力があるのか否か。
助ける相手がアリアを蔑んでる普通のエルフってのも気になる。
双子をここに置いていくのがベストではないかとも思う。
けど、またも勇者7のストーリーと現実がシンクロしかけてる。
そしてアリアも行く気だ。
リアルタイム配信の視聴者が50万人を突破している。
アストリアのアリアファンも、ここからの展開に興味深々。
行く以外の選択は許されない。




