26 ◆幕間◆アストリアの召喚者
サラがヤマト世界でアリアと一緒に魔王を倒す決意をした。
同じ頃。
アストリア世界の召喚者達も、戸惑いながらも勇者活動を続けていた。
◇◇◇
ザク、バキッ、ドゴッと、長剣、拳、メイスが何かに当たった音がする。
勇者、拳聖、聖女が次々とハイオーク1体に攻撃した。
「ちょっとみんな、オーバーキルだって!」
本来の召喚者である聖女紗羅を女神が次元の狭間から探し出し、アストリアの勇者パーティーに合流させた。
第20代アストリア勇者パーティーが揃った。
早くも低級ダンジョン、中級ダンジョンをクリアして、上級ダンジョンで力を付けている。
「けどさ賢者翼、目が血走った大きなオークが出てきたんだよ」
「そうです、リアルに性欲向けられて、気持ち悪いです」
「女の敵、全滅」
勇者千尋、拳聖亜美、聖女紗羅が口々に答える。
日本で若くして亡くなり、アストリアに連れてこられた召喚者。今回は3人が18歳の女子高生。賢者翼だけが男子で、工業大学の大学院生23歳。
召喚され神託を聞き、素直に魔王討伐の旅に出た。
日本では暴力と無縁だった4人だけど、女神が精神耐性のパッシブスキルを付けている。だから、ヒト型の魔物を平気で倒せる。
ヤマト世界に飛ばされたサラにも精神耐性はセットされている。だから残酷になれるのだ。
そんな図太くされたアストリアの勇者パーティー4人だけど、慣れると思えないことがある。
◆◆
上級ダンジョン全50階のうち20階までサクッとクリアして、今日は予定通りに帰還。
転移装置でダンジョンから地上に出たのだが・・
「きゃ~、出てきたよ」
「すげえ美形ばっか。来て良かった!」
「勇者千尋さん、握手して!」
「亜美ちゃん、こっち向いて」
「紗羅ちゃ~ん!」
「翼さま~~~~」
オオカミが出る森の中にも関わらず、勇者パーティーがダンジョンから出てくるのを待っている男女が50人もいた。
「これだよ・・」
「嬉しいけど慣れない」
「顔がひきつりそう」
「冷や汗」
そうなのである。アストリアでは50年に1度、4人だけ召喚される日本人は『美の化身』として扱われている。
今回も同じだ。
ところが、4人は自他共に認める日本の平凡な顔。むしろ中の下と評価されたこともある。
恋人いない歴=年齢という悲しい共通点まである。
なのに、ヨーロッパ圏から美形ばかり集めたようなアストリア人に、召喚された直後から称賛の嵐。
使命がどうとかいう前に、熱烈な歓迎ぶりに驚いた。
そんな4人なのに、かつての召喚者と比べても人気だ。
アストリアで魔道映像技術が実用化されたのは30年前。
50年前の、第19代勇者パーティーまでとは違い、今回の召喚者の活動は配信され、魔道スマホで見ることができる。
ヤマト世界のサラと同じく、撮影用のコウモリ型神器『ドロン』を各々が持っている。
何を映してもバズる。
すでに悪魔軍の尖兵隊を蹴散らしている。その動画がバズったのは、4人ともアリだと思った。
けれど勇者千尋が筋トレしても、拳聖亜美が踊っても、聖女紗羅が無言でケーキを食べてるだけでも。
賢者翼が海岸で猫を追いかけただけでも。
それだけでネット上はフィーバーした。
4人でレトロの街を歩いただけでも、大騒ぎになった。
吟遊詩人の話でしか聞いたことがない勇者パーティーのリアルな動き。
そしてアストリア人からしたら美男美女4人。早くも勇者パーティーの人気は加熱している。
ヤマト世界のアリアも人気だけど、やっぱり熱気が違う。
ダンジョンから出てくるたび、アストリア勇者の4人は出待ちの若者に囲まれるのだ。
今もプレゼントをもらったり、握手したりと、トップアイドル並みの扱いだ。
「勇者千尋様。馬車の準備ができてます」
「い、いつもすみません」
馬車に乗せられ今日の宿に運ばれたが、女子をエスコートしてくれたのは皆貴族。そして日本人から見ると、美丈夫ばかり。
男子の翼の左右には、ハリウッドスターのような女性ふたりがメイド服を着て付き添っている。
日本ではド平民だった4人は、恐縮してしまうのだ。
宿に帰って配信した動画を確認すると、各々のチャンネルが登録者数2000万人を越えている。
国から支度金ももらい、金銭にも困らない。
チートじみた能力で勇者活動も余裕。
けれど、突然の世界的アイドル扱いに戸惑うばかり。
4人は次元レベルのドッキリではないかと疑っている。




