21 女神のせいでジペング混乱
女神が神託で、ヤマト世界のジペング国に魔王軍が攻めてくると教えてくれた。対抗手段アリ。使徒に力を与えられた勇者が何とかしてくれると。
だけど、その他が説明不足。
女神は、大好きなRPGのオープニングシーンをリアルにやれたことに満足した。
段取りのことを伝えず、特にオーブのありかはノーヒントのまま神託タイムを終えてしまった。
だから、ヤマト世界に生きるジペング国の貴族も含め、人々は勝手に解釈をした。
ジペングの国は大ざっぱにいくと、北の地にエルフ、中央にヒト族、南の方に獣人が多い。
どの種族のトップも違う種族を嫌っていて、自分達が上に立とうと日々暗躍してる。
ヤマト世界のジペングの国では、47の有力貴族の大半が自分の意のままに動く勇者を立てて、国の頂点に立とうとしている。
そして髪の毛を銀髪に染めた女もセットで指名して、その女に使徒を名乗らせてるんだよな。
47人の『ご当地勇者』が生まれるようだ。プラスして、みずから勇者を名乗る『非公式勇者』も山盛り。
ジペングの人々は『勇者と5つのオーブ』の基本設定を知らない。
目の前のリンカイ男爵も、ヤマト世界の人間だから当然知らない。
アストリア人視聴者のコメント欄
『男爵さんの話では、自称勇者が3桁いるみたいだな』
『www』
『女神、1個目のオーブを託された勇者しか、2個目以降のオーブの力を引き出せないって言ってないもんね』
『5人の勇者が出来上がるとしても、中途半端に力を分散した弱体勇者で魔王倒すの無理』
『そもそも、貴族の後ろ盾がある勇者なら、主導権争いばかりして結束しないよ』
『www』
リンカイ男爵によると、チバを治める伯爵は偏見が少ない人物のようだ。だから、リンカイ男爵が代官を務めるマクハリ孤児院に、獣人の子を受け入れることを認めた。
『チバ全体を収めるラッカセイ伯爵も常識人みたいだな』
『チバエリアって基本、初心者冒険者とか部外者が来るから、寛容な領主がいても不思議でないか』
『納得www』
『真剣に男爵の話聞いてるアリアちゃんも可愛いな』
『ホントだ。街の英雄だから、執事やメイドの対応も丁寧だよな』
『良かったよ』
人気RPGゲーム、通称『勇者5』の大事な設定がある。
主役候補は男女半々で10。プレイヤーが選んだキャラが勇者になる。
選ばれたキャラは、何からの形で始まりの街・チバに行き、使徒と出会って物語が動き出す。
オーブは5つあっても、 5人で分けられない。女神の使徒と旅する勇者だけがオーブから力をもらえるのだ。
けど、女神は何のヒントも残してない。
今、私は視聴者に『勇者5』の初期設定を教えてもらいながら、リンカイ男爵と話をしている。
そして本題。
「実は早くも、私の寄親であるラッカセイ伯爵にサラ君の存在がばれてしまったのよ」
そりゃそうだ。私は最初、チバの街に現れた。
アストリアで平凡だった銀髪、青い目の私はヤマト世界では美女。私自身が今でも信じられんがな。
前触れもなく私がチバに現れた↓神託↓魔王軍侵攻↓アリア達と協力して退ける。
誰だって私が使徒だと思うだろ。きっと正解だし・・
「それで、伯爵様は私を連れてこいと」
「私はあくまでも代官だから、拒否はできない」
「美しいサラを連れて来いと命令されたのですか!」
「興奮しないでくれアリア。伯爵様にはアリア、ベン、ハンナも呼ばれているよ」
「へ、私達も?」
「そうだ。サラ君に興味はあるが、今回のキーマンはアリアとハンナだ」
「え、なぜ」
ラッカセイ伯爵は情報通。魔族のきな臭い動きは数年前からつかんでいた。
だから器用なヒト族、魔法に長けたエルフ族、身体能力が高い獣人族が結束して魔族に対処すべきと考えている。
しかし、ヒト族の領主として、民意を考えると大っぴらに自分の意見を言えなかった。
魔族の侵攻を懸念しているときに事が起こったが、それを退けたのは私達4人。
そのうち2人は、猫獣人のハンナ、同族からも嫌われるハーフエルフのアリア。
「伯爵様は君達を民衆の前で丁重に扱い、チバの民に認めさせようとしている」
信じていいかどうか迷っていると、アストリアの視聴者から助言があった。
『あれ、これって勇者5のストーリーにあるぞ』
『だよな。勇者候補、使徒、その仲間に街を救われた領主が、街に残る仲間の支援を約束するんだよ』
『聖女、これは応じた方がいいぞ』
私は素直に頷いた。
「視聴者の助言に助けられてるから、そうするよ」
『けどな、1個面倒なこともあるんだよ』
『あ~あれか。はじまりの街の領主の息子が絡んでるやつだな』
「なになに、教えてくれ」
『RPG中でプレイヤーが選べる勇者候補に、領主の息子が入ってるんだよ。次男坊なんだけど、どんなルートを選んでもゲームの中に必ず出てくるんだよ』
『そうそう』
なんと始まりの街チバ。最初のイベントを乗り越えると、必ずチバ領主に呼ばれる。
そして中央広場を埋め尽くす街の人の前で英雄と紹介される。
そのとき使徒の前に領主の次男が現れ、手を差し出す。
あらかじめプレイヤーが伯爵の次男を選んでいれば、マクハリの戦いにも参加してて、使徒が次男の手を取って一緒に旅に出る。
プレイヤーが選んでいなければ、「僕では力不足か。鍛え直してくるよ」と言って場面が変わる。
RPGの中では遺恨は残らない。だから私も断っていい・・
・・・そんな訳ねえだろ。
『だよな、勇者5はゲームだから簡単に場面が切り替わるけど・・』
『リアルタイムだと、そうならないね』
『領民の前で、領主の息子が公開処刑を食らうんだな』
『そんで、その場に取り残されると』
これって、思ったより面倒な状況じゃね?




