16 臨時メンバーの配信だ
孤児院に行った次の日。
今日からしばらく、4人パーティーだ。
聖女の異世界人サラ、ハーフエルフのアリア。そしてヒト族ベン・レベル10と猫獣人ハンナ・レベル10が加わった。
ベンは火レベル3と土レベル2の魔法適正ありでHP100、魔力は150。
猫獣人のハンナは身体強化レベル4でHP150、素早さ180のスピードタイプ。
どちらも基礎能力に恵まれている。
アリアと私は、すでに中級ダンジョンではレベルが上がらない。予定変更で新顔ふたりのレベルを上げる。
昨日、アリアと話した。
私が女神の使徒か否かに関わらず、チバ近隣ではアリアが強くなれない。
アストリアへの配信のためにも、色んなダンジョンを攻略したりしながら旅に出るべきだろう。
その前に、アリアが大切な孤児院のベンとハンナをレベルアップして、稼げるようにする。
大体、そんな感じで合意した。
もちろん私とアリアでサポートするし、仕上げに私が転移させられた未発見の上級ダンジョンでパワーレベリングしてもいい。
◆
聖女サラチャンネルの登録者数は132万人に増えてる。
スパチャも痩せ気味の孤児院の子供のために、30万ゴールドも投げ込まれた。
コメントに必ず『子供のためだぞ。聖女、ネコバスすんなよ』と付いてた。
しねえよ!
けど、人気がある間はアストリアにいるハルナに金が渡る。
このペースが1年間続けば、ハルナを魔道技術学校に行かせられる。
今度、暇なときにハルナに連絡取る方法を探ろう。
おっといけねえ。
もうダンジョンの5階だった。子供ふたりを連れてるから油断しちゃいけねえ。
スモールボア・レベル22が現れた。これで10匹目だ。
基本は私がボアの突進を手で止める。ベンが土魔法をボアの足に撃つ。ハンナがナイフで仕留める。
ハンナには魔鉄のナイフと鉄の胸当てを貸した。そのまんまプレゼントする予定。
私は普通のシャツとジーンズ、ブーツ。
この格好になって素手でボアと戦ったけど、キックで勝てた。
いざとなれば『結界魔装』もあるし余裕だ。
半日かけて目標の10階に来た。
そんで孤児院に帰宅。ボアの半分を現金にして、半分は肉に解体。
持って帰った肉はシスターと年少者で干し肉にする。みんなで頑張るのだぞ。
そして2日目。
11~19階のミドルボアステージになった。最初は11階。私が獲物を押さえて、ベンとハンナに切らせた。
不細工な戦い方だけど、ふたりの安全を考えると最良だ。
配信しても、さすがに同接の人は少なかった。
だから、ダンジョンに入った直後に気になるコメントに気付けた。
コメント欄
『ねえ聖女さん』
「ん?珍しい、アリアでなくて私に用か?」
『思い過ごしならいいけど、あなたの役割って「勇者5」の使徒だよね』
「多分ね」
『魔王軍のことで気がかりなことあるの。いい?』
RPG『勇者5』の中では邪龍軍だけど、こっちのリアルが魔王軍。ごっちゃになるから、視聴者には魔王軍で統一してもらってる。
ついでにいえば、RPG『勇者5』の邪龍軍は、邪龍教という地下組織の信者で構成されている。
ヒト族、魔族、エルフ族、獣人族、アストリアにいるあらゆる種族が混じってる。
だけど視聴者とのやり取りでは、ヤマト世界の現状に合わせて敵を魔族で統一してもらった。
アストリアの魔族には優しい人も多いぞ。
私もレトロ在住の魔族のおじさんに世話になったことがあるのにな、ごめんな。
コメント欄が続いている。
『勇者5のストーリー通りだと、神託から2日後の今日、魔王軍の尖兵が東の海から来て「始まりの街」近くにいる使徒を抹殺しに来るの』
「え?」
『もちろん、ストーリー上では使徒と勇者候補が出会って返り討ちにするけど、街に被害が出るの。変なこと書き込んでゴメンね。すごく気になってさ』
『俺も気になってた』
『戦場は孤児院前と街の2ヶ所なんだよ』
『聖女サラと使徒を魔王軍が結びつけてるとは思わないけど、気になる』
『魔王軍自体は動いてるんだよね』
最初の意見を皮切りに不安を感じてた視聴者からの意見が増えた。
そうだ。アストリアでは通称『勇者5』のストーリーを簡単に知ることができる。
もしも、その話の世界とヤマト世界の今後がシンクロしたら?
今、幸いにダンジョン11階に入ったばかり。
杞憂ならいい。万が一がある。
「おいみんな」
「サラ、どうしたの?」
「みんな、気になることがある。マクハリの街に帰るぞ」
10階に上がり、転位装置で1階から地上へ。5キロの道のりを走った。
なんもなかったと、笑い飛ばせる結果になってくれと祈った。
しかし…
本当に街から煙が上がっていた。走っていくと沿岸警備隊の詰所は燃えていた。
街よりも孤児院が気になる。
海辺にある孤児院に到着した。建物は無事だったが、シスターが倒れ、子供達が1ヵ所に集められていた。
子供の周りには武器を持った、青い皮膚と黒髪の魔族。
本当に『勇者5』と同じく、魔王軍の侵攻が始まっていた。
剣を持った魔族の足元に、うつ伏せに倒れたシスター。胸の所に血だまりがある。頭に血が昇った。
「シスター!」
「いやあ!」
ベンとハンナの悲鳴。
迷わず、シスターの所に走りながら唱えた。
「結界魔装!」
走る私の胸が青く光った。そして、私は黒いラバースーツに包まれた。
ステータスは10倍増。走る速度も本気なら200キロ出せる、1時間限定の無敵状態。
勝手にドロンが飛び立った。
そして「アクション」
そんなことに構っていられない。
私は戦闘力10倍増。アースドラゴンの攻撃力3500を越える1万3250の超人パワー。シスターを斬った魔族に蹴りを浴びせた。




