12 アリアは泣いても可愛い
黒髪美女アリアと組んだ。
そしてヤマト世界からアストリア世界に向けて配信している。
明日は20キロ北に行って、メッセ中級ダンジョンに入る。
とりあえず初級ダンジョンを攻略して配信の反応も良かったし、チバの街で乾杯だ。
魔石、素材の換金で8万ゴールド。ふたりで分けた。
酒場に行くと、アリアが周囲を警戒している。
「どうした?」
「あの、私なんかが魔鉄のナイフなんて持ってると絡まれそうで」と、落ち着かない。
そうだった。鋳造技術もアストリアに比べて遅れてるヤマト世界では、魔鉄製品でもアストリアの5倍くらい貴重。
ミスリス製品なんて、貴族の家でも満足に揃わんらしい。
だからアリアが隠すんだな。
そういえば、隠すのにいいものがある。
「10メートル収納指輪やるから、それに入れとけ。私は大容量のやつあるから」
普通の指輪を見せて、無限収納をごまかしてる。
「え? なおさらダメですよ。5メートル収納指輪だって、チバ領主の家宝だって聞きますよ。10メートルなんて、命を狙われるレベルです…」
「じゃあ、アリアの配信収益から差し引くよ」
「そんな。私を映しても、そんなにお金になるわけないですよ」
「大丈夫だって」
「なにを根拠に…」
アリアの人気がすげえ。
スパチャ、要するにアリアへのプレゼントで、今しがたチェックしたら60万ゴールド。
折半して、アリアの配分は早くも30万ゴールド。
初の異世界配信、美女、おまけ同伴者が女神に選ばれし聖女。
そこにダンジョンで稼げる目処もある。相乗効果で、早けりゃ3ヶ月で返済終了だろう。
「う、うそですよね。私、先月も経費を除いたら8万ゴールドくらいしか残らなかったのに」
「ま、個人配信の人気って永続的なもんじゃねえ」
「それでも、すごいです」
「でーじょーぶ」
アリアなら、最低でも2年は人気を維持できる。
私はアリアと冒険する合間に、自分の素の頑丈さも確認した。ミスリルインナー、ミスリルナイフをアリアに貸す。
2年使えば大幅レベルアップ間違いなし。
そうすりゃ、基礎ステータスのハンデを覆せる。
いずれ配信で食えなくなっても、普通に冒険者で食っていける計算だ。
親切?
まあ、拘束時間も長げえから、ケアしねえとな。
私、人の善意に助けられたから、生きてこれた。助けてくれたレトロの人は、誰も見返りなんて求めなかった。
だから、孤児院のチビやハルナを間接的に助けてくれるアリアには、義理果たしてえ。
会って2日目でも、そう思うぞ。
あっと、マジになっちまった。
「…夢みたいな話です」
「収納指輪は契約金代わりでもいいぞ」
「それはダメです」
「頑固だな」
「アーティファクトの品物を軽く渡すなんて、人がいいにも程があります!」
ミスリルナイフ2本入りの収納指輪は強引に左手中指にはめた。パワー差が生きた。
なんだかんだ言って、いい気分になったアリア。
エールで酔って、にへへと笑ってる。
私は内臓まで頑丈になってるのか、あまり酔わない。
もちろん生配信。コメント欄とアリアで会話してる。
『リモート飲み会みたいだ。アリアちゃん乾杯』
『乾杯』×300。
「ありがとうごさいます。かんぱ~い。お金のこと気にしないでお酒飲めるの2年ぶりです」
ぐいっとエールを飲んだアリアが黙った。目に涙が浮かんでいる。
私は画面に見切れている。
「………」
『どうしたのアリアちゃん』
「私、ハーフエルフです。この世界で、闇属性、獣人と同じように劣等種と呼ばれています」
『なにそれ。アストリアでは闇属性も獣人も個性だぞ。考え方が変だ』
『私、魔族で闇属性だけど聖属性の友達いるよ』
『俺は普通の人間で、嫁は猫獣人』
『これからは聖女や私達がいるよ。負けないで』
「ありがとうございます。アストリアの方々に触れることはできませんが、うれしいです」
『頑張って』
「最近はどこに行っても辛かったです。けれどサラと会えて、いっぱいアストリアの方々に応援していただいて、普段は売ってもらえないふかふかのパンが買えて、幸せです。う、うう」
『パンもお肉も食べて元気出しで』
「はい。お酒も、お肉も、パンも…お、美味しいです。ほんとに、ほんとに、ありがとうございます」
おいおい、同時接続が24万?
一桁の部分、カウント速すぎ。目で追えねえ。
「今までで一番美味しい食事です」
『ほら、これでエールお代わりして』1000スパチャ。
『じゃあ僕からは、お肉代』2000スパチャ。
そして次々とお金が投げ込まれた。
「ありがと、みなさん、ありかと・・うわああん。嬉しいですう~、うわああん」
泣き出したアリア。
アリアの泣き顔に、励ましコメント、スパチャの嵐となった。
聖女サラチャンネル。登録者数、一気に96万人。
この中に、私のファンはいるのだろうか?




