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2.

「――うちと沙耶の家は、ライバル同士なんだ」


 司は水色のキャップを目深にかぶると、ぽつぽつと語りだした。


「小さい頃は、よく一緒に遊んだんだ。いわゆる幼馴染ってやつ。だけど、中等部に上がる時くらいからかな。親が、仲良くすることに渋い顔するようになって。……それから、沙耶とは疎遠にならざるを得なくてさ」


 ライバル企業の跡取り同士が親密すぎては、周囲の者たちの誤解を招く。身内の心象も悪いだろう。そういう理由で、司たちは沙耶と引き離された。

 沙耶の家族が引っ越したのもその一環だ。新幹線で一時間半はかかる距離のところに家を新築した。それ以来、家族の見張りが厳しくて、お互い、会うのが難しくなった。


「……と言っても、スマホがあるから連絡するのは簡単なんだけど」


 その沙耶からも、昼前から返事が返ってこない。部屋の状況からして、朔は自らの意志で出て行ったのだろうが、スマホの画面からは沙耶の事情までは読み取れなかった。


 司は隣に座っている吸血鬼をちらりと見た。電車に乗り込んでから、随分と静かである。それもそのはず、彼は、周囲の視線を浴びて、小さく縮こまっていた。タクシーを呼ぼうとしたのだが、運転手は人を覚えようとするから苦手だ、と自分が嫌がったのだから仕方ない。


「ふうん……」


 吸血鬼はマントの中に身を隠そうとしながらも、興味深げに手元を覗き込んできた。


「――で。すまほって何?」

「……え?」

「その、ラベンダー色の小さい板みたいなやつのこと?」

「――もしかして、スマホを知らないのか!?」


 思わず立ち上がってしまい、彼へ向けられていた視線が司に集中した。司はさらにキャップのつばを下げると、そそくさと座り直した。


「しょうがないじゃん。人間の社会は流れが速すぎて、ついていけないんだよ」


 吸血鬼は唇を尖らせた。しゃべり方といい、言動といい、あまりにも幼くて、司の中の吸血鬼像がガラガラと崩れていく。


「とにかくまあ、金持ちのお嬢様二人が突然いなくなったわけだけど、君は、誘拐の線は疑っていないわけだ」

「……え?」

「いくら部屋が荒れていないと言っても、出かけた際にかどわかされた可能性はある。けど、その可能性は全くないと?」


 司はぎくりとして吸血鬼を凝視した。彼は、にやりと笑って付け足した。


「だってそうだろ? 警察に連絡しないで僕みたいなのに頼るってことは、(おおやけ)にしたくない事情があるってことだ」

「――それは……!」

「あ、着いたようだね」


 司が言い返そうとしたのを制するように、吸血鬼が立ち上がった。電車が停車してドアが開くのと同時に彼は飛び出していったので、司はもやもやした気分のまま、見失わないよう後を追うので精いっぱいだった。


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