9. 孤独と孤立
初めて屋敷へ連れていかれた日から2年が過ぎる頃には、私と家族の間には埋めようのない大きな溝ができていた。
家族を救ってくれた恩人。それを自分も恩恵を受けていながら(実際がどうであれ、彼らは私が一番おいしい思いをしていたと信じて疑わなかった)、それでも、彼を悪く言い、癇癪を起こし、あろうことか家族を責め立てる。
だんだんと私という存在を疎ましく、憎たらしく感じていたことは明らかだった。
家族だった人達は己の感情のままに私に罰を与えた。
それは食事だったり、着るものだったり、態度だったり、かける言葉だったりした。
どれも、幼い私には家族から与えられることでしか得られない、かけがえのないものだったと思う。毎日が辛かった。
けれどあの男の前では、彼らも我慢を強いられていた。
小綺麗に見えるように私を整え、娘を愛しているように振る舞っていたが、きっと内心で苦虫を噛み潰していたことだろう。
滑稽だった。
家族は男に見せるために、男は家族に見せるために、各々が知らず同じことをしていたのだから。
しかし、彼らもやがて気づきはじめる。
男も、家族も、互いが私をないがしろにすることになんとも思わないのだと。次第にそんな取り繕いすら、施されなくなっていった。
ただ、男は私が極端に痩せ細ると、家族への支払いを減らしたため、飢えることはなかったが、日によって扱いが極端で、何も食べない日があったかと思えば、思い出したように無理やりたくさんのものを食べさせられることもあった。吐き出すと仕置きされるので、それが余計に辛かった。
その目的が、より多くの血液や皮膚、髪、爪、それら私の身体を得るためのものだと思うと、余計に。
そうして家に居場所がなく、必然的に家から逃げ出すことが増えていった。外を歩いていても、もう誰も私があの家の子供だとは気がつかないらしかった。
それもそうだ。あんな姿では、きっと流れの孤児にでも見えていただろう。
だから、居場所は外にもなかった。
はずだった。