6. 食卓にて
席に着くなり、今さらながら自己紹介が始まった。
「僕はヒスイ。気になると思うから先に言っておくと、右目は光に弱いから髪でおおっているんだ。見えてはいるから、心配しないでね。ついでに料理は僕が作りました。」
そう言ってヒスイはにっこり笑って見せた。
私もつられて頬が緩む。
「俺はレイノルド、レイと呼んでくれ。食材は俺が調達した。」
レイは1度力強く頷くと、満足げに自己紹介を終えた。
「それだけ?」と、ヒスイが驚いたような呆れたような声を出したが。何がいけないのかわからないという風にああ、と頷いていた。
なんとなく彼らのことがわかる気がするやり取りだった。
最後は白髪の男だけだ。
目が合い、それを合図に男が口を開いた。
「私のことはキョウと呼んでください。」
「それだけ!?君たちほんとにさあ…」
頭を抱えるヒスイが面白くて少し笑ってしまった。
それを見て安心したように、ヒスイが言った。
「まあいいか。食べよっか。」
みんなの料理を前に待ちきれない空気を察しての素晴らしい判断だ。
その一言を皮切りに、食材への感謝と共に各々スプーンを手に取る。
ふと、私の方を少し心配そうに見ているヒスイと目が合った。
「君、まる2日も眠ってたんだよ。だから、急にたくさん食べたら胃がびっくりしちゃうから、スープにしたけど無理しないように食べてね。」
子供に言い聞かせるような少し幼稚な言葉選び、優しい口調。
私にはそれがくすぐったくて、やっぱり嬉しかった。
「ありがとうございます。」
2日3日くらいなら何も食べずに過ごすことはあった。
食べられないほど怪我してしまった時や、私の分のご飯がなかった時。
(だけど、そんなことを今伝える必要はない…)
有り難く気遣いを受け入れることにした。
野菜がたくさん入った透明なスープ。おいしそう。
そっと掬って口に運ぶと、温かくて優しい味で、心がほどけていく感じがした。
「おいしい!」
「よかった。」
私が食べ始めるのを見守ってから、3人も食事を始めた。
子供扱いされるのも、同じ食卓で誰かと温かい食事をとるのも本当に久しぶりで、嬉しくて、嬉しくて、
気がつけば、いつぶりかわからない涙を流していた。
3人は顔を見合せ、戸惑っている。困らせてしまった。
「…ごめんなさい、おいしくて。」
可哀想な子供だと思われたくなかった。
面倒な子供だとも。
俯いてこらえていても、涙がスープに落ちて水面が揺れる。
早く泣き止まないと。
「本当に、おいしいですね。」
顔をあげると、キョウが笑っていた。
「僕の腕がいいからね」
と、得意げなヒスイにレイがすかさず反論する。
「食材が新鮮なんだろう。つまり俺の目利きのお陰だ。」
そのあとも、私が気を遣わないよう、茶化しあってくれている。
涙が溢れて止まらなかった。
「ゆっくり召し上がってくださいね。」
「ありがとう…ございます…っ」
ああ、なんて温かいんだろう。