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4. 目覚め


ぼんやりしている。

頭に霧がかかって、体も亀のようにゆっくりとしか動かせない。


ここに連れてこられると、いつもそうだ。


「君には価値があるんだ。その髪も、爪も、血液も皮膚も眼球も心臓もなにもかも。もっとも、その価値は生け贄としてのものだけれど、ねぇ。」


男は私の髪を掬うと、楽しげに手に乗った束をハサミで切り取っていった。はらはらと床に落ちていく髪をただ眺める。今日はいつにも増して上機嫌だ。


「これまで君には私が必要とする時に新鮮な素材を提供する保管庫の役割があったが、惜しいけれど、今日でそれも終わりだ。」


男は人差し指ですっと私の左胸を示すと、


「次はこれが必要なんだ。まだ動いているくらい、新鮮なものが。」


その言葉の意味を理解するより早く、男の手が私の喉元に伸びる。


「抵抗されても困るし、そうだな。血液もなるべくたくさん欲しいから、そのあとで……」





「……っ!」


そうか。

生きてるんだ、私。


悪夢から目覚めたにしては穏やかな気持ちだった。

生死の危機が遠退いたからなのか、あるいは動揺するだけの力も残っていないのか。

きっと両方だろう。


そこでようやく、自分が知らない家の寝台に寝ていることに気がついた。ご丁寧に手当ても済んで新しい衣服に身を包んでいる。

ゆっくりと体を起こして袖を頬に当ててみる。

肌触りのやわらかい、真っ白なシャツ。

着ているだけで安心するような、こんなに着心地の良い服を着るのは初めてだった。


「お目覚めですか。」


はっとして声のした方を見ると、戸口に男が立っていた。

腰よりも長い白い髪は、絹糸で束を作ったように美しく、その持ち主も、男性とは思えないほど儚げで美しかった。

もちろん、その体躯を見るに、彼が男性であることは疑いようがないのだが、それでも頭の中では女神様のようだと考えてしまう。


その女神様が、春の日差しのような優しい笑顔を浮かべ、再び私に問いかけた。


「そばによってもよろしいですか?」




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