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31. 王家と王族


王都の中心には高い城壁に囲まれて深い焦げ茶色のレンガ造りの城が座している。屋根は濃藍色の鋭い円錐状で、壁の外から覗く屋根の数からも敷地内に多くの建物が存在していることが見てとれた。


王国グラッサルにおいて、この広大な王城は、王家と王族の住まいであると同時に政治機関の中枢施設でもあった。

これは、周辺諸国を見てもまれな例であり、大抵の国は王城とは王族の住まいであり、政治機関としての役割は王への謁見や一部の小規模な議会にとどまっており、主な政治機関は王都内に分散して配置されている。


一見すると要所の集中という城攻めにでも遭えば一溜りもなさそうに思える配置だが、そこにはこの国の背景が大きく関係していた。


まず第一にそもそも城攻めに遭いにくいという点だ。

この国は今まで幾度も他国からの攻めを受けているが、それら全ての戦線を国境近辺にとどめ、退けていた。これは、地形による恩恵と、なにより魔法による戦力差のおかげだった。


そして第二に、各中枢機関こそ王城に集中しているが、その下に連なる施設は王都に存在しているため、万が一中枢が停止した場合にはそちらを一時的に中枢とすればいいため、大きな問題ではないのだ。

本来であれば王城との行き来や同じ機関が点在していると業務効率が落ちそうなものだが、移動魔法や書類や物資の転送魔法によって問題なく稼働していた。


そして最後に、同じ場で過ごすことによる王族と王家との関係強化のためである。


王族の条件も、グラッサルと周辺諸国とでは大きく異なっている。

王族とは、王家の血筋を引く者のことではないのだ。


その能力により、上位貴族から国王と元老院による推挙、承認を経て、貴族領地の経営に代わって国の運営に関わる役職を与えられた適材適所に能力のある者達を王族と呼ぶのだ。

他国で言うところの大臣が近いのだが、それとは違って一代限り、かつ原則生涯その任にあたるというのが特徴だった。


それゆえに、この国において無能な王族などという概念は存在しない。

王族とは、その立場にあるだけですでに有能と国家繁栄への忠誠を証明しているのだ。


一方、王家一族においては他国同様血筋による継承制だ。


彼らは血筋かはたまた生育環境によるのか、いずれの代も王族を率いるにふさわしい能力と人格を備えており、万が一にも王家にふさわしくない人間は、これも国王、元老院の判断によって速やかに臣下に下ることとなっている。しかし歴史を振り返っても、その事例に相当する人物は極めて少なく、加えてこれに諮問機関の怠慢や忖度はない。


"この王家にして王族あり、この王族にしてグラッサルあり"

とは、この国を民達が称える際によく使用される言葉だった。


そうして王家のため、あるいは国のため働く彼らの多くは王城勤務だ。

一部の王都に屋敷を持つ者は通いで勤めているが、希望者や首都からはなれた場所に領地を持つ者には城の居住区が与えられていた。

そんなわけで城への人の出入りは限られているといえどけして少なくはない。


キョウは人目につかないように移動しながら、ここ半月ほど彼の手を煩わせていた一件に先ほどようやく目処がついたことに安堵していた。


城の警備は厳重だが、悪意が内部にいる可能性がある以上、やはり極力森で過ごしていた方がいいことは明らかだ。


城の一角、西側に位置する建物は、 この城の多くがそうであるように濃茶のレンガ作りではあるが、他の建物に比べるとさらに黒ずみ、年季が入っている。


それは屋内も同じことで、はめ込み式の錆が浮いた大きな窓や、歩いていると時々足を取られるガタついた廊下からもこの建物の長く過ぎた年月を感じ取ることができた。


キョウは足早に目的地へ向かう途中でふと足を止め、よく磨かれたガラス窓から空の様子を伺った。


午前中から昼にかけてはよく晴れていたが、今はもういつ雨が降り出してもおかしくないほど どんよりと重い雲が垂れ込めている。

これは早く帰らないとまた森に帰りそびれてしまう、と再び歩みを進めたところで、柔らかい声が彼を呼び止めた。


「お久しぶりですわね。」




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