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20. 定例会


どこからか風が通り抜け、入り口の扉が低い音を立てて閉じた。


「トーリア、明かりを。」


男がメガネの令嬢に声をかけると、まもなく教会の壁にぽつりぽつりと設置されている燭台に明かりが灯った。

暗闇にのまれていた教会内がろうそくの不安定な明かりに照らされ、各人の姿がぼんやりと浮かび上がる。


「では、近況報告をお聞かせ願えるかな。」


壇上の男が呼びかけると、酒を煽っていた垂れ目の男がゆらゆらと手を挙げた。


「じゃあ俺からだ。」


男は座り直すと、酒瓶を椅子に置いた。


「魔法席ルイスの暗殺に成功後、我らがターゲット様は早々に王都を離れ、現在の行方は不明。そして、その事実については暗殺事件よりも厳重に箝口令がしかれている。ま、ここまでは想定内だろう。だがな、」


男は声を潜めた。


「やつは今も王宮にいて、政務をしている。」


「なんだって?」


最前列の目付きの悪い男が思わず口を挟んだ。

それに追い討ちをかけるように、ずっと腕を組み沈黙を守っていたオールバックの男が言った。


「それに関しては軍部でも証言や目撃情報があがっている。そして、実際に俺もこの目で見た。」


「!」


程度に差はあれど、全員の顔に驚きの色が浮かぶ。

同時に畏怖や懸念、苛立ちも。


「どういうこと!?まさか、ルイスの他にも影武者がいたってこと!?」


トーリアと呼ばれていた眼鏡の令嬢がヒステリックに声を荒げた。

そんな彼女に、もう一人の令嬢が振り返って声をかけた。


「落ち着いてトーリア、少なくともそれはないわ。」


「どうして言いきれるのよ!あの男は…っ」


言葉の途中で、トーリアは息を呑んだ。

彼女の視線に気圧されたのだ。

彼女の瞳は特別製だ。

見られている者に全てを見透かされていると確信させる何かがあった。

トーリアが勢いを失ったのを確認すると、彼女はふ、といつもの花のような笑顔に戻って言った。


「だって私、一瞬だけど見たんだもの。"あの子"の瞳で、あの男を。」


「それは、確かですか?クイン。」


眼鏡をかけた男が落ち着いた声で彼女に尋ねた。


「ええ、間違いありませんわ。セプテム。」


それを聞いたセプテムは、何か考え込み、少しして壇上の男に向き直った。


「デュオ、場所の検討はついている、と考えていいのかな?」


壇上の男ーデュオは、微笑した。


「勿論だよ。」


「いいのか?悪い顔してるぜ、お前。」


最前列の男が愉快そうに笑っている。


デュオは口元に手を当て、僅かに喉を鳴らした。

「ああ、失礼。セキスに言われると僕も形無しだ。」


セキスと呼ばれた目付きの悪い男は、ふん、と鼻をならし、皮肉たっぷりで言った。


「で?確かお前、いよいよって時に逃げられたんだったよなあ。その逃げた子供と、俺らが始末したいあの男が今一緒にいるってのか?」


「あらセキス、私の魔法を疑っていますの?」


「まさか!ただあまりに俺たちにとって都合のいいことだったんで驚いただけさ。この俺が"13大の魔女サマ"を疑うなんてとんでもないよ、クイン。」


クインが笑顔のままで口を挟むと、セキスはわざとらしく両手を上げて見せる。が、すぐにデュオに向き直り、挑発的な視線を投げた。

「それで?どうするんだ?」


デュオは抑揚のない声で穏やかに言った。


「"家畜"が飼い主に噛みついたんだ。相応の処分を与えるのは当然だろう?ただ、あの男と一緒にいる場合、一筋縄ではいかないだろうから……ノーエン、頼めるかな。」


オールバックの男、ノーエンが厳めしい顔のまま頷く。


「俺は何をすればいい?」


「まずはあの男が王都に戻らざるを得ない状況を作り出してほしい。そうだな…内戦の火種をちらつかせてやるなんてのはどうかな。」


「 実際に起こすところまでしなくていいのか」


ノーエンはなんてこともないように返す、


「あの勘のいい男に気づかれずにそこまで実行するのは正直言って現実的ではないだろう。それよりもむしろ、水面下で鎮火可能な火種程度で納めておいた方がやつをおびき出すには適していると思う。」


「わかった。」


まるで世間話でもするように国家反逆を企てる二人に、トーリアがたまらず待ったをかけた。


「ちょっと!たかが1人の人間をおびき出すためだけに内戦まで持ち込もうっていうの!?」


「ああ。」


「まあ、相手が相手だし。」


二人がさも当然といった風に話すので、だんだん自分の方がおかしいような気になりながらもトーリアは食い下がった。


「 それはわかるけど……そもそもの目的があの子供を孤立させることなんでしょう?そのためだけにそこまでしようだなんて。」


そこまで聞いて、最初に発言した男が酒瓶で彼女を指した。


「わかってないな、トーリア。それだけの価値があるんだよ。"触媒体質"ってやつには。」


トーリアは突如自分の話を遮った男をじとりと睨み付けた。

最も、そんな目元は彼女の長い前髪と大きな眼鏡に厳重に隠され、男には見えていないのだが。


「例えばそこでセプテムが読んでいた本。本来はこんな暗闇の中では読めないはずだ。しかしこいつは問題なく読めていた。なぜだ?」


「そんなの、眼鏡に暗いところでも読めるよう、光を調節する魔法をかけているからよ。」


「その通り!このように物や人に魔法をかけることは一般的にも行われている。けれどそれは単純な魔法やごく一部の魔法に限られている。効力だって強くはない。」


「馬鹿にしてるの?オクト。」


これらは学園初等部レベルの話だった。

それも、入学したばかりの新入生がはじめて行う実習レベルの。

トーリアが気分を害するのも無理はなかった。

しかし、オクトは構わず続ける。


「だが、これをあらゆる複雑な魔法にも効力を失わず、しかも付与の対象も、使用者さえ選ばず使うことができたら?」


トーリアの表情が変わる。オクトとデュオはにやりとした。


「あり得ない……」


「そのあり得ないことが可能なんだな。触媒体質サマを利用すれば。」


オクトが言い、デュオが付け足す。


「彼らの体の一部を魔法に転用すれば、あらゆる物や人に、どんな魔法であっても、際限なく、付与することができるんだよ。

ね、価値があるだろう?内戦の一つや二つ、安いものだと思うんだけどな。」


誰かが生唾を飲み込む音がした。

触媒体質については謎が多い。

学園でももはやお伽噺の中の物のように語られ、その実態については文献もほとんど存在しない。

そのため、これは長らく実際に実験をしてきたデュオの経験に基づく話で、つまりデュオの堅実な性格を知る彼らにとって最も信用に足る事実だった。


「だが、それならどうしてそんな金の卵を産む鶏を殺す必要があるんだ?」


ノーエンが素朴な疑問をぶつけ、デュオがそれにわざとらしいほどの困り顔で答える。


「あの男を殺すにはそれしかなかったんだよ。いくら触媒体質が万能であっても、未知の格上を相手にするんだ。完全に優位な条件で、確実に仕留めたかったんだ。

と、なると相応の犠牲が必要だったんだよ。」


「 それが触媒体質サマ本人の命ってわけね。」


セキスが意地の悪い笑みを浮かべて言った。

長椅子の上で器用に寝返りをうって頬杖をついている。


「まあね。色々と試してはいたんだ。どうすればより強力な魔法を組み込めるのか。なんなら術者が発動するより強力なものがいいってね。その結果、いくつかの法則がわかった。」


「法則?」


「そう。例えば、触媒体質の誕生日に魔力量が高まりやすいとか、より苦痛を感じさせた方が、あるいは命の危機に貧すると飛躍的に魔力が高まる、とかね。」


しん、とした。

皆それぞれに何か考えているらしい。

デュオは満足げに目を細める。


「諸君、僕らの信念 を実現させるには あの男はどうしたって邪魔だ。しかし言い換えればあの男さえ排除してしまえば僕らを止められる者はいなくなるんだ。」


全員の顔を順に見渡すと、それぞれが決意の籠った目で注目していた。


「もちろん、水面下で計画の方も進めていく。大忙しだよ。

さて、そっちの進捗はいかがかな?」


誰かが手を挙げ、言葉を交わし、彼らの会合は続いていく。


時折、ろうそくの炎が風に吹かれて誰かの影を揺らした。




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