19. 暗闇を泳ぐ魚たち
やはり教会や墓地は王都から離れる程うらぶれた印象だ。
それも人が王都に集中していった弊害だが、それでもこの国では町や村に少なくとも一つはきちんと管理する者のいる教会が設置されている。
これは魔法使いの数が減少していく中で、平民の中に素養があるものがいた際に、その能力を伸ばし、教育を与え、学園入学へ導くためでもあった。
ただ、もとより神父の数が少ない土地では、主だって管理する教会を一つにまとめてしまうことも少なくなかった。
足元の石造りの階段は角が大きく欠け、方々草に覆われている。
教会の壁にも一面に鬱蒼と蔦が絡んでいる。
ここが長らく手入れされていないのは明らかだった。
錆びついた門の鍵を開け、男は中へと足を踏み入れた。
扉から真っ直ぐに差し込む光の中に自分の輪郭と、両脇に並ぶ長椅子の影が映る。
そこに頭ひとつ分、椅子から影が伸びた。
「遅かったなぁ。お前が最後だぜ。」
肘掛けに頭をのせ、首だけをぐるりと回して入り口を向いた男がニヤリと笑った。
目付きが悪く歯もギザギザとして、態度も相まって見るからに粗暴そうな顔つきだが、セミロングの髪の毛は一目で貴族とわかる艶やかで美しいプラチナブロンドだ。
長椅子にはすでに各々が着席していた。
最後にやって来た男は融和な笑みを浮かべ、深い闇が澱のように揺蕩う祭壇まで歩くと、振り返り、"彼ら"に向き直った。
暗い壇上から点々と長椅子にかける彼らを満足げに見渡す。
一番後ろの長椅子で大きな丸眼鏡と長い前髪で目元を隠すように俯いているやせっぽちの陰気な令嬢。
それとは対照的に、最前列で貴族然とした余裕たっぷりな微笑を浮かべるおよそこの場には不釣り合いな可憐な令嬢。
同じく最前列で長椅子に足まで横たえ、足を組んで にたにたと笑っている先程の男。
最後尾では垂れ目の赤毛男が酒を煽りながら、前の眼鏡をかけた眠たげな男の読書を邪魔している。
その隣では体格のいいオールバックの男が厳めしい顔をさらに険しくして腕を組み、目を閉じていた。
いずれも若い顔ぶれだったが、国を相手にとってもお釣りが来るほど不足のない人選であることを全員が確信していた。
ここにいるのは自分を含めて7人。
「 集まれるメンバーはこれで全員だね。」
「だぁから、お前が最後だっつってんだろ?」
最前列の男を軽くあしらうと、壇上の男は小さく咳払いをした。
その場の全員の視線が一斉に彼に注がれる。
「 それでは諸君、大義の時間だ。始めようか。」




