17. 隠し事
窓の外では雨が降り、古い丸太屋根の隙間から雨粒が水流となって滴り落ちている。エマは 開け放した窓をそのままに、目覚めるとどしゃ降りになっていた暗い夕暮れの森をぼんやりと見つめていた。
よくない気分で眠ったせいか 気分の沈む夢を見た。
夢の内容は思い出せないけれど 、ひどく寝汗をかいていたので 恐らくまた過去の夢を見ていたのだろうと思う。
窓を開けていると階下の声がよく聞こえる。
あの夜も、そうだった。
束の間眠った意識は階下の話し声で すぐに浮上した。
いけないこととは分かっていても、しばらく聞き耳を立てていたのは、恐らくそれが自分に関わる重要な話なのだと悟ったためだった。
キョウはすぐに眠った私に安心し部屋を後にしたが、扉の向こうでしばらく階段を降りずに階下の様子をうかがっていたようだった 。
彼らの関係性にはまだ謎が多い。
上下関係はあるのだろうが、その割に 接し方が気やすいと思う。
何か特別親しい間柄なのだろうか、しかし、キョウと、レイとヒスイ2人の間には どこか線引きがあるようにも感じる。
そこにはきっと、私の知らない事情があるのだ。
寝室に戻った時、わずかに窓が開いているのに気づいていたけれど、あえてそれを閉めようとは思わなかった。
彼らのことを信用していなかったわけではなかったが、全てを信用するには自分はあまりに人の悪意にさらされすぎた。
部屋を飛び出したのは、学園の話が出たからだ。
学校に通えるかもしれない嬉しさで、思わず飛び出してしまったのだ。自分でも驚いた。 誰かに操られていなくても、体は勝手に動いてしまうものなのだと 初めて知った
だけど、1人になると考えてしまう。
彼らが言っていた話の意味。私のせいで誰かが苦しめられていたこと。
私の存在が、キョウの命を脅かしていたこと。
そして私が 傷つけられ続けてきた理由。キョウは触媒体質と言っていた。聞き覚えのない言葉だった。
だけど、体質と言うなら、生まれついてのものなのだろうか。この身体に利用価値があること。そのせいでたくさんのものを奪われてきたこと。そして誰かを傷つけていたこと。
だったら私の存在理由ってきっと、ろくでもない。
あんなに優しい人を傷つけるための存在だなんて。
寝台の上で膝を抱えて丸くなると、激しい雨音が自分の存在を書き消してくれているような心地になった。
しばらくそうしていると、 ドアをノックする音がした。
「エマ、」
キョウの声だ。
「はい。」
エマは 慌てて姿勢を直し、返事をした。
今よろしいですか、と続けて声がしたので、了承した。
失礼します、と扉が開いて、キョウが顔を見せた。
「お加減いかがですか?」
いつもの優しい笑顔だけれど、 室内が暗いせいか、少し疲れているように見えた。
私の不安げな表情を汲み取ったのか、キョウはふっと少し笑って言った。
「すこし、 話し相手になってくれませんか。」




