16. 雲行き
宿場は半分に割った丸太を並べて形作られた三角屋根の建物で、最近ではレンガや混ぜ物をした土を組み合わせて出来た家々ばかりが並ぶこの地方でも、少し前にはよく見られた造りだった。
隣国の関所や宿場町、物売りの通り道などによく見られたこの建物は、2辺を広大な森に囲まれたグラッサルにおいて森近くの村が都市部へ向かう商人に木材の販売を委託するという流通方式で素材が広まったことでごく自然に生まれたものだった。
それも、隣国との関係悪化により貿易が減少したことで森から都市への行き来も減少。多くの商人は都市部へ定着し、そこで商会を立ち上げたり組合を立ち上げたりした。
商人が組合を作り、勢力を拡大したことを受けて、他の、例えば騎士や民兵、医術関係者、教会、学校、エトセトラ。
様々な立場の人間が組合を造り、連携し、協力し、各々の権利などを主張しあっている。
それ自体は良いことだが、人が集まれば必ず諍いや悪巧みをする者も現れる。
そして、小賢しい連中の中には共通敵を作り出す者もいる。
実際 彼らの中の一部でははじめ、その共通的に 王家を選んだものもいた。 しかしこれは悪手だった。
この国において、貴族 さらには その頂点となる王家は民の信頼と尊敬の対象であり、思うようには運ばなかったようだ。
そこで今度は、王家の中でも立場の弱い人間、あるいは反感感情を抱かせやすい役どころの人間を狙って、共通敵に仕立て上げることにしたようだ。
それは、例えば民の前に姿を見せることのない王弟だったり、異国からの側妃のいく番目かの王子であったりした。
彼らは民衆への対抗の術を持たない。
それゆえ、一部では好き勝手言われている。
そういった者たちを利用するために、貴族の中でも王家を目障りと考えている者たちは、裏で手を組むような動きがある。
中でも特に見過ごせないのは、実際に他国と通じている何者かの存在だった。おそらく、一連の暗殺事件にも一枚噛んでいる。
キョウの長い髪が、重力から解放されたようにふわりと舞い上がり、ゆったりと波打ち、ふっと空気が抜けたようにもとの場所に落ち着いた。
軽く汗を流し終え、魔法で髪を乾かしたのだ。
厚い雲のせいで暗くなった脱衣所で、その後もしばらく、キョウは立ち尽くしていた。強くなる雨足をぼんやりと 聞きながら、彼の目下の悩み事について思いを馳せていたのだ。
いずれにしても、彼の悩みを解決するには根本的な原因の解明と 対処が必要だった。これまでにも調査を進めていたが手がかりとなる芳しい成果は得られず、そうこうしているうちに今回の襲撃だ。そういう意味では、今回の襲撃が最も手がかりを得る可能性を秘めており、実際 図らずも、その要であるエマをこちらで保護することができたのは幸運だった。おそらく向こうは、今この瞬間も血眼になってエマのことを探しているはずだ。
そして、探せど探せど身体の一部も見つけられない不自然さにそろそろ気がつく頃だろう。
そこから導き出される答えは、少なからず自分に結びついて来るはずだ。
先日、ヒスイとキョウに言った"時間の問題"とは、この可能性を意図してのものだった。
脱衣所を後にし、キョウはエマの部屋へと向かった。




