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14. サナギは外の世界を知らない


「まずは、しっかり休んで身体を治すこと!」



という、ヒスイの(至極真っ当な)一言で、逸る気持ちを押さえながら私は1日のほとんどをベッドの上で過ごすことになってしまった。


3人は私が退屈しないよう、時折様子を見に来ては話し相手になってくれている。


ふと、これだけ長い間、何にも脅かされずに過ごすのはいつぶりだろうと考える。

太陽の光をたっぷりと浴びた布団に包まれながら、階下から微かに聞こえる話し声に耳を澄まし、頬に当たる外からの柔らかい風に目を閉じれば、何度でも眠りにつくことができた。


全然違う場所だけれど、あの図書館でもこれと似たような安心感を感じていた。もちろんここと比べれば僅かなものだったが、私の心の支えになっていた。

そして、そんな場所では時折、無性に哀しみや悔しさが襲ってくることがある。自分が失ってきた大切な何かをはっきりと自覚してしまいそうになって、こわくなるのだ。


(考える余裕があるからかな…)


今までは夢中になって本を読んで、紛らわせていればよかったけれど、こんな時本当はどうすればいいんだろう。


部屋は日光だけでも充分明るくて、暖かくて、風は優しく、木々の揺れる音は心地いい。

こんな優しい世界に自分だけ場違いな気がして、これ以上何も考えないようにと、また眠った。











「あれ、もう終わり?」


あの夜のあと、3人はエマの学園入学に必要な知識や能力習得のため、それぞれの役割分担を話し合った。


その結果、レイが座学全般、ヒスイが魔法。キョウが礼儀作法や2人の補助を担当することになったのだが、 彼女の怪我が治らない当面の間は どうしても座学が中心になるため、レイはエマの体調をみながら枕元で 勉強を教えることになっていた。


しかし、そのレイが毎回ヒスイの予想よりも随分早く部屋を後にするため、とうとう声をかけた のだった。


そんな何気ない問いかけに、 レイは深刻な顔をして少しいいか、と小声できくと、ヒスイの返事も聞かずに階下へと降りた。

これは相当まずいのかもしれないとヒスイも覚悟を決めて後に続く。

しかし考えてみれば無理もない。いくらやる気があっても、彼女はこれまでまともな教育を受けて来なかったのだ。

もしかしたら、彼女の知識はほとんど8歳のままで止まっているのではないか?

薄々懸念していたことだったが、いざ直面するとぞっとした。


「そんなに前途多難なの?」


声を潜めて聞くとレイは低い声で少し唸った。


「…いや、そうじゃないんだ。」


「どういうこと?」


「もしかしたら、」


レイは、次の言葉を発するか かなり迷っているようだった。

彼は大抵のことは結論から話し始めるほどはっきりした性格なので、こんな様子は珍しい。ヒスイは急かさずに次の言葉を待った。

様々な思案を巡らせたのだろう。数秒して意を決したように顔を上げて、レイはきっぱりと言った。




「今の段階ですでに、座学の勉強は必要ないかもしれない。」





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