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12. 思惑


エマを見送ってから少しして、レイが口を開いた。


「どう思う。エマの話。」


「どうって…」

ヒスイは少しの間言い淀み、観念して言った。



「あの子が、これまでの王族暗殺事件に関わっているのは間違いないと思う。」


レイは想定内といった様子で続ける。


「時期は、どのくらい一致する?」


「あの子が覚えている限りの時期と、僕が覚えてる日付に矛盾はないよ。それに、エマの誕生日…」


『ー10歳になった時だけじゃなく、誕生日は毎年連れて行かれていました。…私の誕生日ですか?5月25日です。』


「5月25日は、未遂も含めて必ず暗殺事件が起きてる。ルイス氏が襲撃されたのも、先月の25日だった。偶然にしては、数が多すぎる。」


少なくとも、2人がエマの話を聞いている間、感じていたのは彼女への同情だけではなかった。話が進むにつれて芽生えた嫌な予感。それは次第にはっきりと危機感として輪郭を表した。


「誕生日は、各々の魔力が最も強くなる日だ。エマを、人間を人を呪うための道具として利用するなら、その方法が魔法によるものなら、彼女の誕生日に実行するのはかなり効果的だと思う。」


ただ、とレイが眉間の皺を深くして続ける。


「だとすれば、なぜ黒幕は彼女の命を奪ってまで、3日前にかけたんだ?その場合、狙おうとしていたのは誰だ?」


「私でしょうね。」


頭上から声がして振り返ると、キョウが静かに階段を下っているところだった。


「たくさん話して疲れたのか、眠ったようです。」


得意の地獄耳で先程まで聞いていたであろう話を気にした風もなく、キョウはどこか嬉しそうにそう言って、席についた。

どうやら自分達の主人は、本格的にあの憐れな子供を気に入ったらしかった。


「3日前の狙いが自分だと言ったか。」


「ええ。」


「それがどういう意味かわかってるのか。」


レイが険しい表情でキョウに尋ねる。

対するキョウは動じずティーカップに口を付け、優雅に紅茶を飲んでいる。


こういう時、真面目な性格のレイと、悠長に見えるキョウとの摩擦に拍車がかからないよう、ヒスイは気を揉む。

恐らく2人が自分のフォローや仲裁を必要としていないことはわかっていたが、それでも彼の性格上放っておくことは出来ないのだ。

今も例外ではなかったが、レイの問いかけは自分も気になるところだったので、はらはらしながらも耐えて様子をみることにした。


「つまりルイスが、私の護衛魔法席が、空席になったことが敵に知られているということでしょう。向こうからすれば、千載一遇の機会だったのでしょうね。」


護衛魔法席とは、魔法使い養成学校を優秀な成績で卒業したもののうち、充分な実戦経験を積み、魔法使いとしての功績を納めたもののうち、各王族が直接実力を審査し、認められた者のみが就くことの出来る役職だ。


行うのは王族の護衛。当然命がけの役職だが、この20年ほどは襲撃されることはあれど、それによって王族や魔法席が命を落とすようなことはなかったのだ。


しかし、それが先月、5月25日、キョウの魔法席だったルイス・メティウスが何者かによって殺された。

正確には、何年間も表向きキョウとして過ごしていたルイスが身代わりに暗殺されたのだ。

そして、その殺害方法がわかっていない。ルイスは鍵のかかった自室で争った形跡も外傷もなく倒れており、体内からは毒物の類いも検出されなかったのだ。

当然、公表はされなかった。王族暗殺はおろか、魔法席の襲撃すら、平民、貴族問わず混乱を招くのは明らかだったからだ。

ルイスの葬儀は秘匿された中で慎ましく行われ、キョウ、ヒスイ、レイはその日のうちに王都を後にし、数日かけ、この森へと身を隠したのだ。


「ルイス暗殺後もこちらを攻撃する意思があるということは、恐らくルイスが影武者だったことに気づかれていたのでしょう。あるいは、ルイスが亡くなって初めて彼が私の身代わりだったことに気づいたのか。」


自分の命に関わることだと言うのに、キョウはどこか皮肉めいた表情でふっと笑った。

例えばこういう表情は、エマには見せないのだろうというような残酷な嘲笑だった。こういう顔をするとき、キョウは心の底から怒っているのだ。ヒスイはおそるおそる尋ねた。


「後者の場合、敵は、あの葬儀に参列していた人間の可能性が高いってことにならない?」


「なんとも言えませんね。向こうの使う魔法は、暗殺方法も含め、未知のものですから。ただ、ここも時間の問題かもしれません。」


レイがはっとしたように息を飲んだ。


「そうか、敵は俺たちがここへ逃げこんでから、エマによる最後の暗殺を実行しようとしていた。ということはつまり、この場所がばれている可能性があるということか。」


「そうとも限りません。少なくとも、まだ場所までは特定されていないはずです。むしろ、相手が私の場所を知らなくても、遠い場所にいても、遠隔で暗殺が出来るようなそんな魔法を使うのではないかと私は考えています。」


「場所が特定されてないって、ずいぶんはっきりいうけどまさか……」と、ヒスイが呆れたようにキョウに詰め寄る。


「実は、毎日の巡回の度に家と森全体に眩ましの術をかけていました。」


「やっぱり!やたら疲れて帰ってくると思ってたんだよ!身体を万全の状態にしておくのも大事だって僕何度も言ってるよね!?」

お説教モードになったヒスイを宥めながら、キョウは続ける。


「しかしそのお陰で、向こうの術の要であるエマを保護することが出来ました。彼女がこちら側にいる限り、暗殺は不可能でしょう。」


「そんなの、代わりの人間を見つけられたら関係ないんじゃ…」


ふ、とヒスイの言葉に、キョウが微笑して答えた。

本人にその意図があるかはわからないが、寒気がするような美しい表情だった。


「代わりなんて見つかりませんよ。

何故なら彼女は、私と同じなのですから。」


レイとヒスイは驚き、絶句した。


それと同時に、敵がたった一人の子供に固執し続けた理由も、その異質すぎる暗殺や強さの理由も、キョウがエマを気に入った理由も、すべて、すとんと腑に落ちた。


「触媒体質、か…」


レイの絞り出した返答に、キョウは頷いた。


「まさか、生きている間に出会えるとは思いませんでした。」


少しの沈黙の後、ヒスイが口を開いた。


「これから、どうするの?あの子のこと。」


キョウはやや思案しながら言った。


「学園に、入学してもらおうかと思っています。彼女の意思次第ですが。逃げ続けるよりも、一人でも対抗できる強さを身に付けた方が、彼女のためにも良いのではないか、と…」


「学園って魔法使い養成学校のことだよね…そんなの、これまで生活魔法も使ったことがない子を今から入学出来るレベルまで育てるってこと⁉

今年の入学試験まで、あと3ヶ月くらいしかないんだよ、そんなの……」


ヒスイが不可能だ、と言おうとして口をつぐみ、場がしんとした時、頭上から小さな声が聞こえた。



「学校に、行けるんですか…わたし。」


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