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10. プレゼント


転機が訪れたのは10歳の誕生日。


誕生日は毎年 男の屋敷へ連れていかれるため、早朝から家を抜け出し、いつものように路地裏に身を隠していた。

それでも男には決まってすぐに見つかってしまうので(きっと居場所がわかる魔法か何かがかかっていたのだと思う)、その日も後の展開に怯えながら、時々場所を変えて気が休まらない時間を過ごしていた。


そんな時、本当に偶然なのだが、それまで漠然と誰かの庭の植え込みだと思っていた木々の隙間に、どうもそうではないらしい建物をみつけた。


人目を忍んでそっと中に入り、建物に近づく。

レンガ造りの立派な図書館だった。

私はそんな素敵な建物をみつけたことが嬉しくて、自分の身なりも気にせず足を踏み入れた。

中には天井まで届きそうな高い本棚にびっしりと本が詰まっていて、それなのに外から見るよりももっと広い空間に思えた。


その頃は、妹が町の学校に通い始めて毎日新しいことを学んで帰ってくる様子が羨ましかった。

だからこそ、余計にこの図書館が特別な場所に感じられたのだ。


そして、実際この図書館は特別だったのだ。


「図書館の中にいる間は周囲の人間の反応がいつもと違っていたんです。」


「反応?」


キョウが不思議そうに呟く。

頷いて続ける。


いつもなら、汚い格好でお店や町中にいると、怒鳴られたり、追い出されたりしていたのに、その図書館では働いている人も、利用しに来た人も、誰も私を気に止めない。

他にも、汚れた手で本に触れてしまった時も、本に汚れがつかなかったのだ。

あそこはきっと魔法の図書館だったのだ。


それに、何より、図書館にいる間は1度も家族やあの男に見つかることがなかった。

偶然だったのかも知れないけれど、私にとっては奇跡以外の何でもなかった。


それからは毎日通って、朝から晩までずっと安全な図書館で本を読み続けた。時々は逃げ切れなかったり、家に閉じ込められたりして、屋敷に連れていかれたけれど、その回数は格段に少なくなった。

都合のいい考えだけれど、あれは、神様から私への誕生日プレゼントだったんじゃないかと思っている。


「なんて、そんなわけないんですけど。」


急に気恥ずかしくなって、照れ隠しに笑ってごまかした。

そんな私を、ヒスイはどこか悲し気な表情で見つめ、レイは俯いて黙っている。

キョウだけは、変わらず優しい微笑みのままで、私の話の続きを待ってくれていた。



そうか。私、本当はずっと誰かに聞いてほしかったんだ。




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