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第7話 地は揺れ、天は鳴る

ここからしばらくはシリアス展開が続きます。

いつもの“節約主婦”コメディは少なめですが、吉宗は元気です(主婦魂も健在です)。

落ち着いたらまた笑える日々が戻ってくる予定ですので、どうぞお付き合いくださいませ!

吉宗が紀州藩主を継いで2年がだったある日。


「殿、お支度が整いました」


側仕えの声に促されて、私は羽織の裃の襟元を整えた。

登城の時間だ。


江戸城では、将軍家への挨拶と報告を済ませ、他藩の動向も耳に入れた。昼を回り、ようやく屋敷に戻ったのは午後一時を少し過ぎたころ。


(ふぅ……疲れた。着物、脱いでいいかしら……)


と思っていると、


「殿、お着替えのご用意を――」

と声がかけられる。


登城服を脱ぎ、普段着に着替えようとしたその時だった。


――ゴゴゴゴゴ……!


襖がガタガタと揺れ、床が波打つように軋む。

着物を片袖脱いだまま、私は畳の上で踏ん張った。


(な、何⁉︎地震⁉︎)


「殿、地震でございます!」


あわてて駆け込んできた家臣の声に、屋敷がざわつく。


「大丈夫でございますか!」


「私は平気だ。他の者に怪我は? 火の元は? 倉の被害は?」


「今、確認しております! ただ、かなり大きな揺れで……!」


「ならば急げ。まずは江戸城の被害状況を確認しろ。将軍家に何かあってはならん」


「ははっ!」


屋敷のあちこちで叫び声や足音が響く中、私は上着を着直した。

震えながらも、冷静に、藩主としてやるべきことを選び取る。


「江戸城に参る!」




江戸城では廊下を早足で進む足音に混じって、すれ違う家臣たちのざわめきが耳に入る。


「これほどの揺れ……いや、拙者も長く生きておるが、ここまでのものは初めてだ」


「御国元は大丈夫であろうか。わしのところは、海に近いゆえ、津波など……」


「拙藩も港町を抱えておりますので、心配でなりませぬ。


皆、表情には出さぬものの、内心の不安を隠しきれぬ様子で言葉を交わしていた。



そのころーー紀州では


地鳴りのような轟音とともに、城が大きく揺れた。


「っ、地震か――!? 皆、頭を守れ!」


城内にいた家臣たちが次々と棚や柱を押さえ、悲鳴が上がる。壁が崩れ、庭石が転がり落ち、瓦が鳴り響いた。


やがて揺れが収まると、城の周囲はほこりと瓦礫で覆われていた。


「城に大きな損傷があります! 天守の壁が一部崩落!」


「町はどうだ!?」


家臣が息を切らしながら戻ってきた。


「海沿いの町が……っ! 津波が来たと報告が……!」



その頃――。


海辺の村では、すでに異変が起きていた。


「海が……引いていく……?」


普段なら白波立つはずの入り江が、ざざざ、と音を立てて沖へと水を引かれていく。海底があらわになり、魚が跳ねているのが見えた。


「逃げろッ! 高台へ!」


村の長が叫んだ瞬間、遠くの水平線の向こうに、壁のような水が盛り上がった。


ゴォォォォ――ッ!


地響きのような轟音とともに、真っ黒な水が怒涛の勢いで押し寄せてきた。


堤防は一瞬で飲み込まれ、家屋が根こそぎさらわれる。


人々の悲鳴と、木造家屋の砕ける音が、地鳴りと重なって響き渡った。


水浸しの地面と、流された家々。立ち尽くす人々の背後で、家老が走り寄る。


「江戸へ早飛脚を! これは報せねばならぬ――」



そして、江戸の我が屋敷でも――


「殿、こちらも飛脚を。無事の報を伝えましょう」


「うむ。紀州が無事であることを祈るしかない……」



数日後、領地からの報告が交差した。


「紀州より早飛脚、到着!」


「城下町、壊滅。田辺・串本にて津波の被害甚大。死傷、千を超す

私は目を閉じた。


これほどの大災害。覚悟はしていた。だが、やはり胸が潰れそうになる。


「――参れ」


私は顔を上げ、信頼する家臣の名を呼ぶ。


「お前に託す。民の救出と援助を最優先に、すぐに紀州へ向かえ」


「はっ!」


「城のことは後でよい。まずは人命だ。必要な物資はすぐ手配する。迷うな、急げ!」


命を救えるのは、今しかない。

――すべては、生きてこそのものなのだから。

今回は大きな節目となる回でした。


地震という非常事態――それは今の私たちにとっても、昔の人々にとっても、大きな試練であることに変わりありません。

吉宗(中身は節約主婦)もまた、帳簿とにらめっこしていた日常から一転、藩主として“民を守る責任”に真正面から向き合うことになります。


財政がどうとか、倹約がどうとか言っていたのに、いざ命が関わる状況になれば、優先すべきはやっぱり「人」。

節約主婦、いよいよ本格的に“殿様”として覚悟を決めた瞬間でした。


次回からは、紀州の復興と、さらに加速する改革の幕開けです!

よろしければ、ブクマや評価で応援いただけると嬉しいです!


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