表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/81

第61話 揺れる裁きの基準――北町奉行・石河政朝の葛藤

江戸の町に夕暮れの影が差し始める頃、北町奉行・石河政朝は一人、机上の帳面に目を落としていた。


今日も一件、盗みの罪で町人を裁いたばかりだ。

だが、残された帳面に並ぶ過去の裁例を眺めるうち、彼の眉間には深い皺が寄っていた。


「……同じ窃盗でありながら、ある者は百叩き、ある者は追放、またある者は説諭のみで済まされておる。裁く者によって刑が異なるなど――断じてあってはならぬこと。これは、法の権威を損なうものであろう」


思い悩んだ末、政朝は文机に向かい、筆をとった。


ーーー


南町奉行 大岡越前守殿


御機嫌麗しきことと存じ上げます。


突然のご連絡、失礼つかまつります。

実は近頃、職務の中で、どうにも心に引っかかる件があり、貴殿のお知恵を拝借できればと思い筆を取りました。


つきましては、本日夕刻、そちらへ伺わせていただきたく存じます。ご多忙のところ恐縮ではございますが、少しばかりお時間を賜れましたら幸いにございます。


恐惶謹言


右京町奉行 石河備中守政朝


ーーー


短く要件をしたためると、脇に控えていた同心に手渡す。


「この文を、至急南町奉行所へ届けよ。」



仕事もひと段落つき、石河政朝は南町奉行所へと向かった。

数刻前に出した文に目を通していたのか、政朝の姿を見つけた忠相が、すぐに歩み寄る。


「これは政朝殿、わざわざご足労いただき恐縮です。どうぞ、こちらへ」


奉行所の一室に通された政朝は、腰を落ち着けると、ゆっくりと切り出した。


「先日、盗みの裁きを任された折のことです。

ある者は百叩き、ある者は追放、またある者は説諭のみ――同じような罪でありながら、過去の記録を見れば、その量刑がまちまちでしてな」


忠相が軽く目を細める。


政朝はわずかに息をつき、続けた。


「裁く者によって刑が異なるというのは……やはり、おかしなことではございませぬか。

私は以前より、法そのものを整備すべきではないかと考えておりまして……。

大岡殿のお考えも、ぜひうかがいたく、こうして参った次第です」


忠相は少し眉をひそめ、政朝を見つめた。


「法整備、か……。確かに、現状では奉行の裁量に任される部分が大きい。だが、裏を返せば、それが江戸の裁きの柔軟さでもあった」


そう前置きしつつも、忠相は微笑みながら言葉を続けた。


「ですが、政朝殿の仰ること、ごもっともです。改革も一段落し、上様も今なら話を聞いてくださるかもしれませんな。法を定めることは、民にとっても安心につながりましょう」

今回は、北町奉行・石河政朝が「同じ罪にして異なる裁き」に疑問を抱くお話でした。

町奉行として日々の裁きに関わる中で、彼が感じた「法の不確かさ」は、享保の改革の一柱となると大きな改革へと繋がっていきます。

次回はいよいよ、政朝と忠相が上様に謁見し、吉宗が動き出す場面を書いていきますので、どうぞお楽しみに!


感想やブクマがとっても励みになります。気に入っていただけたら、ぜひポチッとよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ