番外編 今日は土用の丑の日!……でも源内さんまだ生まれてなかった!?
※この話は季節の番外編です※
本編の途中ですが、ちょうどカレンダーが「土用の丑の日」だったので、うっかり書いてしまいました。
将軍・徳川吉宗が、ちょっとした未来知識で江戸の食文化を動かす(かもしれない)一幕を、肩の力を抜いてお楽しみください♪
「今日は……土用の丑の日だな!」
朝の空気がもわっと重たい。吉宗は扇をぱたぱたさせながら、きっぱりと言い放った。
「よし、今日は奮発して鰻だ!」
「……は?」
隣に控えていた久通が、ぴたりと動きを止めた。
「鰻、でございますか?」
「そうだ。うなぎを食べて精をつけるのが、土用の丑の日の習わしだろう?」
「と、土用の……?」
他の家臣たちも目を見合わせてざわつきはじめる。
「殿、それは……何かの祭礼でございましょうか?」
「いや、ちが――ああ、ほら、平賀源内が言ってただろう? 『土用の丑にはうなぎ』って」
「……誰です、その御仁は」
静まり返る座敷。空気の湿気が重みを増したように感じる。
吉宗は少しだけ口を開いたまま固まった。
「へ、平賀……源内……知らぬ?」
「申し訳ありませんが、存じ上げませんな。御家中の方でも、御三家の御一門でも……」
「いや、たしか……江戸の人で……蘭学を学んで……エレキテルがどうたらって……えーと……歴史の教科書に載るくらい有名な人物で……」
家臣一同の顔が、次第に「これは何か妙なことを仰っているぞ」という色に染まっていく。
久通がそっと口を開いた。
「上様、それは……まことに、そのような人物が?」
「いや、いる……いた、はず。江戸時代の人だって習った。中学……いや、小学校の社会で……」
「……?」
「えーと、鰻が売れなくて困っていた鰻屋に、『今日は土用の丑の日』って貼り紙をしたのが、たしかその……」
久通はそっと咳払いをして、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません、上様。私どもの勉強不足ゆえ、そのような人物のことは存じ上げませぬ。
しかし、上様が鰻を召し上がりたいとおっしゃるのならば、すぐにご用意いたします」
「うむ……そうしてくれ。せっかくだから、皆の分も用意せよ」
*
その日の昼、城下の鰻屋に突然の大口注文が入った。
「上様が鰻をお召しになるそうだ」
その噂はまたたく間に広まり、町はちょっとした騒ぎとなった。
「土用の丑に鰻を食べると夏バテしないらしいぞ」
「いや、上様の召し上がるものに間違いはない」
「なんでも“源内”という賢人のお考えだとか――」
やがて江戸の町では、土用の丑の日に鰻を食べるのが当たり前のようになっていった。
──平賀源内さん、ごめんなさい。
あなたの功績、ちょっとだけ早く奪っちゃいました。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本編では「平賀源内さんの功績、奪っちゃった」で終わりましたが――
実はこのあと、吉宗は鰻の請求書を見てため息をついています。
「予想はしてたけど、やっぱり高い……お小遣いじゃ足りない……」
「牢屋番の臨時手当、またもらえないかな……」
なんて、主婦目線で本気で悩んでる姿が目に浮かびました。
でも、締めてばかりじゃ人はついてこない。たまには贅沢も大事。
節約とご褒美のバランスって、いつの世もむずかしいですね。
本編は次話から通常進行に戻ります。
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