第5話 これはもう、改革するしかない!
紀州藩主となった吉宗が、最初に行ったのは側近の任命だった。
白羽の矢が立ったのは、加納久通。
久通の父・加納正直は、かつて吉宗が幼少期に預けられて育った「加納家」の当主であり、吉宗にとっては育ての父のような存在だった。
紀州藩について何も知らない吉宗にとって、加納久通だけが頼れる存在だった。
「殿、こちらが役所や役人の日々の行政記録"御用留"でございます。」
「そして、こちらが政治や裁判、財政、軍備などの政策記録でございます」
「そして、こちらの帳簿が、"勘定帳"と"お米蔵帳"、"蔵入帳"に"出納帳"でございます。」
(はー、目を通さないといけないのがこんなにあるのか。私、ただの主婦だったはずなんだけどなあ……)
そんなことをぼんやりと思いながら、私は畳の上で帳簿とにらめっこしていた。
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収入(年貢)
年貢合計:約5万石
支出
扶持米:約三万石
藩役人給与:1万両
藩校・道場費、軍備費、行事・修繕費:3,000両
赤字額
年間赤字:3,000両
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「ん……んんっ? え?」
ページを繰るたびに、血の気が引いていく。
「えっ、赤字!? しかも毎年!? えっ、これ、何年も続いてるの!?」
私は思わず畳に額を押しつけ、うめいた。
「……うそでしょ……なにこれ、現代だったら即破綻!自己破産レベルじゃない……」
そしてふと思う。
「……いや、ちょっと待って。自己破産って、現代なら法的に整理できるけど……この時代、しかも藩が自己破産したら、潰れるのよ!? お家のお取り潰し!? そんなの、洒落にならないからーっ!」
「久通、これは……本当に、このまま放置しておったのか?」
「はっ。恐れながら、財政の逼迫はかねてより承知しておりましたが……殿に申し上げる機を得られず……」
「機を得られず、とはどういうことだ!? 毎年赤字であることを、見て見ぬふりをしていたと申すか!?」
「備考欄も空白……これで報告したと言えるのか? 黙しておれば、やがて藩は潰れるぞ!」
もう畳に頭を打ちつけたくなる勢いだったが――ぐっとこらえた。
これはもう、家計簿の話なんかじゃない。私の――いや、紀州藩の命運そのものだ。
逃げ出したい気持ちと、火がついた主婦魂がせめぎ合って、でも最後に勝ったのは――やっぱり、私の中の“やるしかない”だった。
「……やってやるわよ!節約主婦舐めんなーっ!」
私は、再び帳簿に目を落とした。
――節約の基本は、まず固定費の見直し。
さっそく帳簿を確認してみると、こんな記載が並んでいた。
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○宝永元年 霜月
【支出】
・蝋燭代 蝋燭三十挺 銀二匁五分
・菜種油 三升三合 銀一匁三分
・燈火油 補充 四升 銀一匁二分
他、御殿用灯火料・御詰所灯火・詰奉行所灯火の計あり
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帳簿の数字だけでは、本当の暮らしは見えてこないわね。市場の米の値段、油の相場、庶民の肌感覚――それを知らずに藩の財布は握れないわ!
主婦としての第六感が言っていた。現場を見なきゃ、何もわからないって。
――仕方ない、こうなったら現地調査だ。
私はそっと立ち上がると、心の中で宣言した。
「お忍びで、町に出るわよ……市場調査、開始!」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
紀州藩の財政――思った以上にヤバかったです。
帳簿を見た主人公が思わず「なんじゃこりゃー!」と叫んでしまうのも無理ありません。
でもこの主人公、ただの主婦ではありません。
実はリボ払い地獄から這い上がり、
老後2000万円問題までクリアした“伝説の節約主婦”なんです(本人談)。
この未曾有の危機を前にしても、
「節約主婦舐めんなーっ!」と立ち上がる姿には、もはや頼もしさすら漂います。
きっとやってくれるはず。
いや、この人ならやるしかないのです。
次回から、いよいよ本格的な改革編に突入予定!
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それでは、また次回お会いしましょう!