第47話 富くじで幕府再建⁉︎
城下をそぞろ歩いていたある日のこと。
人だかりとざわめきに目をやると、何やら行列ができていた。
「富くじ、残り三枚だってよ!」「あたしゃ今度こそ当てるよ!」
吉宗は普段からお忍びで出歩いては、町人の暮らしを肌で感じるようにしている。
(富くじか……)
小声でつぶやきながら、人混みの隙間から見つめる。
(買ったってどうせ当たらないのにねぇ……って、いやいや。そういう人が買ってくれるから、ああいうのは成り立つんだったわ)
ふと主婦としての記憶が頭をもたげる。
(くじなんて絶対買わない。あれは“期待値”の計算が合わないんだから)
昔の私は、スーパーの特売チラシで一喜一憂し、ポイ活で数円得して悦に入っていた。
そう、無駄な買い物にお金は使わない。
節約こそ最善の防衛策。くじなんて真っ先に削る項目だ。
だが──
(いや、待てよ……)
吉宗は立ち止まった。
(あれだけの行列ができて、賞金を出してもなお利益が出るということは、それなりの儲けがあるってこと……?)
(これ、幕府で出せばいいんじゃない!?)
思わず声に出しそうになるのを堪える。
(幕府が富くじを主催して、定期的に開催すれば……税のように強制ではないけれど、安定収入になるわ。まるで宝くじで建てられた市民会館みたいなものよ)
いかんいかん、と頭を振る。
(でも、実際やれたら……再建の一助になるはず)
帰城後、早速草案を練った。
「幕府主催富くじ 年三回開催 当選金上限一〇〇両」
「売上の一部を街道整備や養生所建設へ」
「買うも買わぬも町民の自由」
(よし……これで完璧!誰にも文句は言わせないわ)
「久通、久通はおらぬか!」
「はっ、上様、いかがなさいましたか?」
「うむ、この草案を老中に提出してくれ」
「これは?」
「幕府主催の富くじだ」
「……はっ?」
「だから幕府主催の富くじだ」
「いやいや、こんなのダメに決まってるでしょう」
「ダメなわけない!誰にも迷惑をかけない良い案だ」
「上様、わかっておられますか?富くじは賭博ですよ?」
「幕府公認の賭博ってダメに決まってるじゃないですか!」
「だが町ではすでに寺社がやっておるぞ。江戸の庶民はとっくに慣れておる。むしろ、幕府が公正に取り仕切った方が信用がつくではないか?」
「信用がついたところで、道義的に問題がございます!」
「道義……?」
「上様、節約改革を進める御方が、賭け事で財源を得るなどと……もしこれが広まれば、“あの倹約の将軍が富くじとは!”と笑いものにされまするぞ」
……なるほど。
「……そうか。ならば、幕府主催は諦めよう」
「はい!」
久通はほっとした表情で深々と頭を下げた。
こうして、幻の“幕府主催富くじ”構想は、あっさりとお蔵入りとなったのである。
*
その夜。
帳簿を前に、灯明の下で一人、吉宗は呟く。
「ほんと……幕府の財政が自然と潤ったりしないかな……」
しんと静まる夜の空気だけが、応えていた。




